脅威の侵略者編
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朝早くに瞳子さんの吹く笛の音で起こされてから、十数時間後。イナズマキャラバンは真っ白な世界を走っていた。
「ひゃっほぅ!遂に北海道だ!」
「は、ハクション!!さ、さむいッス」
円堂が喜びの声をあげる中、くしゃみをした壁山だけでなく幾人かが寒いと腕を擦っている。無論、私もその1人だ。
なんでこの時期にこんなに積雪してんだよとかツッコミを入れたいが、そもそも超次元世界だし、北海道は年中雪が降っているものなのかもしれないし、もしかしたら例の隕石落下による異常気象なのかもしれない。
「寒いでやんす」
「北海道ですからね」
震える栗松の横で目金はさも当然だと言うように答えている。
『けど流石に、これだけ雪降ってたら普通のジャージだけじゃ寒いって』
「確かにシカゴぐらい寒いな」
後ろの席の一ノ瀬が同意するように言ってくれたが、その例え分かるの秋ちゃんと土門だけだからな。
そんな寒さの中走っていたキャラバンは、急ブレーキをかけて止まった。
「どうしたんですか」
急ブレーキにより前のめりになった体を戻しながら瞳子さんが運転手である古株さんに問えば、古株さんはフロントガラスの先を見つめていた。
「人だ」
古株さんの見つめる先には、道路の脇に供えられたお地蔵様の横に震えながら立っている銀髪の少年が居た。
「こんな所でなにしてるんだ?」
『ここ、バス停とかでもなさそうよね』
周りの風景はほぼ雪で、お地蔵様の他に建物の様なものもバス停の看板なんかが立っている様子もない。
「俺、ちょっと行ってくる!」
そう言って円堂は、シートベルトを外して止める間もなくキャラバンを飛び出した。
円堂が少年に声をかけてる合間に、キャラバンも止まってる事だし、荷物と一緒に1番後ろに座っている壁山に声をかけてブランケットを荷物から取り出してもらい数枚回してもらう。
前の席の女の子達にブランケットを渡して自分も覆い被さるように着る。
そうしていれば、円堂が少年を引き連れてキャラバンに戻ってきた。少年はジャージにマフラーをしているだけでとても寒そうだ。現にサッカーボールを抱えている腕も震えている。
「寒かったでしょう。どうぞ使って」
そう言って秋ちゃんが先程渡したブランケットを少年に手渡す。
カチカチと震えながら、ありがとうと言って少年は受け取ったブランケットを体に巻き付けた。
「ここ座れよ」
そう言って鬼道と共に座っていた塔子ちゃんが詰めて席を開ければ、少年は大人しくそこに座った。
再びキャラバンが動き出す中、少年ははあ、はあ、と手を温めるように息を吐いた。
「まだ寒い?」
塔子ちゃんが問いかければ、少年はううん、と首を振った。
「もう大丈夫」
「雪原の真ん中で何してたの?」
みんなが思っていたことを秋ちゃんが代弁するかのように聞いてくれた。
「あそこは僕にとって特別な場所なんだ」
そう言って、少し悲しそうな顔をした少年を見て、ああそうか、と独りごちる。
お地蔵様は子供が亡くなった所に建てられるんだっけ。
「北ヶ峰って言ってね」
少年の言葉に古株さんが北ヶ峰?と反応を示した。
「聞いたことがあるぞ。確か、雪崩が多いんだよな?」
古株さんがそう聞けば、少年は、あっ、と言葉を詰まらせた。
いやまあ見事に地雷踏み抜いたなぁ。
「...うん」
「ところで坊主。何処まで行くんだ?」
「蹴りあげられたボールみたいに、ひたすら真っ直ぐに」
急に詩人になるじゃん。送ってやるから場所教えろって意味なの分かってないのかな。
「いいなぁ!その言い方!!」
ほら分かってない円堂が食いついた。
「蹴りあげられたボールみたいに真っ直ぐに、か。なあ、サッカーやるの?」
「うん。好きなんだ」
「俺もサッカー大好きだよ!」
円堂がそう言って笑えば、つられるように少年も初めて笑顔を見せた。
そんなちょっとホッコリとした空気の中、ガクンと大きくキャラバンが揺れて、ブルンブルンとエンジンを吹かす音がした。
「雪だまりにタイヤを取られた」
ちょっと見てくるわ、と古株さんはシートベルトを外して、運転席を立つ。
「ダメだよ」
少年がやんわりとそう言って、え?と首を傾げる。
「山親父が来るよ」
「山親父?」
なんだそれと皆が首を傾げる。
「ん?」
ふと何かに気がついた目金が、メガネの縁を抑えてピントを合わせながら窓の外を見た。その瞬間、目金はヒェッ!!と悲鳴を上げた。
『うわっ、』
目金の居る側の窓には大きな肉球が張り付いていて、目金は白目を剥いて気絶し、キャラバンの外にいる肉球の持ち主である熊はキャラバンの車体を大きく押して揺らしだした。
しがみついて揺れに耐える中、いつの間にか、少年がキャラバンから降りていた。
「彼は...?」
困惑する中、もう一度キャラバンが大きく揺れ上がった。
それからドーンッと何かが倒れる大きな音がしたかと思ったら、キャラバンの扉が開いて少年が戻ってきた。
「もう出発しても大丈夫ですよ」
熊が居たはずの外から戻ってきて、何食わぬ顔でそう言った彼に、みんな驚愕している。
「まさか...!?」
「まさかでやんす...!?」
「だよねぇ...?」
「あ、ああ...」
そのまさかなんだよなぁ。
困惑する皆を置いて少年が席に座り、古株さんはエンジンを掛け直した。
ブルルンブルルンと音が鳴り、アクセルを踏めばゆっくりと前進した。
「おお、動く!良し行くぞ!」
さっきの揺れのおかげで雪だまりから脱出出来たのか、スムーズに発進したキャラバンは再び真白の道を行くのであった。
白銀の少年
そんな彼が、ここで降ろしてくださいと言ったのは何も無い雪原の真ん中だったが、先程の事もあり皆何となく大丈夫だろうという思いから、彼とはそこで別れたのだった。