脅威の侵略者編
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「「「いっただきまーす!!!」」」
みんなはそう言って一斉におにぎりに飛びついた。
鬼コーチとの特訓にクタクタになってキャラバン元に帰ればマネージャー達によるおにぎりが完成していた。
『3人で大変じゃなかった?』
3人と言うか夏未ちゃんがアレだから実質2人みたいなものだし、そう聞けば春奈ちゃんが、あはは...と目を逸らして笑った。
「大丈夫よ。目金くんも手伝ってくれたし」
え、なんで私が特訓してんのに目金はしてないのよ。そんな目で彼を見れば、得意げに自分の握ったおにぎりの説明をしている。
まあ、誰も聞いていないのであるが。
「あれ?監督は?」
ふと、おにぎりに齧り付いていた土門が気がついてそう言った。
「そういやぁいないっスね」
噂をすればなんとやら、だ。
瞳子さんが歩いてキャラバンに戻ってきた。
「みんな、自主トレで汗かいたでしょう。近くにお風呂があるからすぐに入ってきなさい」
おお〜と皆は喜びの声を上げて、急いでおにぎりを平らげた。
瞳子さんのいうように本当にすぐ近くに温泉があった。木造の小屋まである事から元々結構人がくる所なのだろう。
男の子達がその小屋に着替える中、私は女の子達と外でおしゃべりタイムだ。
「瞳子監督、よくこんな場所見つけれましたよね」
『多分事前に知ってたんじゃない?お風呂の場所も、ここが子供たちが特訓するのに危険な場所ではないって事も』
「確かに山の中だけれど結構人の手が入っているような所も多かったわね」
みんながおにぎりを食べた所にも切り株を加工したスツールやテーブルなんかがあったわけだし。
「そう言われれば、特訓中も極端に危険な場所はなかったな」
『塔子ちゃんは何の特訓したの?』
「アタシは円堂と一緒に回転になれる特訓やったんだ!梅雨は?」
『序盤はランニングで、後は鬼コーチによるシュート練習』
遠い目をすれば、春奈ちゃんが鬼コーチ?と首を傾げている。君の兄貴だよ。
「それじゃあ2人ともクタクタね」
「うん」
『早くお風呂入りたいわね』
ねー、と塔子ちゃんと顔を見合わせる。
『ここどんな温泉なんだろう』
「効能調べて見ましょうか?人の手が加わってる場所なら秘湯とかで調べたら...」
そう言って春奈ちゃんはカタカタとノートPCのキーボードを叩いた。
「あれ、ここの温泉水着着用してって書いてありますね」
『へぇ、スパスタイルなんだ』
「じゃあ一緒に入れるじゃん!」
そう言った塔子ちゃんにみんな、ん?と首を傾げて固まった。
その隙に塔子ちゃんは小屋前に移動して扉に手をかけた。
「えっ、ちょっと塔子ちゃん!?」
秋ちゃんが静止の声をかけたが、まあ止まるわけがない。
「円堂!一緒に入ろうぜ!」
スパンと扉を開けるやいなや、そう言った塔子ちゃんを前に着替えをしていた男の子たちは悲鳴を上げた。
『みんな、ここ水着着用だってー』
情けない男の子達を人目見てやろうと塔子ちゃんの後ろから顔を覗かせれば、また悲鳴が上がった。
「ったく、大袈裟なんだから」
ぷくーっと頬を膨らませた塔子ちゃんは、温泉の中に鼻まで沈んでぶくぶくとしている。
『まあ、みんな思春期だからね』
「それが分かってて堂々とあの場に行った貴女も貴女よ」
まったく、と隣で夏未ちゃんが呆れたようにいう。
『しかし意外だね。夏未ちゃんこういう混浴とか嫌がりそうなのに』
「スパリゾートとかと同じでしょう?」
『あーうん、そうね』
そうか金持ちだった。夏未ちゃんが言うのは私ら庶民が行くような大衆的なのじゃなくてもっと高級なホテルとかにあるようなやつだろうな。
「それにしても、やっぱり梅雨先輩スタイルがいいですね」
「それアタシも思った!凄いよな、浮いてるし」
水から顔を出して塔子ちゃんの視線は、水平線に浮く私の胸の方へと向けられていた。
「確かに。本当に浮くのね」
感心したように秋ちゃんも呟いてるが、君たち?男の子たちもいるの忘れてない??
ふと顔を上げてぐるりと周りをみれば、あからさまにこっちを見ていた子達が顔を逸らした。
そういうお年頃だし仕方ないとは思うけど、実に複雑な気分だ。
まあ他の女の子達が変な目で見られるよりかいいか。
みんなでお風呂に入った後は、キャンプファイヤーをみんなで囲って、壁山と栗松が流行りのお笑いネタを真似してやって見せてくれたりなんかして楽しく過ごして。
「ふぁ...」
円堂が欠伸を漏らせば、その様子を見て夏未ちゃんは、ふっと笑った。
「そろそろ時間ね」
そう言ってピンク色の丸い巾着の様なものを取り出した夏未ちゃんはおもむろにそれを放り投げた。
ポンと音を立てて膨らんだそれは簡易テントになった。
「すっげぇ!」
「なんっスかこれ!?」
どういう技術なんだろうね、これ。
雷門家が造らせたのか、この世界のキャンプ用品として元々あるものなのか。
「俺たちはこっちだ」
キャラバンの階段に足をかけた円堂に続いてみんな返事をしながら向かっていく中に塔子ちゃんもついて行く。
「もう!」
「貴女はこっちよ!」
慌てて夏未ちゃんと秋ちゃんが塔子ちゃんを捕まえる。
男の子達が少し引いてる様子の中、塔子ちゃんをずりずりと引っ張ってテントの中に押し込んだ。
「好きな寝袋使ってちょうだい」
テントの中に敷かれた6組の寝袋の中それぞれ選んで床に就く。
今は居ないが瞳子さんも後から来る事だろう。
ふぁ、とひとつ欠伸を噛みしめる。
今日も中々に疲れた。
「ねぇ、塔子さんちょっと聞いていいかしら」
そんな夏未ちゃんの声に耳を傾ける。
「なに?」
「円堂くんの事が好きなの?」
「好きだよ」
どっちもどストレートだなぁ。
「ああいう奴大好きだ」
「男の子としてですか?」
興味があるのか春奈ちゃんが聞く。
「そんなの関係ないだろ。友達としてサッカー仲間として好きだよ」
その言葉にどこか安心した様に夏未ちゃんと秋ちゃんが顔を見合わせている。
なんて言うか、恋敵の筈なのに、お互い分かってる筈なのにこの2人そういうのないんだもんな。なんかいいなぁ。
私だといくら仲いい子でも多分、恋敵になればギスギスすると思うなぁ。
「梅雨だって円堂の事好きだろ?」
恋愛的意味ならマジでとんでも爆弾だけど、塔子ちゃんに限ってそれはないか。
『ふふ、そうだね。手のかかる弟みたいだしね』
「水津さんから見たらみんなそうなんじゃないかしら」
『確かに、そうかもね』
静かに笑って目を伏せる。
『円堂だけじゃなくて、みんなのことも大好きよ。夏未ちゃんも、秋ちゃんも、春奈ちゃんも、塔子ちゃんも、ね』
そう言えば、秋ちゃんと夏未ちゃんは擽ったそうに笑った。
「私もですよ!」
「アタシもだ!」
満面の笑みで春奈ちゃんと塔子ちゃんがそう言えば、私もよ、とつられて秋ちゃんが言う。その横で、ボソボソと夏未ちゃんが、私も...と恥ずかしそうに呟いていた。
つかの間の休息
順にすやすやと女の子達が眠りについていった後、そっと寝袋を脱いでゆっくりとテントの入口をめくって外を見る。
キャラバンの方を見れば、ルーフに2つの人影が乗っているのが見えてそっとテントを閉めた。
きちんと物語通りに進んでいるのも確認し終えて、もう一度眠りにつくため寝袋に入り直すのだった。