脅威の侵略者編
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瞳子さんから、染岡、風丸、壁山の3人をベンチに下げると言われ、なんだって?と円堂が聞き返す。
「空いたスペースは残りのメンバーでカバーして。よろしくね」
淡々と瞳子さんが言うが、まあ、大人しく従うわけがなかった。
「なんで俺が下げられなきゃいけないんだ!」
「監督の考えが分かりません!ただでさえ厳しい状況なのに...!」
「俺、さっき転がされたからッスか...?」
怒る染岡と風丸と、不安そうに壁山は瞳子さんを見た。
「勝つための作戦よ」
そう言うだけ言って立ち去ろうとする瞳子さんを、待ってくださいと鬼道が引き止める。
「これでは戦えません」
「いいえ、これで戦うのよ」
「しかし...!」
「後半始まるわよ」
食い下がる鬼道に、これ以上は何も言わないといったように瞳子さんは立ち去って審判を買って出てくれている古株さんに選手交代を伝えに行った。
「たく...一体何を考えてるんだ...」
「あの人本当にサッカーを知ってるのか」
土門がそう言えば、みんなはうんうんと頷いて瞳子さんを睨みつけるように見ている。
「とにかく!今はこの試合に全力でぶつかるんだ。全力で頑張れば、1人の力を2人分にも3人分にも出来るはずだ!」
切り替えるような円堂の言葉に、皆も渋々そうだなと頷いてフィールドに向かっていく。
『秋ちゃん、救急箱ベンチに置いてあるからよろしくね』
そう声をかければ、唐突に何といった感じに、え?と首を傾げたあと、困惑した様子のまま秋ちゃんは頷いた。
それを見て自分もフィールドに向かい中央に固まってる少年達に混ざる。
「鬼道フォーメーションはどうする?」
「そうだな...土門をDFに下げるか...」
一ノ瀬に聞かれ悩む鬼道に、そのままでいいんじゃない?と声をかける。
『壁山が抜けた穴が大きいのは分かるけど、意外と栗松は小回りが効くし目金...はちょっと不安だけど、基本ゴールは円堂が守ってくれるでしょ?』
「おう!任せろ!」
バンッと手のひらに拳を打ち付けた円堂を見て、満足気に頷く。
『で、FWが豪炎寺1人になるとディフェンス力の高いFPフィクサーズ達に粘着マークされるのは目に見えてるから...』
「確かに、それなら攻撃力を上げるためにも土門をMFに置いたままのがいいわけだな」
一ノ瀬や鬼道もシュート技があるし、攻め手として行けるがそうなると中間が私1人になるので正直、やっぱり土門はMFに欲しい所。それに円堂に上がってきてもらえればザ・フェニックスも打てるしね。
よし、それで行こう、と皆フィールドに散らばる。
「なに...!?」
反対のフィールドでSPフィクサーズの少女が、驚きの声上げている。
「おおっーと!これはどういう事だ!?雷門中は8人しかピッチに出ていない!?」
角馬くんも驚いたように実況の声を張る。そんな中、少女が怒ったような顔をして、雷門陣に踏み込み鬼道に詰め寄った。
「なんのつもり!?あたし達を馬鹿にしてんの!?」
「これは作戦だ」
そう言って鬼道が踵を返して少女から離れれば、SPの男が少女に駆け寄って自分たちの陣に戻るように促した。
「宇宙人の作戦は常識を超えています。何をしてくるのか予測できません」
「こっちが有利なのは変わりない。どんどん攻めていくよ」
「了解」
少女と男が自身のポジションに戻り、古株さんが後半戦開始のホイッスルを鳴らした。
SPフィクサーズのキックオフで始まり、攻め上がってきた女性選手に鬼道が、うおおおおと雄叫びを上げながらスライディングでボールを足元から離れさせ、選手を転がした。
「ナイスディフェンス!」
豪炎寺が鬼道にそう声をかける後ろで、SPフィクサーズのサングラスの選手が先程スライディングで弾かれたボールを取って上がろうとしてきた所に一ノ瀬がマークにつく。
それにすぐさま鬼道は駆け寄って、2人係のディフェンスで相手の行動を制限するだけでなく、器用にも相手の足元からするりとボールを奪ってみせた。
すごい技術だと感心する間に鬼道は奪ったボールを持って駆け出す。
「豪炎寺上がれ!」
駆け出した豪炎寺に鬼道がパスを出せば、そこに食らいついて少女がスライディングでボールをカットする。
そのままボールを取った彼女に鬼道がマークにつく。攻防の先、鬼道のつま先が少女の守るボールを蹴り飛ばし、ラインの外にボールを出した。
「大丈夫か鬼道!」
円堂がゴールから叫べば、鬼道はああと頷いている。
まあ、心配にもなる。ほぼ鬼道1人で相手の動きを制している。私もカバーに入れれば良いが、下手に動くと逆に鬼道の邪魔になりそうだしなぁ。
「お前はゴールに集中しろ!」
そう言って鬼道はぐるり、とフィールドを見渡した。
「クソッ!これで勝てたら漫画だぜ!」
フィールドの外で染岡が苛立ちを露わにして叫んでいる。
漫画だしアニメだしゲームなんだよなぁ。
そんな染岡を気にもしないようで、瞳子さんはマネージャーたちに声をかけている。
「彼らにアイシングを」
え?と3人が首を傾げれば、瞳子さんはため息を吐いた。
「水津さんが救急箱を用意していたでしょう」
「あっ、梅雨ちゃんのさっきよろしくって...まさか!」
秋ちゃんが、染岡、風丸、壁山を見れば3人は、静かに目を逸らした。
もう!と怒りながら、秋ちゃんは救急箱を手に取って3人の治療を始めた。
他のフィールドの選手達も、瞳子さんが3人を下げた理由が怪我だと分かってそういう事かと納得したような声を上げている。
よしよし、とその風景を横目で見ていたら鬼道が近くに寄ってきた。
『どうしたの?』
「もしかしてお前は早くから気づいていたのか?」
『あー、3人の怪我?』
そう聞けば、ああと鬼道が頷いた。
気づいていたというより知ってたんだけどね。
「前半でディフェンスラインを下げていたのも、空いていた染岡にパスを出さなかったのもそれか」
『さすがにそれは気づいてたか』
「今と前半でだいぶ動きが違うからな」
『と、言っても後半まだ何も出来てないと思うけど?』
「いや、立ち位置がいやらしい。相手からすればお前がそこにいることで攻めにくいだろう。現に相手はライト側から攻めてくることが多い」
確かに、一ノ瀬の方にばっか行くなぁとは思ってたけど。そこまで深く考えて立っていた訳ではない。ただ、風丸が抜けた穴と鬼道が動き回る事で抜けた穴の補完はしなきゃとは思って動いていたけど、それが役立ってたなら何よりだ。
「俺と一ノ瀬が相手を抑えられている時は攻め上がってもいいぞ」
了解と頷けば鬼道は自分のポジションに戻って行った。
それからも激しい攻防が続くが両チームとも得点することなく後半戦の終わりに近づいていた。
「奮闘する雷門イレブン!しかし流石に疲労が積み重なって来たか!?」
本来11人でやるものを8人でやってるんだ。空いた部分のカバーの為運動量は必然的に多くなり、その分疲労も溜まってく。
それが1番現れてるのは、誰よりも動き回り、その上指揮系統まで取っている鬼道だった。
そんな彼の隙を抜いてSPフィクサーズの少女が駆け上がってきた。
「行かせるか!」
「ボクだって!」
土門と目金が少女の前に飛び出して行けば、彼女はニヤリと笑みを浮かべた。
「かかったね!」
そう言って、少女は大きなパスを出した。
ボールはパスを出した方に居たオールバックの女性選手の遥か手前を飛んでミスキックか、と思いきや、女性がはっ、と飛ばした光の4つの鍵が飛んで行きそれと同じタイミングで小柄な選手が宙へと飛んだ。
4つの鍵がボールに刺さって動きを固定し、その安定したボールを小柄な選手がシュートした。
「「セキュリティショット」」
真っ直ぐに飛んでいくシュートに、少女が決まった!と拳を握っている。
「円堂!」
「円堂くん!」
少女のセンタリングを止められなかった2人が叫べば、円堂は来いと気合いを入れて身体を後ろに捻った。
胸に手を当てて力を込める。
「マジン・ザ・ハンド!!」
捻った身体を戻す勢いで円堂と現れた魔人が手を突き出す。
『おぉ...』
そういえば、世宇子戦じゃモニター越しに試合を見てたし、ジェミニ戦では発動すら出来なかったから、マジン・ザ・ハンドを間近で見るのは始めてだ。
円堂はガッチリと手のひらでボールを受け止めた。
やったぜ!と円堂はボールを天へと持ち上げて見せる。
「止めたァ!鉄壁のマジン・ザ・ハンドだぁ!!!」
「円堂くん!もう時間がないわ!!」
秋ちゃんが叫び、円堂はああと力強く頷いた。
「水津!」
円堂から飛んできたボールをトラップして受け止めて、ドリブルで走り出す。
「みんな!ラストチャンスだ!」
そう言って円堂もそのままゴールを捨て置いて上がる。
それを見て、MFに配置された土門と一ノ瀬も前線を押し上げる為に駆け出す。
「水津、一ノ瀬だ!」
『了解!』
鬼道の指揮に従って、一ノ瀬の足元へ届くように距離を測ってボールを蹴り飛ばす。
綺麗に一ノ瀬にパスが通って、彼を中心に円堂と土門が両サイドを走る。
「おおっと!これはザ・フェニックスの体制だ!」
「やらせないよ!!」
少女が慌ててディフェンスに戻って、行く手を阻む。
「ザ・タワー!!」
彼女が出した塔を見て、一ノ瀬がかかったな!と笑い鬼道にパスを飛ばす。
ボールを受け取った鬼道の元にすぐさまディフェンスが付くが、鬼道はボールを両足で挟んだまま前宙をしてみせた。
「イリュージョンボール!」
「何っ!?」
いくつもに増えたボールの幻影に相手が惑わされている合間に鬼道は本物のボールを強く蹴りセンタリングを上げる。
「豪炎寺!」
「ファイアトルネード!!」
空中で蹴り降ろしたボールが、真っ直ぐな火の道を作り相手ゴールへと突き刺さった。
「ゴーーーール!!!そして試合終了!!!」
ピッピッピーィと古株さんがホイッスルを大きく吹き鳴らした。
「土壇場の決勝ゴールで雷門中の勝利だ!!!」
やったぜ!とみんなが喜ぶ中、額の汗を拭う。
...流石にフル試合の上メンバー足りてなかったってのは疲れた。
ベンチに戻れば、秋ちゃんがドリンクとタオルを差してくれた。
『ありがとう』
「梅雨ちゃん3人の怪我気づいてたの?と言うか気付いてたから、救急箱の事言ってたのよね...」
ドリンクを飲みながら、ん、と頷く。
「えっ、そうだったんスか?」
芝の上に敷いたブルーシートに座らされた壁山が驚いた顔をしてこちらを向く。
『いや、君ら3人わかりやすいもの』
「...そんなに明確に痛みを露にしたつもりはなかったんだけどな」
完全に隠せてると思ったのか風丸がそう言ったが、染岡なんかは少女の必殺技をくらった時に痛そうな顔してたし、風丸はパスのコントロールだいぶブレてたし。1番分かりにくかったのは壁山な気がする。正直アニメ見てなきゃ壁山のは気づかなかったと思う。
『まあ、私はフィールドに一緒に立ったから分かったのもあるけど、瞳子さんは遠目でよく気付いたよね』
そう言えば、染岡はケッ、と悪態を付いていたが、他の子達は確かにと頷くのだった。
見直した
それにしても、やっぱり言葉足らず、だとは思うけど。