フットボールフロンティア編
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終わらない円堂への集中攻撃。
廃部を決定付ける夏未ちゃん。
フィールドに現れないヒーロー。
正しく進まない原因は恐らく私自身の介入のせい。
確かに、先週もあったおかしな点。そう、彼の転校してきた日にサッカー部廃部の話にならなかった事だ。
それでもちゃんと3日後に本筋のストーリーに戻ったのは、何故だ?
その3日間であったのは、夏未ちゃんからのメールと、そうだ、風丸とのエンカウント。
そういえば、彼が転校してくるというストーリーが進んだのも私がまこちゃんとそして円堂にエンカウントしたからだ。
この推測が正しいとすれば、ヒーローが現れないのは、私が彼と出会っていないから、ということになるのではないだろうか。
だとするとまずい。このまま、廃部ENDじゃないか。
極力関わらないようにと思ってたのがこんな結末を引き起こすなんて考えても見なかった。
私が関わらなければ、ストーリーは変わらず進んで行くと思っていた。関わらなくても、世界に存在するだけで変化をもたらすなんて聞いてない。
「水津さん、貴女顔色が悪いわよ」
『あ、ああ...』
「まあ、あまり見ていて気分のいいものではないものね」
いやまさか、自分のせいでストーリー以上に円堂がボコられるなんて思ってなかった。
『は、』
こんな見て見ぬふりなんて、私が円堂に手を下しているのも変わらないじゃないか。
『ははは...』
最低だ。そもそも最初から彼らがボコボコにされるのだって知ってたじゃないか。
それなのに、酷い目に合うの分かってて、影野を推薦もしたし、風丸にもサッカーは楽しいなんて後押しするような事を言った。自分は関わる気もないくせに。
『ふふふ...』
「水津さん...?」
急に笑いだした、私を不思議そうに夏未ちゃんが見つめている。
もう、いいや。私のせいで狂ってしまっているなら、好き勝手させてもらおう。
『夏未ちゃん悪いね。私行くわ』
「やっぱり、そうなのね」
そう言って夏未ちゃんはため息をついた。
いやごめん、何がやっぱりなのかさっぱり分からないけど、まあどうやら行かせてはくれるようだ。
無言で、校長室を出ようとした私の背に夏未ちゃんの呟きが聞こえた。
「気をつけなさい」
その言葉と共にバタンと音を立てて校長室の扉が閉められた。
全力疾走で、廊下を走り抜け、階段を飛び降りる。昇降口まで抜けて、靴を履き替え、グランドのあの木の元まで駆けた。
ぜぇ、はぁ、と乱れる息を整えながら、落ちているユニフォームを拾った。
『じっと見つめてる割に拾いもしないんだね』
「...!」
木の影で、ユニフォームを睨みつけるように見ていた彼に話しかければ、息を飲む音が聞こえた。
『豪炎寺修也。帝国学園の目的は君だよ』
そう言えば、豪炎寺は一瞬目を見開いてすぐさま目を逸らした。
そんな彼の様子を見ていると、下げた拳にグッと力が入って震えていた。
『まあ、君が出ないの分かっててああやって円堂を痛めつけるアイツらがムカつくから私は行くけど』
「は...?」
拾ったユニフォームを手の中でぐしゃぐしゃと丸める。
『10番は私には似合わないから代わりに持っと、い、てっ!!』
肩の上から腕を思いっきり振った。
投げつけたユニフォームの塊は、見事豪炎寺の顔にクリーンヒットした。
いやぁ、私ソフトボール部でも行けそうだな。まあ今からやるのはサッカーだけど。
ぶ、と顔にぶつかった衝撃で声を漏らした豪炎寺は、重力に従って落ちてきたユニフォームを片手で掴んでそれを見つめた。
「おい、お前っ、」
顔をあげた豪炎寺は何か言いかけて途中で言葉を切った。
止めたのは彼女がもうグランドへと駆けて行ってしまっていたからだった。
「...この状況で、本当に行くのか...」
豪炎寺は、唐突に現れて去っていった彼女の背を見て、掴んだままのユニフォームをさらにギュッと握りしめた。
雷門側のベンチへと寄ってある人物のスーツの襟を掴む。
「...な、なんですか...いきなり!」
『こんにちは冬海先生。サッカー部の助っ人です。理事長代理の許可は得てます。ユニフォームをください』
突然の事に驚いている雷門サッカー部顧問の冬海先生の様子なんて無視して早口で巻くし立てるように言う。
「水津さん!?いったい何をしてるの」
同じベンチに座っているサッカー部マネージャーの秋ちゃんが驚いたように言ったのを聞いて、バッと冬海先生の襟から手を離す。
先生より彼女の方が話通じるの早そうかな。
『秋ちゃんでもいいよ。ユニフォームをちょうだい』
「ユニフォームって、」
「もしや試合に出るつもりですか...!」
怪訝そうな顔をして冬海先生が立ち上がる。
『そうですよ。なので審判に選手交代伝えてください。秋ちゃん、ユニフォームない?』
「あ、あるけど...でも、本当にいいの...?」
そう言って、秋ちゃんはベンチに折りたたんで置かれていたユニフォームをそっと両手に持った。
『良くなきゃ来ないよ。冬海先生まだですか?さっさとしてください。こっちは理事長代理の許可を得てるんですよ。夏未ちゃんの言葉は理事長の言葉と思って構わないんですよね?』
秋ちゃんからユニフォームを受取りながら冬海先生を睨みつける。
ごめん夏未ちゃん。勝手に権限使わせてもらってる。
「ヒッ、わ、わかりました。あ、あの誰と交代を...」
『2番、風丸』
風丸が顔面で必殺技を受けていたし、脳震盪の心配がある。下げた方がいいだろう。
ユニフォームの後ろを見ると、15の番号。リベロのあの子が着るやつじゃんこれ。
『2と15チェンジで伝えて』
わかりましたと冬海先生は審判の元へ選手交代を伝えに行った。
その間に受け取ったユニフォームのジャージを制服の上から被って、ユニフォームショーツをスカートの下に履いてからスカートを脱ぐ。
スパイクはさすがに男子サッカー部じゃ合うのはないだろうから、スニーカーのままで行くとして、ハイソックスの下にすね当てを付ける。
『よし、』
ちょうどいいタイミングでホイッスルが鳴る、どうやらボールがゴールラインの外に転がったようだ。ここで審判が選手交代のカードを掲げた。
雷門中の観客達がザワザワとして、帝国学園の選手達は遂に来たかと、反応を示した。
雷門中の選手は唯一立っている円堂だけが反応を示した。
「...2番...風丸と選手交代って、」
タッチラインを超えて、フィールドの中へ入る。
「水津!!」
円堂が気がついてふらつきながらも駆け寄ろうとしてきた。
『馬鹿、バカ!!無駄に体力を使うな!!』
慌てて私の方から近づいて、倒れそうな彼を支える。
後ろから、女?とかコイツが例のヤツですか?とか帝国選手の声が聞こえる。
「水津、来てくれたんだな!」
『うん。ごめん。来るの遅くって。みんなもごめん』
聞こえているか、分からないが、フィールドに倒れている雷門選手達に頭を下げる。
フィールドで見たら余計に心に刺さる。私にとってはアニメやゲームの世界の存在だった。ここでも私はそうだと思ってた。でも違う彼らは今ここで生きている。そんな生きている人間が、ボコボコにされるのを知ってて私は何もしなかった。帝国にはラフプレーがあると、審判も買収されていると伝えていれば、ここまでの怪我を負う必要はなかったのかもしれない。
「水津...」
ゴールの右から掠れた声が聞こえてそちらに寄る。
『風丸』
風丸の顔を両手で包んで、頭、耳、鼻から血が出ていないかチェックする。血は出てない、大丈夫そうだ。ゆっくりと彼の腕を自身の肩を回し、立ち上がらせる。
『選手交代だよ。ナイスガッツだった』
「は...あんなの、サッカーじゃ、ないから...な、っ...」
彼の身体を支えながらゆっくりとタッチラインの方へ向かう。
『痛む?』
「...少し、な」
一応意識はあるし、喋ることも出来るか。けどセカンドインパクトシンドロームの心配もあるしやはり彼を下げる判断で良かっただろう。
『秋ちゃん!脳震盪の心配もあるからベンチで寝かせて、あと氷嚢用意して』
タッチライン越しに寄ってきてくれていた秋ちゃんと赤いメガネを頭に乗せた女の子に風丸を託す。
『もし、吐き気や目眩を催すようならすぐ救急車よんで、いいね?』
「わかったわ。水津さん、気をつけてね」
秋ちゃんがギュッと私の手を握った。
『ありがとう。後はお姉さんに任せな』
秋ちゃんの手を解いて、ペナルティエリアに立つ。
「この状況で女ひとり入ってきて何になる」
寺門がそう言えば、くつくつ、と帝国選手たちから笑い声が聞こえる。
女だからって舐め腐ってんなぁ。
『酷いなぁ。君らと同じ目的で私はココに来たのに』
「何?」
『彼を引き摺り出したいんでしょう?私もなんだ』
そう言えば、ほう、と呟いて鬼道がゴーグル越しに私を見つめた。
『同じ駒同士、仲良くサッカーやろうや』
目を細め、口元に弧を描く。
「戯言を...」
豪炎寺を見る為に影山に使われる駒と、豪炎寺にサッカーをさせる為に世界に翻弄される駒だ。仲良くやれる気がするんだけどな。
どうにも仲良くはしてくれないみたいだ。それならそれでいいや。
『円堂、少し休んでな』
帝国学園のコーナーキックからの再開。
雷門側は私以外立っていないし、まあ、めっちゃマークされるよね。
寺門、洞面、辺見の3人が前を固めている。
コーナーキックは佐久間が行うが、そこのカットはこれだけマークされてちゃ無理だな。
マークしている3人の隙間を縫うようにワン・ツーと左右にステップを踏む。やはり、この状況から厳しいな。
それなら、狙うは...。
佐久間がコーナーキックをし、ボールが鬼道に渡った。そして彼は速攻でそのボールをゴールの円堂に向かって蹴った。
『うん、君ならそうすると思った、よっ』
円堂に向かっていたボールは、梅雨の右足で止められた。
「なっ、いつの間に」
『いつの間にマークを振り切ったのかって?』
ふふんと笑いながら止めたボールをつま先で掬い、ちょんちょんとつついて跳ね上がらせてそこからクロスオーバーを繰り返してして見せる。
ボールの周囲を回る脚に、彼らはボールを奪うタイミングを見計らっているようだ。
『コーナーキックした時にはもう、マーク外したけど?』
どうやってだって?
それは、ワン・ツーで踏んだステップのツーで、踏み切り、半円を描くように後ろに飛んで、その振りで伸ばした足で鬼道の打った速攻ボールをカットしただけの話である。
佐久間がボールを渡すなら司令塔の鬼道だ。
そして、その鬼道が私を無視して、ゴールというか円堂への攻撃を行うだろうというのを読んでシュートコースが分かっていたからこそ出来たことだ。2度目は出来ない。
マークしていた3人は、まさか後ろにアクロバットで飛ぶなんて思ってもいなかったのか、瞬時の事に事態を理解していなかったみたいだし。踏み切りの瞬間に見えた、あの驚いた顔は面白かった。
「このアマッ!!」
痺れを切らした辺見がスライディングを仕掛けてきた。
ボールをふくらはぎで挟んで、空中へジャンプする。そのまま前方向に一回転して、着地した。
うん、そこそこ私の技は通用しそうだ。
天に指を掲げパチンと鳴らした。
IT'S SHOWTIME
フリースタイラーの実力ご覧あれ。