フットボールフロンティア編
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「水津さん...」
『ひっ、』
いきなり後ろからおどろおどろしい声で話しかけられて、ビクリと肩を揺らす。
ギギギ、と効果音が付くような動きで首を回せば、後ろには浅紫色の長髪で目元を隠している長身の男子が立っていた。陰湿な雰囲気を醸し出している彼は彼は同じクラスの影野仁。
『か、影野。どうしたの?』
「...水津さんが、円堂に推薦してくれたって聞いたから」
そう言って彼はふへへ、と笑う。
『ああ、もしかして、サッカー部の事?勝手にごめんね。影野、部活はしてないみたいだったから声掛けてみたらって言ったの』
「ううん、いいんだ。俺、部活勧誘されたの初めてで嬉しかったし...。それで...、サッカー部入部することにしたんだ...。そうする事で、俺も存在感が出せるかな...って」
『そっか』
今でも別ベクトルで存在感あると思うけどね。
「俺も今日の試合、水津さんみたいに目立てるようにがんばるね。推薦してくれてありがとう」
そう言って影野は深々と頭を下げて、教室を出ていった。
いや、そもそも私は目立とうとして目立ったわけではないんだが...。
まあ、そうね。今日の頑張っては欲しいね。
なんたって、あの帝国学園との試合だ。
「水津さん。貴女、サッカー部と関わってるの」
影野と入れ替わりで、私の元に夏未ちゃんが来た。
少しムスッとした表情の彼女に、いやいやと手を振る。
『円堂の勧誘しつこかったから、他の子を紹介しただけだよ』
「ふぅん、まあいいわ。とにかく行くから着いていらっしゃい」
『え?』
有無を言わさず夏未ちゃんに連れて行かれたのは校長室だった。
失礼しますと入っていく夏未ちゃんに引っ張られ、共に中に入ると、校長が、これはこれは夏未お嬢様と手を擦り合わせていた。
「こちらからが、良くグランドを見渡せます」
「そう。水津さん、貴女もこっちに」
『う、うん?』
なんかよく分からないが、夏未ちゃんの呼ぶ通りに窓際に近づく。
ああ、確かにここならよくグランドが見渡せる。
他の生徒に混じっていちモブとして観覧しようと思っていたのに、なんで校長室なんて特等席で見させて頂いてるのか。
「貴女、サッカー詳しいんでしょう」
『うん?それなりに』
「私、全然知らないから解説をお願いするわね」
あー、なるほど。それで連れてこられたのね。
「おいでになられたようですぞ」
校長の言葉に、校門の方へ視線を移せば、もくもくと煙を上げ灰色の大きな戦艦のような乗り物が入ってきた。
門の前に停止して、ハッチが開かれる。
そこからレッドカーペットが敷かれ軍隊のように統率の取れた少年らがカーペットの左右に並び、サッカーボールを踏みポーズを取る。
そして、ユニフォームに赤いマントを付けゴーグルを装備した少年が降りて来て、その後に続くように10人の選手達が現れる。
そして、この校長室の位置からは、彼らが出てきた乗り物の真上に椅子に座ったグラサンのおじさんが現れたのがばっちり見えた。
影山。この世界での問題児。大体の事はこいつのせいだ。
帝国の彼らが雷門のグランドに降りてすぐにウォーミングアップが始まった。
帝国の選手は己の実力を見せつけるように、パスやシュートをしてみせる。
その中でも一際小柄で仮面を付けた選手が居た。
『やっぱり洞面はリフティング上手いな』
アニメで見ていた時もそういった描写があったが、ボール捌きがとても素早い。小柄で小回りの利く彼ならではの動きと言えるだろう。
フリースタイラー故に、リフティングしている子に目がいってしまってる間に、帝国のゴーグルマントの選手、キャプテンマークを付けた彼、鬼道有人が円堂に向かって、ボールを蹴っていた。
円堂は何とかそのボールを両手でキャッチしていた。
「あら、ちゃんと取れるのね」
夏未ちゃんはいつの間にか取り出したオペラグラスを使って窓の外を見ていた。
『円堂はわりと真面目にキーパー練習してたしね』
まあ、とは言っても鬼道のシュートは恐らくわざと取れるように手加減したものだろうけど。
もう一度窓の外を見れば、緑アフロの巨体...壁山塀吾郎がグランドを出ていく所で、その入れ替わりに、秋ちゃんが男子を連れて来るのが見えた。
雷門サッカー部は元が7人でこの間入った風丸、そして今日の影野で9人、フィールドを見ればピンクと水色のシマシマ猫耳帽子の彼、松野空介も居るし、今、秋ちゃんが連れてきた眼鏡のオタク系男子、目金欠流が11人目だ。
とりあえず、これで夏未ちゃんからサッカー部に課せられたメンバーを11人集めるはクリアのはずだ。
「んー、一向に始まりませんね」
校長がじっと腕時計を見てはそう言った。
「帝国のデモンストレーションに怖気付いたのかしらね」
その通りなんだよなぁ。トイレに逃げた壁山が早く見つかるといいけど。
「帝国は試合に負けた他校を破壊することもあると聞きます。試合で負けることは疎か、もし危険などとなったら何をされるか...」
「その時は私が話します。私も気にはなっているのです」
夏未ちゃんの唐突な言葉に、は?と校長は首を傾げた。
「あんな弱小のサッカー部に何を求めてあの帝国が試合を申し込んできたのか、どう考えても実力差がありすぎますからね。この試合の中で彼らの狙いが分かると思うのですが...」
そう言って夏未ちゃんは私を見た。
「貴女はなんだと思って?強いチームがわざわざ弱いチームと戦う意味があるのかしら?」
『そうねぇ。例えば、オンボロ動物園でも日本でそこの動物園にしか居ない動物がいたら見に行く人もいるじゃない?そういう事だと思うよ』
「つまり、その希少動物に当たる人物がこのサッカー部にいるって言いたいのかしら?」
『さあ、どうだろうね?』
夏未ちゃんは本当によく頭が回るなぁ。
夏未ちゃんはオペラグラスを再び使って、窓の外を見る。
「どう見ても、この中にそんな人物いるとは思えないんだけど」
『ふふ、そうだね』
そう言って笑って、私も窓越しに、壁山を探しにグランドから散っていく雷門イレブンたちを見つめた。
「そうだねって、水津さん...貴女...?」
『なぁに?』
少し目線を夏未ちゃんに向ければ、彼女は考えるように顎に手を置いた。
「いえ、なんでもないわ」
そう言って首を振って再び、夏未ちゃんは外を見た。
「(水津さんの言い方的にこの中に帝国の目的の人物は居ない。...そうなれば、サッカー部以外でサッカーをする人物。帝国の目的はもしかして...水津さん。貴女自身なのでは...。だからこそ円堂くんがあれほどまでに勧誘してきたのを断っていた...?)」
なんて、夏未があらぬ方向に思考を巡らせているなどつゆ知らず、梅雨はグランドの周囲の木々を1本ずつ見ていた。
探しているのは12人目。物語のキーマンだ。
いた。帝国側のフィールドから少し離れた所にある木の影に白いつんつん頭を見つけた。
彼の位置も見つけたしこれでかっこいい登場を見逃す事はないだろう。
「ああ、やっと始まるようですね」
校長の言葉に、フィールドの方を見れば、センターラインに両校の選手11名ずつが平行に並んでいた。
「あら、こういうのは先行後攻をコイントスで決めるんじゃなかったかしら」
夏未ちゃんの言う通り、そうなのだが...。帝国のキャプテン鬼道有人はマントを翻し、フィールドを歩いていく。
審判や雷門イレブンが困惑している様子が伺える。
『恐らく、先行は雷門側に譲ってやるっていう舐めプだろうね』
「ああ、そういう事ね」
納得したわ、と夏未ちゃんは頷いている。
40年間無敗の帝国学園様だ。それくらいのハンデはやるだろうなって思ってるのかな。
さて、雷門からのキックオフで試合が始まった。
まずはセンターにあるボールを目金が蹴って染岡に渡す、それを染岡は後ろの松野にパスして、センターラインを上がっていく。
帝国の選手の長い銀髪で眼帯をしている佐久間と、強面で襟足がドレッドになっている寺門の2人からのスライディングを染岡は、ヒールリフトでボールを2人の上に上げ、自身もジャンプしそれを上手く躱す。
今までまともに練習していなかったとはいえ、キャラクターソングでも歌ってた通り小さい頃からサッカーやっていたと言うだけあって、意外と染岡は技術があるんだよね。
そんな染岡の前に、帝国の洞面が立ちはだかって、すぐさま染岡は上がっていた風丸にボールをパスした。
DF位置からセンター超えるのも速やかったが、ボールを受け取ってゴール直前まで進むのも速いこと。流石、陸上部。
そんな風丸もゴール前のDF、グラサンにチョロンとした前髪のみんな大好き人気投票No.1の五条さんが立ち塞がって、風丸から染岡、染岡から松野にボールを回してキープしていく。
松野から、雷門のオレンジアフロの1年生、宍戸にボールが渡る。宍戸はコーナーまで上がって、帝国のヘッドホンをつけた選手、成神のマークを外して、ゴール前にいる半田の方へボールを蹴った。
彼へのセンタリングかと思われたボールを半田は、寸前で避け、そのボールは飛び上がった染岡がゴールへとシュートを放った。
しかし、そのシュートは顔のペイントが特徴的なGKの源田によって容易く止められてしまった。
「ま、こんなものよね」
普通のサッカーなら、上々な動きだろうけど、なんたってこの世界は超次元なのだ。
GKの源田から、キャプテンの鬼道へとボールが投げられる。
鬼道から素早いパスが渡され寺門がそれを即座に蹴り飛ばした。帝国側のフィールドからのロングシュート。それを円堂は両手で受け止めたが、ボールの勢いは止まらず、自身の身体ごとゴールへと叩きつけられた。
『超速攻ロングシュート...これでもノマシュなんでしょ、えっぐ...』
ノーマルシュートと言えど、実際に見てみるとその、速さと強さが超次元すぎる。
ゴールに伏せた円堂が起き上がり、そしてここからが、帝国学園のサッカーの始まりだ。
雷門選手の顔面や体にわざとボールをぶつけながら、ゴールをも破っていく。
前半の合間にあっという間10点も取られてしまう。
「彼らはやはり何かを待っているのね」
『そうみたいだね』
木の影の彼はまだ動かない。
「やっぱり貴女、帝国が誰を待っているのか知っているのね?」
『どうだろうね』
そう言えば夏未ちゃんは困った様に眉を下げた。なんでだろうか。
「貴女が、答える気がないのはわかったわ」
うん。だって言わなくても、もうすぐ答えが来るはずだし。
後半戦はフィールドチェンジして、帝国学園のボールでキックオフ。寺門、佐久間から鬼道へとボールが渡り、彼はそのボールを踏みつけた。
さあ、超次元サッカーの始まりだ。
FWの佐久間が先頭で走り出し、その後ろを洞面、寺門が続く。
鬼道から上空にパスが渡され、3人は身体をフィギュアスケートの選手の様にクルクルと回転させながら上空へジャンプする。
ボールを中心にトライアングルの形をつくり、3人は真ん中のボールを両足で強く踏みつけた。
デスゾーンという紫の禍々しい見た目の必殺シュートが、円堂ごとゴールへ突き刺さった。
これで11点目...。
おカッパ頭でタラコ唇の選手、万丈から放たれた突風を吹き起こす必殺技サイクロン。
寺門がボールを何度もボールを踏みつけるようにして放った必殺技、百烈ショット。
それぞれが、雷門選手達をボロボロに叩き潰していく。
『...。』
なんて恐ろしいサッカーをしているんだろうな。
審判も止めない所を見れば、帝国の息がかかっているのが見え見えである。
18点目が取られたその時点で、もう雷門選手でフィールドに立っている者はいなかった。円堂守ただ1人を除いて。
帝国学園はその唯一立っている円堂を狙って、わざと円堂の顔面にぶつけて跳ね返らすようにしてシュートを繰り返した。
そのシュートの最中、風丸がゴール前に飛び出して、頭に直にボールを受けた。
『...っ、』
ごめん。ごめん。この展開は分かってる。分かってた。けど、物語を進めて行くには、私は見て見ぬふりをするしかない。
円堂が風丸をゴール外に避け、しっかりと、ゴール前に立つ。そんな彼に無慈悲にも、寺門が百烈ショットを放つ。
しっかりとボールを両手でキャッチして止めに入る。でもやはり勢いは殺せず、円堂ごとゴールへと叩きつけられた。
これで、19点目。雷門のキックオフで始まるが、上手いことビビり散らして避けていた目金以外は立ち上がる事が出来なかった。
10番のユニフォームを来た彼は、泣き叫びながら、フィールドから逃げだした。
きっと誰もが諦め状態だった。
そんな中、円堂が立ち上がる。
けれど、再び帝国選手達は円堂をいたぶるようにボールをぶつけ始める。
見ていられなくて、目を背ける。けど、もうすぐもう少しの辛抱だ。耐えてくれ円堂。もう少ししたらきっと彼が...。
「もう見るまでもありませんね」
そう言って、夏未ちゃんはオペラグラスを外して窓から離れた。
それを見て、梅雨はあれ?と首を傾げた。
このセリフは、確か、20点目を取られてから言わなかったか...?そしてこの後の、
「これで雷門サッカー部は廃部決定」
待って。そう。確か夏未ちゃんが廃部と言いかける前に、彼が現れる筈だ。
おかしい。
窓に張り付くように、外を見る。
おかしい、おかしい。帝国のいたぶりが終わらない。20点目が入らない...。なのに夏未ちゃんのセリフは進んでる??
なんで、こんなイレギュラーが...。
どうして、彼は来ない?
「水津さん?もうこんな試合見る価値はないと思うけれど」
『待って。...そうか』
現れないヒーロー