#hpmiプラスまとめ(201812)
クリスマスイブ
2018/12/24 22:011️⃣「じゃ、行こっか!」待ち合わせはいつもの公園。沢山の人々に紛れ街へ繰り出す。どこもかしこも人・人・人。つい離れそうになる手を彼はぎゅっと握ってくれた。「もっとちゃんと掴んでなきゃダメだぞ」なんて、彼はすぐに子ども扱いするのだ。それに対して彼女も、はーいと子どものように応じる。なんだかんだで波長は同じだ。そんな2人も今日ばかりは大人ぶる。特段高い店というわけでもないが、いつもは来ないような小洒落た店へ。まだ飲酒の出来ない彼はノンアルカクテルで乾杯。「…この後も楽しみだね」熱っぽい瞳で見つめられ、手を掴まれた。ノンアル、だったはずなのに…彼の頬は高揚している。机に置かれたキャンドルの灯りのせい、ということにしておこう。彼女の顔の赤いのはもちろんアルコールのせいだ。「早く行こ?」ああ、手まで熱い。やっぱりお酒が入っていたのではと疑ってしまう。
2️⃣声を掛けられ顔を上げた。第一声は「わ……○○ちゃん可愛い」。本心だが嘘っぽく思われただろうかと逡巡する。「いやいつも可愛いんだけどね、今日はいつもより可愛い…あれ、なんつったらいいんだろ」ベタな照れ隠しか、後頭部を掻き毟る。彼女も彼女で照れながら、彼の肩を叩き照れを隠す。「あ…じゃ……行く?」街行く恋人達は皆それぞれに目的地を目指している。今日の彼らは、高校生の彼にとっては少し高めのレストランが行き先だ。社会人の彼女はひょいとこのくらいの額出せてしまう。彼にとってそれは堪らないコンプレックスでもあった。だからこの日の為に節約し続けてきた…などというのは口が裂けても言うまい。だが先に言っておく「今日は俺が払うから」。金づるだなんて微塵も思ってない…ということを伝えるのは結構難しいものなので、何とか態度で伝えたい。
3️⃣「今日は僕に任せてください」行き先もルートもエスコートも完璧。待ち時間を退屈させない話題もしっかり準備した。デートは難なく進んで行く。まだ学生の2人だ、ディナーは無理のない範囲で。アルコールはもちろん無し。それでもムードに心は高まる。「…今日、楽しかったです」彼女も即座に同意の言葉を述べる。静かなBGMは恋人達の雰囲気をより一層盛り上げ、意味もなく卓上で手を重ねてしまったり、もしくは見えぬところで手を繋いでしまったり。食欲を満たされた脳は次へ次へと急いているのだろうか。そっと紡ぐ「この後なんですけど…」という誘いの言葉。「この間2人で見た…そう、サイトの。あそこ、予約してみたんですけど…予定、大丈夫ですか?」彼女が断る理由などないが、それでもやはり頷く動作を見るまでは不安で仕方がなかった。高鳴る鼓動を抑えつつ支払いを済ませ、あとはもう、夜の街へと繰り出すだけ。
🐴「ったく何処行っても混んでんだな…あ?イヤとかじゃねぇよ……お前となら悪くねぇって話」白い息と共に吐き出された遠回しな褒め言葉。イブだしねと返せば「んじゃあ少し早えけど…もうホテル行くか?」と、25歳の性欲が見え隠れする。たしかに、食事を済ませ夜景を眺めたならもう、外ですることなどそれほど無い。けれど折角のイブをこうして2人で過ごせるのだから、もう少しムードやら何やらを楽しみたいというのもまた本音だ。「おい」考え込む彼女を短く呼び、グイと抱き寄せキスをした。驚く彼女に「今日まだだったろ」とだけ告げ再び唇を重ねる。「やっぱ女って冷え性なんだな。あっためてやるから……手ぇ貸せ」そう言った彼は強く繋いだ手をコートのポケットへ。その足はもうホテルへ向いている。まあ、冷えてきたことだしそろそろ頃合いか。王様が痺れを切らすのを待つ趣味もない。
🐰「本当によかったのか?出掛けてもよかったんだぞ」今日ばかりは仕事は休み…と都合良くいく筈もなく、彼は今しがた帰宅した。ネクタイを緩めキスをして「まあ…家で過ごすのも悪くねぇか……外じゃこうも出来ねぇからな」と早々に自宅モードへと切り替わって行く。彼女の用意した料理を前に「普通に感動した」などと気の利かぬ言葉。まあ、今日もお疲れのようだし許してやるかと向かい合う。「……いつもありがとうな」いただきますのその前に、ぽつりと吐き出された優しい声色。言葉を返す間も無く彼は「いただきます」と笑顔を見せた。いつも“29歳はこんなに食えねえ”と言いつつも平らげる彼を見るのが大好きな彼女。今日も腕によりを掛けた。「お前もしっかり仕上がってんだろうな?」というくだらない下ネタにはテーブルの下から脛を蹴り上げてやったけれど。だって彼女自身がメインディッシュなのだから、仕上げはもちろん完璧だ。
🐦「厭なわけがないだろう。お前と一緒ならば、何処へだって行くさ」こういった人混みは好きではなさそうだが、快く受け入れてくれた彼と共に水族館へ。やはり食材に見えているのだろうかと不安に思ったが、そういった言葉は一切なく安堵。けれど外に出るなり「あの魚の調理法は…」と毒の抜き方などを話してくれ、いつもの彼だとこれにもまた安堵した。夕食は彼女の家で。妙な食材は使わず、2人で調理した。こうして並ぶと新婚みたいだと考える彼女。「こうして並ぶと新婚のようだな」と口に出す彼。頬を赤らめて同意した。ケーキは有名店のものを用意。この後のことを思うと少しだけ手が進まない。それを察したのか「消費してしまうのだから大丈夫だ」と彼は淡々と言う。ばか、えっち、と脇腹を小突いたが「本当のことだろう」と口の端に付いたクリームを指で拭き取られた。そう言うのならばしっかりと責任を取ってほしい。美味しいケーキは我慢できないから。
🍭「やっほー☆今日はいつもの100倍可愛いね♪僕も張り切っちゃった!」ぴょんと跳ねる彼の方が100倍可愛い気もしたが、可愛い彼に可愛いと言われたのだから自身の方が可愛いのだと彼女の脳内は“可愛い”のゲシュタルト崩壊を起こす。「行こっ!」と腕を引っ張られシブヤの街へ。色々な人に声を掛けられる彼。女の子も平気で声を掛けてくる。いつも通り“お姉さん”だと思って。せっかくのクリスマスイブなのに、ダメとわかっているのに、痛み出した心により足は進むのを止めた。「どうかした?」心配そうな声が聞こえ笑顔を作る。けれど彼はお見通し、「無理しないの!」と眉を釣り上げる。そして予定よりも早くレストランへ。「……帰る?」短い一言に背筋が凍った。涙を浮かべて即座に否定すれば、「じゃあ泣かないの」と優しく手が包まれた。こんな日にゴメンと呟き俯くと、「早くホテル行っちゃお?」などと彼は戯ける。仕方ないなと笑顔を見せて食事を楽しんだ。この日の為に用意したアレコレ、彼に見せずして帰ってたまるものですか。
📚「あー……その…誰かと思いました」待ち合わせに現れた彼の第一声はいつもより少し緊張しているようだった。手を差し出して「行きましょうか」とゆっくり彼女の手を引く。行き先は編集者との打合せで連れられて来たことのある小洒落た和食屋。クリスマスに和食とは邪道でまた良いではないかと彼女を言い包めたのだ。2人きりになれる静かな個室。世の中の喧騒から離れ、本来のクリスマスとは全く違う時を過ごす。「何故此処にしたのかって?……美味しい洋食屋を知らないから」目を逸らした彼の小さな声ははっきりとそう言った。考えてみれば自宅で仕事をし、人にも余り会わずではたしかに食事処など縁も遠いのだろう。そしてこの風貌だ、編集者たちが選ぶのもきっと和食。勝手ながら合点がいった。「……厭、でしたか?」心配そうな声色で、綺麗な瞳は哀しげに揺れる。否定を述べれば「よかった」と彼は一言。「この後のホテルも和風な場所をチョイスしておきました」それはネットのみで知り得た情報なのか。はたまた嘘か。そして、問い詰めるべきか、否か。
🎲ドアを開けるなり「っじゃーん!クリスマスプレゼント!」と彼は袋を差し出した。驚き彼を見つめれば「あ?だってお前…無いと思ってたろ?だから暗い顔してたんだろ?俺だって……お前の笑顔が見たいんだよ」などとばつが悪そうにした。寒そうにしている彼を招き入れ、用意した料理の前に座らせる。「っひょー!お前の料理さいっこ〜!」まだ食べてないけどね。摘み食いしようと伸びた手を叩けば「腹減ったぁ…」と項垂れる彼。グラスを手渡し、形だけの乾杯を交わす。「キリスト教じゃねえけど、キリストには感謝!」という罰当たりな言葉を述べた彼はグラスを即座に空にし、料理に手を伸ばした。勢いよく減っていくそれらを見て満足する彼女。なにせ彼のために用意したのだ、このくらい食べてもらわなくては困る。酒、肉、酒、肉、時々その他、どんどん吸い込まれていく食材たち。いっそのこと清々しい。「あ!今日泊めてほしいんだけど!」そういうつもりで招いたのだけど、もしかして伝わっていない。
💉「ゴメンね、急に呼び出してしまって…昨夜突然、有給を取るように連絡がきて…その……」突然予定が空いて自身を思い浮かべてくれたなど、彼女にとっては嬉しいことこの上ない。「でもお陰で昼間から君と過ごせるし…同僚達には感謝だね」いつも誰よりも働いている彼へ、イブくらいは恋人と過ごしてくださいなどと連絡が来たそうだ。粋な計らいではあるが、もう少し早く言ってくれればと思わなくもない。だが人命に触れる人々だ、そうもいかないのだろう。その彼らがこうして時間を作ってくれたことには頭が上がらない。シンジュクの街をふらりと歩き、店を覗いて言葉を交わす。多くの恋人達にとっては他愛ない日常かもしれないが、2人にとっては偶の時間。ウィンドウショッピングでさえもある種新鮮だ。予約していたレストランに足を運び「クリスマスらしくはなかったよね…」と謝ろうとする彼を制止する。ふっと浮かんだ笑顔に胸は締め付けられ、脈絡なく愛を囁いた。「…急にどうしたの?……私も、愛しているよ」その柔らかな笑顔が大好きだ。
🍸「だーいじょーぶ!昼前まで寝てたし〜席もばっちりだし?」今日の行き先はプラネタリウム。事前に端の席を用意し、極力女性との遭遇率を引き下げた。それに最悪、途中で出ても他の客に大きな迷惑はかからないだろう。「つかゴメンね?夕方にはお別れしなきゃだから…」ぎゅっと手を握り哀しげな表情を浮かべる彼。この書き入れ時に時間を作ってくれた彼には感謝しかない。移動するべくタクシーに乗り込み、他愛ない会話を繰り広げる。握られた手が汗ばんでいること、無駄に饒舌なこと、これらはきっと緊張だ。タクシーを降りてからは普段よりも密着して歩いた。「○○ちゃん今日近くなーい?…え?俺っちのことがそんなに好きなの…?知ってる〜!」と存外大丈夫そうなので一人安堵したが。彼には退屈そうな星見の時間は問題なく淡々と過ぎ、早くも一旦お別れの時間。「うん、頑張る。だから待っててね?……ダメ?」待っていたらご褒美をくれるのか、それとも彼が欲しいのか。それはその時のお楽しみ。いってらっしゃいのキスで送り出した。
👔「クリスマスにお前と過ごせるなんて…奇跡だ……」正確にはイブだけどねと茶々を入れられムスッとした彼は「……細かい」、と目を逸らした。可愛い…という言葉を飲み込み街へと繰り出す。何処もかしこも混み合っているがそれもまたこの日の醍醐味だ。ランチを済ませ街をふらふら。夕方になりイルミネーションを見る為に移動を開始する。あんなのはただの電飾だ、そう思っていたが彼女と一緒ならばそのような無機質な想いも鳴りを潜める。陽もとっぷりと暮れ光は美しさを増す時間。目にした瞬間溢れる「すご…」という感嘆の声。ベタなスポットやイベントは好まないが、それを好む彼女に出会わなければこうした想いも味わわなかっただろう。無意識に呟く「今日はありがとう」。なんてベタなんだ、そう思いながら唇を重ねた。でもやっぱり悪くない、彼女とならば、テンプレートなデートコースだって最高の1日に変わる。この後のことはどうしよう、明日は仕事だと頭を巡る。彼女はどう思っているのだろう。「ねぇ……この後…」“どうする?”と聞くのは野暮だろうか。“うち来る?”難無くそう言えてしまえばいいのに。いやその前に、ディナーを予約してあるんだった。