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#hpmiプラスまとめ

余命宣告を受けた彼女との話

2019/06/01 15:42
1️⃣「えっ…」買ったばかりのラノベが手から落ちた。足に角が刺さったが痛みなどは感じていない。「冗談じゃなくて…?」震える声を誤魔化しながら、彼女の顔をそっと見遣る。そこには涙を零す彼女がいた。無言で抱き締めその日は別れたが、彼とて食事も喉を通らなかった。枕を濡らし、寝付けないまま朝日を浴びる。精一杯の虚勢、普段と変わらない笑顔で毎日を過ごした。それに反して彼女は目に見えるほどに弱っていく。そしてついに、その日はやってきた。「…俺……お前と過ごせて幸せだった」手を握って笑顔で涙を流し「愛してるよ」と耳元で囁いた。笑顔と最高の言葉で見送りたい。だからどうか、涙よ止まってくれないか。

2️⃣「は?くだらねぇ冗談やめろよ」笑い飛ばした。けれど部屋はシンとした。ああ、嘘ではないんだと彼は実感してしまった。「…マジ、なの?」震える声で再度、恐る恐る問う。同じく震えた声が言葉を返す。それでも尚、信じられない。信じたくない。思わず呟く、「嘘、だろ……」というある種の追い打ち。その日の夜は一睡も出来ず、その次の日もあまり眠れず、その次の日にやっと、気絶するようにして眠った。寝ても覚めても見るのは悪夢。入院した彼女に会いに行く足も日々重くなる。明るく在ろうと決意したある日、彼女は自分より長生きするよう約束を求めた。もう、お別れなのだと直感が告げている。「うん……約束通り長生きする。幸せになる。だから、そんな顔すんな」作られた笑顔は痛々しく、目尻からは涙が溢れ落ちた。

3️⃣「信じませんから!」そう言うなり部屋を飛び出て、病室の前に座り込み彼は泣いた。暫く経って涙を拭いながらドアを開ける。「ごめんなさい…あんなこと言って。貴女が嘘を吐く人だなんて思ってません…思い出、沢山作りましょう?」腫れた目さえも誤魔化しはしない。彼女とて真っ直ぐぶつかってくれたのだ、真摯に受け止めねば男らしくないと兄に叱られてしまうだろう。足繁く通い他愛ない話をした。天気の良い日には外を歩き、何の変哲もない写真を撮った。何処かの歌手は写真になったら古くなると歌っていたが、彼女を此処に閉じ込めておけるのならばそれで構わない。けれど無情にもその日はやってきてしまう。「僕を…1人にするんですか……なんて、貴女を心配させるわけないでしょう!ほら、大丈夫。大丈夫ですから」最後の言葉は彼女に向けてでもあるが、自分へ向けた言葉でもあった。


🐴「は?今すぐそのヤブ医者のとこに連れてけ」帰るなり再び出掛けようとする彼。彼女はその腕を掴み、落ち着いてと涙を浮かべた。その様子からヤブ医者でもくだらない嘘でもないことを察した彼。グッと拳を握り感情を抑え「…どうしたらお前の命は助かる」と静かに言った。俯いたままの彼女の頬に手を添え自分の方を向かせる。強い瞳で見つめれば瞳からは涙が溢れた。「……悪りぃ」そう言って唇を塞ぐ。この一瞬さえもが名残惜しい。それからの日々はあっという間。行きたい所へ行き、好きな物を食べて、抱き合って眠る。何の変哲もない日々が数百倍大切に思えた。日に日に交わす言葉は減っていき、彼女はベッドで過ごす時間が増えた。きっとこれが最期の会話。「俺様が逝くまで老けるんじゃねぇぞ」ぎゅっと手を握り薬指に口付けた。とびきりの笑顔を浮かべて彼は言う、「待ってろよ」。己の目尻に浮かんだ無様な涙は彼女から見えなくなったのち乱暴に拭った。

🐰「どこの誰が吐いた戯言だ?早くそいつの所に案内しろ」淡々と彼は述べる。様子と口調から事実であると理解していたが受け止めたくない一心でそう言った。だが彼女のゴメンという言葉に「お前が謝ることじゃねぇだろ」と忽ち弱々しい声を上げる。「明日から……沢山思い出を作ろう」そう言って抱き締めた。この温もりが無くなるなんて信じられない。こんなにも元気じゃないか。だがその元気も見せかけ。見た目とは裏腹に彼女の身体はそう長くは持たなかった。主治医からはそろそろだと聞かされていた為、毎日覚悟は出来ていた。それでも、それでも簡単に受け入れられずはずもない。彼は人知れず泣いた。横たわる彼女の手はカサついていてか細さに拍車がかかっている。いつにも増して哀しそうな顔をしていた。やはり、今なのか。「バカ。最期くらい笑え…あぁ、愛してるよ」。聞こえたか聞こえないか、それは彼女にしか解らない。一通りの手続きを終え彼は帰路に着く。寒空の下呟いた「クソ」という悔恨の一言。誰にも聞こえはしない。

🐦 両手を力強く握った。頑張っている彼女に弱った姿などは見せられない。「…方法はないのか。小官もツテを当たる……諦めるな」。その後ももちろん一切、誰にも弱った姿は見せなかった。けれど、毎晩頭を抱え人知れず涙を流す。そして彼女に会う時は普段通り。「今日は何処へ行こうか」と優しく語りかけ、手を取り2人で街を歩いた。その時間も束の間。通院が増え、入院となってからはすぐだった。「あぁ、また会えるさ」頭を撫でて軽く口付け。最後の最後まで彼は美しく優しい笑顔を崩さなかった。彼女が息を引き取ってからも手を離そうとしない。慣れていたはずの別れ。なのに、胸の奥が痛むのは何故だろうかと彼は逡巡する。失われていく手の中の温もりがきっとその答えだ。


🍭「そういう冗談つまんなーい」コンビニの袋をテーブルに置き、黙ったままの彼女を見た。冗談にしてはあまりにも表情が真剣だ。「まさか、本当なの?」。こういうつまんない冗談言わないよと彼女は強がってみせた。「そう、だよね…ゴメン」涙を堪える為に彼は唇を噛む。嘘だろ、冗談だろ、ふざけるな。居る筈のない神をこれでもかというほど呪い、信じてもいない神に向かいどうか助けてと何度も願った。呪いも願いも届くはずなく、今日、彼女はあちらへ連れて行かれる。「僕…良い子にしてるから…だから…絶対また……出会ってね」涙なんて無様だ、そう思いながらもそれは止まりはしない。泣き顔、可愛くないよと彼女は笑う。無理をして浮かべた笑顔もまた美しくも可愛くもない。けれど彼女は嬉しそうだった。「だよね、笑顔が一番可愛いもんね☆僕も、君も」今ばかりは、彼女の寝顔は見たくはない。

📚「………嘘、と言ってください」喉がゴクリと動いた。悲しげな表情が彼女の心を締め付ける。嘘ではないと謝る彼女の手を握れば、その手に彼の涙が溢れた。強がって「大丈夫ですよ、一緒に頑張りましょう」と微笑むものの、顔と声色は一致していない。脳裏に浮かぶのはもう一人の大切な人物。何故、実像の見えぬ分際で神はこうも宝を奪うのか。「……これもまた、運命か」一人、暗い星空を見上げ呟いた。「少々、残酷が過ぎますね」世界が少しつまらなくなるだけ。そう言い聞かせるだけで耐えてきた日々もついにおしまい。新たな小説を手渡せば、きっと売れると彼女は笑った。「ふふ、そうですね。有名になれば其方にまで小生の名が轟く日が来るやもしれません。まだ時間はかかりますが、また、見つけて下さいね?……約束、ですよ?」小指を絡めそっと微笑む。その指はやがてベッドに落ちた。このような悲劇、小説のネタになどして堪るものか。

🎲「…何があればお前は助かる?金か?臓器か?なんでもする……だから…」手を握り彼女を見つめた。返ってきたのは小さなゴメンの言葉。強く、ただ強く抱き締めた。「ぜってぇ俺がなんとかする!だから…諦めんな!」涙を堪える瞳が心強く、彼女のことを勇気付けた。その笑顔と生き様が彼女をそうさせたのか、真相は医学的にもわからない。けれど宣告された期間よりも遥かに彼女は生き延びた。とはいえ緩やかに身体は蝕まれていく。きっと、残された時間はもう長くはない。だから彼はたくさん笑った。たくさん、元気な姿を見せた。最期まで手を握り、その笑顔を絶やすことはしなかった。いつもありがとうと微笑む彼女。「おう!お前は俺の笑顔が大好きだからな!」だから、しっかりと見送って、一人、黙って涙を流した。受け取った形見は肌身離さず持っている。これだけは賭けはしないだろう。


💉「どうしてもっと…早く教えてくれなかったの?」そんなことを告げるのは酷だ。そう解っていながらも止めることが出来なかった。なぜなら、自分ならばそうなる前になんとか出来たのではないかという気持ち。そして自己嫌悪。怒ったような悲しいような表情が彼女を見つめた。つい謝りそうになる彼女をそっと抱き締め、「いや…こんなことを君に言うのは酷だね。申し訳ない」と力を込める。この鼓動が、温もりが。この腕の中から消えてしまうだなんて何が神か。「どうか、私を恨んで。そして、忘れないでいてほしい」長い髪が彼女の顔に触れる。擽ったいけれど、それを払う事すらも叶わない。「愛しているよ」その声と言葉はきっと届いただろう。悔しい、悲しい、認めたくない。歪む彼の表情に反し、彼女は微笑んでいる。「…いけないね、私がこんな顔をしていては」別れのキスは嗅ぎ慣れた薬品の味だった。

🍸「えっ………あ!ドッキリ的な?もぉ〜!心臓に悪いじゃん!」とにかく信じなかった。無理矢理にでも元気を演じてみせた。だが彼女の反応を見れば否が応でもわかってしまう。彼女の手を取れば、堰を切ったように涙が流れた。「嘘…そんな……俺っち…」それ以上の言葉が出てこない。やっと出会えた自身の唯一。嘘だ、嘘だと呟き、目を腫らしながら眠りに就いた。翌日は上の空。その翌日からはやっと通常運転…に見せかけた空元気だった。来て欲しくない日ほどすぐにやってくるもので、彼にも当然その日は訪れた。「やだ…やだよ……俺っち…そんな……」手を握っては涙を流し。涙を拭っては手を握る。やがてハッとして笑顔を作り「絶対、また一緒になろうね」と告げた。軽いのか重いのかわからない自身の体。止めたはずの煙草は決して美味いものではなかった。「忘れてとか、無理ゆーなってぇの」

👔「…は?今なんて?」疲労故の空耳か。雑な返しをしてしまった。彼女が言い直せばネクタイを緩めていた手が止まり唖然。「お、俺のこと…揶揄って……いや…お前がそんなこと言うはず、 ない…」と言ったきり、着替えかけのまま彼女を抱き締めて動かなくなった。耳に届く泣き噦る声。彼女の肩が少し湿る。「……でも、一番つらいのはお前だもんな…俺が……泣いてる場合じゃない。よな」放れた彼は如何にも涙を堪えている顔だった。けれど、目を真っ直ぐ見つめる姿は彼女にとって頼もしいものでもある。忙しい身でありながら彼は、「ついでだよ」とあからさまな嘘を吐き頻繁に病室を訪れた。そして抗えない運命の日。運命だなんて認めたくはない、その日。彼は「俺もすぐ逝くから」と本気としか思えない表情を浮かべた。彼女は不安に思うけれど、きっとこの人は最後まで生きてくれるだろう。だってそんなに弱くない。なにせ、独りで歩ける人だから。

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