DX1~熱闘編~
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『逆境こそチャンスと思え。』
要注意人物・陽を、逆に手懐けることができれば、一気に流れを引き寄せることもあり得なくはない、と千晶は見積もっていた。
そのために千晶は、陽を筆頭とする、牢獄の監視チームに出入りすることにした。
牢獄のクロムから話を引き出したい、という思惑も同時にあったためであるが、さらに千晶は、こうも考えていた。
「クロム君と陽が、意気投合でもすれば、一挙両得じゃん?」
「……それ、本気で考えているの?」
羽京も呆れるほどに低い可能性でも、千晶は、すべての可能性を拾い上げてみたかったのである。
何より千晶は、クロムから話を引き出すことを諦めてはいなかった。
「ねえクロム君。君は、科学者、なんだよね。ってことは、いろんな科学の知識があるってことなんだよね。あたしに教えてくれないかな。」
千晶は下手に出て、クロムが心を開いてくれるのを待った。
それに水を差したのが、陽である。
「原始人の言う科学う? どうせ、おひさまは、同じ方角から上るんですう! とか、お月様は、一ヶ月でまんまるになるんですう! とか、そういうレベルだろ?!」
(うるせえ…。)
クロムは、苛立ちをなんとか抑えようとしているようだった。
「熟れた果実は甘い、とか、魚は鹹(しおから)い、とか、味覚のもとになっているもの、知ってる?」
「ウエーイ! 知ってる知ってる! 砂糖と塩! 原始人は知ってるかなー?」
「知っとるわ!!」(糖分と塩分だろ!)
陽の煽りにクロム、引っ掛かってしまった。
「知ってるんだ! 五つの味覚はわかる? 東洋漢方のほうかな、五味。」
「ゴミィ?」陽がまた煽る。
「五味。世界共通の味覚の定義と、東洋独自の五味ってちょっと違うんだよ。」
「ハアア?」
この間、冷静に何かを考えているようだったクロムは、突然、大声で語りだす。
「お塩! 知ってるぜえ!! 海水から、採れるんだぜ! こう、太陽の熱であっためて、しばらくすると、白い塊になって出てくるやつだろ! ぺろっと舐めるとヤベエェしょっぱい塊がよオ!!」
「プッ!!」
「……。」
そのわざとらしい言い回しに、千晶は違和感を覚えた。そして、彼を試すことにした。
牢獄のクロムに、笑い転げる陽の横から千晶は語る。
「人が塩を欲するのは、汗をかいたときに失うからだよ。人は体温調節のために汗をかくのは知ってる、よね? 汗のもとは血液で、血液中に含まれている塩類がイオンとして汗に溶けているからなんだけど…、もっと噛み砕いて言ったほうがいいかな、汗を舐めるとしょっぱいでしょ? 人の汗からも塩がとれるんだよ。」
「プッ、食べたいとは思えねーけどな! ガハハ!」
「このクイズ女王・千晶様のお知恵はありがたく受け取っておきなよ。」
「おーおーありがてえありがてえ。ただ、原始人にはどこまで理解できたかなーあ? アッハッハー!」
千晶は不敵な笑みで、続ける。
「ついでに言うと、塩類は金属を腐食させるから、ステンレスボトルにスポーツドリンク入れちゃ駄目だからね?」
「えっ、そうなの?!」
「陽、知らなかったの? 取説に書いてあったはずだけど。」
「まじかー! どーりで俺の水筒よく錆びてたわけか!」
陽、かなりのバカだった。
「塩(えん)は金属をイオン化させるって、中学校で習うよ、ね?」
「多分、あれだ。学習指導ナントカが変わったんだ。そうに違いない! じゃないとこの俺様が許さねえええ!!」
(はいはい……)
陽が暴走しそうなので、非力な千晶は反発する衝動を抑えた。元いた時代とは違う、腕力がものを言う世界と理解していた。
(陽を手懐けることは、果たしてできるのか…?)
ゲンとは違い、人心掌握の技術まで有していなかった千晶は、次の一手に詰んでしまった。
そしてその晩、その事件は起こった。
「火事か?!」
クロムの独房から放たれた閃光は、監視メンバーを集合させるのに十分だった。その輪に、千晶の姿もあった。
「さっすが原始人! プププ、あ、笑っちゃいけねえのか。これがカガクだ! ドヤ! だもんな。…プッ、クク…ウヒャヒャヒャヒャ! ま、せいぜい脱獄、頑張って。頑張ったところで無理だけど!」
腹を抱えて笑う陽の横から、千晶は顔を出してクロムに呪文を唱えた。
「冷や汗、かいちゃったでしょ。お塩、補充しないとね。」
そうして踵を返し、千晶はクロムの前から姿を消した。
遡ること事件の1時間前。
千晶と羽京はいつもの場所で、囚われのクロムについて話していた。
「で? 彼はどんな子だった?」
「いかにも純粋培養って感じ。」
「純粋…。」
「ただ、…やっぱりちょっと演じてるふうにも見えなくもなかった。」
「というと?」
「バカなふり。」
「ほお。」
「少なくとも、ただのバカではなさそう。」
「確かに、僕に捕まったときも、えらく従順だった。同行する仲間を逃がすため、だけじゃないと見えるね。」
「何か、やらかしてくれそうじゃない?」
「…やってみる?」
羽京は、入手したマンガン電池を千晶に見せた。千晶ははっとした。
「…偶然かな、偶然、なんだけど、彼に、塩類による腐食の話をしたんだ。」
「腐食?」
「汗に含まれる塩類が、ね。」
「ああ…。」
「ねえ、その電池に含まれる金属が、塩水に溶けたら、何ができると思う?」
「あっ……そっち、か。」
「牢獄を組むために使っている縄は植物性。クロム君が持っているものをうまく組み合わせ、化学反応が成功すれば、セルロースを溶かす薬剤を精製することも、可能。」
「科学使い・クロム君、か。」
「ふふ、お手並み拝見、といったところだね。」
千空が伝授した唆る科学が、
千晶の出した唆るヒントが、
彼に伝わっていれば、科学王国の底力は、本物……。
「敵に塩を送るって、こういうこと?」
「贈るのは塩じゃないけどね。」
マンガン電池を手に、羽京は千晶に笑いかけた。
「ふふ。」
「ふふ。」
大きな木の上の密会場所でふたりは互いに悪戯な笑みを向けた。
(※まだ付き合ってない)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ここで問題です!
敵に塩を送ったのは、シンゲン? ケンシン? どっち?
シンキング・ターイム♪
(♪)
"シンゲン ケンシン ケンシン シンゲン
シンゲン ケンシン ケンシン シンゲン"
信プレックス - シンゲン ケンシン『戦国炒飯TV』2020
〈ピンポーン♪〉
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「……それ、本気で考えているの?」
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何より千晶は、クロムから話を引き出すことを諦めてはいなかった。
「ねえクロム君。君は、科学者、なんだよね。ってことは、いろんな科学の知識があるってことなんだよね。あたしに教えてくれないかな。」
千晶は下手に出て、クロムが心を開いてくれるのを待った。
それに水を差したのが、陽である。
「原始人の言う科学う? どうせ、おひさまは、同じ方角から上るんですう! とか、お月様は、一ヶ月でまんまるになるんですう! とか、そういうレベルだろ?!」
(うるせえ…。)
クロムは、苛立ちをなんとか抑えようとしているようだった。
「熟れた果実は甘い、とか、魚は鹹(しおから)い、とか、味覚のもとになっているもの、知ってる?」
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牢獄のクロムに、笑い転げる陽の横から千晶は語る。
「人が塩を欲するのは、汗をかいたときに失うからだよ。人は体温調節のために汗をかくのは知ってる、よね? 汗のもとは血液で、血液中に含まれている塩類がイオンとして汗に溶けているからなんだけど…、もっと噛み砕いて言ったほうがいいかな、汗を舐めるとしょっぱいでしょ? 人の汗からも塩がとれるんだよ。」
「プッ、食べたいとは思えねーけどな! ガハハ!」
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千晶は不敵な笑みで、続ける。
「ついでに言うと、塩類は金属を腐食させるから、ステンレスボトルにスポーツドリンク入れちゃ駄目だからね?」
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腹を抱えて笑う陽の横から、千晶は顔を出してクロムに呪文を唱えた。
「冷や汗、かいちゃったでしょ。お塩、補充しないとね。」
そうして踵を返し、千晶はクロムの前から姿を消した。
遡ること事件の1時間前。
千晶と羽京はいつもの場所で、囚われのクロムについて話していた。
「で? 彼はどんな子だった?」
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「何か、やらかしてくれそうじゃない?」
「…やってみる?」
羽京は、入手したマンガン電池を千晶に見せた。千晶ははっとした。
「…偶然かな、偶然、なんだけど、彼に、塩類による腐食の話をしたんだ。」
「腐食?」
「汗に含まれる塩類が、ね。」
「ああ…。」
「ねえ、その電池に含まれる金属が、塩水に溶けたら、何ができると思う?」
「あっ……そっち、か。」
「牢獄を組むために使っている縄は植物性。クロム君が持っているものをうまく組み合わせ、化学反応が成功すれば、セルロースを溶かす薬剤を精製することも、可能。」
「科学使い・クロム君、か。」
「ふふ、お手並み拝見、といったところだね。」
千空が伝授した唆る科学が、
千晶の出した唆るヒントが、
彼に伝わっていれば、科学王国の底力は、本物……。
「敵に塩を送るって、こういうこと?」
「贈るのは塩じゃないけどね。」
マンガン電池を手に、羽京は千晶に笑いかけた。
「ふふ。」
「ふふ。」
大きな木の上の密会場所でふたりは互いに悪戯な笑みを向けた。
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