DX1~熱闘編~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
朝一番。
千晶は単身、司帝国の本陣に乗り込み、帝王と一対一で直接話し合いを始めた。
「ほとんど生身で肉体労働をするってことは、怪我をするリスクも十分にあるよね? じゃあ、薬は必要…」
「必要ない。」
「えっ。」
その一言で、千晶は、いやな汗をかいた。
司のすべての仕草が、目の前の者を萎縮させるのに十分な威圧感をもっていた。
張りのある千晶の声とは対照的に、司は一貫して柔らかな声で、話す。
「人間にはある程度の自然治癒力がある。免疫、といえばいいのかな。だからわざわざ、科学の力を借りる必要はないよ。」
「そりゃ、そうだけど。でも、それにも限界がある。」
「限界?」
「それこそ、大きな怪我とか、感染症とか。手術や処置をするには麻酔もいるし、二次感染を防ぐための抗生物質…」
「必要ない。」
「はっ?」
「大怪我で四肢の一部を欠損したとて、それはそれで、その人の運命だったと思うしかない。神が与えた、試練だ。」
「な、そんな根性論…」
「とにかく、この楽園に、薬などという科学の塊みたいなものは、許容できないんだ。僕の言いたいこと、千晶くんにならわかってもらえると思ったんだけど。」
その見下ろす目は、威圧感しかなかった。
【科学】を口にしようものなら、たとえ女子供であろうと、命すら奪いかねない。この場にいる千晶でなくても、そう思うだろう。
「……一つ、許したら、際限なく、生み出される。」
「そういうことだよ。君ほどじゃないかもしれないけど、僕もドーピング検査の関係で色々知っているんだ。僕らがいた時代では一応、危険な薬には規制がかかっていたけど、それもいたちごっこ。次々と抜け道となる新しい薬が生み出される。なら、はじめから生み出さなければいい。ただ、それだけのことだよ。」
「…実にシンプルで、わかりやすい。」
「わかってもらえて、嬉しいよ。君も、僕の描いた理想郷をきっと気に入ってくれると思うよ、うん。」
千晶の握り拳は小さく震えていた。
『勝つことにこだわるな。勝とうとするから負けるんだ。大事なのは、負けないことだ。』
旧時代。中学生になったばかりだった千晶が聴講していたのは、地元の区民ホールで執り行われたとあるプロ雀士の講演。その名も【絶対に負けない、生きるための15のコツ】
(『絶対に負けない』って、どういうこと? 勝負事であれば、勝つも負けるも平等なのに。)
対象年齢は大人向けだったが、千晶は最年少で参加した。
『今ここに来ている皆さんは、何としても勝ちたい、という欲が全面にでています。ですが私に言わせれば、それは自ら、わざわざ負けるほうに進んでいっているようにしか見えない。』
会場からブーイングが飛んだ。
『負けないことと、勝つことは、全く別の次元の話。私は勝とうとして勝ったのではない。勝つことにこだわりすぎた相手が勝手に自滅していっただけだ。小手先の技術で勝ちたい、その技術が欲しいと思ってらっしゃるのでしたら、私の講演を聴く必要はありません。どうぞお帰りください。』
千晶は、目を輝かせて最後まで聴いていた。
それからというもの、千晶の成長は目覚ましかった。
元々、好奇心旺盛で、興味のあることは何にでもとことん調べたり、実験・検証したりと、それこそ千空やクロムのような科学少年であった。
負けず嫌いな性格もあり、将棋なども泣きながら強くなろうと努力してきたフシもある。
しかし、勝つことだけにこだわりすぎて負けた、という視点を得た千晶は、戦い方を変えた。
『大事なのは、負けないこと。』
年齢、フィジカル、技術、性差……あらゆる面で千晶は、周りから劣っている、不足していることを感じていた。知識を得て補おうとしても、これら物理的な問題を前にしては限度がある。
だからこそ、できる戦術がある。
現状をしなやかに受けて、流れを読み、本能のままに突き進むこと。
孫子の兵法に通じる、生存戦略。
絶対に、負けない。負けるもんか。
大柄な獅子に睨まれた小柄な少女は、自らを奮い立たせ、最も生き延びる可能性が高い選択をした。
生きてさえいれば、どうとでもなる。まずは、生き延びること。
……千空のような犬死には、絶対にあってはならない。
「そうだね、司。あたしにも見せてよ、理想郷。」
千晶は司帝国において、軍師として立ち回ることを選んだ。
しかしそれはあくまで、千晶にとって選択肢の一つでしかなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(♪)
"I'm a woman keep on burning
情熱の炎 果てるまで"
八神純子 - I'm A Woman 詞:阿里そのみ (1981)
千晶は単身、司帝国の本陣に乗り込み、帝王と一対一で直接話し合いを始めた。
「ほとんど生身で肉体労働をするってことは、怪我をするリスクも十分にあるよね? じゃあ、薬は必要…」
「必要ない。」
「えっ。」
その一言で、千晶は、いやな汗をかいた。
司のすべての仕草が、目の前の者を萎縮させるのに十分な威圧感をもっていた。
張りのある千晶の声とは対照的に、司は一貫して柔らかな声で、話す。
「人間にはある程度の自然治癒力がある。免疫、といえばいいのかな。だからわざわざ、科学の力を借りる必要はないよ。」
「そりゃ、そうだけど。でも、それにも限界がある。」
「限界?」
「それこそ、大きな怪我とか、感染症とか。手術や処置をするには麻酔もいるし、二次感染を防ぐための抗生物質…」
「必要ない。」
「はっ?」
「大怪我で四肢の一部を欠損したとて、それはそれで、その人の運命だったと思うしかない。神が与えた、試練だ。」
「な、そんな根性論…」
「とにかく、この楽園に、薬などという科学の塊みたいなものは、許容できないんだ。僕の言いたいこと、千晶くんにならわかってもらえると思ったんだけど。」
その見下ろす目は、威圧感しかなかった。
【科学】を口にしようものなら、たとえ女子供であろうと、命すら奪いかねない。この場にいる千晶でなくても、そう思うだろう。
「……一つ、許したら、際限なく、生み出される。」
「そういうことだよ。君ほどじゃないかもしれないけど、僕もドーピング検査の関係で色々知っているんだ。僕らがいた時代では一応、危険な薬には規制がかかっていたけど、それもいたちごっこ。次々と抜け道となる新しい薬が生み出される。なら、はじめから生み出さなければいい。ただ、それだけのことだよ。」
「…実にシンプルで、わかりやすい。」
「わかってもらえて、嬉しいよ。君も、僕の描いた理想郷をきっと気に入ってくれると思うよ、うん。」
千晶の握り拳は小さく震えていた。
『勝つことにこだわるな。勝とうとするから負けるんだ。大事なのは、負けないことだ。』
旧時代。中学生になったばかりだった千晶が聴講していたのは、地元の区民ホールで執り行われたとあるプロ雀士の講演。その名も【絶対に負けない、生きるための15のコツ】
(『絶対に負けない』って、どういうこと? 勝負事であれば、勝つも負けるも平等なのに。)
対象年齢は大人向けだったが、千晶は最年少で参加した。
『今ここに来ている皆さんは、何としても勝ちたい、という欲が全面にでています。ですが私に言わせれば、それは自ら、わざわざ負けるほうに進んでいっているようにしか見えない。』
会場からブーイングが飛んだ。
『負けないことと、勝つことは、全く別の次元の話。私は勝とうとして勝ったのではない。勝つことにこだわりすぎた相手が勝手に自滅していっただけだ。小手先の技術で勝ちたい、その技術が欲しいと思ってらっしゃるのでしたら、私の講演を聴く必要はありません。どうぞお帰りください。』
千晶は、目を輝かせて最後まで聴いていた。
それからというもの、千晶の成長は目覚ましかった。
元々、好奇心旺盛で、興味のあることは何にでもとことん調べたり、実験・検証したりと、それこそ千空やクロムのような科学少年であった。
負けず嫌いな性格もあり、将棋なども泣きながら強くなろうと努力してきたフシもある。
しかし、勝つことだけにこだわりすぎて負けた、という視点を得た千晶は、戦い方を変えた。
『大事なのは、負けないこと。』
年齢、フィジカル、技術、性差……あらゆる面で千晶は、周りから劣っている、不足していることを感じていた。知識を得て補おうとしても、これら物理的な問題を前にしては限度がある。
だからこそ、できる戦術がある。
現状をしなやかに受けて、流れを読み、本能のままに突き進むこと。
孫子の兵法に通じる、生存戦略。
絶対に、負けない。負けるもんか。
大柄な獅子に睨まれた小柄な少女は、自らを奮い立たせ、最も生き延びる可能性が高い選択をした。
生きてさえいれば、どうとでもなる。まずは、生き延びること。
……千空のような犬死には、絶対にあってはならない。
「そうだね、司。あたしにも見せてよ、理想郷。」
千晶は司帝国において、軍師として立ち回ることを選んだ。
しかしそれはあくまで、千晶にとって選択肢の一つでしかなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(♪)
"I'm a woman keep on burning
情熱の炎 果てるまで"
八神純子 - I'm A Woman 詞:阿里そのみ (1981)
3/3ページ
