第一章
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タイムパラドックスにより石化が起こらなかった世界線。
晴れた空に、突如、穿たれた闇の中から、凄まじいエネルギーをもった雷光が現れ、送電線に激突、辺りに轟音が響いた。
現代。
横浜駅西口、ヤッパシカメラ横浜店。
(ノイズキャンセラー付きイヤホンといっても、ピンキリだな。安いもので妥協せず、ここは、やっぱり、最上位モデルを…。)
西園寺羽翔(さいおんじ・うしょう)はその日、公休を利用して買い物に来ていた。
海上自衛隊、呉基地に所属する羽翔は、試験運航等のため横須賀基地に停泊している期間を利用して、もののついでと横浜観光をも兼ねて外出していた。
(ハイエンドモデルは確かに凄いけど、やっぱり価格がなあ…。あとどっちのメーカーにするかというところか…。)
購入を決めかね、店内をうろうろ歩いていた。いつしかテレビフロアに足を踏み入れ、下を向き考え込みながら歩き続ける。
エスカレーターから下りてすぐのところに、いくつもの大型ディスプレイが並んでいた。
無音で、華々しいバラエティ番組が映し出され、そこには、
[優勝]
と書かれたボードを掲げ祝福を受ける一人の女子高生の姿があった。
テロップには
[新女王 ダイヤのエース大谷千晶]
イヤホンのことで頭がいっぱいだった羽翔は目もくれず、その前を通り過ぎるのみだった。
大谷千晶(だいや・ちあき)、17歳。
高校生になってすぐ出場したクイズ番組でいきなりストレート優勝、その類い稀な頭脳を見込まれ、高校生クイズ女王としてテレビ番組に出ることが多くなって、早一年。
その日はいつもと違う場所での収録の為に電車で横浜駅へ向かっていた。
(間に合うかな…。)
乗客の半数程が、そわそわしていた。
(まあ、急がなくても、明日も休みはとってあるから、ゆっくり考えよう。)
羽翔は少し遠回りをして、横浜駅に戻っていった。
(中華街に行くなら、横浜から、みなとみらい線、だっけ? 関内駅からも行けるって聞いたけど…どうやって行こうか。)
『横浜、横浜。』
我先にと降りる乗客に紛れて、千晶も急いで車両から降りる。階段を駆け抜け、改札へと曲がるところで人とぶつかりそうになりながら、必死に、前へ前へと進んでいった。
〈ピピッ〉
交通系ICカードの読取り音が無事聞こえたことで一安心した千晶は、油断した。勢いそのままで、改札の右側、残高金額を見つめたまま前に駆け出した。
その時。
「あっ。」
「わっ!」
反対方向から歩いてきた人物と激突、はずみで千晶は尻もちをついてしまった。
「ごめん、大丈夫?」
「す、すみません! ごめんなさい!」
「大丈夫? 怪我はない? 立てる?」
「大丈夫です! すみませんでした!」
千晶は慌てて立ち上がり、目的地へと再び走り出した。
(急いでるのか……ん?)
先刻までそこにいた彼女の代わりに、財布と思しきものが落ちていた。
急いで拾うと羽翔は、彼女の消えた方へ目を向ける。
「あ……。」
人でごった返す横浜駅で、その姿を探すことは困難であった。
(財布…だよね? 警察に届けるのが無難かな。)
拾った財布を手に、羽翔は、とりあえず交番を探して歩いた。
(本当に、あの子のもの?)
少々悪いと思いながらも、一応は中身を見て落とし主を確認してみることにした。
(カード…身分証……あった、これか。)
初めて見る名前のはずだった。
[学生証]
普段テレビを見ない羽翔には、一生知ることもなかったかもしれない名前だった。
[大谷千晶]
普通なら、読み間違える名前のはずだった。
「だいや、ちあき……?」
(この子……。)
その顔写真とともに、羽翔は、そのカードから目が離せなくなっていた。
「千晶……?」
初めて見るはずなのに。
何故だかよく知っているような、懐かしいような愛おしいような不思議な気分になり、それが何なのかわからないが、このままで終わらせるのはいけない気がした。
少し罪悪感を覚えながらも中のカード類をくまなく探し、携帯電話番号を見つけ、迷わず電話をかける。
その手は震え、心音がどんどん大きくなっていくのを感じながら、羽翔は、コール音に耳を集中させた。
〈トゥルルルル……ピッ〉
「はっ」
『ごめんなさい今横浜駅を降りたところでYKアリーナに向かってます!』
「いやあの僕は…」
〈プツッ プー プー プー〉
切れた。走っているような息づかいだった。
『YKアリーナ』
行かない理由がなかった。
〈どんな時代で会っていても、僕たちはこうして…〉
YKアリーナ(架空の建物です)。
「あれっ?! あれっ?! うそ?!」
関係者専用入館手続き用のIDカードを財布に入れていたはずだがその財布がなく、1階ゲート前で千晶はあたふたしていた。
そこへ、
「千晶!」
振り返るとそこには、さっき駅でぶつかった若い男。
見ず知らずの人に名前を呼ばれること自体、既にそこそこの知名度のあった千晶には珍しいことではなかった。
が、
(この声、この感じ、どこかで……?)
「え…と、さっきの?」
「これ……、渡そうと、思って、……ハァ、」
完全に姿を見失ったところから、建物の名前だけを頼りに全力で追いかけてきた羽翔の息は荒かった。
「これっ!あたしの!届けてきてくれたの?!ありがとう!今これがなくて困ってたんだ!」
ぱっと華やいだ千晶の表情が、世界のすべてになった。
「IDカードありました!入館していいですね!」
「あっ」
どんどん先へ行く千晶。もう届かない。羽翔にはただ見送ることしかできなかった。
その日の夜。
羽翔の携帯電話が鳴る…ディスプレイには『千晶』と表示されていた。
「千晶っ?!」
自分でもびっくりするくらい素早く携帯電話を手にしたが、通話ボタンを押す指が震えた。
『もしもし?』
電話から聞こえる音声は本人の声に限りなく近づけた合成音声なのだが、そうわかっていても羽翔はその声が【千晶】のものだと確信する。
「千晶?」
『はい。えーと、貴方は、今日落とし物を届けてくれた人?』
「財布ね」
『そう。どこから?』
「横浜駅。僕とぶつかって…」
『やっぱり!え、すぐ追いかけてきたの?』
「いいや、すぐ見失ってしまって。悪いと思ったけど財布の中から電話番号を見つけて、それでかけてみたらYKアリーナに向かってるって言うから…」
『あっ!あれADさんじゃなかったんだ。』
「ああ、とにかく急いでいるみたいだったね。」
『そう! 収録に向かってるとき停電が起きたらしくて、乗ってた電車が止まっちゃって! なんとか動いたはいいけど焦ったんだー。駅についた時点でギリギリだったのにゲート前でIDカードなくてもうパニクっちゃって! すぐ届けてくれたのは感謝しかないですほんと。』
「よかった。」
羽翔の表情が穏やかになる。
『それで……ええと、、』
「何?」
『一応……お礼、というか……、拾得物を所有者に返還したときは、持ち主はその価額の1割相当額を謝礼として……』
「ああ、いいよ、そんなのは。」
『でも……』
「ああ、…そうだな、どうしてもって言うなら……」
『あっ、体で返せとかそーいうのは無しね!』
「んーある意味近いかもしれないけど」
『えっ』
一呼吸置いて羽翔は、彼女の姿を思い浮かべて、言った。
「僕と……、お茶、しませんか。」
『へ? ……そんなのでいいの?』
「うん」
ふたりに【未来】の記憶は、まだ、ない。
第1話 追いかけるのは
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
晴れた空に、突如、穿たれた闇の中から、凄まじいエネルギーをもった雷光が現れ、送電線に激突、辺りに轟音が響いた。
現代。
横浜駅西口、ヤッパシカメラ横浜店。
(ノイズキャンセラー付きイヤホンといっても、ピンキリだな。安いもので妥協せず、ここは、やっぱり、最上位モデルを…。)
西園寺羽翔(さいおんじ・うしょう)はその日、公休を利用して買い物に来ていた。
海上自衛隊、呉基地に所属する羽翔は、試験運航等のため横須賀基地に停泊している期間を利用して、もののついでと横浜観光をも兼ねて外出していた。
(ハイエンドモデルは確かに凄いけど、やっぱり価格がなあ…。あとどっちのメーカーにするかというところか…。)
購入を決めかね、店内をうろうろ歩いていた。いつしかテレビフロアに足を踏み入れ、下を向き考え込みながら歩き続ける。
エスカレーターから下りてすぐのところに、いくつもの大型ディスプレイが並んでいた。
無音で、華々しいバラエティ番組が映し出され、そこには、
[優勝]
と書かれたボードを掲げ祝福を受ける一人の女子高生の姿があった。
テロップには
[新女王 ダイヤのエース大谷千晶]
イヤホンのことで頭がいっぱいだった羽翔は目もくれず、その前を通り過ぎるのみだった。
大谷千晶(だいや・ちあき)、17歳。
高校生になってすぐ出場したクイズ番組でいきなりストレート優勝、その類い稀な頭脳を見込まれ、高校生クイズ女王としてテレビ番組に出ることが多くなって、早一年。
その日はいつもと違う場所での収録の為に電車で横浜駅へ向かっていた。
(間に合うかな…。)
乗客の半数程が、そわそわしていた。
(まあ、急がなくても、明日も休みはとってあるから、ゆっくり考えよう。)
羽翔は少し遠回りをして、横浜駅に戻っていった。
(中華街に行くなら、横浜から、みなとみらい線、だっけ? 関内駅からも行けるって聞いたけど…どうやって行こうか。)
『横浜、横浜。』
我先にと降りる乗客に紛れて、千晶も急いで車両から降りる。階段を駆け抜け、改札へと曲がるところで人とぶつかりそうになりながら、必死に、前へ前へと進んでいった。
〈ピピッ〉
交通系ICカードの読取り音が無事聞こえたことで一安心した千晶は、油断した。勢いそのままで、改札の右側、残高金額を見つめたまま前に駆け出した。
その時。
「あっ。」
「わっ!」
反対方向から歩いてきた人物と激突、はずみで千晶は尻もちをついてしまった。
「ごめん、大丈夫?」
「す、すみません! ごめんなさい!」
「大丈夫? 怪我はない? 立てる?」
「大丈夫です! すみませんでした!」
千晶は慌てて立ち上がり、目的地へと再び走り出した。
(急いでるのか……ん?)
先刻までそこにいた彼女の代わりに、財布と思しきものが落ちていた。
急いで拾うと羽翔は、彼女の消えた方へ目を向ける。
「あ……。」
人でごった返す横浜駅で、その姿を探すことは困難であった。
(財布…だよね? 警察に届けるのが無難かな。)
拾った財布を手に、羽翔は、とりあえず交番を探して歩いた。
(本当に、あの子のもの?)
少々悪いと思いながらも、一応は中身を見て落とし主を確認してみることにした。
(カード…身分証……あった、これか。)
初めて見る名前のはずだった。
[学生証]
普段テレビを見ない羽翔には、一生知ることもなかったかもしれない名前だった。
[大谷千晶]
普通なら、読み間違える名前のはずだった。
「だいや、ちあき……?」
(この子……。)
その顔写真とともに、羽翔は、そのカードから目が離せなくなっていた。
「千晶……?」
初めて見るはずなのに。
何故だかよく知っているような、懐かしいような愛おしいような不思議な気分になり、それが何なのかわからないが、このままで終わらせるのはいけない気がした。
少し罪悪感を覚えながらも中のカード類をくまなく探し、携帯電話番号を見つけ、迷わず電話をかける。
その手は震え、心音がどんどん大きくなっていくのを感じながら、羽翔は、コール音に耳を集中させた。
〈トゥルルルル……ピッ〉
「はっ」
『ごめんなさい今横浜駅を降りたところでYKアリーナに向かってます!』
「いやあの僕は…」
〈プツッ プー プー プー〉
切れた。走っているような息づかいだった。
『YKアリーナ』
行かない理由がなかった。
〈どんな時代で会っていても、僕たちはこうして…〉
YKアリーナ(架空の建物です)。
「あれっ?! あれっ?! うそ?!」
関係者専用入館手続き用のIDカードを財布に入れていたはずだがその財布がなく、1階ゲート前で千晶はあたふたしていた。
そこへ、
「千晶!」
振り返るとそこには、さっき駅でぶつかった若い男。
見ず知らずの人に名前を呼ばれること自体、既にそこそこの知名度のあった千晶には珍しいことではなかった。
が、
(この声、この感じ、どこかで……?)
「え…と、さっきの?」
「これ……、渡そうと、思って、……ハァ、」
完全に姿を見失ったところから、建物の名前だけを頼りに全力で追いかけてきた羽翔の息は荒かった。
「これっ!あたしの!届けてきてくれたの?!ありがとう!今これがなくて困ってたんだ!」
ぱっと華やいだ千晶の表情が、世界のすべてになった。
「IDカードありました!入館していいですね!」
「あっ」
どんどん先へ行く千晶。もう届かない。羽翔にはただ見送ることしかできなかった。
その日の夜。
羽翔の携帯電話が鳴る…ディスプレイには『千晶』と表示されていた。
「千晶っ?!」
自分でもびっくりするくらい素早く携帯電話を手にしたが、通話ボタンを押す指が震えた。
『もしもし?』
電話から聞こえる音声は本人の声に限りなく近づけた合成音声なのだが、そうわかっていても羽翔はその声が【千晶】のものだと確信する。
「千晶?」
『はい。えーと、貴方は、今日落とし物を届けてくれた人?』
「財布ね」
『そう。どこから?』
「横浜駅。僕とぶつかって…」
『やっぱり!え、すぐ追いかけてきたの?』
「いいや、すぐ見失ってしまって。悪いと思ったけど財布の中から電話番号を見つけて、それでかけてみたらYKアリーナに向かってるって言うから…」
『あっ!あれADさんじゃなかったんだ。』
「ああ、とにかく急いでいるみたいだったね。」
『そう! 収録に向かってるとき停電が起きたらしくて、乗ってた電車が止まっちゃって! なんとか動いたはいいけど焦ったんだー。駅についた時点でギリギリだったのにゲート前でIDカードなくてもうパニクっちゃって! すぐ届けてくれたのは感謝しかないですほんと。』
「よかった。」
羽翔の表情が穏やかになる。
『それで……ええと、、』
「何?」
『一応……お礼、というか……、拾得物を所有者に返還したときは、持ち主はその価額の1割相当額を謝礼として……』
「ああ、いいよ、そんなのは。」
『でも……』
「ああ、…そうだな、どうしてもって言うなら……」
『あっ、体で返せとかそーいうのは無しね!』
「んーある意味近いかもしれないけど」
『えっ』
一呼吸置いて羽翔は、彼女の姿を思い浮かべて、言った。
「僕と……、お茶、しませんか。」
『へ? ……そんなのでいいの?』
「うん」
ふたりに【未来】の記憶は、まだ、ない。
第1話 追いかけるのは
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
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