#はなさない
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「…先輩……別れましょう。」
「へ?」
人生で始めてこんなに緊張しているかもしれない。手汗が滲んできた。彼はどんな反応をするのか、じっと見つめると見つめ返してきた。あの笑顔付きで、でも、こちらを射抜くような視線で。
「冗談ッスよね……?」
先輩は手をひらひらさせながら聞いてくる。まるで、その言葉の意味、分かってる?とでも言いたげな様子で。
「冗談じゃ……ない…です…」
普段と変わらないような笑顔の裏腹に、冷酷な雰囲気を纏っていて、紡いだ言葉はどんどん消えるように小さくなる。
「別れたいってなんで…?」
「先輩、最近おかしいから…エースもデュースも心配だって言ってて…」
実際最近の先輩は様子がおかしい。今まで先輩と付き合ってきて、所謂重いとか、束縛してくるとか感じたことなんて無かったのに、最近の先輩は毎日先輩とご飯を食べるように言ったり、授業教室までついてきたり、私をサバナクローに泊まらせたがる。ご飯を一緒に食べるのも、先輩と並んで廊下を歩くのも、先輩の部屋で一晩過ごすのも大好きだ。でも、先輩にそうする理由を聞くと、「もっとモカちゃんと一緒に居たいから。」とか言って、あのシシシッという笑い声で誤魔化す。
少し前までは、求められるのが私も嬉しくて、エーデュースコンビにグリムを任せて、先輩の所へお喋りに行っていたりしたけれど、実は最近は疲れていた。疲れ始めていたときとちょうど同じくらいの時期に、魔法薬学の実験中に2人に言われたのだ。
「お前さー、最近ラギー先輩、ラギー先輩ってずっと一緒に居るじゃん?」
「僕もそう思ってた。その…恋人…同士といっても、ちょっと…」
「なんだよ、デュースくん~はっきり言えよ~モカ、デュースが寂しいんだってさ。」
エースが言うとデュースは頬を紅潮させて怒る。勢い良く腕が上がり、実験用具をなぎ倒しそうだった。
「なっおい、エースもだろ!モカがラギー先輩の所へ行くといつも目で追ってるくせに!」
今度はエースが眉を吊り上げ、怒る番だった。
「はぁ~?見てねーし。モカ、とにかく!ちょっと客観的に見て先輩とくっつきすぎ。なんだか様子もおかしいし。」
2人とも私を心配な目で見てくる。
「……そうだね、気にしてみる、それに……2人に寂しい思いさせてたの、ごめん。先輩と話し合ってみるよ。」
そこから1週間今日に至るまでも、先輩とずっと一緒に居て、やっぱりラギー先輩は様子がおかしい。前までは私がグリム達とご飯を食べるからと言って、先輩の誘いを断っても、全く怒らず、いいッスよ~と送り出してくれたのに、今ではじろっと一瞬睨んで、ダメッス、今日はオレと一緒、とか言って引き止めるのだ。ここまで束縛されると辛いし、先輩の冷たい目が怖い。先輩がもっとおかしくなる前に別れよう、そう思った。
__________
「…先輩……別れましょう。」
「へ?」
唐突なモカちゃんの言葉にオレは間抜けな声を漏らす。聞き間違いだよね…?と思ってにこっと笑いかけると、モカちゃんはこれまで見たこともないような神妙な顔でこちらを見る。別れる、と言った言葉が数秒遅れてオレの頭に染み込んできた。
「冗談ッスよね……?」
「冗談じゃ……ない…です…」
だんだんとしぼんでいく声。まるで捕食者に立ち向かおうとしたけれど、相手の力量を悟って少しずつ逃げ腰になる草食動物のようだ、と思った。怖いのか、若干肩が震えていて、小エビにそっくりだと思った。いや、彼女に仇名をつけるなんて気に食わない、そもそも彼女の名前をオレ以外が呼んでいるのを聞くだけでも嫉妬に飲み込まれそうになっているというのに。
「別れたいってなんで…?」
「先輩、最近おかしいから…エースもデュースも心配だって言ってて…」
ああ、あの2人。オレよりもモカちゃんと一緒にいて、距離も近くて、モカちゃんはアイツらと一緒にいるといつも笑っていて。ああ、抑えられない。
「ふーん、オレよりもあの2人の言うこと聞くんだ?」
抑えられない。
「モカはオレのカノジョッスよね?」
抑えられない。オレじゃなくてもいいかなって思っちゃったのかな?この学園には男なんて大勢いるし。ああ、あのモカと行動を共にする2人のどちらかか。それとも、お茶会ばかりやっている、軟弱で呑気な集まりの中の誰かか。甘いお菓子につられたのか。写真をいっぱい撮って可愛い可愛いと褒められるのが気に入ったのか。いやいや、美味い飯を振舞ってくれる、能天気な大富豪?それとも強かなその従者か。いや、それこそ変な仇名を付けたアイツ、か、あの胡散臭い魚2匹のどちらかか。まさか、人の苦労も厭わずに昼寝ばかりしているあの横柄な獅子か。それともクソ真面目なオオカミくんか。
_____ねえ、スラム出身で品がないオレのことなんて、嫌いになっちゃったッスか?_____なんて聞けるわけない。答えを知るのが怖いから。
「…ねえ。モカ。」
「……え、あ、あの、せんぱ……」
「ねえ。」
「…先輩……あ、あの、私…」
「黙ってくださいっス!!!!」
オレの大声に驚いて、モカは身体を大きく震わせた。細い身体の前で組んだ指先も、髪の隙間から見える薄い耳も、細かく震えている。オレは彼女のさらさらの髪に手を伸ばして、
「オレ、モカのことが好きッス。なんでそんなこと言うんスか。」
故郷のスラムで悪いことしでかした子供を叱った後によしよししてやる、あんな感覚で彼女の柔らかい髪を撫でた。少し震えている。
「オレ達もう仲直りしよ、ね?弱いモカ1人じゃこの弱肉強食の世界、生き抜いていけないッス、俺が守ってあげるから。」
出来るだけ優しく、怖がらせないように。でも彼女は中々返事をしない。
「ね?」
もう一度呟く。彼女はずっと無言だ。
「……はぁ~。……しょうがないッス。オレはこんなに苦しんでるのに……こうしたら分かるッスかね?」
オレの言葉から異変を感じ取った彼女がぱっと顔を上げる。大きな瞳は少し涙で濡れて潤んでいた。
「……ほんとはこんなことしたくないんッスよ。…ラフウィズミー!」
そう叫んでオレは自分の首へ手を近づける。その様子を見てモカは一瞬で何かを悟ったようだ。抗っているつもりなのか、身体はオレと同じように動いているが、顔は苦悶の表情を浮かべている。目は真っ直ぐオレの方を見て、縋っている。オレは自分の首に触れると、一気に力を込めた。もちろん向かい合っている彼女も同じポーズをとる。苦しい。モカの喉がヒュッと鳴り、さらに顔の険しさが増した。懇願するような表情を浮かべている。
アンタが隣にいない世界なんて要らない。そんなもん訪れてしまう前に自分から手放してやる。その時はモカも一緒に。
「うぅ……ううっ…!ぐはぁっっっゲホッゲホッッ……」
解放した瞬間、ありったけの酸素を取り込むように大きく口を開け、咳き込む。細い身体はがたがた震えている。
「……ゲホッ……分かった?オレの気持ち。」
そう尋ねるとモカはコクコクと頷く。
「……じゃあ仲直りね。これからもよろしくッス、モカちゃん。」
絶対離さない、大好きッス。
Fin.
「へ?」
人生で始めてこんなに緊張しているかもしれない。手汗が滲んできた。彼はどんな反応をするのか、じっと見つめると見つめ返してきた。あの笑顔付きで、でも、こちらを射抜くような視線で。
「冗談ッスよね……?」
先輩は手をひらひらさせながら聞いてくる。まるで、その言葉の意味、分かってる?とでも言いたげな様子で。
「冗談じゃ……ない…です…」
普段と変わらないような笑顔の裏腹に、冷酷な雰囲気を纏っていて、紡いだ言葉はどんどん消えるように小さくなる。
「別れたいってなんで…?」
「先輩、最近おかしいから…エースもデュースも心配だって言ってて…」
実際最近の先輩は様子がおかしい。今まで先輩と付き合ってきて、所謂重いとか、束縛してくるとか感じたことなんて無かったのに、最近の先輩は毎日先輩とご飯を食べるように言ったり、授業教室までついてきたり、私をサバナクローに泊まらせたがる。ご飯を一緒に食べるのも、先輩と並んで廊下を歩くのも、先輩の部屋で一晩過ごすのも大好きだ。でも、先輩にそうする理由を聞くと、「もっとモカちゃんと一緒に居たいから。」とか言って、あのシシシッという笑い声で誤魔化す。
少し前までは、求められるのが私も嬉しくて、エーデュースコンビにグリムを任せて、先輩の所へお喋りに行っていたりしたけれど、実は最近は疲れていた。疲れ始めていたときとちょうど同じくらいの時期に、魔法薬学の実験中に2人に言われたのだ。
「お前さー、最近ラギー先輩、ラギー先輩ってずっと一緒に居るじゃん?」
「僕もそう思ってた。その…恋人…同士といっても、ちょっと…」
「なんだよ、デュースくん~はっきり言えよ~モカ、デュースが寂しいんだってさ。」
エースが言うとデュースは頬を紅潮させて怒る。勢い良く腕が上がり、実験用具をなぎ倒しそうだった。
「なっおい、エースもだろ!モカがラギー先輩の所へ行くといつも目で追ってるくせに!」
今度はエースが眉を吊り上げ、怒る番だった。
「はぁ~?見てねーし。モカ、とにかく!ちょっと客観的に見て先輩とくっつきすぎ。なんだか様子もおかしいし。」
2人とも私を心配な目で見てくる。
「……そうだね、気にしてみる、それに……2人に寂しい思いさせてたの、ごめん。先輩と話し合ってみるよ。」
そこから1週間今日に至るまでも、先輩とずっと一緒に居て、やっぱりラギー先輩は様子がおかしい。前までは私がグリム達とご飯を食べるからと言って、先輩の誘いを断っても、全く怒らず、いいッスよ~と送り出してくれたのに、今ではじろっと一瞬睨んで、ダメッス、今日はオレと一緒、とか言って引き止めるのだ。ここまで束縛されると辛いし、先輩の冷たい目が怖い。先輩がもっとおかしくなる前に別れよう、そう思った。
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「…先輩……別れましょう。」
「へ?」
唐突なモカちゃんの言葉にオレは間抜けな声を漏らす。聞き間違いだよね…?と思ってにこっと笑いかけると、モカちゃんはこれまで見たこともないような神妙な顔でこちらを見る。別れる、と言った言葉が数秒遅れてオレの頭に染み込んできた。
「冗談ッスよね……?」
「冗談じゃ……ない…です…」
だんだんとしぼんでいく声。まるで捕食者に立ち向かおうとしたけれど、相手の力量を悟って少しずつ逃げ腰になる草食動物のようだ、と思った。怖いのか、若干肩が震えていて、小エビにそっくりだと思った。いや、彼女に仇名をつけるなんて気に食わない、そもそも彼女の名前をオレ以外が呼んでいるのを聞くだけでも嫉妬に飲み込まれそうになっているというのに。
「別れたいってなんで…?」
「先輩、最近おかしいから…エースもデュースも心配だって言ってて…」
ああ、あの2人。オレよりもモカちゃんと一緒にいて、距離も近くて、モカちゃんはアイツらと一緒にいるといつも笑っていて。ああ、抑えられない。
「ふーん、オレよりもあの2人の言うこと聞くんだ?」
抑えられない。
「モカはオレのカノジョッスよね?」
抑えられない。オレじゃなくてもいいかなって思っちゃったのかな?この学園には男なんて大勢いるし。ああ、あのモカと行動を共にする2人のどちらかか。それとも、お茶会ばかりやっている、軟弱で呑気な集まりの中の誰かか。甘いお菓子につられたのか。写真をいっぱい撮って可愛い可愛いと褒められるのが気に入ったのか。いやいや、美味い飯を振舞ってくれる、能天気な大富豪?それとも強かなその従者か。いや、それこそ変な仇名を付けたアイツ、か、あの胡散臭い魚2匹のどちらかか。まさか、人の苦労も厭わずに昼寝ばかりしているあの横柄な獅子か。それともクソ真面目なオオカミくんか。
_____ねえ、スラム出身で品がないオレのことなんて、嫌いになっちゃったッスか?_____なんて聞けるわけない。答えを知るのが怖いから。
「…ねえ。モカ。」
「……え、あ、あの、せんぱ……」
「ねえ。」
「…先輩……あ、あの、私…」
「黙ってくださいっス!!!!」
オレの大声に驚いて、モカは身体を大きく震わせた。細い身体の前で組んだ指先も、髪の隙間から見える薄い耳も、細かく震えている。オレは彼女のさらさらの髪に手を伸ばして、
「オレ、モカのことが好きッス。なんでそんなこと言うんスか。」
故郷のスラムで悪いことしでかした子供を叱った後によしよししてやる、あんな感覚で彼女の柔らかい髪を撫でた。少し震えている。
「オレ達もう仲直りしよ、ね?弱いモカ1人じゃこの弱肉強食の世界、生き抜いていけないッス、俺が守ってあげるから。」
出来るだけ優しく、怖がらせないように。でも彼女は中々返事をしない。
「ね?」
もう一度呟く。彼女はずっと無言だ。
「……はぁ~。……しょうがないッス。オレはこんなに苦しんでるのに……こうしたら分かるッスかね?」
オレの言葉から異変を感じ取った彼女がぱっと顔を上げる。大きな瞳は少し涙で濡れて潤んでいた。
「……ほんとはこんなことしたくないんッスよ。…ラフウィズミー!」
そう叫んでオレは自分の首へ手を近づける。その様子を見てモカは一瞬で何かを悟ったようだ。抗っているつもりなのか、身体はオレと同じように動いているが、顔は苦悶の表情を浮かべている。目は真っ直ぐオレの方を見て、縋っている。オレは自分の首に触れると、一気に力を込めた。もちろん向かい合っている彼女も同じポーズをとる。苦しい。モカの喉がヒュッと鳴り、さらに顔の険しさが増した。懇願するような表情を浮かべている。
アンタが隣にいない世界なんて要らない。そんなもん訪れてしまう前に自分から手放してやる。その時はモカも一緒に。
「うぅ……ううっ…!ぐはぁっっっゲホッゲホッッ……」
解放した瞬間、ありったけの酸素を取り込むように大きく口を開け、咳き込む。細い身体はがたがた震えている。
「……ゲホッ……分かった?オレの気持ち。」
そう尋ねるとモカはコクコクと頷く。
「……じゃあ仲直りね。これからもよろしくッス、モカちゃん。」
絶対離さない、大好きッス。
Fin.
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