DQ3 夜明けの果てに君と
カエデは、誰もいなくなった広場を見つめた。
しばらく迷ったあと、近くの建物の陰に隠れているエルフへ向かって、そっと声をかける。
「あの……少し、お話を聞かせてもらえませんか?」
返事はない。
窓の向こうに、こちらをうかがう小さな影が見えた。けれど、カエデと目が合うと、すぐに奥へ引っ込んでしまう。
窓辺に揺れた影が消えると、あたりには再び静寂が戻った。光る植物の淡い明かりだけが、建物の壁を静かに照らしている。
アレルも警戒させないよう、剣の柄から手を離して一歩前へ出た。
「突然訪ねてきてすまない。俺たちは、ノアニールの村について調べているんだ」
その言葉に、木の陰からこちらを見ていたエルフの耳がぴくりと動いた。
「ノアニール……?」
小さな声が聞こえる。
カエデはその反応を逃さなかった。
「はい。村の人たちが、みんな眠ったまま目を覚まさなくなってしまったんです。何か原因を知りませんか?」
少し間があった。
風が木々の葉を揺らし、頭上から小さな光の粒がひとつ、ふわりと落ちてくる。その間も、建物の陰にいるエルフは二人の様子をうかがっていた。
やがて、建物の陰から一人のエルフが姿を現す。長い髪を肩のあたりで揺らし、二人を警戒するように見つめていた。
「知らないわ。私たちには関係のないことよ」
「でも、何か知っていることがあるんじゃないですか?」
「知らないと言っているでしょう」
エルフはそれ以上話すつもりがないのか、そっぽを向いてしまった。
その表情には、話を続けることへの拒絶がはっきりと浮かんでいる。
「待ってくれ。俺たちは誰かを責めに来たわけじゃない。ただ、眠っている人たちを助けたいんだ」
アレルが穏やかに説明する。
しかし、エルフの表情は変わらなかった。
「人間の言うことを信じろというの?」
「そういうつもりはない。ただ、話を聞かせてほしいだけだ」
「帰って。ここは人間が来る場所ではないわ」
エルフはそう言い残すと、再び建物の中へ姿を消した。
扉が閉まる音が、静かな広場に小さく響く。
その後も、二人は何人かのエルフに声をかけてみた。
けれど、返ってくる答えはどれも同じだった。
知らない。関係ない。人間とは話したくない。
中には、二人の姿を見ただけで家の扉を閉めてしまう者もいた。
「……困ったね」
カエデは小さく肩を落とした。
「ここまで来たのに、何も聞けないとはな」
アレルも周囲を見回す。
広場には、夜の静けさが戻っていた。光る花々が風に揺れ、木々の間を淡い光が流れていく。少し離れた場所では、水の流れる音が絶えず響いていた。
美しい里なのに、どこか張り詰めた空気が漂っている。
「もう少し探してみよう。話を聞いてくれる人がいるかもしれない」
「うん……」
カエデが頷いた、そのときだった。
ガサッ、と大きな音が茂みの奥から響いた。
二人が同時に振り返る。
次の瞬間、木々の間から黒い影が飛び出してきた。
「魔物だ!」
アレルが剣を抜く。
魔物の姿を見たエルフたちから、悲鳴が上がった。
「きゃあっ!」
「みんな、家の中へ!」
「子供たちを早く!」
それまで二人を避けていたエルフたちが、慌ただしく動き始める。小さな子供を抱きかかえて建物へ駆け込む者もいれば、家の扉を閉めて身を隠す者もいた。
先ほどまで静まり返っていた広場は、一瞬にして騒然となった。足音が重なり、扉の閉まる音や子供の泣き声があちこちから聞こえてくる。
魔物たちは広場へなだれ込むように現れた。
ギズモが宙を漂いながら不気味な声を上げ、どくイモムシが地面を這う。さらに、ぐんたいガニが硬い殻を鳴らしながら道を塞いだ。
「アレル、魔物が何匹もいるよ!」
「ああ。カエデは下がっていてくれ!」
アレルは先頭のギズモへ駆け寄り、剣を振るった。
刃が魔物の身体を切り裂く。ギズモは苦しげな声を上げながら、空中で大きく揺れた。
しかし、その隙を狙って別の魔物が横から迫ってくる。
「右から来る!」
カエデの声に、アレルは身をひねった。
どくイモムシの突進をかわし、そのまま剣を振り下ろす。
そのとき、広場の端から小さな泣き声が聞こえた。
「うええん……!」
カエデが振り向く。
建物へ逃げようとしていた幼いエルフの子供が、転んでしまったらしい。小さな身体を起こそうとしているが、恐怖で足がすくんでいるようだった。
そのすぐ近くに、どくイモムシが迫っていた。
「危ない!」
カエデは考えるより先に駆け出した。
魔物の前に滑り込むようにして、子供を抱き上げる。
「大丈夫! もう少しだけ我慢してね!」
子供を胸に抱え、近くの大きな木の根元へ走る。根が張り出してできた窪みは、身を隠すには十分な場所だった。
カエデは子供をその奥へそっと下ろす。
「ここに隠れていて。絶対に出てきちゃだめだよ」
子供は涙で濡れた目を大きく開き、こくりと頷いた。
その小さな手が、カエデの服をぎゅっとつかむ。カエデは安心させるように一度だけ微笑み、子供の頭をそっと撫でた。
そのとき、背後から声がした。
「あなた!」
振り返ると、少し離れた場所にいたエルフが、手にしていたものをカエデへ向かって投げてきた。
「これを使って!」
「えっ?」
慌てて両手を伸ばす。
受け止めたのは、青みがかった羽根のような装飾が施されたブーメランだった。縁には風の流れを思わせる模様が刻まれ、手にした瞬間、ひんやりとした風が指先を撫でた。
「風のブーメランよ! それなら、あなたにも戦えるはず!」
「ありがとう!」
カエデは礼を言い、ブーメランを握り直した。
武器を手にするのは久しぶりだった。けれど、今は迷っている暇はない。
広場では、アレルがぐんたいガニと向き合っていた。硬い殻に剣を弾かれ、なかなか決定打を与えられずにいる。
「アレル!」
カエデは風のブーメランを構えた。
狙うのは、アレルの背後へ回り込もうとしているどくイモムシ。
「いけっ!」
腕を振り抜く。
ブーメランが空を切った瞬間、その軌道に沿って小さな竜巻が生まれた。
風は渦を巻きながら地面を走り、どくイモムシの身体を包み込む。
「きゃっ!」
魔物の身体が風に巻き上げられた。
その直後、ブーメランが鋭く回転しながら魔物に命中する。
どくイモムシは地面へ叩きつけられ、動かなくなった。
ブーメランは弧を描いてカエデのもとへ戻ってくる。
「わっ!」
カエデは両手でそれを受け止めた。
手の中に戻ってきたブーメランから、かすかな風が吹き抜けていく。
「すごい……!」
思わず声が漏れた。
「カエデ! 助かった!」
アレルがこちらを振り返る。
「まだいるよ!」
「ああ!」
アレルはぐんたいガニの攻撃を受け止めると、身体を低くして懐へ踏み込んだ。硬い殻の隙間を狙って剣を突き出す。
その一撃が通り、ぐんたいガニは大きくのけぞった。
カエデも風のブーメランを投げ、竜巻で魔物の動きを崩していく。風に巻かれた魔物が体勢を崩したところへ、アレルの剣が迫った。
最後に残ったギズモが、二人の頭上で不気味な声を上げる。
「アレル、上!」
カエデの声に反応し、アレルが横へ飛び退いた。
ギズモの放った攻撃が地面を打つ。土埃が舞い上がり、光る花々が大きく揺れた。
舞い上がった土埃の向こうで、ギズモが再び身体を震わせる。アレルは剣を構え直し、魔物の動きを見定めていた。
アレルはその隙を逃さなかった。
地面を蹴り、跳び上がるようにして剣を振るう。
刃がギズモを捉えた。
魔物は短い悲鳴を上げると、淡い光の粒となって消えていった。
広場に、ようやく静けさが戻る。
「……終わった?」
カエデは息を切らしながら、周囲を見回した。
「ああ。もう魔物の気配はない」
アレルは剣を下ろし、カエデのもとへ歩いてくる。
「怪我はないか?」
「うん。私は大丈夫。アレルこそ平気?」
「問題ないよ」
そう答えたアレルの肩には、魔物の攻撃を受けたときについたらしい傷があった。
「ちょっと、怪我してるじゃない!」
「かすっただけだ」
「もう……」
カエデは心配そうに傷を確かめたが、深いものではなさそうだった。
アレルは大丈夫だと示すように肩を軽く動かす。けれど、カエデの表情から心配の色は消えなかった。
そのとき、木の根元から小さな声がした。
「……おねえちゃん」
先ほどの幼いエルフが、恐る恐る顔を覗かせていた。
「もう大丈夫だよ」
カエデが微笑みかけると、子供は木の根元から出てきて、彼女の服の裾をそっとつかんだ。
「ありがとう……」
「ううん。無事でよかった」
子供の頭を優しく撫でる。
その様子を見ていたエルフたちが、少しずつ広場へ戻ってきた。
先ほどまで身を隠していた者たちも、家の扉を開けて外の様子をうかがっている。子供の無事を確かめるように駆け寄る者もいた。
先ほど風のブーメランを投げ渡してくれたエルフも、二人のもとへ歩み寄る。
「助けてくれてありがとう。あなたたちがいなければ、どうなっていたか……」
「いえ。私たちも、できることをしただけです」
カエデは手にしたブーメランを差し出そうとした。
「これ、返しますね」
「それはあげるわ。あなたは武器を持っていないみたいだし。」
「でも……」
「あなたが戦ってくれたおかげで、みんなを守れたのよ」
エルフはそう言って、柔らかく微笑んだ。
その表情には、先ほどまでの警戒心はもう見られなかった。
周囲からも、少しずつ声が上がる。
「人間にも、こんな人がいるのね」
「子供を助けてくれたんだもの」
「さっきまで、ひどい態度を取ってしまったわ……」
先ほどまで二人を避けていたエルフたちの表情には、もう露骨な拒絶はなかった。
アレルは周囲を見渡し、静かに口を開く。
「俺たちは、ノアニールの人々を助ける方法を探している。どうか、もう一度話を聞かせてもらえないだろうか」
エルフたちは互いに顔を見合わせた。
先ほどまでの態度を思い返しているのか、すぐには誰も答えなかった。やがて、ひとりのエルフが前へ出る。
「分かりました。女王様にお会いになってください。あの方なら、何かご存じかもしれません」
「女王様?」
「ええ。この里を治めている方です」
二人は顔を見合わせた。
「案内してもらえるか?」
「もちろんです。こちらへ」
エルフが歩き出す。
カエデもアレルの隣に並び、後に続いた。
大樹へ続く道は、淡い光を放つ花々に縁取られていた。頭上では小さな光の粒が漂い、夜の里を静かに彩っている。
先ほどまで閉ざされていた窓にも、少しずつ明かりが戻り始めていた。
歩いている途中、案内役とは別のエルフがカエデのそばへ近づいてきた。
「ねえ、人間のお嬢さん」
「はい?」
そのエルフは、周囲を気にするように一度だけ視線を巡らせると、カエデの耳元へ顔を寄せた。
「女王様は怒ると怖いから、気をつけてね」
「えっ……」
「余計なことを言わない方がいいわよ」
それだけ告げると、エルフはそそくさと離れていった。
カエデは思わずアレルを見上げる。
「……女王様って、そんなに怖い人なのかな」
「会ってみれば分かるさ」
「そうだけど……」
カエデは少しだけ不安になりながら、大樹を見上げた。
その幹には、いくつもの窓が並んでいる。ほかの建物よりも大きく、里の中心にそびえるその姿は、まるで里そのものを見守っているかのようだった。
枝葉の間からこぼれる光が、幹に沿って淡く広がっている。その大きな姿を前にすると、自然と背筋が伸びるような気がした。
やがて、二人は大樹の根元にある入口へとたどり着いた。
案内役のエルフが扉を開く。
「女王様。お客様をお連れしました」
中は外から想像していたよりも広く、木の幹を生かした造りになっていた。壁には蔓や花が飾られ、天井からは小さな灯りがいくつも吊るされている。
外の光とは違う、柔らかな灯りが室内を満たしていた。木の香りがほのかに漂い、静かな空間には足音さえもよく響く。
奥には、ひときわ目を引く椅子が置かれていた。
そこに座る女性が、ゆっくりと二人へ視線を向ける。
「……人間を連れてきたのですか」
静かな声だった。
けれど、その声には簡単には逆らえないような威厳があった。
「はい。先ほどの魔物の襲撃から、里の者たちを助けてくださいました」
案内役が答える。
女王は二人をじっと見つめた。
「そうですか。人間が、この里の者を助けたと……」
アレルは一歩前へ出て、丁寧に頭を下げた。
「突然の訪問をお許しください。俺たちはノアニールの村について、あなたにお聞きしたいことがあります」
「ノアニール……」
女王の表情がわずかに険しくなった。
その名を聞いた途端、室内の空気が変わったように感じられる。
「その村について、何を知りたいのですか」
「村人たちが眠り続けている原因です。何かご存じではありませんか?」
女王はすぐには答えなかった。
膝の上に置かれた手が、わずかに動く。二人を見つめるその瞳には、言葉にしがたい感情が揺れているようだった。
しばらく二人を見つめたあと、ゆっくりと口を開く。
「……あの村の者たちは、報いを受けているのです」
「報い……?」
カエデが小さく繰り返す。
「かつて、この里にアンという娘がいました。美しい心を持った、私の娘でした」
女王の視線が、遠くを見るように揺れる。
その声は先ほどよりも少しだけ柔らかくなっていた。遠い記憶をたどるように、女王は言葉を続ける。
「しかし、あの子は人間の青年と恋に落ちたのです。青年はノアニールの出身でした」
「アンが……?」
女王は静かに頷いた。
「それから、二人はこの里を離れました。その際、アンはエルフの宝である夢見るルビーを持ち出したのです」
カエデの胸が小さく跳ねる。
夢見るルビー。
知っている名前だった。
「私は、あの娘が青年に騙されたのだと思っています。宝まで持ち出させられ、帰る場所を失ったのでしょう」
「それは……」
アレルが何かを言いかける。
「アンは、それ以来この里へ戻ってきません。どれほど待っても、何の便りもありませんでした」
女王の声に、怒りとも悲しみともつかない感情が滲む。
ほんの一瞬、女王の視線が伏せられた。静かな室内に、言葉の途切れた時間が流れる。
「大切な娘を奪われ、宝まで持ち去られた。私はその仕打ちを許すことができませんでした」
「だから、ノアニールの人々を……?」
「そうです。あの青年の故郷であるノアニールに、眠りの呪いをかけました。村人たちが目覚めることはありません。私の怒りを知るまで、あの村は眠り続けるのです」
女王の言葉が、静かな室内に響いた。
カエデは思わず息を呑む。
(違う……)
女王の言っていることは、違う。
アンは青年に騙されたわけではない。二人の間には、女王が知らない事情があったはずだ。
その結末を知っているカエデには、女王の誤解がはっきりと分かっていた。
「それは違……」
口をついて出かけた言葉を、カエデは慌てて飲み込んだ。
「……カエデ?」
隣にいたアレルが、不思議そうにこちらを見る。
「あ、ううん。何でもない」
カエデは視線を落とした。
どうして自分が真実を知っているのか、説明することはできない。
ここで余計なことを言えば、今まで隠してきた秘密に触れてしまうかもしれない。
それでも、何も知らないまま女王の言葉を聞き流すことは、カエデにとって簡単ではなかった。
女王はそんなカエデの様子に気づいたのか、わずかに眉を寄せた。
「何か言いたいことでもあるのですか?」
「いえ……何でもありません」
カエデは小さく首を振った。
アレルは一度カエデを見たあと、女王へ向き直る。
「事情は分かりました。ですが、ノアニールの人々が何も知らずに眠らされているのなら、それはあまりにも……」
「あなたたち人間に、私の気持ちが分かるはずもありません」
女王の声が鋭くなる。
「自分の娘を失った者の気持ちなど、あなたたちには分からないでしょう」
アレルは言葉を止めた。
女王の怒りの奥にある悲しみを、否定することはできなかった。
けれど、だからといって村人たちを見捨てるわけにもいかない。
「……分かりました。話を聞かせていただき、ありがとうございます」
アレルはそれ以上言い争うことなく、静かに頭を下げた。
「行こう、カエデ」
「うん……」
二人は女王のもとを辞し、大樹の外へ出た。
夜の空気が頬を撫でる。
里の灯りは変わらず美しく、光る植物の間を小さな蝶が舞っていた。けれど、女王の話を聞いたあとでは、その景色もどこか寂しげに見えた。
「……アレル」
「どうした?」
「女王様、すごく怒ってたね」
「ああ。娘を大切に想っていたんだろう」
アレルは大樹を振り返った。
大きな幹の窓からは、変わらず柔らかな光が漏れている。その奥にいる女王の姿を思い浮かべるように、アレルはしばらく大樹を見つめていた。
「でも、ノアニールの人たちには罪はない。村の人たちを助ける方法を探す」
「うん。私もそう思う」
「女王の誤解を解くことができれば、呪いを解いてもらえるかもしれない。まずは、二人の行き先についてもっと調べてみよう」
その言葉に、カエデは小さく頷いた。
アンと青年のことを知る者が、この里にまだいるかもしれない。
女王の話だけでは、何もかもが分かったわけではないのだから。
そのときだった。
「……あなたたち」
背後から、控えめな声が聞こえた。
二人が振り返ると、ひとりのエルフが立っていた。
淡い色の髪を長く伸ばした女性だった。先ほどまでのエルフたちとは違い、二人を警戒する様子はない。むしろ、何かを確かめるように、カエデとアレルを交互に見つめていた。
「少し、お話ししてもいいかしら?」
「俺たちに?」
「ええ。私はアンの友人なの」
その名前を聞き、カエデは思わず顔を上げた。
「アンの……友人?」
「そう。女王様から、アンの話を聞いたのでしょう?」
女性は大樹の方へ一度視線を向けた。
「でも、女王様が知っていることがすべてではないわ。アンについて、あなたたちに少し話をしたいの」
カエデとアレルは顔を見合わせた。
「本当ですか?」
「ええ。ただ、ここでは少し話しづらいの。よかったら、私の家に来ない?」
女性は穏やかに微笑んだ。
「もう夜も遅いでしょう。泊まる場所も必要だと思うし、うちに来て。ゆっくり話しましょう」
カエデは、彼女の顔を見つめた。
女王の話とは違う、アンの事情。
それを知ることができるかもしれない。
「……お願いします」
アレルが答える。
女性は頷くと、二人を先導するように歩き始めた。
「こちらよ。ついてきて」
光る花々に囲まれた小道を、三人の影が進んでいく。
カエデは歩きながら、先を行くエルフの背中を見つめていた。
しばらく迷ったあと、近くの建物の陰に隠れているエルフへ向かって、そっと声をかける。
「あの……少し、お話を聞かせてもらえませんか?」
返事はない。
窓の向こうに、こちらをうかがう小さな影が見えた。けれど、カエデと目が合うと、すぐに奥へ引っ込んでしまう。
窓辺に揺れた影が消えると、あたりには再び静寂が戻った。光る植物の淡い明かりだけが、建物の壁を静かに照らしている。
アレルも警戒させないよう、剣の柄から手を離して一歩前へ出た。
「突然訪ねてきてすまない。俺たちは、ノアニールの村について調べているんだ」
その言葉に、木の陰からこちらを見ていたエルフの耳がぴくりと動いた。
「ノアニール……?」
小さな声が聞こえる。
カエデはその反応を逃さなかった。
「はい。村の人たちが、みんな眠ったまま目を覚まさなくなってしまったんです。何か原因を知りませんか?」
少し間があった。
風が木々の葉を揺らし、頭上から小さな光の粒がひとつ、ふわりと落ちてくる。その間も、建物の陰にいるエルフは二人の様子をうかがっていた。
やがて、建物の陰から一人のエルフが姿を現す。長い髪を肩のあたりで揺らし、二人を警戒するように見つめていた。
「知らないわ。私たちには関係のないことよ」
「でも、何か知っていることがあるんじゃないですか?」
「知らないと言っているでしょう」
エルフはそれ以上話すつもりがないのか、そっぽを向いてしまった。
その表情には、話を続けることへの拒絶がはっきりと浮かんでいる。
「待ってくれ。俺たちは誰かを責めに来たわけじゃない。ただ、眠っている人たちを助けたいんだ」
アレルが穏やかに説明する。
しかし、エルフの表情は変わらなかった。
「人間の言うことを信じろというの?」
「そういうつもりはない。ただ、話を聞かせてほしいだけだ」
「帰って。ここは人間が来る場所ではないわ」
エルフはそう言い残すと、再び建物の中へ姿を消した。
扉が閉まる音が、静かな広場に小さく響く。
その後も、二人は何人かのエルフに声をかけてみた。
けれど、返ってくる答えはどれも同じだった。
知らない。関係ない。人間とは話したくない。
中には、二人の姿を見ただけで家の扉を閉めてしまう者もいた。
「……困ったね」
カエデは小さく肩を落とした。
「ここまで来たのに、何も聞けないとはな」
アレルも周囲を見回す。
広場には、夜の静けさが戻っていた。光る花々が風に揺れ、木々の間を淡い光が流れていく。少し離れた場所では、水の流れる音が絶えず響いていた。
美しい里なのに、どこか張り詰めた空気が漂っている。
「もう少し探してみよう。話を聞いてくれる人がいるかもしれない」
「うん……」
カエデが頷いた、そのときだった。
ガサッ、と大きな音が茂みの奥から響いた。
二人が同時に振り返る。
次の瞬間、木々の間から黒い影が飛び出してきた。
「魔物だ!」
アレルが剣を抜く。
魔物の姿を見たエルフたちから、悲鳴が上がった。
「きゃあっ!」
「みんな、家の中へ!」
「子供たちを早く!」
それまで二人を避けていたエルフたちが、慌ただしく動き始める。小さな子供を抱きかかえて建物へ駆け込む者もいれば、家の扉を閉めて身を隠す者もいた。
先ほどまで静まり返っていた広場は、一瞬にして騒然となった。足音が重なり、扉の閉まる音や子供の泣き声があちこちから聞こえてくる。
魔物たちは広場へなだれ込むように現れた。
ギズモが宙を漂いながら不気味な声を上げ、どくイモムシが地面を這う。さらに、ぐんたいガニが硬い殻を鳴らしながら道を塞いだ。
「アレル、魔物が何匹もいるよ!」
「ああ。カエデは下がっていてくれ!」
アレルは先頭のギズモへ駆け寄り、剣を振るった。
刃が魔物の身体を切り裂く。ギズモは苦しげな声を上げながら、空中で大きく揺れた。
しかし、その隙を狙って別の魔物が横から迫ってくる。
「右から来る!」
カエデの声に、アレルは身をひねった。
どくイモムシの突進をかわし、そのまま剣を振り下ろす。
そのとき、広場の端から小さな泣き声が聞こえた。
「うええん……!」
カエデが振り向く。
建物へ逃げようとしていた幼いエルフの子供が、転んでしまったらしい。小さな身体を起こそうとしているが、恐怖で足がすくんでいるようだった。
そのすぐ近くに、どくイモムシが迫っていた。
「危ない!」
カエデは考えるより先に駆け出した。
魔物の前に滑り込むようにして、子供を抱き上げる。
「大丈夫! もう少しだけ我慢してね!」
子供を胸に抱え、近くの大きな木の根元へ走る。根が張り出してできた窪みは、身を隠すには十分な場所だった。
カエデは子供をその奥へそっと下ろす。
「ここに隠れていて。絶対に出てきちゃだめだよ」
子供は涙で濡れた目を大きく開き、こくりと頷いた。
その小さな手が、カエデの服をぎゅっとつかむ。カエデは安心させるように一度だけ微笑み、子供の頭をそっと撫でた。
そのとき、背後から声がした。
「あなた!」
振り返ると、少し離れた場所にいたエルフが、手にしていたものをカエデへ向かって投げてきた。
「これを使って!」
「えっ?」
慌てて両手を伸ばす。
受け止めたのは、青みがかった羽根のような装飾が施されたブーメランだった。縁には風の流れを思わせる模様が刻まれ、手にした瞬間、ひんやりとした風が指先を撫でた。
「風のブーメランよ! それなら、あなたにも戦えるはず!」
「ありがとう!」
カエデは礼を言い、ブーメランを握り直した。
武器を手にするのは久しぶりだった。けれど、今は迷っている暇はない。
広場では、アレルがぐんたいガニと向き合っていた。硬い殻に剣を弾かれ、なかなか決定打を与えられずにいる。
「アレル!」
カエデは風のブーメランを構えた。
狙うのは、アレルの背後へ回り込もうとしているどくイモムシ。
「いけっ!」
腕を振り抜く。
ブーメランが空を切った瞬間、その軌道に沿って小さな竜巻が生まれた。
風は渦を巻きながら地面を走り、どくイモムシの身体を包み込む。
「きゃっ!」
魔物の身体が風に巻き上げられた。
その直後、ブーメランが鋭く回転しながら魔物に命中する。
どくイモムシは地面へ叩きつけられ、動かなくなった。
ブーメランは弧を描いてカエデのもとへ戻ってくる。
「わっ!」
カエデは両手でそれを受け止めた。
手の中に戻ってきたブーメランから、かすかな風が吹き抜けていく。
「すごい……!」
思わず声が漏れた。
「カエデ! 助かった!」
アレルがこちらを振り返る。
「まだいるよ!」
「ああ!」
アレルはぐんたいガニの攻撃を受け止めると、身体を低くして懐へ踏み込んだ。硬い殻の隙間を狙って剣を突き出す。
その一撃が通り、ぐんたいガニは大きくのけぞった。
カエデも風のブーメランを投げ、竜巻で魔物の動きを崩していく。風に巻かれた魔物が体勢を崩したところへ、アレルの剣が迫った。
最後に残ったギズモが、二人の頭上で不気味な声を上げる。
「アレル、上!」
カエデの声に反応し、アレルが横へ飛び退いた。
ギズモの放った攻撃が地面を打つ。土埃が舞い上がり、光る花々が大きく揺れた。
舞い上がった土埃の向こうで、ギズモが再び身体を震わせる。アレルは剣を構え直し、魔物の動きを見定めていた。
アレルはその隙を逃さなかった。
地面を蹴り、跳び上がるようにして剣を振るう。
刃がギズモを捉えた。
魔物は短い悲鳴を上げると、淡い光の粒となって消えていった。
広場に、ようやく静けさが戻る。
「……終わった?」
カエデは息を切らしながら、周囲を見回した。
「ああ。もう魔物の気配はない」
アレルは剣を下ろし、カエデのもとへ歩いてくる。
「怪我はないか?」
「うん。私は大丈夫。アレルこそ平気?」
「問題ないよ」
そう答えたアレルの肩には、魔物の攻撃を受けたときについたらしい傷があった。
「ちょっと、怪我してるじゃない!」
「かすっただけだ」
「もう……」
カエデは心配そうに傷を確かめたが、深いものではなさそうだった。
アレルは大丈夫だと示すように肩を軽く動かす。けれど、カエデの表情から心配の色は消えなかった。
そのとき、木の根元から小さな声がした。
「……おねえちゃん」
先ほどの幼いエルフが、恐る恐る顔を覗かせていた。
「もう大丈夫だよ」
カエデが微笑みかけると、子供は木の根元から出てきて、彼女の服の裾をそっとつかんだ。
「ありがとう……」
「ううん。無事でよかった」
子供の頭を優しく撫でる。
その様子を見ていたエルフたちが、少しずつ広場へ戻ってきた。
先ほどまで身を隠していた者たちも、家の扉を開けて外の様子をうかがっている。子供の無事を確かめるように駆け寄る者もいた。
先ほど風のブーメランを投げ渡してくれたエルフも、二人のもとへ歩み寄る。
「助けてくれてありがとう。あなたたちがいなければ、どうなっていたか……」
「いえ。私たちも、できることをしただけです」
カエデは手にしたブーメランを差し出そうとした。
「これ、返しますね」
「それはあげるわ。あなたは武器を持っていないみたいだし。」
「でも……」
「あなたが戦ってくれたおかげで、みんなを守れたのよ」
エルフはそう言って、柔らかく微笑んだ。
その表情には、先ほどまでの警戒心はもう見られなかった。
周囲からも、少しずつ声が上がる。
「人間にも、こんな人がいるのね」
「子供を助けてくれたんだもの」
「さっきまで、ひどい態度を取ってしまったわ……」
先ほどまで二人を避けていたエルフたちの表情には、もう露骨な拒絶はなかった。
アレルは周囲を見渡し、静かに口を開く。
「俺たちは、ノアニールの人々を助ける方法を探している。どうか、もう一度話を聞かせてもらえないだろうか」
エルフたちは互いに顔を見合わせた。
先ほどまでの態度を思い返しているのか、すぐには誰も答えなかった。やがて、ひとりのエルフが前へ出る。
「分かりました。女王様にお会いになってください。あの方なら、何かご存じかもしれません」
「女王様?」
「ええ。この里を治めている方です」
二人は顔を見合わせた。
「案内してもらえるか?」
「もちろんです。こちらへ」
エルフが歩き出す。
カエデもアレルの隣に並び、後に続いた。
大樹へ続く道は、淡い光を放つ花々に縁取られていた。頭上では小さな光の粒が漂い、夜の里を静かに彩っている。
先ほどまで閉ざされていた窓にも、少しずつ明かりが戻り始めていた。
歩いている途中、案内役とは別のエルフがカエデのそばへ近づいてきた。
「ねえ、人間のお嬢さん」
「はい?」
そのエルフは、周囲を気にするように一度だけ視線を巡らせると、カエデの耳元へ顔を寄せた。
「女王様は怒ると怖いから、気をつけてね」
「えっ……」
「余計なことを言わない方がいいわよ」
それだけ告げると、エルフはそそくさと離れていった。
カエデは思わずアレルを見上げる。
「……女王様って、そんなに怖い人なのかな」
「会ってみれば分かるさ」
「そうだけど……」
カエデは少しだけ不安になりながら、大樹を見上げた。
その幹には、いくつもの窓が並んでいる。ほかの建物よりも大きく、里の中心にそびえるその姿は、まるで里そのものを見守っているかのようだった。
枝葉の間からこぼれる光が、幹に沿って淡く広がっている。その大きな姿を前にすると、自然と背筋が伸びるような気がした。
やがて、二人は大樹の根元にある入口へとたどり着いた。
案内役のエルフが扉を開く。
「女王様。お客様をお連れしました」
中は外から想像していたよりも広く、木の幹を生かした造りになっていた。壁には蔓や花が飾られ、天井からは小さな灯りがいくつも吊るされている。
外の光とは違う、柔らかな灯りが室内を満たしていた。木の香りがほのかに漂い、静かな空間には足音さえもよく響く。
奥には、ひときわ目を引く椅子が置かれていた。
そこに座る女性が、ゆっくりと二人へ視線を向ける。
「……人間を連れてきたのですか」
静かな声だった。
けれど、その声には簡単には逆らえないような威厳があった。
「はい。先ほどの魔物の襲撃から、里の者たちを助けてくださいました」
案内役が答える。
女王は二人をじっと見つめた。
「そうですか。人間が、この里の者を助けたと……」
アレルは一歩前へ出て、丁寧に頭を下げた。
「突然の訪問をお許しください。俺たちはノアニールの村について、あなたにお聞きしたいことがあります」
「ノアニール……」
女王の表情がわずかに険しくなった。
その名を聞いた途端、室内の空気が変わったように感じられる。
「その村について、何を知りたいのですか」
「村人たちが眠り続けている原因です。何かご存じではありませんか?」
女王はすぐには答えなかった。
膝の上に置かれた手が、わずかに動く。二人を見つめるその瞳には、言葉にしがたい感情が揺れているようだった。
しばらく二人を見つめたあと、ゆっくりと口を開く。
「……あの村の者たちは、報いを受けているのです」
「報い……?」
カエデが小さく繰り返す。
「かつて、この里にアンという娘がいました。美しい心を持った、私の娘でした」
女王の視線が、遠くを見るように揺れる。
その声は先ほどよりも少しだけ柔らかくなっていた。遠い記憶をたどるように、女王は言葉を続ける。
「しかし、あの子は人間の青年と恋に落ちたのです。青年はノアニールの出身でした」
「アンが……?」
女王は静かに頷いた。
「それから、二人はこの里を離れました。その際、アンはエルフの宝である夢見るルビーを持ち出したのです」
カエデの胸が小さく跳ねる。
夢見るルビー。
知っている名前だった。
「私は、あの娘が青年に騙されたのだと思っています。宝まで持ち出させられ、帰る場所を失ったのでしょう」
「それは……」
アレルが何かを言いかける。
「アンは、それ以来この里へ戻ってきません。どれほど待っても、何の便りもありませんでした」
女王の声に、怒りとも悲しみともつかない感情が滲む。
ほんの一瞬、女王の視線が伏せられた。静かな室内に、言葉の途切れた時間が流れる。
「大切な娘を奪われ、宝まで持ち去られた。私はその仕打ちを許すことができませんでした」
「だから、ノアニールの人々を……?」
「そうです。あの青年の故郷であるノアニールに、眠りの呪いをかけました。村人たちが目覚めることはありません。私の怒りを知るまで、あの村は眠り続けるのです」
女王の言葉が、静かな室内に響いた。
カエデは思わず息を呑む。
(違う……)
女王の言っていることは、違う。
アンは青年に騙されたわけではない。二人の間には、女王が知らない事情があったはずだ。
その結末を知っているカエデには、女王の誤解がはっきりと分かっていた。
「それは違……」
口をついて出かけた言葉を、カエデは慌てて飲み込んだ。
「……カエデ?」
隣にいたアレルが、不思議そうにこちらを見る。
「あ、ううん。何でもない」
カエデは視線を落とした。
どうして自分が真実を知っているのか、説明することはできない。
ここで余計なことを言えば、今まで隠してきた秘密に触れてしまうかもしれない。
それでも、何も知らないまま女王の言葉を聞き流すことは、カエデにとって簡単ではなかった。
女王はそんなカエデの様子に気づいたのか、わずかに眉を寄せた。
「何か言いたいことでもあるのですか?」
「いえ……何でもありません」
カエデは小さく首を振った。
アレルは一度カエデを見たあと、女王へ向き直る。
「事情は分かりました。ですが、ノアニールの人々が何も知らずに眠らされているのなら、それはあまりにも……」
「あなたたち人間に、私の気持ちが分かるはずもありません」
女王の声が鋭くなる。
「自分の娘を失った者の気持ちなど、あなたたちには分からないでしょう」
アレルは言葉を止めた。
女王の怒りの奥にある悲しみを、否定することはできなかった。
けれど、だからといって村人たちを見捨てるわけにもいかない。
「……分かりました。話を聞かせていただき、ありがとうございます」
アレルはそれ以上言い争うことなく、静かに頭を下げた。
「行こう、カエデ」
「うん……」
二人は女王のもとを辞し、大樹の外へ出た。
夜の空気が頬を撫でる。
里の灯りは変わらず美しく、光る植物の間を小さな蝶が舞っていた。けれど、女王の話を聞いたあとでは、その景色もどこか寂しげに見えた。
「……アレル」
「どうした?」
「女王様、すごく怒ってたね」
「ああ。娘を大切に想っていたんだろう」
アレルは大樹を振り返った。
大きな幹の窓からは、変わらず柔らかな光が漏れている。その奥にいる女王の姿を思い浮かべるように、アレルはしばらく大樹を見つめていた。
「でも、ノアニールの人たちには罪はない。村の人たちを助ける方法を探す」
「うん。私もそう思う」
「女王の誤解を解くことができれば、呪いを解いてもらえるかもしれない。まずは、二人の行き先についてもっと調べてみよう」
その言葉に、カエデは小さく頷いた。
アンと青年のことを知る者が、この里にまだいるかもしれない。
女王の話だけでは、何もかもが分かったわけではないのだから。
そのときだった。
「……あなたたち」
背後から、控えめな声が聞こえた。
二人が振り返ると、ひとりのエルフが立っていた。
淡い色の髪を長く伸ばした女性だった。先ほどまでのエルフたちとは違い、二人を警戒する様子はない。むしろ、何かを確かめるように、カエデとアレルを交互に見つめていた。
「少し、お話ししてもいいかしら?」
「俺たちに?」
「ええ。私はアンの友人なの」
その名前を聞き、カエデは思わず顔を上げた。
「アンの……友人?」
「そう。女王様から、アンの話を聞いたのでしょう?」
女性は大樹の方へ一度視線を向けた。
「でも、女王様が知っていることがすべてではないわ。アンについて、あなたたちに少し話をしたいの」
カエデとアレルは顔を見合わせた。
「本当ですか?」
「ええ。ただ、ここでは少し話しづらいの。よかったら、私の家に来ない?」
女性は穏やかに微笑んだ。
「もう夜も遅いでしょう。泊まる場所も必要だと思うし、うちに来て。ゆっくり話しましょう」
カエデは、彼女の顔を見つめた。
女王の話とは違う、アンの事情。
それを知ることができるかもしれない。
「……お願いします」
アレルが答える。
女性は頷くと、二人を先導するように歩き始めた。
「こちらよ。ついてきて」
光る花々に囲まれた小道を、三人の影が進んでいく。
カエデは歩きながら、先を行くエルフの背中を見つめていた。
