DQ3 夜明けの果てに君と

カエデは、誰もいなくなった広場を見つめた。

 しばらく迷ったあと、近くの建物の陰に隠れているエルフへ向かって、そっと声をかける。

「あの……少し、お話を聞かせてもらえませんか?」

 返事はない。

 窓の向こうに、こちらをうかがう小さな影が見えた。けれど、カエデと目が合うと、すぐに奥へ引っ込んでしまう。

 窓辺に揺れた影が消えると、あたりには再び静寂が戻った。光る植物の淡い明かりだけが、建物の壁を静かに照らしている。

 アレルも警戒させないよう、剣の柄から手を離して一歩前へ出た。

「突然訪ねてきてすまない。俺たちは、ノアニールの村について調べているんだ」

 その言葉に、木の陰からこちらを見ていたエルフの耳がぴくりと動いた。

「ノアニール……?」

 小さな声が聞こえる。

 カエデはその反応を逃さなかった。

「はい。村の人たちが、みんな眠ったまま目を覚まさなくなってしまったんです。何か原因を知りませんか?」

 少し間があった。

 風が木々の葉を揺らし、頭上から小さな光の粒がひとつ、ふわりと落ちてくる。その間も、建物の陰にいるエルフは二人の様子をうかがっていた。

 やがて、建物の陰から一人のエルフが姿を現す。長い髪を肩のあたりで揺らし、二人を警戒するように見つめていた。

「知らないわ。私たちには関係のないことよ」

「でも、何か知っていることがあるんじゃないですか?」

「知らないと言っているでしょう」

 エルフはそれ以上話すつもりがないのか、そっぽを向いてしまった。

 その表情には、話を続けることへの拒絶がはっきりと浮かんでいる。

「待ってくれ。俺たちは誰かを責めに来たわけじゃない。ただ、眠っている人たちを助けたいんだ」

 アレルが穏やかに説明する。

 しかし、エルフの表情は変わらなかった。

「人間の言うことを信じろというの?」

「そういうつもりはない。ただ、話を聞かせてほしいだけだ」

「帰って。ここは人間が来る場所ではないわ」

 エルフはそう言い残すと、再び建物の中へ姿を消した。

 扉が閉まる音が、静かな広場に小さく響く。

 その後も、二人は何人かのエルフに声をかけてみた。

 けれど、返ってくる答えはどれも同じだった。

 知らない。関係ない。人間とは話したくない。

 中には、二人の姿を見ただけで家の扉を閉めてしまう者もいた。

「……困ったね」

 カエデは小さく肩を落とした。

「ここまで来たのに、何も聞けないとはな」

 アレルも周囲を見回す。

 広場には、夜の静けさが戻っていた。光る花々が風に揺れ、木々の間を淡い光が流れていく。少し離れた場所では、水の流れる音が絶えず響いていた。

 美しい里なのに、どこか張り詰めた空気が漂っている。

「もう少し探してみよう。話を聞いてくれる人がいるかもしれない」

「うん……」

 カエデが頷いた、そのときだった。

 ガサッ、と大きな音が茂みの奥から響いた。

 二人が同時に振り返る。

 次の瞬間、木々の間から黒い影が飛び出してきた。

「魔物だ!」

 アレルが剣を抜く。

 魔物の姿を見たエルフたちから、悲鳴が上がった。

「きゃあっ!」

「みんな、家の中へ!」

「子供たちを早く!」

 それまで二人を避けていたエルフたちが、慌ただしく動き始める。小さな子供を抱きかかえて建物へ駆け込む者もいれば、家の扉を閉めて身を隠す者もいた。

 先ほどまで静まり返っていた広場は、一瞬にして騒然となった。足音が重なり、扉の閉まる音や子供の泣き声があちこちから聞こえてくる。

 魔物たちは広場へなだれ込むように現れた。

 ギズモが宙を漂いながら不気味な声を上げ、どくイモムシが地面を這う。さらに、ぐんたいガニが硬い殻を鳴らしながら道を塞いだ。

「アレル、魔物が何匹もいるよ!」

「ああ。カエデは下がっていてくれ!」

 アレルは先頭のギズモへ駆け寄り、剣を振るった。

 刃が魔物の身体を切り裂く。ギズモは苦しげな声を上げながら、空中で大きく揺れた。

 しかし、その隙を狙って別の魔物が横から迫ってくる。

「右から来る!」

 カエデの声に、アレルは身をひねった。

 どくイモムシの突進をかわし、そのまま剣を振り下ろす。

 そのとき、広場の端から小さな泣き声が聞こえた。

「うええん……!」

 カエデが振り向く。

 建物へ逃げようとしていた幼いエルフの子供が、転んでしまったらしい。小さな身体を起こそうとしているが、恐怖で足がすくんでいるようだった。

 そのすぐ近くに、どくイモムシが迫っていた。

「危ない!」

 カエデは考えるより先に駆け出した。

 魔物の前に滑り込むようにして、子供を抱き上げる。

「大丈夫! もう少しだけ我慢してね!」

 子供を胸に抱え、近くの大きな木の根元へ走る。根が張り出してできた窪みは、身を隠すには十分な場所だった。

 カエデは子供をその奥へそっと下ろす。

「ここに隠れていて。絶対に出てきちゃだめだよ」

 子供は涙で濡れた目を大きく開き、こくりと頷いた。

 その小さな手が、カエデの服をぎゅっとつかむ。カエデは安心させるように一度だけ微笑み、子供の頭をそっと撫でた。

 そのとき、背後から声がした。

「あなた!」

 振り返ると、少し離れた場所にいたエルフが、手にしていたものをカエデへ向かって投げてきた。

「これを使って!」

「えっ?」

 慌てて両手を伸ばす。

 受け止めたのは、青みがかった羽根のような装飾が施されたブーメランだった。縁には風の流れを思わせる模様が刻まれ、手にした瞬間、ひんやりとした風が指先を撫でた。

「風のブーメランよ! それなら、あなたにも戦えるはず!」

「ありがとう!」

 カエデは礼を言い、ブーメランを握り直した。

 武器を手にするのは久しぶりだった。けれど、今は迷っている暇はない。

 広場では、アレルがぐんたいガニと向き合っていた。硬い殻に剣を弾かれ、なかなか決定打を与えられずにいる。

「アレル!」

 カエデは風のブーメランを構えた。

 狙うのは、アレルの背後へ回り込もうとしているどくイモムシ。

「いけっ!」

 腕を振り抜く。

 ブーメランが空を切った瞬間、その軌道に沿って小さな竜巻が生まれた。

 風は渦を巻きながら地面を走り、どくイモムシの身体を包み込む。

「きゃっ!」

 魔物の身体が風に巻き上げられた。

 その直後、ブーメランが鋭く回転しながら魔物に命中する。

 どくイモムシは地面へ叩きつけられ、動かなくなった。

 ブーメランは弧を描いてカエデのもとへ戻ってくる。

「わっ!」

 カエデは両手でそれを受け止めた。

 手の中に戻ってきたブーメランから、かすかな風が吹き抜けていく。

「すごい……!」

 思わず声が漏れた。

「カエデ! 助かった!」

 アレルがこちらを振り返る。

「まだいるよ!」

「ああ!」

 アレルはぐんたいガニの攻撃を受け止めると、身体を低くして懐へ踏み込んだ。硬い殻の隙間を狙って剣を突き出す。

 その一撃が通り、ぐんたいガニは大きくのけぞった。

 カエデも風のブーメランを投げ、竜巻で魔物の動きを崩していく。風に巻かれた魔物が体勢を崩したところへ、アレルの剣が迫った。

 最後に残ったギズモが、二人の頭上で不気味な声を上げる。

「アレル、上!」

 カエデの声に反応し、アレルが横へ飛び退いた。

 ギズモの放った攻撃が地面を打つ。土埃が舞い上がり、光る花々が大きく揺れた。

 舞い上がった土埃の向こうで、ギズモが再び身体を震わせる。アレルは剣を構え直し、魔物の動きを見定めていた。

 アレルはその隙を逃さなかった。

 地面を蹴り、跳び上がるようにして剣を振るう。

 刃がギズモを捉えた。

 魔物は短い悲鳴を上げると、淡い光の粒となって消えていった。

 広場に、ようやく静けさが戻る。

「……終わった?」

 カエデは息を切らしながら、周囲を見回した。

「ああ。もう魔物の気配はない」

 アレルは剣を下ろし、カエデのもとへ歩いてくる。

「怪我はないか?」

「うん。私は大丈夫。アレルこそ平気?」

「問題ないよ」

 そう答えたアレルの肩には、魔物の攻撃を受けたときについたらしい傷があった。

「ちょっと、怪我してるじゃない!」

「かすっただけだ」

「もう……」

 カエデは心配そうに傷を確かめたが、深いものではなさそうだった。

 アレルは大丈夫だと示すように肩を軽く動かす。けれど、カエデの表情から心配の色は消えなかった。

 そのとき、木の根元から小さな声がした。

「……おねえちゃん」

 先ほどの幼いエルフが、恐る恐る顔を覗かせていた。

「もう大丈夫だよ」

 カエデが微笑みかけると、子供は木の根元から出てきて、彼女の服の裾をそっとつかんだ。

「ありがとう……」

「ううん。無事でよかった」

 子供の頭を優しく撫でる。

 その様子を見ていたエルフたちが、少しずつ広場へ戻ってきた。

 先ほどまで身を隠していた者たちも、家の扉を開けて外の様子をうかがっている。子供の無事を確かめるように駆け寄る者もいた。

 先ほど風のブーメランを投げ渡してくれたエルフも、二人のもとへ歩み寄る。

「助けてくれてありがとう。あなたたちがいなければ、どうなっていたか……」

「いえ。私たちも、できることをしただけです」

 カエデは手にしたブーメランを差し出そうとした。

「これ、返しますね」

「それはあげるわ。あなたは武器を持っていないみたいだし。」

「でも……」

「あなたが戦ってくれたおかげで、みんなを守れたのよ」

 エルフはそう言って、柔らかく微笑んだ。

 その表情には、先ほどまでの警戒心はもう見られなかった。

 周囲からも、少しずつ声が上がる。

「人間にも、こんな人がいるのね」

「子供を助けてくれたんだもの」

「さっきまで、ひどい態度を取ってしまったわ……」

 先ほどまで二人を避けていたエルフたちの表情には、もう露骨な拒絶はなかった。

 アレルは周囲を見渡し、静かに口を開く。

「俺たちは、ノアニールの人々を助ける方法を探している。どうか、もう一度話を聞かせてもらえないだろうか」

 エルフたちは互いに顔を見合わせた。

 先ほどまでの態度を思い返しているのか、すぐには誰も答えなかった。やがて、ひとりのエルフが前へ出る。

「分かりました。女王様にお会いになってください。あの方なら、何かご存じかもしれません」

「女王様?」

「ええ。この里を治めている方です」

 二人は顔を見合わせた。

「案内してもらえるか?」

「もちろんです。こちらへ」

 エルフが歩き出す。

 カエデもアレルの隣に並び、後に続いた。

 大樹へ続く道は、淡い光を放つ花々に縁取られていた。頭上では小さな光の粒が漂い、夜の里を静かに彩っている。

 先ほどまで閉ざされていた窓にも、少しずつ明かりが戻り始めていた。

 歩いている途中、案内役とは別のエルフがカエデのそばへ近づいてきた。

「ねえ、人間のお嬢さん」

「はい?」

 そのエルフは、周囲を気にするように一度だけ視線を巡らせると、カエデの耳元へ顔を寄せた。

「女王様は怒ると怖いから、気をつけてね」

「えっ……」

「余計なことを言わない方がいいわよ」

 それだけ告げると、エルフはそそくさと離れていった。

 カエデは思わずアレルを見上げる。

「……女王様って、そんなに怖い人なのかな」

「会ってみれば分かるさ」

「そうだけど……」

 カエデは少しだけ不安になりながら、大樹を見上げた。

 その幹には、いくつもの窓が並んでいる。ほかの建物よりも大きく、里の中心にそびえるその姿は、まるで里そのものを見守っているかのようだった。

 枝葉の間からこぼれる光が、幹に沿って淡く広がっている。その大きな姿を前にすると、自然と背筋が伸びるような気がした。

 やがて、二人は大樹の根元にある入口へとたどり着いた。

 案内役のエルフが扉を開く。

「女王様。お客様をお連れしました」

 中は外から想像していたよりも広く、木の幹を生かした造りになっていた。壁には蔓や花が飾られ、天井からは小さな灯りがいくつも吊るされている。

 外の光とは違う、柔らかな灯りが室内を満たしていた。木の香りがほのかに漂い、静かな空間には足音さえもよく響く。

 奥には、ひときわ目を引く椅子が置かれていた。

 そこに座る女性が、ゆっくりと二人へ視線を向ける。

「……人間を連れてきたのですか」

 静かな声だった。

 けれど、その声には簡単には逆らえないような威厳があった。

「はい。先ほどの魔物の襲撃から、里の者たちを助けてくださいました」

 案内役が答える。

 女王は二人をじっと見つめた。

「そうですか。人間が、この里の者を助けたと……」

 アレルは一歩前へ出て、丁寧に頭を下げた。

「突然の訪問をお許しください。俺たちはノアニールの村について、あなたにお聞きしたいことがあります」

「ノアニール……」

 女王の表情がわずかに険しくなった。

 その名を聞いた途端、室内の空気が変わったように感じられる。

「その村について、何を知りたいのですか」

「村人たちが眠り続けている原因です。何かご存じではありませんか?」

 女王はすぐには答えなかった。

 膝の上に置かれた手が、わずかに動く。二人を見つめるその瞳には、言葉にしがたい感情が揺れているようだった。

 しばらく二人を見つめたあと、ゆっくりと口を開く。

「……あの村の者たちは、報いを受けているのです」

「報い……?」

 カエデが小さく繰り返す。

「かつて、この里にアンという娘がいました。美しい心を持った、私の娘でした」

 女王の視線が、遠くを見るように揺れる。

 その声は先ほどよりも少しだけ柔らかくなっていた。遠い記憶をたどるように、女王は言葉を続ける。

「しかし、あの子は人間の青年と恋に落ちたのです。青年はノアニールの出身でした」

「アンが……?」

 女王は静かに頷いた。

「それから、二人はこの里を離れました。その際、アンはエルフの宝である夢見るルビーを持ち出したのです」

 カエデの胸が小さく跳ねる。

 夢見るルビー。

 知っている名前だった。

「私は、あの娘が青年に騙されたのだと思っています。宝まで持ち出させられ、帰る場所を失ったのでしょう」

「それは……」

 アレルが何かを言いかける。

「アンは、それ以来この里へ戻ってきません。どれほど待っても、何の便りもありませんでした」

 女王の声に、怒りとも悲しみともつかない感情が滲む。

 ほんの一瞬、女王の視線が伏せられた。静かな室内に、言葉の途切れた時間が流れる。

「大切な娘を奪われ、宝まで持ち去られた。私はその仕打ちを許すことができませんでした」

「だから、ノアニールの人々を……?」

「そうです。あの青年の故郷であるノアニールに、眠りの呪いをかけました。村人たちが目覚めることはありません。私の怒りを知るまで、あの村は眠り続けるのです」

 女王の言葉が、静かな室内に響いた。

 カエデは思わず息を呑む。

(違う……)

 女王の言っていることは、違う。

 アンは青年に騙されたわけではない。二人の間には、女王が知らない事情があったはずだ。

 その結末を知っているカエデには、女王の誤解がはっきりと分かっていた。

「それは違……」

 口をついて出かけた言葉を、カエデは慌てて飲み込んだ。

「……カエデ?」

 隣にいたアレルが、不思議そうにこちらを見る。

「あ、ううん。何でもない」

 カエデは視線を落とした。

 どうして自分が真実を知っているのか、説明することはできない。

 ここで余計なことを言えば、今まで隠してきた秘密に触れてしまうかもしれない。

 それでも、何も知らないまま女王の言葉を聞き流すことは、カエデにとって簡単ではなかった。

 女王はそんなカエデの様子に気づいたのか、わずかに眉を寄せた。

「何か言いたいことでもあるのですか?」

「いえ……何でもありません」

 カエデは小さく首を振った。

 アレルは一度カエデを見たあと、女王へ向き直る。

「事情は分かりました。ですが、ノアニールの人々が何も知らずに眠らされているのなら、それはあまりにも……」

「あなたたち人間に、私の気持ちが分かるはずもありません」

 女王の声が鋭くなる。

「自分の娘を失った者の気持ちなど、あなたたちには分からないでしょう」

 アレルは言葉を止めた。

 女王の怒りの奥にある悲しみを、否定することはできなかった。

 けれど、だからといって村人たちを見捨てるわけにもいかない。

「……分かりました。話を聞かせていただき、ありがとうございます」

 アレルはそれ以上言い争うことなく、静かに頭を下げた。

「行こう、カエデ」

「うん……」

 二人は女王のもとを辞し、大樹の外へ出た。

 夜の空気が頬を撫でる。

 里の灯りは変わらず美しく、光る植物の間を小さな蝶が舞っていた。けれど、女王の話を聞いたあとでは、その景色もどこか寂しげに見えた。

「……アレル」

「どうした?」

「女王様、すごく怒ってたね」

「ああ。娘を大切に想っていたんだろう」

 アレルは大樹を振り返った。

 大きな幹の窓からは、変わらず柔らかな光が漏れている。その奥にいる女王の姿を思い浮かべるように、アレルはしばらく大樹を見つめていた。

「でも、ノアニールの人たちには罪はない。村の人たちを助ける方法を探す」

「うん。私もそう思う」

「女王の誤解を解くことができれば、呪いを解いてもらえるかもしれない。まずは、二人の行き先についてもっと調べてみよう」

 その言葉に、カエデは小さく頷いた。

 アンと青年のことを知る者が、この里にまだいるかもしれない。

 女王の話だけでは、何もかもが分かったわけではないのだから。

 そのときだった。

「……あなたたち」

 背後から、控えめな声が聞こえた。

 二人が振り返ると、ひとりのエルフが立っていた。

 淡い色の髪を長く伸ばした女性だった。先ほどまでのエルフたちとは違い、二人を警戒する様子はない。むしろ、何かを確かめるように、カエデとアレルを交互に見つめていた。

「少し、お話ししてもいいかしら?」

「俺たちに?」

「ええ。私はアンの友人なの」

 その名前を聞き、カエデは思わず顔を上げた。

「アンの……友人?」

「そう。女王様から、アンの話を聞いたのでしょう?」

 女性は大樹の方へ一度視線を向けた。

「でも、女王様が知っていることがすべてではないわ。アンについて、あなたたちに少し話をしたいの」

 カエデとアレルは顔を見合わせた。

「本当ですか?」

「ええ。ただ、ここでは少し話しづらいの。よかったら、私の家に来ない?」

 女性は穏やかに微笑んだ。

「もう夜も遅いでしょう。泊まる場所も必要だと思うし、うちに来て。ゆっくり話しましょう」

 カエデは、彼女の顔を見つめた。

 女王の話とは違う、アンの事情。

 それを知ることができるかもしれない。

「……お願いします」

 アレルが答える。

 女性は頷くと、二人を先導するように歩き始めた。

「こちらよ。ついてきて」

 光る花々に囲まれた小道を、三人の影が進んでいく。

 カエデは歩きながら、先を行くエルフの背中を見つめていた。
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