DQ3 夜明けの果てに君と

カエデは宿屋の看板を探して、きょろきょろと辺りを見回した。

「えっと……この辺に宿屋があるはずなんだけど」

「さっき、あそこの通りに看板が見えたぞ」

アレルが指さした先には、ベッドの絵が描かれた看板が揺れていた。

「あっ、ほんとだ! ありがとう、アレル!」

二人は並んで宿屋へ向かった。

カザーブの村は、ロマリアよりも小さく、山に囲まれた静かな村だった。日が暮れかけた通りには、仕事を終えた村人たちが行き交っている。武器や道具を売る店もあり、旅人の姿もちらほらと見えた。

宿屋の扉を開けると、食事を終えた客たちの話し声が耳に入ってくる。

「二人で一部屋、空いてますか?」

カエデが受付の主人に尋ねる。

「おう、空いてるよ。二人でいいんだな?」

「はい!」

アレルは一瞬だけカエデを見たが、特に何も言わなかった。

部屋の鍵を受け取り、二人が階段を上がろうとした、そのときだった。

「……その格好で、魔王を倒しに行くのか?」

不意に、低い声が飛んできた。

振り返ると、壁際の席に一人の青年が座っていた。

銀色の髪。無駄のない身のこなし。腰には短剣が収められ、旅慣れた者特有の隙のなさがある。

青年は椅子に背を預けたまま、こちらを見ていた。

「……俺たちのことか?」

アレルが尋ねると、青年は視線を二人に向けた。

「ほかに誰がいる」

青年の目が、アレルの剣に止まる。

その視線は、ただ武器を確かめているだけではなかった。剣の手入れ具合、立ち方、周囲への注意の払い方。ひとつひとつを見定めるような目だった。

やがて、その目がカエデへと移る。

「そちらの娘は、戦えるようには見えないな」

「……っ」

カエデは言葉に詰まった。

「何だと?」

アレルの声が低くなる。

「魔王を倒す旅だろう。魔物との戦いは避けられない。戦えない人間を連れていくのは、危険じゃないのか」

青年の口調は淡々としていた。からかう様子も、面白がる様子もない。ただ疑問を口にしているだけのようだった。

それが、かえってアレルの怒りを刺激した。

「カエデにはカエデの役割がある。何も知らないのに、勝手なことを言うな」

アレルの声が、先ほどよりも低くなった。

カエデが驚いて彼を見上げる。普段のアレルなら、相手の言葉にいちいち腹を立てたりはしない。けれど、今は違った。

さまようよろいとの戦いで、自分がどれほど追い詰められたのか。あのとき、カエデが敵の動きに気づいてくれなければ、どうなっていたのか。

アレルは忘れていない。

剣を振るうのは自分だ。けれど、自分ひとりの力だけで、ここまで旅を続けてこられたわけではなかった。

「役割、か」

青年は少しだけ目を細めた。

「彼女は俺の大切な仲間だ」

アレルは迷いなく言い切った。

その言葉には、反論を許さないほどの強さがあった。

カエデは一瞬、何かを言おうとして口を開きかけた。けれど、結局何も言えず、ただアレルの横顔を見つめた。

アレルは青年から目をそらさない。

「戦えるかどうかだけで、仲間の価値を決めるな」

その手は、剣の柄を強く握りしめていた。

宿屋の喧騒が、ほんの一瞬遠のいたように感じられた。

カエデは驚いてアレルを見上げる。

青年はしばらくアレルを見つめていた。その表情から、何を考えているのかは読み取れない。

「……大切な足手まといが居て、魔王を倒せるのか?」

その一言で、アレルの表情が変わった。

「お前……!」

一歩、青年へ詰め寄ろうとする。

けれど、その前にカエデがアレルの腕をつかんだ。

「アレル、待って!」

「カエデ、離してくれ」

「だめ。ここで喧嘩しても意味ないよ」

カエデはアレルを見上げた。

怒ってくれたことは嬉しかった。自分を仲間だと言い切ってくれたことも。

でも、ここで争ってほしくはなかった。

「私は大丈夫だから。ね?」

アレルは唇を引き結び、青年をにらんだまま動きを止めた。

やがて、カエデの手に力がこもっていることに気づき、ゆっくりと息を吐く。

「……わかった」

青年はそんな二人を見ていた。

「仲間をかばうのは結構だ。だが、旅は気持ちだけじゃ乗り切れない」

「そんなこと、わかってるよ」

カエデは青年へ向き直った。

初対面の相手に向ける、丁寧な口調だった。

「私は確かに、直接戦うことはできません。でも、できることを探しながらアレルと一緒に旅をしています。あなたに、私たちのことを決めつけられる筋合いはありません」

青年はわずかに目を見開いた。

カエデの声は大きくなかったが、言葉には芯があった。

「……そうか」

青年はそれ以上、言い返さなかった。

「なら、好きにすればいい」

そう言って、青年は再び椅子に腰を下ろした。

アレルはまだ納得していない様子だったが、カエデに腕を引かれ、階段へと向かった。

二人が姿を消す直前、青年は一度だけアレルの背中を見た。

剣を持つ者としての身のこなし。怒りに反応したときの踏み込み。仲間をかばう際にも崩れなかった重心。

あの剣士は、ただ腕が立つだけの旅人ではない。

青年は目を細めた。

何かを確かめるように、静かに考え込んでいた。

*

部屋に入ると、アレルは荷物を下ろし、剣の状態を確かめ始めた。

いつもなら、今日の道中で見かけたものや明日の予定について話すところだ。けれど、今夜のアレルはどこか不機嫌だった。

カエデはベッドに腰掛け、彼の横顔をうかがった。

「アレル、まだ怒ってる?」

「……別に」

「いや、絶対怒ってるよね?」

アレルは剣から目を離さない。

「カエデが戦えないことと、役に立たないことは違う」

「うん」

「なのに、あいつは何も知らないまま決めつけた」

思いのほか強い口調に、カエデは少し目を丸くした。

自分のことで、ここまで腹を立ててくれるとは思わなかったのだ。

「……ありがとう、アレル。でも、私が直接戦えないのは本当だよ」

「それは……」

「私は剣も使えないし、呪文だって使えない。アレルみたいに強くないのは、自分でもわかってる」

カエデは自分の手のひらを見つめた。

この世界に来てから、何度も思い知らされてきたことだ。

知識があっても、敵の攻撃を受ければ痛い。逃げ遅れれば危険だし、仲間が傷つく姿を見ても、すぐに回復させる呪文を唱えられるわけではない。

それでも。

「だけど、だからって何もできないわけじゃないと思うんだ」

顔を上げると、アレルがこちらを見ていた。

「さまようよろいのときだって、私が気づかなかったら、もっと危なかったかもしれないでしょ?」

「……ああ」

「だから、私は私にできることを頑張るよ。敵のことを考えたり、危ないところに気づいたり。アレルが戦いやすくなるように」

アレルはしばらく黙っていた。

やがて、剣を鞘に収める。

「俺も、そう思ってる」

「え?」

「お前の気づきに助けられたことは、一度や二度じゃない。俺は剣を振るうことはできる。でも、戦いのすべてが剣だけで決まるわけじゃない」

まっすぐな言葉だった。

カエデは少しだけ驚き、それから笑った。

「……そっか。なら、明日も頑張らないとね!」

「ああ。ただし、危ないときは無理をするな」

「それ、アレルにも言いたいんだけど!」

思わず声を上げると、アレルはわずかに目をそらした。

「俺は大丈夫だ」

「その台詞、さまようよろいの前でも言ってほしかったなあ……」

「……あれは、少し予定が狂っただけだ」

「予定って! 剣を弾き飛ばされてたじゃん!」

「わ、わかった。次は気をつける」

アレルが困ったように言うので、カエデはとうとう吹き出した。

部屋に、二人の笑い声が響く。

先ほどの青年の言葉は、まだ少し引っかかっていた。それでも、カエデは自分の立場を改めて考えることができた。

戦えないからこそ、できることを探す。

今は、それでいい。

*

翌朝。

朝食を済ませた二人は、カザーブの村を出た。

目指すのは、西にあるシャンパーニの塔。カンダタ一味が金の冠を持ち去った場所だ。

「ここから先は、橋を渡るんだよね」

カエデは地図を確かめながら言った。

「そうだ。橋を越えたら、塔まではそう遠くないはずだ」

アレルは周囲を見渡した。

村の外へ出ると、道は山あいへと続いている。木々の間から差し込む朝日が、石だらけの道を照らしていた。

しばらく進んだところで、空の一部がぼんやりと曇った。

「……あれ?」

カエデが足を止める。

木々の隙間から、薄い雲のようなものがこちらへ流れてきていた。

「雲……じゃないよね?」

その正体は、ギズモだった。

ふわふわと浮かぶ雲のような魔物が、道を塞ぐように集まってくる。

「魔物か!」

アレルはすぐに剣を抜いた。

ギズモたちは一斉に動いた。そのうちの一体が、口元に小さな炎を生み出す。

「アレル、メラが来る!」

カエデの声とほぼ同時に、火の玉が飛んだ。

アレルは横へ跳ぶ。

炎がすぐ脇をかすめ、背後の地面に弾けた。だが、彼は着地するより早く、すでに次の一歩を踏み出していた。

「はっ!」

剣が閃く。

ギズモは宙へ逃れようと身体を揺らした。けれど、アレルの剣先はその動きを追っていた。逃げる先を見越した一撃が、青白い身体を鋭く捉える。

ギズモが悲鳴を上げて揺らいだ。

その隙を、アレルは逃さない。

踏み込み、斬り返し、次の一体へと向き直る。

ギズモが慌てて距離を取り、別の個体がメラを放つ。アレルは身をひねって火の玉をかわすと、その勢いを殺さずに地面を蹴った。

一瞬で間合いが詰まる。

ギズモが逃げようとするよりも早く、剣が走った。

一閃。

青白い身体が揺らぎ、霧のように消えていく。

残る一体が、アレルの背後へ回り込もうとした。

「後ろ!」

カエデの声が飛ぶ。

アレルはすぐさま振り返った。ギズモがメラを放つ直前、剣の軌道を低く走らせる。魔物の動きを止めたその一撃から、間を置かずに二撃目が繰り出された。

最後のギズモが地面へ落ち、やがて消えていった。

カエデは息を呑んだ。

炎を避けた直後には、もうアレルの剣が敵を捉えていた。

ギズモが逃げる方向を見極め、次の攻撃へ移るまでの動き。その一つひとつがあまりに速く、目で追うだけで精いっぱいだった。

剣が閃くたび、朝の光が刃の上を走る。

ほんの一瞬前まで敵がいた場所に、もうアレルの姿はない。

そして次の瞬間には、別の敵へ向けて剣が振るわれている。

カエデは、思わず握りしめていた手に力を込めた。

――すごい。

その言葉さえ、声にはならなかった。

けれど、最後のギズモが消えたあと、カエデの胸に残ったのは驚きだけではなかった。

さまようよろいとの戦いで、アレルは剣を弾き飛ばされ、危うく大きな傷を負うところだった。

剣の腕がどれほど優れていても、敵の攻撃をすべて防げるわけではない。

だからこそ、今の戦いで彼が無事だったことに、カエデは心から安堵していた。

「カエデ、怪我はないか?」

アレルが振り返った。

「う、うん! 私は大丈夫」

「よかった」

アレルはほっとしたように笑った。

「……でも、さっきの炎、かなり近かったよね」

カエデが言うと、アレルは自分の腕や服に焦げ跡がないか確かめた。

「そうだな。もう少し避けるのが遅かったら危なかった」

「うん。次も気をつけようね」

「ああ。ありがとう、カエデ。声をかけてくれたおかげで、すぐに動けた」

「私は、見えたことを伝えただけだよ」

「それが助かるんだ」

アレルはそう言って、再び街道の先へ目を向けた。

カエデも頷き、彼の隣を歩き出した。

*

二人は再び道を進み、やがて大きな橋へとたどり着いた。

橋の下には深い谷が広がっている。吹き抜ける風が、カエデの髪を揺らした。

「うわあ……高いね」

「足元に気をつけろよ」

「わかってるってば!」

そう言いながらも、カエデは橋の端から谷をのぞき込まないよう、道の中央を歩いた。

橋を渡り終えた頃には、日もだいぶ高くなっていた。

その先の道には、低い草むらが広がっている。

不意に、草の間から妙な音がした。

「……何かいる?」

カエデが足を止めた直後、緑色の魔物が飛び出してきた。

おばけキノコだ。

「うわっ!」

カエデは反射的に後ずさった。

おばけキノコはふらふらと揺れながら、アレルへと迫ってくる。アレルは剣を構え、飛びかかってきた魔物を受け流した。

「カエデ、少し下がっていろ!」

「うん!」

おばけキノコはしつこく距離を詰め、アレルの隙をうかがう。

アレルが剣を振るうと、魔物は不規則に体を揺らして攻撃をかわそうとした。

「動きが読みにくい……!」

アレルがつぶやく。

一体を相手にしている間に、もう一体のおばけキノコが横から迫ってきた。

アレルは剣を引き戻し、すぐさま身体の向きを変える。

一撃目をかわし、二撃目を受け流し、反撃へとつなげる。

剣が風を切った。

一体のおばけキノコが倒れる。

しかし、残る一体は怯むことなく、間合いを詰めてきた。ふらふらとした動きは不規則で、次にどちらへ動くのかが読みづらい。

アレルは無理に追わず、足を止めた。

「近づいてくるのを待とう!」

カエデの声に、アレルは短くうなずく。

おばけキノコが左右に揺れながら近づいてくる。

アレルはその動きを見極め、魔物が飛びかかってきた瞬間に踏み込んだ。

剣が閃く。

おばけキノコの攻撃は空を切り、アレルの一撃がその身体を捉えた。

だが、倒れた魔物の陰から、もう一体が飛び出した。

「アレル、左!」

カエデの声が響く。

アレルはすぐに身体をひねり、攻撃を紙一重でかわした。

そのまま流れるように剣を返す。

魔物が体勢を立て直すよりも早く、刃が届いた。

最後のおばけキノコが地面に倒れ、やがて動かなくなった。

「ふう……」

アレルは息を整え、剣についた汚れを払った。

カエデはしばらく、彼の姿を見つめていた。

攻撃をかわすたびに、アレルの身体は次の動きへとつながっていた。無駄な動作がほとんどない。敵の動きに合わせて足を運び、剣を振り、隙が生まれれば迷わず踏み込む。

その判断を、戦いの最中に一瞬で繰り返しているのだ。

「……アレル、怪我は?」

カエデが我に返って尋ねる。

「大丈夫だ。お前は?」

「私は平気!」

カエデは自分の服についた草を払い、ほっと胸をなで下ろした。

「よかった。塔に着く前から、こんなに魔物が出るんだね」

「カンダタの一味がいる場所だ。周囲の魔物が増えていてもおかしくない」

アレルは東の方角へ目を向けた。

木々の向こうに、石造りの塔がかすかに見える。

「あれが……シャンパーニの塔」

カエデはその姿を見つめた。

かつては村の倉庫として使われていたという塔。しかし今では、カンダタ一味が根城にしている。

金の冠も、きっとあの中にある。

「よし、行こう!」

カエデが歩き出す。

アレルはうなずき、その隣に並んだ。

*

シャンパーニの塔は、近くで見ると思っていた以上に古びていた。

石壁にはところどころひびが入り、入口の周りには木箱や壊れた道具が散らばっている。人の出入りがあるらしく、地面には新しい足跡も残っていた。

「……本当に、ここを倉庫にしてたんだね」

カエデが周囲を見回す。

「今はカンダタたちが使っているんだろう。中に入るぞ」

アレルは扉に手をかけた。

ぎい、と軋んだ音を立てて扉が開く。

塔の中は薄暗く、ひんやりとしていた。壁際には木箱が積み重なり、布袋や樽が雑然と置かれている。奥の方から、男たちの話し声がかすかに聞こえてきた。

「……誰かいるね」

カエデが声をひそめる。

「ああ。気をつけて進もう」

アレルは剣の柄に手を添え、足音を抑えながら進んだ。

そのとき。

「そこまでだ」

低い声が、二人の前方から響いた。

カエデとアレルは同時に足を止めた。

薄暗い通路の向こう。積まれた木箱の脇に、一人の青年が立っていた。

銀色の髪。腰に差した短剣。宿屋で二人に声をかけてきた、あの青年だった。

青年はアレルを見るなり、目を細めた。

宿屋で見たときから、何かが引っかかっていた。

剣士としての身のこなし。周囲に気を配る視線。怒りを抑えながらも、一瞬で踏み込める足運び。

そして何より、そこに立っているだけで感じる、揺るぎない存在感。

ただ腕が立つだけの剣士ではない。

青年の脳裏に、ある話がよぎった。魔王討伐の旅に出た、アリアハンの勇者の噂だ。

彼はアレルの顔を改めて見た。

「……なるほどな」

「何がだ?」

アレルが警戒したまま尋ねる。

「お前、アリアハンの勇者だろう」

カエデが息をのんだ。

アレルも、わずかに目を見開く。

「……どうしてそう思った?」

「剣の腕だけじゃない。立ち方も、周囲を見る目も、普通の旅人とは違う。魔王を倒すために旅をしていると言っていたな。なら、答えはひとつだ」

青年は淡々と告げた。

「噂に聞く勇者が、目の前にいる。そう考えた方が自然だ」

アレルはしばらく青年を見つめたあと、静かに答えた。

「……そうだ。俺はアレル。魔王を倒すために旅をしている」

「やっぱりな」

青年は短くうなずいた。

「俺はシオンだ」

「シオン……」

カエデが小さく名前を繰り返す。

シオンは二人を交互に見た。

「お前たちもカンダタを追っているのか?」

「金の冠を取り返しに来た」

アレルは答えた。

「そうか。なら、目的は同じだな」

「あなたも冠を取り返しに来たんですか?」

カエデが尋ねる。

「ああ」

シオンはそれ以上、詳しく話そうとはしなかった。

アレルはまだ警戒を解いていない。

「同じ目的だからといって、簡単に信用するわけにはいかない」

「当然だ。俺も、お前を信用したわけじゃない」

シオンは淡々と答えた。

「だが、冠を取り返すという目的は同じだ。邪魔をし合う理由もない」

アレルは少し考えた。

目の前の青年は、相当な腕前であることは確かだった。短剣を扱う盗賊――そう考えるのが自然だろう。だが、どこまで信用できるかは、まだわからない。

カエデもシオンを見つめていた。

宿屋での言葉は、今でも少し引っかかっている。けれど、彼がここへ来た目的まで否定する理由はなかった。

「……一緒に行くってことですか?」

「必要ならな。俺は俺のやり方で動く。お前たちの指図を受けるつもりはない」

シオンはそう言って、通路の奥へ目を向けた。

「この先に、カンダタの手下がいる。騒ぎを起こせば、上の階にいる連中にも気づかれるだろう」

「詳しいんだな」

アレルが言う。

「少し調べただけだ」

シオンはそれ以上、説明しなかった。

アレルはカエデと目を合わせた。

カエデは小さくうなずく。

「……わかった。今は協力しよう」

アレルがそう告げると、シオンも短くうなずいた。

「それでいい」

三人は、まだ互いを信用しきってはいない。

けれど、今は同じ目的を持っている。

金の冠を取り返すために。

薄暗い塔の中、三人は一時的な共闘関係を結んだ。
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