DQ3 夜明けの果てに君と


ロマリアの空はどこまでも青く澄み渡っていた。

城門を抜けると、街道は緩やかな丘陵地帯へと続いている。草原を渡る風は心地よく、遠くには緑の丘と森が見えた。

「カザーブまでは、まだまだ歩くんだよね」

荷物を背負い直しながら、カエデが前を行くアレルに尋ねた。

「ああ。今日中には着かないだろうな。途中で休める場所を探そう」

「そっか。二日がかりの旅かあ……」

現代日本で暮らしていたカエデにとって、徒歩で何日もかけて移動するというのは、まだ慣れないことだった。

けれど、目の前に広がる景色は、そんな疲れを忘れさせてくれる。

石畳の道。草原を駆け抜ける風。遠くで羽ばたく鳥の影。

そして、そのすべてが、カエデの知っている『ドラゴンクエストIII』の世界につながっている。

――本当に、ここにいるんだ。

そう考えるたび、不思議な気持ちになった。

「カエデ、ぼんやりしてると置いていくぞ」

「あっ、待ってよ!」

慌てて駆け寄ると、アレルは小さく笑った。

「そんなに急いでないさ」

「今、置いていくって言ったじゃん!」

「追いつけると思ったからな」

「もう……!」

ロマリアを出てから、まだそれほど時間は経っていない。

けれど、こうして並んで歩いていると、少しずつ旅の仲間になれている気がした。

もっとも、その穏やかな時間は、そう長くは続かなかった。

     ◇

街道の先で、草むらが揺れた。

小さな青い影が、ひとつ、またひとつと姿を現す。丸い身体を弾ませながら、スライムたちが道を塞ぐように集まっていた。

「スライムの群れだ」

アレルは足を止めると、剣の柄に手をかけた。

「わっ、結構いるね……!」

カエデが身構える間にも、スライムたちは次々と地面を蹴り、二人へと飛びかかってくる。

「下がってろ!」

アレルが前へ出た。

一匹目の攻撃を身をひねってかわし、すれ違いざまに斬り払う。続いて飛び込んできた二匹目には、振り向きざまに刃を振り抜いた。

スライムの青い身体が地面を転がる。

しかし、まだ残っている。

左右から間を置かずに飛びかかってくる魔物を前に、アレルは足を止めなかった。迫る攻撃の軌道を見極め、必要な分だけ身体を動かしてかわしていく。

「アレル、後ろ!」

カエデの声に反応し、アレルは振り向きざまに剣を振るった。

最後の一匹が草むらへと弾き飛ばされ、ようやく辺りが静かになった。

「……終わった?」

「ああ。もういないみたいだ」

アレルは周囲を確かめてから、剣を鞘に収めた。

カエデはその背中を見つめる。

勇者アレル。

ゲームの中で見ていた存在が、今は目の前で息をして、歩いて、剣を振るっている。

しかも、その剣技は想像していた以上だった。

「すごいなあ……」

「何か言ったか?」

「なんでもない!」

カエデは慌てて首を振った。

さらに街道を進むと、今度は草むらの向こうから、丸々とした蛙のような身体の魔物が姿を現した。

ポイズントードだ。

魔物は喉を膨らませ、二人の様子をうかがっている。

「今度は、毒に気をつけて」

カエデは魔物から目を離さずに言った。

「毒?」

「うん。倒しても、むやみに触らないほうがいいと思う」

「分かった」

アレルは相手の動きを観察しながら、剣を構えた。

ポイズントードが地面を蹴る。

低い姿勢から、一気に跳びかかってきた。

アレルは身体をひねって攻撃をかわす。魔物が着地しようとした瞬間、剣がその身体を捉えた。

一撃。

ポイズントードは地面に落ち、そのまま動かなくなった。

「……もう終わり?」

「相手の動きが分かれば、対処できる。今のも、跳んでくるのが見えたからな」

アレルは剣についた汚れを払いながら答えた。

その言葉には、特別な誇りも、得意げな響きもなかった。

まるで、それが当然だとでもいうように。

天性の剣の才能。

それに加えて、相手の動きを見極める判断力。

カエデは、アレルがただの腕自慢ではないことを改めて感じた。

――でも。

彼女は、先ほどの戦いを思い返す。

アレルの剣は速い。正確だ。けれど、まだ旅に出て間もない彼には、知らない敵も、経験したことのない戦いも、いくらでもある。

そのことを、カエデはよく知っていた。

だからこそ、気を抜くわけにはいかなかった。

     ◇

昼を過ぎたころ。

二人は、なだらかな丘が連なる街道へと差しかかっていた。

道の両側には背の低い草が広がり、ところどころに岩が転がっている。遠くには森が見え、その向こうには山並みが霞んでいた。

日差しはまだ強かったが、風が吹くたび草原の熱が和らいでいく。道の脇では小さな花が揺れ、時折、羽虫が陽光の中を横切っていた。

「少し休むか?」

アレルが振り返る。

「ううん、まだ大丈夫。もうちょっと歩けるよ」

「無理はするなよ。カザーブまでは遠いんだから」

「分かってるってば」

そう答えたカエデは、ふと視線を上げた。

街道の先。

小高い丘の頂上に、何かが立っている。

最初は、岩かと思った。

けれど、日差しを受けた輪郭が、わずかに光を返した。

鎧だ。

頭から足先までを覆う、重厚な甲冑。その手には長い剣が握られている。

人の形をしているのに、そこには生きている者の気配がない。

カエデの足が止まった。

「……アレル」

声が、自分でも分かるほど硬くなる。

「どうした?」

「あそこ……」

カエデが丘を指さした。

アレルは彼女の視線を追い、目を細める。

丘の上の鎧は、こちらを向いていた。

兜の奥は暗く、表情など分かるはずもない。

それでも、カエデには分かった。

あれは、こちらを見ている。

ずっと。

じっと。

まるで、獲物を見定めているかのように。

――さまようよろい。

その名が脳裏をよぎった瞬間、カエデの背筋に冷たいものが走った。

ゲームの中で知っている魔物。

けれど、目の前にいるそれは、画面の中の敵とは違う。

重い鎧の音も、剣の刃が光を反射する様子も、すべてが現実だった。

油断していい相手ではない。

「……気をつけて」

カエデは、アレルから目を離さずに言った。

「何か知ってるのか?」

「ううん……ただ、あれは危ないと思う」

理由を聞かれても、答えられない。

この世界が、自分の知っているゲームの世界だから。

あの魔物の強さを、どこかで知っているから。

そんなことを口にするわけにはいかなかった。

アレルはカエデを一瞥し、それから再び丘を見上げた。

「……そうか」

それ以上、問い詰めることはしなかった。

ただ、静かに剣の柄へ手を伸ばす。

丘の上の鎧も、動かない。

風が吹き抜け、草原がさざ波のように揺れた。

カエデは息を潜めた。

アレルは剣を抜くことなく、敵の様子を見定めている。

数秒。

十数秒。

長い沈黙が続いた。

カエデは、知らず知らずのうちに息を浅くしていた。

目を離した瞬間、あの鎧が動き出す気がした。

けれど、丘の上の魔物は微動だにしない。

ただ、こちらを向いている。

逃げるべきか。

それとも、先に仕掛けるべきか。

アレルは相手との距離を測りながら、剣の柄にかけた指へわずかに力を込めた。

まだ、相手の出方が分からない。

迂闊に近づけば、向こうの間合いに入ることになる。

カエデもまた、丘の上の魔物から目を離せなかった。

静かな時間が、ひどく長く感じられる。

やがて、夕方の風が少し強く吹いた。

草が大きく揺れた、その瞬間。

鎧の身体が、わずかに傾いた。

アレルが息をのむ。

次の瞬間、さまようよろいは丘を蹴り、斜面を駆け下りてきた。

「来るぞ!」

アレルが剣を抜いた。

さまようよろいは勢いを落とすことなく、剣を振りかぶった。

そして――。

重い一撃が、アレルへと振り下ろされた。

     ◇

剣と剣がぶつかった瞬間、アレルの腕に強い衝撃が走った。

さまようよろいの剣は、見た目どおりに重かった。

まともに受ければ、腕ごと持っていかれかねない。

だが、アレルは真正面から力比べをするつもりはなかった。

刃をわずかに傾け、敵の剣を受け流す。

その勢いを利用して身体をひねり、空いた脇腹へと斬り込んだ。

刃が鎧を捉え、金属の表面を深く削る。

さまようよろいの身体がわずかに揺れた。

アレルは間髪入れずに距離を取る。

敵の反撃が空を切った。

「……すごい」

カエデは思わずつぶやいた。

さまようよろいの攻撃は重い。動きにも無駄が少なく、並の旅人なら一撃を受けるだけで危険なはずだ。

それなのに、アレルは攻撃の軌道を見切り、必要最小限の動きでかわしている。

しかも、ただ避けているだけではない。

相手が体勢を崩した瞬間を狙い、確実に反撃を入れていた。

アレルの剣が再び閃く。

今度は肩口。

続いて、胴。

さまようよろいが剣を振るうたび、アレルはその攻撃を紙一重でかわし、鋭い反撃を叩き込んでいく。

剣技だけなら、アレルが圧倒していた。

けれど。

鎧を打つたび、アレルの手には確かな手応えが返ってくる。

刃が金属を削り、表面に傷を残しているのは間違いない。

それでも、さまようよろいは倒れなかった。

傷ついた鎧が鈍く軋む。敵の身体が一瞬傾いても、すぐに姿勢を立て直し、再び剣を構える。

まるで、痛みを感じていないかのようだった。

「……硬いな」

アレルが小さくつぶやく。

それでも、動きに迷いはなかった。

次の攻撃をかわし、反撃する。

またかわす。

また斬り込む。

アレルの剣は、幾度となくさまようよろいを捉えていた。

敵の剣が上段から振り下ろされる。

アレルは半歩横へ移動し、刃が地面に届くより先に相手の腕へ斬りつけた。鎧の継ぎ目を狙った一撃だった。

だが、刃が食い込む感触は浅い。

敵の腕がわずかに跳ね上がり、剣先がこちらへ向き直る。

アレルはすぐに後退した。

さまようよろいは、追撃を諦めなかった。

一歩。

さらに一歩。

重い鎧をまとっているとは思えないほど、動きは途切れない。アレルが距離を取れば、その分だけ前へ出てくる。

「アレル、気をつけて!」

カエデの声が草原に響く。

アレルは返事をしなかった。

敵の剣を見ている。

肩の動き、肘の角度、刃の向き。

攻撃が始まる直前に生じるわずかな変化を読み取り、身体を動かす。

振り下ろされた剣が、アレルの肩先をかすめた。

風圧が頬を撫でる。

その一撃を避けた直後、アレルは敵の懐へ踏み込んだ。剣を握る腕の付け根を狙い、斜め下から刃を走らせる。

今度は、鎧の隙間に確かな手応えがあった。

さまようよろいの腕が大きく揺れる。

アレルはそこを逃さず、続けて胴へと斬り込んだ。

しかし、敵は倒れなかった。

傷を負っても、動きを止めない。

鎧の奥に何が宿っているのか。痛みや疲労を感じているのかどうかさえ、分からない。

それでも、目の前の敵が確実にこちらを狙っていることだけは分かった。

アレルは一度、距離を取った。

剣を構えたまま、敵の全身を見渡す。

鎧にはいくつもの傷がついている。肩口の装甲は削れ、胴にも浅い切り傷が走っていた。

だが、そのどれもが致命傷にはなっていない。

――斬る場所を変えるべきか。

頭部か、腕か。

それとも、装甲の隙間を狙って一気に崩すか。

考える時間は長くなかった。

さまようよろいが、再び距離を詰めてくる。

アレルは迎え撃つように剣を構えた。

敵の剣が横から迫る。

身を沈めてかわし、踏み込む。

今度は脚を狙った。

刃が膝の装甲を打つ。

敵の身体がわずかに傾いた。

「……いける」

アレルはそのまま押し込もうとした。

しかし、さまようよろいは倒れかけた姿勢から、無理やり身体を立て直す。重い剣が振り返るように迫り、アレルは反射的に後ろへ跳んだ。

刃が目の前を通り過ぎる。

あと少し遅れていれば、まともに受けていた。

アレルは息を吐き、剣を握り直した。

攻撃は通じている。

だが、敵を止められない。

何度斬りつけても、決定打にならない。

カエデには、最初、勝負は決まったように思えた。

これだけ攻撃を当てているのだ。

もうすぐ倒れるはず。

そう思った。

けれど――。

さまようよろいは、まだ立っていた。

剣を握る腕も、敵へ向ける身体も、崩れてはいない。

まるで、傷つくことなど気にしていないかのようだった。

そして、アレルの呼吸が、ほんの少しずつ乱れ始めていた。

     ◇

夕日が、丘の向こうへと傾いていく。

草原を照らす光は、先ほどよりも赤みを帯びていた。

どれほどの時間が経ったのだろう。

短い攻防を何度も繰り返し、アレルはさまようよろいを攻め続けていた。

剣技では負けていない。

相手の攻撃を見切ることもできている。

だが、決定打がない。

鎧を打つたびに手応えはある。それなのに、敵は倒れない。

アレルは、目の前の敵を見据えた。

――どうすれば、倒せる?

これまで戦ってきた魔物なら、何度か攻撃を当てれば動きが鈍った。体勢を崩せば、そこから一気に勝負を決められた。

しかし、さまようよろいは違う。

攻撃を受けても、動きが大きく乱れない。

防御を崩そうとすれば、重い反撃が飛んでくる。

そして何より、長引く戦いの中で、アレルのほうが少しずつ消耗していた。

一度、深く息を吸う。

胸の奥に熱がこもっている。

剣を握る手には汗がにじみ、柄がわずかに滑る。

それを握り直す暇さえ、敵は与えてくれない。

さまようよろいは、まるで疲れを知らないかのように剣を振るい続けている。

アレルは、剣を握る手に力を込めた。

腕が重い。

最初に比べれば、剣を振るう速度もわずかに落ちている。

それでも、目の前の敵から視線を外すわけにはいかなかった。

一度でも判断を誤れば、次の一撃をまともに受けることになる。

「アレル、無理しないで!」

カエデの声が飛ぶ。

「大丈夫だ!」

アレルは短く返した。

けれど、その返事が終わるより早く、さまようよろいが踏み込んできた。

重い横薙ぎ。

アレルは身を沈めてかわし、敵の懐へと入り込む。

絶好の隙。

そう判断して、剣を振り抜いた。

刃が鎧を捉える。

だが、その瞬間だった。

さまようよろいは、倒れるどころか、残った勢いを利用するように身体をひねった。

反撃。

アレルの目が見開かれる。

かわそうとしたが、わずかに遅れた。

重い剣撃が、アレルの剣を弾き飛ばした。

「っ……!」

剣が宙を舞い、草むらへと突き刺さる。

――まずい!

アレルはとっさに体勢を立て直そうとした。

剣を失った状態で、次の攻撃を受けるわけにはいかない。

敵の動きを見極めろ。距離を取れ。剣を拾う時間を作れ。

頭では、やるべきことが分かっていた。

けれど、疲労で反応がわずかに遅れている。

今までなら、避けられたはずだ。

自分の剣技なら、間に合うはずだった。

それなのに。

さまようよろいの剣が、目の前に迫る。

アレルは身体をひねったが、完全には避けきれなかった。

重い衝撃が身体を襲う。

勢いを殺しきれず、アレルの身体が大きく後方へと弾き飛ばされた。

「アレル!!」

カエデが駆け出した。

倒れ込んでくる身体を、必死に受け止める。

ずしりと重い衝撃が腕にかかった。カエデは足を踏ん張ったが、勢いに耐えきれず、二人そろって地面へと膝をついた。

「っ、アレル……!」

カエデは彼の肩を支え、顔を覗き込む。

アレルは苦しそうに息を吐いた。

「アレル、聞こえる? ねえ、しっかりして!」

「ああ……聞こえている」

返事はあった。

けれど、いつものようにすぐ立ち上がることはできなかった。

アレルは片手を地面につき、呼吸を整えようとする。胸のあたりに鈍い痛みがあった。身体を動かすたびに、その痛みが広がっていく。

剣を弾かれた。

まともに体勢を崩された。

そして今、自分はカエデに支えられている。

守るべき相手。

自分が勇者として、この旅の中で守っていくと決めた仲間。

そのカエデが、目の前で自分を心配そうに見つめていた。

「……カエデ」

「喋らないで。大丈夫? 立てる?」

彼女の声が、少し震えている。

その表情を見た瞬間、アレルの胸に何かが突き刺さった。

自分が倒れれば、彼女まで危険にさらされる。

ここで終わるわけにはいかない。

怖くないわけではなかった。

この敵が、これまでの魔物とは違うことも分かっている。

けれど。

アレルは、カエデの肩に置いていた手を離した。

「……大丈夫だ」

「でも……!」

「少し、油断しただけだ」

アレルはゆっくりと立ち上がった。

身体の痛みをこらえながら、草むらに突き刺さった剣へと目を向ける。

さまようよろいは、こちらへ向かって歩いてきていた。

金属の擦れる音が、ひとつ、またひとつと近づいてくる。

アレルは歯を食いしばった。

「今度は……そう簡単にはいかせない」

剣を拾い上げ、構え直す。

その背中を見つめながら、カエデは胸の奥が締めつけられるのを感じていた。

怖い。

目の前の魔物が怖い。

そして、アレルが傷つくことが怖かった。

それでも、ただ怯えているわけにはいかない。

カエデは、もう一度、さまようよろいを観察した。

剣を構える角度。

身体の向き。

攻撃のたびに生じるわずかな動き。

何か、弱点があるはずだ。

このままでは、アレルが先に消耗しきってしまう。

カエデは、さまようよろいの動きを目で追った。

敵が剣を振り上げる。

その瞬間、鎧の肩がわずかに動く。

次に、腰が回る。

そして、脚が前へ出た。

一連の動きは、ほんの一瞬だった。

アレルが身をかわす。

剣が空を切り、敵の身体が前へ流れる。

その動きを見たカエデは、ふと違和感を覚えた。

――今の、もしかして。

敵が再び剣を構える。

アレルが間合いを測りながら、じりじりと横へ動いた。

さまようよろいも、彼を追うように身体の向きを変える。

そして、攻撃に移る。

右脚。

その踏み込みを見た瞬間、カエデの目が大きく開かれた。

――今の……!

次の攻撃でも、同じだった。

右脚を踏み込み、身体を支え、重い剣を振るう。

さらにもう一度。

やはり、右脚から踏み込んでいる。

偶然ではない。

攻撃に移るとき、必ず右脚を先に踏み込む。

カエデは息をのんだ。

見つけた。

この敵にも、癖がある。

「アレル!」

カエデの声が、街道に響き渡った。

「そいつ、攻撃するとき必ず右脚から踏み込む!」

アレルの目が、わずかに動く。

「右脚……?」

「そう! 踏み込む瞬間を見て! そこに何かあるはず!」

アレルは一瞬だけカエデを見た。

それから、再び敵へと向き直る。

さまようよろいが、剣を持ち上げた。

重い鎧が、次の攻撃のために動き始める。

アレルは剣を握り直した。

今度は、ただ攻め続けるだけではない。

敵の動きを見る。

踏み込みを見極める。

そして、勝機をつかむ。

夕暮れの風が、二人の間を吹き抜けた。

さまようよろいが、再び剣を構える。

アレルもまた、静かに剣先を向けた。

戦いは、まだ終わっていない。
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