身の上




子供の我儘に付き合い切れないと思われたのだろう。数回の折衝の末、向こうが折れるという形で、キラはこのアパートで新しい生活を始めることになったのだ。

但し条件があった。


それが“アスハ家の人間として、以降は如何なるキラの将来もウズミの決定に従うこと”であった。



その内の一つが、大学に進学することだったのだ。




キラを引き取るに当たり、予め素行や成績など全て調べてあったのは今思えば当然のことだ。就職するつもりだったキラに、いきなりこの国の最難関だと云われる大学への進学を提示してきた。
命令を違えることは許さないとばかりなその言い草に、キラはそれまで余りしなかった猛勉強を開始した。出来るだけ父親の金には手を付けたくなかったが、そう悠長なことも言ってられなくなり、バイトも辞めた。
殆ど意地のようなものだった。

そして元々頭のいいキラはメキメキ成績を上げ、翌年の春には無事命令された大学へ入学を果たしたのである。
アスハ家の人間として面目を果たしたのだから、キラの好みなどどうでも良かったらしい。学部は好きな所を選んでもいいと唯一の自由を与えてもらい、以前から興味のあった電算系の学部を選択した。
合格後一度だけお礼も兼ねてウズミに会いに行ったのだが、実物の彼も尊大なもの言いで、これでは以前調べた時に見た画像の彼と少しも変わらない。期待していたわけではなかったから落胆もなかったが、代わりに“出来るだけ近付かないようにしよう”と思った。
やたらとでかい屋敷で、山ほどの使用人に迎えられる居心地の悪さを感じるくらいなら、父親の顔を忘れない程度に見ておこうと思えば映像越しで充分ことは足りる。
しかも正妻の子供であるカガリが、やけにフレンドリーなのもうっとうしい。単に懐こいだけなのか、キラやキラの母親に野次馬的な好奇心をそそられるだけなのか知らないが、おかしなくらい底抜けに明るい彼女には、どこをどうひっくり返しても馴染めそうになかった。



ぐったり疲れたアスハ邸から、アパートへの帰り道。


漆黒の夜空を見上げてキラは思ったものだ。




これで本当に独りになったのだ、と。




5/6ページ
スキ