身の上




それでも母は幸せな女性だったかもしれない。ウズミにとっては一時の気紛れだったにせよ、彼女は確かに父を愛していた。決して長くはない人生に、愛した人の子供を産むという絆を残すことが出来たのだ。
子供を産むことだけが女性の幸せとは思わないが、母は確実にそういうタイプだった。そしてそんな彼女はキラに惜しみない愛情を注いでくれた。
辛いこともあったに違いないが、それでも彼女は“愛せる人”だったということは疑い様もない。

「全然適わないな…母さんには」
母を知る人物からは、まるで彼女に生き写しのようだといわれるキラだったが、似ているのは容姿だけだったようだ。



現状を考えれば“愛せる人”には程遠い位置にいるキラなのだった。




◇◇◇◇


キラは現在大学に在籍している。

母と二人暮しだった時でさえ経済状態は貧困ではなかったが、高校を出たら働くつもりでいた。彼女の余命がいくばくもないと知ってからは尚更だった。
自分を愛してくれた母に、少しでも親孝行がしたかったから。

公立だが名門と云われる進学校で、キラの成績は中の上。周囲が受験に向けて目の色を変えて勉強している中で、家計を助けるアルバイトをしながらもこの成績を維持するのだから、教師は進学しないと決めたキラを大変もったいながっていた。
キラ自身、学ぶことは嫌いではない。受験対策とはいえ興味のない教科を勉強するのは辟易だが、大学ともなればそれからも解放されて、好きなことを追究することが可能だろう。


しかしそれと同じ重さで、キラは早く母に楽をさせてやりたかった。




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