身の上




「本当は嫌なんじゃないか?」
夕食の席でウズミは真直ぐにキラを見て言った。キラは食事の手を止めただけで、その質問に答えたのは、母親の違う姉のカガリだった。
「嫌じゃない訳ないだろ!?お父様は一体何を考えて―――」
「私はキラに尋いているのだ。お前は少し黙ってなさい」
「お父様!!」
「カガリ」
優しく諫めるキラに、怒りの余り立ち上がってしまっていた腰をもう一度椅子へと戻すカガリ。申し分ないアスハ家の跡継ぎであるはずの姉だが、些か言動に乱暴な所があるのだ。
滅多に会うこともなかったが、キラはそんな姉のことが嫌いではなかった。


嫌いではないが、そう思うには今は状況が悪過ぎる。




「もしも僕が嫌だと言ったら、今からでも解消になりますか?」
「う…む」
「もう正式に取り交わした婚約なんだから、今更ですよね」
内心では成金だと蔑んでいるだろうが、流石に相手が経済界に力を持ちすぎているから、そんなこと無理に決まっているのは子供でも分かる。

第一何だ、この無駄に豪勢な食事は。
どう考えても“婚約祝い”だとしか思えない。
それなのにウズミがキラに伺いをたてるのは、安い“家族ごっこ”がしたいからだろうか。
カガリにしたって内心ではキラを差し出せてホッとしているに違いない。


(だったら代わって欲しいよ)
捻くれているのは充分承知の上だ。だがこの家でキラに発言権はないのだ。最初から。




「ご馳走さまでした。疲れたから先に休ませてもらってもいいですか?」
「キラ…」
「安心してください。逃げたりはしませんから」




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