私は死んだのだろうか。

意識が朦朧とする中、生前の記憶を思い出す。あれは、友達の家に行く途中だった。私は、友達から『トリコ』という漫画を借りていた。最初は興味なかったが、面白いよ、と何度も言うので友達が言っていたセンチュリースープの巻まで借りた。最初は渋々読んでいたが段々と夢中になり、読み終わった後も続きが気になって仕方なかったので友達から次の巻を借りに行った。次はどんな話なんだろう。とワクワクしながら歩いていたら、上から｢危ない！｣と声がした。
上を見上げた時にはもう遅かった。丁度工事現場の前を通り過ぎ、落ちてきた鉄柱が私に降り注いだ。
鈍い痛みと共に私は意識を失ったのだった。

あぁ、今思えばあまりにも短い人生だった。これから恋をしたり、挫折したり、そして立ち直ったりして、大人になる予定だったのに。人の命とはこんなに儚いものなのか、と齢17の私も確信した。

微かな走馬灯の中、段々と声が聞こえてきた。作業音も聞こえ、もしかしてここは病院なのか。私は生きているのか。と淡い期待を抱いた。体が動くようになった。ゆっくりと重い瞼を開けると、
｢目覚めたか｣
仮面をつけた謎の大男がいた。
『え』
さっきまで出そうと思っていたのに出なかった声も軽々と出た。

｢丸一日目覚めないものだからな。この様子なら大丈夫そうか、カイトラ｣
｢はい、スタージュン様。グルメ細胞を持たない人間を再生するのは久しぶりで少々緊張しましたがね…ふふふ｣
ぬっ、とマスクのような顔の人物も出てきた。視線を下におろすと腕が1、2、3……6本あった。ああそうか、盛大に頭を打ったから幻覚と幻聴が見えているんだ。きっとそうだ。そう思い込み自分をなだめる。
｢娘、喋れるか？｣
仮面をつけた大男がこちらに話しかける。デジャブを感じるその顔を見て、掠れた声で返事をした。
『……なんとか…』
｢そうか。お前、あそこで何をしていた？｣
私、死んでいる間に何かしていたのだろうか。ゾンビでもあるまいし、と思っていたら大男が話を続けた。
｢あの島は特別危険区域。普通の人間では入れない上に凶暴な肉食獣も多い。素人が行けばすぐに食われてしまう｣
『島…？』
島なんかに行った覚えはない。しかも危険区域なんて、少なくとも私の地元にはそんなものはない。
｢なのにお前は、島の真ん中で倒れていた。なぜだ？なぜお前はあそこで倒れていた。｣
意味不明な言葉を並べられ頭が混乱してきた。沈黙が続き、空気が重くなり背中がヒヤリとする。とりあえず質問を返しておこうと思った。
『…覚えがないです』
｢……何？｣
『私、普通に街中を歩いていて…そしたら事故で死んで……私もこの現状に訳が分からず……』
｢……そうか｣
大男は立ち上がり、その場を後にした。結局不穏な空気になってしまったが、すぐに私の声で断ち切られた。
『な、なにこれ…！』
そういえば体が動かないと思い、ふと下を見たら謎の緑のテープでぐるぐる巻きにされていた。
｢ドクターアロエですよ｣
『アロエ…？』
あれ、どこかで聞いたことが…と思っていたら先程大男と話していた6本腕の人がそのアロエを少しはがし始めた。
｢かなり回復してきていますね…これならグルメ細胞を注入しても大丈夫でしょう｣
グルメ細胞。この言葉でこの既視感を理解した途端、顔がどんどん青ざめていくのが分かった。
｢どうかされましたか？｣
『あ、あのここって…』
｢あぁ、ここは…｣

｢美食會本部ですよ｣