ふと、意識を取り戻した。体全身が痛い。確か私は自転車で転んでトラックに轢かれたはず……きっとここは病院か何かなのだろうか。私は重い瞼をゆっくりと開けたが、ここは病院などではなかった。手には鎖がかけられ、目の前には檻と、複数の人が並んでいる。
｢おや、やっと起きたかペロリン♪｣
｢それにしても人が空から降ってくるなんて…翼もないのに不思議なものね｣
｢しかし一大事だファ！家は半壊、街は大騒ぎだファ！｣
｢なぁに、ママの食いわずらいの時に比べたら可愛いもんだぜオペラ兄。｣
誰だ…この人たちは。そしてこの空間は。檻の中らしいが地面の質感が違う。まるで紙のような質感だ。目の前にいる人たちも通常の人の姿をしていない。身長も高いし、私はおとぎの国にでも来てしまったのだろうか。あぁ、きっとこれは夢だ。早く覚めてくれ。
｢おい、何か言ったらどうだペロリン♪｣
『……』
声が出ない。そりゃそうだ。私は自転車で転倒して怪我を負っているのだから。しかし夢の中で声が出ないというのも変だが。
｢ペロス兄。こいつ、もしかして怪我が相当酷いのかもしれないわ｣
｢うむ…だが、ママは今すぐにでもこいつに会いたいと言っている。怪我が完治するまで牢獄入りというのもなぁペロリン♪｣
｢せめてでもの慈悲で水でも飲ませてやるか｣
赤いイチゴ鼻の男の人が、コップを持ってこちらに近づいてくる。
｢ほら、飲めよ｣
少々力ずくだが私の口にコップを押しつける。多少こぼれてしまったがなんとか水を飲み干した。
｢さあ洗いざらい吐いてもらおうか。テメェどこの手下だ？｣
『……あ、あの……』
｢あ？｣
『ここは、どこでしょうか……』
｢………は？｣
まず一番の疑問をぶつける。そしたら一気に皆の顔が鳩が豆鉄砲を食らったような顔に変わった。
｢お前、ここがどこだかも知らねぇのか！？｣
『はい…』
｢ビッグマムの名前は知ってるファ！？｣
｢兄貴、それは流石にこいつでも知って…｣
『知りません』
｢はァ！？！？｣
イチゴ鼻の人は裏返るような声で叫んだ。耳がキーンとするくらいの大声だ。
｢ここは四皇、海賊ビッグマムがおさめる国。万国（トットランド）！本来なら他の海賊は入れねぇ。だけどお前は来た。この意味が分かるか？｣
『えと…あの…』
全く意味が分からない。四皇？海賊？ビッグダディなら知ってるがビッグマムとはなんなのか。そもそもこの人たちは？思考がグルグルと回って混乱してる中、イチゴ鼻の人は血管を額に浮かべながらまた叫んだ。
｢お前はビッグマムに喧嘩を売ったんだ！！不法侵入、建造物破壊の罪でこの牢獄にいるんだよ！！｣
『え、あ、すいません！！』
｢すいませんじゃねぇ！！！｣
｢まあまあ落ち着けモンドール。こいつ、マジでわかってない顔してるぜペロリン♪｣
後ろで見物している長い舌の男がそう忠告する。するとイチゴ鼻の人は舌打ちをして檻からでた。
｢お前はこの後ママの前に出て裁きが下される。今のうちに神にでも祈っておくんだな、ククク｣
行くぞ、と長い舌の人が言うと皆ゾロゾロと部屋から出てしまった。私は何にも着いていけず一人部屋に取り残された。万国？裁判？ふざけるんじゃない。私はただ事故にあっただけなのに、何故こんな嫌な夢を見なきゃいけないんだ。今すぐにでも目を覚まして、元の学生生活に戻りたい。悔しさから下唇をグッと噛むと、口の中に血の味が広がる。唇はじわじわと痛み出し、私はあることに気が付いた。
もしかして、これは夢じゃない？

｢まだあの罪人は来ないのかい！｣
｢それがママ、あいつ街を壊した自覚がないんだよ。ビッグマム海賊団のことも万国のことも知りやしねえんだ！｣
｢とんでもねぇ田舎から来ちまったのかいその女は！それよりもあの罪人を今すぐおれの元に叩き出しな！｣
｢あ、あぁ分かったよママ！｣
ペロスペローはカンカンに怒るビッグマムを振り返りながら部屋を出ていった。
｢どうだった、ペロス兄｣
｢今すぐ連れてこいだとよ、ママはカンカンに怒ってるぜペロリン♪｣
｢そう…けどあの状態じゃ情報を吐き出させることすらできないでしょうね…かなり混乱しているみたいだし｣
｢うむ…もしかしたら記憶喪失なんてこともありえるかもしれないなペロリン♪｣
ガレットとペロスペローは歩きながら頭を捻った。あの女が一体どこから来たのか。目的はなんなのか。あのとぼけ方は演技なのかそれとも素か。実際に問い質してみなければ分からない。しかし問い質したとしてあの混乱状態じゃまず無理だ。何はともあれビッグマムの命令のため、ペロスペローは逆らうことができなかった。罪人の部屋、すなわち本に入りペロスペローは檻を開ける。
｢出ろ、ママがお呼びだ｣