｢もう夕方になっちまった。明日は島の半分を案内するから、楽しみにしてろよ｣
『はい、ありがとうございます』
ペロスペローさんが泊まる別荘まで案内してくれた。ぺこり、とお辞儀をするとペロスペローさんも帽子を軽くあげて去っていった。自分の世界では見れないようなポップな街に心の興奮が抑えられないまま後ろを振り返るとドアを勢いよく開けたプリンちゃんとぶつかった。
｢きゃあ！｣
『ぎゃっ』
プリンちゃんはクラリ、と後ろによろけただけだったが私は思いっきり後ろに倒れた。中学の頃柔道の授業があってよかった。受け身をとって最悪の事態は逃れた…気がする。
｢夢子ちゃん！？ごめんなさい！私ったら…｣
『こちらこそごめん…ちゃんと後方確認すべきだった…』
ドアの前には人がいる。よくバイト先で習ったその言葉を今思い出す。
｢怪我はないかしら？とりあえず中に入って｣
私はプリンちゃんに手を引かれドアの奥へと進んだ。
カカオ島とはまた違った建物の造形に目を惹かれつつ、プリンちゃんにボディチェックをされている。
｢よかった、怪我はないみたい｣
足元まで念入りに見つめていたプリンちゃんが立ち上がり、にっこりと笑う。
｢大事な花嫁さんを傷付けちゃったら、兄さんたちに怒られちゃうわ｣
『そんな大丈夫だよ、すぐ治るし…』
｢もう！もっと自分を大事にしなきゃダメ！｣
ぷーっ、とふくれっ面をしてみせるプリンちゃんにごめんごめん、と平謝りするとプリンちゃんはすぐに優しい顔に戻った。
｢どう？ペロス兄さんとは仲良くなれた？｣
『ひどいよプリンちゃん置いてくなんて』
｢ごめんなさい、こうでもしないとずっと私を通して兄さんと話してそうで｣
『確かにそうだけどさ…』
口篭りながらプリンちゃんの質問の答えを探るためにペロスペローさんのことを思い出す。飴くれて律儀に案内してくれて街の人に囲まれて…
『優しい人だったよ、ペロスペローさん』
｢でしょ？私も小さい頃よくお世話になったの｣
プリンちゃんは言いづらそうに少し目を逸らす。
｢小さい頃は兄弟で助け合うのが普通だったから…｣
そうか、王女様だからママ直々で育てられてはいないんだ。プリンちゃんの少し悲しげな顔を見て、なんだかこちらまで悲しくなってきてしまう。
『プリンちゃん…』
｢でも寂しくなんてないわ。兄弟はいい子ばかりだし、何より夢子ちゃんもこれから兄弟になるわけだから｣
にっこりと笑うプリンちゃんだが、少し寂しさが残ってるように見えた。