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階段売り物語

「ありがとうございました。失礼します」
 今日も一つ無事に案件を終えた所である。この「伸縮する階段」を手に入れてから、多忙を極めていたがこの週末はゆっくり過ごせそうだ。
 愛想がない事は自覚しているが、どんなに笑顔を作ろうとしても無理だったので諦めている。理由は解っているつもりだ。
 顧客の中にはやはり不快に思う人もいる為、最初の打ち合わせで了承を得る様にしている。それでも何かしら言われることもある。だが、笑えない理由については顧客には関係ないので黙っている。もう何年も経っているのに、その事については言葉が突っかえてしまうのだ。それなら無理に話すこともない。
 考え事をしながら歩いていたせいか、無意識に距離を置いていた場所へ来てしまった。出来れば来たくはなかった場所だ。
「はぁ……。たまには顔を出せってことか」
 週末は予定もないし、久しぶりに墓参りにでも行くか。
 ここは幼い弟が足を滑らせた場所だ。直ぐに病院に行ったが、帰ってはこれなかった。近くに居たのに助けられなかった俺は、何かが抜け落ちたように数年を過ごした。気付いた時には笑う事が出来なくなっていた。最近は多忙を理由に避けていたが、ここに来たのは弟からの催促かもしれない。
 仕方ない。明日は弟が眠る所に行くとしよう。

 弟からの催促だったのか。
 それとも別の何かからの誘いだったのか。
 黒塚段平くろつかだんぺいはまだ知る由もない。
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