序章
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おれの家族関係は良いとは言えない。
父は母やおれ、兄にさえ暴力を振るうし、いつも酒に酔っ払っている。兄弟が稼いだ金はほとんど酒代になってしまう。街の連中に聞けば口を揃えて「クズ」と称するだろう。
母は優しい女だった。優しすぎて、父からの暴力も反抗さえできず死んでいった。どこぞの誰かが「聖女」だと言うくらいには、誰にでも甘くて世間知らずな女だった。口癖のように、酷く父に当たられた夜やおれが辛い目にあっているとき、「天国」の存在を語った。「気高く、誇り高く生きれば天国へ行ける」のだと。ぼろぼろの服を着て、痣と傷でまみれた姿で、どうしてそんな言葉が信じられるだろう?母は病気で死んだときも最期までそう信じていたのだろうか?自分が知る限り、もっとも気高い人であったけれど、天国へ行けたとは思えない。
唯一の兄弟である兄は、父とも母とも似ていない。外見は確かに受け継いでいるが、(似ている兄弟だと言われるし)クズでも聖人でもない。いや、世間的には善人だろう。善人すぎるくらいだ。けれど、自分が不利になるようなことはしないし、悪人とだって付き合っている。お金も稼ぐし、おれを何より大切にしているのは分かるから、…この世で唯一信頼出来る相手、そばにいて安心できる相手……そんなふうに言えるのだろうか?両親よりも兄に育てられた。教育は母だったけれど、貧民街での生き方や、仕事の取り方、父との関わり方だとか、ベッドの中で会話をして安心させてくれたのは兄だった。母が死んでからより一層、兄が全てを教えることになった。といっても兄は重要なこと以外は放任するので、おれはおれで自分の好きなように動いているが。
6つになったとき、兄はおれを学校へ行かせようとした。むろん父はそんなお金も余裕もないと怒ったが、どうやったのか、おれは毎日仕事をすることを条件に学校に通えることになった。兄への負担に思いやったが、ーー当たり前のように父は学費を払わないから全て兄が工面するのだーーそう伝えると「俺はお前が学ぶことが好きなのを知っている。それは素晴らしいことだ。幸い金はどうにかできる。…こっそり貯めてたからな!」と笑顔で言われ、「学校に行けない俺の代わりに行って、学んできてほしい」と頼まれては断れない。どんな仕事でその金を作ってるのかは知らないが、チャンスだった。
だけど、兄に秘密で課せられていたノルマ、クソッタレの親父が命令した週に稼がなければならない金額は、まともに学校に行ってたら無理なもので、一日の半分以上は働いていた。もちろん成績は1番だったし、態度だって良くしていたが、足りない出席日数を金で買うこともあったから、それもまた負担になった。兄に言えば改善されたのだろうが、そこまで頼るようなことは出来なかった。兄への配慮というよりプライドの問題だ。たかだか数歳しか違わない兄に頼ってこのまま生きていくのか?そんなのは弱者のすることだ。
兄がいなくても、たった一人でも生きていける。それが!このおれなのだから。
父は母やおれ、兄にさえ暴力を振るうし、いつも酒に酔っ払っている。兄弟が稼いだ金はほとんど酒代になってしまう。街の連中に聞けば口を揃えて「クズ」と称するだろう。
母は優しい女だった。優しすぎて、父からの暴力も反抗さえできず死んでいった。どこぞの誰かが「聖女」だと言うくらいには、誰にでも甘くて世間知らずな女だった。口癖のように、酷く父に当たられた夜やおれが辛い目にあっているとき、「天国」の存在を語った。「気高く、誇り高く生きれば天国へ行ける」のだと。ぼろぼろの服を着て、痣と傷でまみれた姿で、どうしてそんな言葉が信じられるだろう?母は病気で死んだときも最期までそう信じていたのだろうか?自分が知る限り、もっとも気高い人であったけれど、天国へ行けたとは思えない。
唯一の兄弟である兄は、父とも母とも似ていない。外見は確かに受け継いでいるが、(似ている兄弟だと言われるし)クズでも聖人でもない。いや、世間的には善人だろう。善人すぎるくらいだ。けれど、自分が不利になるようなことはしないし、悪人とだって付き合っている。お金も稼ぐし、おれを何より大切にしているのは分かるから、…この世で唯一信頼出来る相手、そばにいて安心できる相手……そんなふうに言えるのだろうか?両親よりも兄に育てられた。教育は母だったけれど、貧民街での生き方や、仕事の取り方、父との関わり方だとか、ベッドの中で会話をして安心させてくれたのは兄だった。母が死んでからより一層、兄が全てを教えることになった。といっても兄は重要なこと以外は放任するので、おれはおれで自分の好きなように動いているが。
6つになったとき、兄はおれを学校へ行かせようとした。むろん父はそんなお金も余裕もないと怒ったが、どうやったのか、おれは毎日仕事をすることを条件に学校に通えることになった。兄への負担に思いやったが、ーー当たり前のように父は学費を払わないから全て兄が工面するのだーーそう伝えると「俺はお前が学ぶことが好きなのを知っている。それは素晴らしいことだ。幸い金はどうにかできる。…こっそり貯めてたからな!」と笑顔で言われ、「学校に行けない俺の代わりに行って、学んできてほしい」と頼まれては断れない。どんな仕事でその金を作ってるのかは知らないが、チャンスだった。
だけど、兄に秘密で課せられていたノルマ、クソッタレの親父が命令した週に稼がなければならない金額は、まともに学校に行ってたら無理なもので、一日の半分以上は働いていた。もちろん成績は1番だったし、態度だって良くしていたが、足りない出席日数を金で買うこともあったから、それもまた負担になった。兄に言えば改善されたのだろうが、そこまで頼るようなことは出来なかった。兄への配慮というよりプライドの問題だ。たかだか数歳しか違わない兄に頼ってこのまま生きていくのか?そんなのは弱者のすることだ。
兄がいなくても、たった一人でも生きていける。それが!このおれなのだから。