序章
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このセオ・ブランドーは小さい頃から要領がよかった。そりゃあ成人の知識や経験を持っているのだから当たり前だが、奢らずにより知識や新たな経験を求めたことが我ながら素晴らしいと思う。なんでも知っているように振る舞うのではなく、どんな相手にも教えを乞う姿勢を持ち、かつ自分を弱く見せないこと。彼に(もしくは彼女に)、自分が利益をもたらす存在だと思わせること。そういうことは俺にとって難しくはなかった。
「セオ、ディオを見てやって!」
台所から母の声が聞こえる。赤ん坊の泣き声が響いていた。
「もう傍にいるよ、ママ!」
つい半年前弟が生まれた。金色の髪と琥珀の瞳は間違いなく母親似だーー俺が鏡の前に立てるようになったあと、黒髪黒目の自分に少しばかりガッカリしたーー、泣き続ける弟を抱き上げておしめか食事か睡眠か、ネズミにでも襲われたのか確かめる。何も異常はない。異常がなくても泣くのが赤ん坊だ。経験してるんだから分かる。子守りを唄いながら抱いてやると落ち着いてくる。すやすやと寝息をたてる。
俺がこの世界を受け入れたのはいつ頃か?最近じゃあない。まあ、1歳のときには受け入れた。あんまりにもあんまりな衛生観念や社会通念だとか。なんたって世界人権宣言以前の世界だ。夜は蝋燭、電気はない。貧困層の子どもなんて生きていくのも辛い。俺は21世紀の人間だし。そうは言ってもどうにもならないので、粛々と現状を受け入れてせめて自分だけでもと、体を動かせるようになってからはこっそり水浴びしたり家の中を清潔にしたりしてるのだが(それに気づいた母はとても喜ぶ)、まだ5歳の俺は仕事も家事手伝い程度だし、危険なことはさせられていない。今後が恐ろしいけれど覚悟は出来ている。自分の時代とのズレは精神的負担が大きく日々憔悴していくが、母は優しいし、とりあえず食べるものはある。悩みといえば、父親は俺の時代ならすぐにでも通報してやりたいくらいには酷い人間だということだろう。
今はこの遅れた時代を生きることで精一杯だが、昔考えていたある可能性がほとんど確信になっていた。自分の知ってる本の世界。ジョジョという名前の主人公が活躍する世界。俺はその世界で生まれたらしい。ということは、タイムスリップしたのではなく、異世界に転生してしまったということだ。確信したのは弟が生まれたことと、彼の名前がディオ・ブランドーなこと。ついでに最近父がある貴族を助けて(むろん本当のところは事故にあった彼らから盗みを働こうとしたのだが)お礼に金品を頂いたことーーそしてその貴族はジョースター家である、ということだ。どう考えても間違いない。なんだか知らないが運命を感じるし、そういうものだと魂が理解している。たぶん。
じゃあこのいたいけな赤ん坊は将来悪鬼となり、世界を支配しようとするのだろうか?林檎のように頬を染めた愛らしい姿からは想像できない。もしそうならば、……俺は助けなければならない、彼を。彼を失う未来は回避しなければならない。この世界がジョジョの世界であり、俺がブランドーの名を持つのならば、絶対に守らなければならないのだ。運命に逆らって……
まだ彼は赤ん坊だが、不思議なことに彼との将来を思い描けるし、何よりも大切な存在であるということは理解出来た。それは父親からの逃避か、唯一救いの存在である母と似ていたからか、ディオという特別な名前を持つからかは分からない。それでも俺は、彼が胎児のときから、彼のために生きると決めていたのだ。弟だからだろうか?それとも不思議な運命によって定められていたことなのだろうか。
どちらにせよ、目下の目標は彼を健やかに育てることだ。もしも本のままにこの世界が進むのなら、母は近々死んでしまうし、父も死ぬ。そして彼はジョースター家に養子に入るのだ。残念なことに俺が知っているジョジョの知識はディオがジョースター家に養子に入ること(何故全て読んでいなかったんだ?)と、ディオが将来にDIOと名乗って悪役として生きることくらいだ。彼がどういう過程を辿ってその道に行くのかは分からない。とうぶん彼が死なないというのならあまり動かない方がいいのかもしれない。本には自分のような存在はいなかった。しかし、俺だってみすみす親が死ぬのは見ていられない。とくに母親が死ぬのはこの子だって望んでいないだろう。彼が望んでいないことは俺が好きなようにする。もし、この子が父や養父、あのジョジョの死を望むのなら、それはまた、そのときだ。
「セオ、ディオを見てやって!」
台所から母の声が聞こえる。赤ん坊の泣き声が響いていた。
「もう傍にいるよ、ママ!」
つい半年前弟が生まれた。金色の髪と琥珀の瞳は間違いなく母親似だーー俺が鏡の前に立てるようになったあと、黒髪黒目の自分に少しばかりガッカリしたーー、泣き続ける弟を抱き上げておしめか食事か睡眠か、ネズミにでも襲われたのか確かめる。何も異常はない。異常がなくても泣くのが赤ん坊だ。経験してるんだから分かる。子守りを唄いながら抱いてやると落ち着いてくる。すやすやと寝息をたてる。
俺がこの世界を受け入れたのはいつ頃か?最近じゃあない。まあ、1歳のときには受け入れた。あんまりにもあんまりな衛生観念や社会通念だとか。なんたって世界人権宣言以前の世界だ。夜は蝋燭、電気はない。貧困層の子どもなんて生きていくのも辛い。俺は21世紀の人間だし。そうは言ってもどうにもならないので、粛々と現状を受け入れてせめて自分だけでもと、体を動かせるようになってからはこっそり水浴びしたり家の中を清潔にしたりしてるのだが(それに気づいた母はとても喜ぶ)、まだ5歳の俺は仕事も家事手伝い程度だし、危険なことはさせられていない。今後が恐ろしいけれど覚悟は出来ている。自分の時代とのズレは精神的負担が大きく日々憔悴していくが、母は優しいし、とりあえず食べるものはある。悩みといえば、父親は俺の時代ならすぐにでも通報してやりたいくらいには酷い人間だということだろう。
今はこの遅れた時代を生きることで精一杯だが、昔考えていたある可能性がほとんど確信になっていた。自分の知ってる本の世界。ジョジョという名前の主人公が活躍する世界。俺はその世界で生まれたらしい。ということは、タイムスリップしたのではなく、異世界に転生してしまったということだ。確信したのは弟が生まれたことと、彼の名前がディオ・ブランドーなこと。ついでに最近父がある貴族を助けて(むろん本当のところは事故にあった彼らから盗みを働こうとしたのだが)お礼に金品を頂いたことーーそしてその貴族はジョースター家である、ということだ。どう考えても間違いない。なんだか知らないが運命を感じるし、そういうものだと魂が理解している。たぶん。
じゃあこのいたいけな赤ん坊は将来悪鬼となり、世界を支配しようとするのだろうか?林檎のように頬を染めた愛らしい姿からは想像できない。もしそうならば、……俺は助けなければならない、彼を。彼を失う未来は回避しなければならない。この世界がジョジョの世界であり、俺がブランドーの名を持つのならば、絶対に守らなければならないのだ。運命に逆らって……
まだ彼は赤ん坊だが、不思議なことに彼との将来を思い描けるし、何よりも大切な存在であるということは理解出来た。それは父親からの逃避か、唯一救いの存在である母と似ていたからか、ディオという特別な名前を持つからかは分からない。それでも俺は、彼が胎児のときから、彼のために生きると決めていたのだ。弟だからだろうか?それとも不思議な運命によって定められていたことなのだろうか。
どちらにせよ、目下の目標は彼を健やかに育てることだ。もしも本のままにこの世界が進むのなら、母は近々死んでしまうし、父も死ぬ。そして彼はジョースター家に養子に入るのだ。残念なことに俺が知っているジョジョの知識はディオがジョースター家に養子に入ること(何故全て読んでいなかったんだ?)と、ディオが将来にDIOと名乗って悪役として生きることくらいだ。彼がどういう過程を辿ってその道に行くのかは分からない。とうぶん彼が死なないというのならあまり動かない方がいいのかもしれない。本には自分のような存在はいなかった。しかし、俺だってみすみす親が死ぬのは見ていられない。とくに母親が死ぬのはこの子だって望んでいないだろう。彼が望んでいないことは俺が好きなようにする。もし、この子が父や養父、あのジョジョの死を望むのなら、それはまた、そのときだ。