メイドにお弁当を頼んでいると、ちょうどジョースター卿が通りがかった。
「どこかに行くのかね？ふたりとも」
「川へ泳ぎに行こうと思ったんだ。天気もいいから」
「ふたりでかい」
「そうだよ、ディオは水泳をあまりしたことがないからぼくが教えてあげるんだ」
ジョナサンはいささか自慢するように言った。ジョースター卿はそんなジョナサンも、ふたりで遊びに行くことも好ましく思った。
「そうなのか。たまに遊ぶことも大切だ。ここの川は澄んでいるし、春の暖かさをの中で泳ぐのは気持ちがいいだろう。しかし、春は天気も崩れやすい。雨の降った川は危ないからくれぐれも、天気が悪くなったら帰ってくるように」
「はい。わかってるよ」
「そうだ。ダニーも連れて行ってやりなさい。最近一緒に遊んでいないだろう」
ジョナサンは驚いた。ダニーのことは、初めに彼に噛まれたときよりはずいぶん嫌いでなくなっていたが苦手意識はまだ持っていた。父が無理やり色んなところに一緒に行かせたり、世話をさせているうちに、本来は人に噛み付いたり危害を与えるような犬ではないことに気づいた。しかし、それでもジョナサンは初めの恐怖心とこれまでにダニーを虐げてきた自分について反省することに消極的であった。
「でも、ディオも一緒にいるんだよ」
「ディオくん、君はダニーが怖いかい」
「まさか！ぼくはこの犬に初めは驚いて酷いことをしてしまったけれど、今では優しい犬だと分かっているから平気です」
ジョナサンはぎょっとしてディオを見つめた。ディオはジョナサンの前ではダニーについて貶すことを隠さなかった。つい先日も「犬なんて買うもんじゃあない」と言っていた。ディオはジョナサン以外の人間と話すときに仮面を被っているようだった。
「ディオくんもいいと言っていることだし、お前も早く慣れなさい。彼は本当に優しいこなのだから……」
後ろからやってきたダニーがジョースター卿の足元近くに寄ってきた。ジョースター卿は大きな体躯を縮ませてダニーを撫でる。彼は喜んで尻尾を振った。
「じゃあ、…ダニー。おいで」
言うとダニーはジョナサンの周りをくるくると回って飛び上がった。思わずジョナサンは笑ってしまい、彼と一緒に行くのも悪くないと感じた。
「ふたりとも夕方には帰ってきなさい」
ジョースター卿は召使いを1人連れていくように言ったが、ジョナサンもディオも嫌がる素振りを見せたため、遠慮した。天気の件で不安に思ったが、ふたりとも10を越えているのだから多少冒険させてもかまわないと考えたのだ。