中学生
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今日はざあざあ雨の降る寒い日で、窓の外を眺めてもどんよりとしたくらーい雲が広がっているのが見えるだけ。ちっとも気が晴れやしない。
「なぁレイラ今日も休みなのか?」
「うん…」
「そっかぁ。今度の大会来れねぇかなって思ったんだけど…マイカは来れそうか?」
「ごめんね、用事があって」
「まじかー残念」
山本くんはひらひら手を振って席に戻っていった。花ちゃんと京子ちゃんが心配そうな目を私に向ける。レイラはもう3日ほど学校を休んでいた。
「レイラちゃん、早く良くなるといいね」
「…うん」
朝晩の冷え込みのせいか、帰国後の環境の変化のせいか、レイラはだいぶ体調を崩している。恭弥くんが退院する日、食事の約束をしていたのに行けなくなってしまってレイラ本人が1番残念がっていた。その時はただの風邪だしすぐ治るもんって言ってたけど。未だに熱が下がらない。
「ちょっと、応接室に行ってくるね」
「いってらっしゃい」
「ヒバリに咬み殺されないように気をつけなさいよ」
「あれ?黒川、マイカさっきまでここに居なかった?」
「応接室に行ったわよ」
「え゛っ」
花の言葉にツナは目を白黒させた。
「これから授業なのに。居なくなるなんて珍しいよね。レイラはしょっちゅう居なくなるけど」
「マイカは珍しいわよね。レイラは……あの子、体が弱いからなんじゃないのかな」
「そうなの?」
「男子は体育別だから知らないか。レイラほとんど見学なの。居ない時もあるしその時は応接室行ってるんだろうね」
「そうなんだ……」
知らなかった。全然気付かなかった。
だってそんなそぶりちっともなかったから。ツナは自分が鈍いなんてまあ知ってはいたけど。
そんな会話をする花とツナを獄寺が人知れず見つめていた。
雨の日の学校は暗い。しかも床が滑る。じめじめした廊下をひとりで応接室に向かう。いつもはレイラがいっしょだから、雨で周囲の音が掻き消されるのも相まってすごく静かに感じた。
サボっちゃったぁ。恭弥くん怒るかな。怒んないよね。
「…………」
「えへ」
怒んなかった。
ノックしてドアを開けて目が合った恭弥くんは何も聞かずにソファへ促してくれた。
暖かいココアを貰ってひと息つく。
「レイラそんなに悪いの」
「……薬も吐いちゃうくらいには」
「そう」
難儀なものだね、そう静かに呟いた恭弥くんは書類に目を落とした。例の一件が終わってから人手不足や公共物の損壊で忙しいらしい。
「ねぇマイカ」
「ん?なぁに」
「君の親に話があるんだけどいつなら居る」
「明日の夕方なら居ると思うよ」
「わかった」
◇◇◇
翌日、雲雀は紫雲邸にいた。
この家の当主に話があったのは本当だ。少し用立てて欲しいものがあって交渉をしに来たのだ。決して彼女の見舞いにわざわざ出向いた訳ではない。決して。
紫雲家の庭を横目に廊下を進む。レイラの寝かされている部屋は奥の奥、侵入者が1番入り込みにくいところにある。
「入るよ」
返事はない。寝ているのだろうか。
入るなとは言われなかったので勝手に障子を開いた。なんだこの部屋暑い。暖房と加湿器がフル稼働している。
レイラは自分の左腕を枕にして横を向いて寝ていた。額に乗せられていたらしい布がずり落ちている。苦しそうに寄せられた細い眉が具合の悪さを感じさせた。………でもなんで薄着で寝てるんだ。相変わらず剥き出しの白い肩に怒り通り越して呆れてしまう。とりあえず肩まで布団をかけてやって、布を拾って水の入った桶にひたす。
「あら恭弥坊ちゃん」
「っ!?」
ぽちゃん。
布を絞っていると音もなく気配もなく現れたユリに思わず桶に布を落としてしまった。見られたくないところを見られた僕にユリは「起こさないでくださいね、やっと咳が止まったところですので」などと宣って、冷却シートを手渡してきた。
「落ちてしまうのでこちらにしてあげてください」
「なんで僕が」
「折角ですから」
せっかくってなんだ。
ユリが加湿器に水を足し始めたので、レイラの額に冷却シートを貼ってやることにした。前髪をよけて額に触れるとだいぶ熱い。フィルムを剥がしてぺたりと額に貼り付けて、上から抑えたらジェル越しにぬるい体温が伝わる。険しかった眉がましになった気がして、ほんの少しでも心地よければいいと思った。
「この部屋暑くない」
「寝苦しさで布団をお脱ぎになるので部屋を暖かくしています」
当然のように答えるユリ。
布団を脱ぐのは部屋が暑いからじゃないのか。
「適正な温度です」
………そう。
「いつまでいらっしゃるので?そろそろ身体を拭いて差し上げたいのですが………見たいんですか?」
「帰る」
誰かの冷たい手が頬を撫でて、レイラは目を開いた。
「……ママ」
「起こしてしまいましたね。具合はどうですか?」
「昨日よりかは、ラク」
「それは良かった」
「パパ………居たんだ」
「さっきからな。何か食べられそうなら桃を持って来させよう。恭弥が商談の礼にって置いていった。季節じゃないから甘くないかもしれないけどなんて言ってたが、きっとお前宛だぞ」
「そう…なんだ。たべる。……………マイカは?うつってない…?」
「元気にしているよ」
「そう、よかった……」
マイカもちょくちょく覗きに来てはいるが、風邪をひいた姉に近づくことは許されていなかった。感染ってもレイラみたいに重症化することなんてあまりないけども。温室の花のように大事に育てられているから2人ともあまり抗体を持っていないのだ。その双子に最初に外遊びを教えたのが雲雀だったりもする。両親は雲雀との縁は良いものだと思っていた。良き兄であり、良き友人である雲雀は、双子の両親から多大なる信頼を寄せられている。大事な娘の私室の入室を許されるくらい。
この頃将来身内になるだなんて誰も思っちゃいなかった。
「なぁレイラ今日も休みなのか?」
「うん…」
「そっかぁ。今度の大会来れねぇかなって思ったんだけど…マイカは来れそうか?」
「ごめんね、用事があって」
「まじかー残念」
山本くんはひらひら手を振って席に戻っていった。花ちゃんと京子ちゃんが心配そうな目を私に向ける。レイラはもう3日ほど学校を休んでいた。
「レイラちゃん、早く良くなるといいね」
「…うん」
朝晩の冷え込みのせいか、帰国後の環境の変化のせいか、レイラはだいぶ体調を崩している。恭弥くんが退院する日、食事の約束をしていたのに行けなくなってしまってレイラ本人が1番残念がっていた。その時はただの風邪だしすぐ治るもんって言ってたけど。未だに熱が下がらない。
「ちょっと、応接室に行ってくるね」
「いってらっしゃい」
「ヒバリに咬み殺されないように気をつけなさいよ」
「あれ?黒川、マイカさっきまでここに居なかった?」
「応接室に行ったわよ」
「え゛っ」
花の言葉にツナは目を白黒させた。
「これから授業なのに。居なくなるなんて珍しいよね。レイラはしょっちゅう居なくなるけど」
「マイカは珍しいわよね。レイラは……あの子、体が弱いからなんじゃないのかな」
「そうなの?」
「男子は体育別だから知らないか。レイラほとんど見学なの。居ない時もあるしその時は応接室行ってるんだろうね」
「そうなんだ……」
知らなかった。全然気付かなかった。
だってそんなそぶりちっともなかったから。ツナは自分が鈍いなんてまあ知ってはいたけど。
そんな会話をする花とツナを獄寺が人知れず見つめていた。
雨の日の学校は暗い。しかも床が滑る。じめじめした廊下をひとりで応接室に向かう。いつもはレイラがいっしょだから、雨で周囲の音が掻き消されるのも相まってすごく静かに感じた。
サボっちゃったぁ。恭弥くん怒るかな。怒んないよね。
「…………」
「えへ」
怒んなかった。
ノックしてドアを開けて目が合った恭弥くんは何も聞かずにソファへ促してくれた。
暖かいココアを貰ってひと息つく。
「レイラそんなに悪いの」
「……薬も吐いちゃうくらいには」
「そう」
難儀なものだね、そう静かに呟いた恭弥くんは書類に目を落とした。例の一件が終わってから人手不足や公共物の損壊で忙しいらしい。
「ねぇマイカ」
「ん?なぁに」
「君の親に話があるんだけどいつなら居る」
「明日の夕方なら居ると思うよ」
「わかった」
◇◇◇
翌日、雲雀は紫雲邸にいた。
この家の当主に話があったのは本当だ。少し用立てて欲しいものがあって交渉をしに来たのだ。決して彼女の見舞いにわざわざ出向いた訳ではない。決して。
紫雲家の庭を横目に廊下を進む。レイラの寝かされている部屋は奥の奥、侵入者が1番入り込みにくいところにある。
「入るよ」
返事はない。寝ているのだろうか。
入るなとは言われなかったので勝手に障子を開いた。なんだこの部屋暑い。暖房と加湿器がフル稼働している。
レイラは自分の左腕を枕にして横を向いて寝ていた。額に乗せられていたらしい布がずり落ちている。苦しそうに寄せられた細い眉が具合の悪さを感じさせた。………でもなんで薄着で寝てるんだ。相変わらず剥き出しの白い肩に怒り通り越して呆れてしまう。とりあえず肩まで布団をかけてやって、布を拾って水の入った桶にひたす。
「あら恭弥坊ちゃん」
「っ!?」
ぽちゃん。
布を絞っていると音もなく気配もなく現れたユリに思わず桶に布を落としてしまった。見られたくないところを見られた僕にユリは「起こさないでくださいね、やっと咳が止まったところですので」などと宣って、冷却シートを手渡してきた。
「落ちてしまうのでこちらにしてあげてください」
「なんで僕が」
「折角ですから」
せっかくってなんだ。
ユリが加湿器に水を足し始めたので、レイラの額に冷却シートを貼ってやることにした。前髪をよけて額に触れるとだいぶ熱い。フィルムを剥がしてぺたりと額に貼り付けて、上から抑えたらジェル越しにぬるい体温が伝わる。険しかった眉がましになった気がして、ほんの少しでも心地よければいいと思った。
「この部屋暑くない」
「寝苦しさで布団をお脱ぎになるので部屋を暖かくしています」
当然のように答えるユリ。
布団を脱ぐのは部屋が暑いからじゃないのか。
「適正な温度です」
………そう。
「いつまでいらっしゃるので?そろそろ身体を拭いて差し上げたいのですが………見たいんですか?」
「帰る」
誰かの冷たい手が頬を撫でて、レイラは目を開いた。
「……ママ」
「起こしてしまいましたね。具合はどうですか?」
「昨日よりかは、ラク」
「それは良かった」
「パパ………居たんだ」
「さっきからな。何か食べられそうなら桃を持って来させよう。恭弥が商談の礼にって置いていった。季節じゃないから甘くないかもしれないけどなんて言ってたが、きっとお前宛だぞ」
「そう…なんだ。たべる。……………マイカは?うつってない…?」
「元気にしているよ」
「そう、よかった……」
マイカもちょくちょく覗きに来てはいるが、風邪をひいた姉に近づくことは許されていなかった。感染ってもレイラみたいに重症化することなんてあまりないけども。温室の花のように大事に育てられているから2人ともあまり抗体を持っていないのだ。その双子に最初に外遊びを教えたのが雲雀だったりもする。両親は雲雀との縁は良いものだと思っていた。良き兄であり、良き友人である雲雀は、双子の両親から多大なる信頼を寄せられている。大事な娘の私室の入室を許されるくらい。
この頃将来身内になるだなんて誰も思っちゃいなかった。
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