中学生
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恭弥くんの退院が決まりました!
はい拍手!!
ぱちぱちと手を叩く音が病室に響き渡る。拍手してるのはマイカだけで、恭弥くんは無視して本を読んでいる。
そんな恭弥くんのベッドにバフっと手を置いて、顔を覗き込む。無視しないで。一瞬ビクッとした恭弥くんはこちらをちらっと見て本に目を戻す。ごめんね、思ったより大きな音がしてわたしもびっくりした。白いシーツの上をぽんぽん叩いてみる。ここは多分太ももの上。仕方がない、みたいにため息をついた恭弥くんが本を閉じて枕元に置いた。
「何」
「退院のお祝いにお寿司食べに行こうよ」
「お寿司!」
マイカがニコニコして両手を挙げる。わたし達、恭弥くんが退院したら遊びに連れて行ってもらおうとしてたの。でも、復帰してすぐ風紀委員会の仕事が沢山あるみたいだから。
「ね、いいでしょう?1日開けてって言ってるんじゃないの。夜だけとか、お昼だけでいいから」
恭弥くんが無言でわたしの頭に手を伸ばしてきて、その手を引っ込めた。最近よくされるの。首を傾げてしまう。
「…いいよ」
「やったぁ!」
マイカと一緒にシーツの上に上半身を預ける。恭弥くんが珍しく焦ったように「ちょっと」と声をあげた。くすくす笑って足に抱きついてみたら「君たちね」って声が怒気を含み始めたのでさっと退いた。恭弥くんはほっとしたような呆れたようなやれやれという顔をした。
「真面目な話、早く治ってよかった」
「普通はもっと時間がかかるってお医者さんが言ってたよ」
「成長期ってすごいね」
「僕は生き物としての性能が違うんだよ」
ドヤ顔の恭弥くん。でもわたし達知ってるのよ。
「風邪で入院したくせに」
「あれは周りが心配性過ぎたから入院してやったんだよ。…なんで知ってんの」
「優羅が言ってた」
恭弥くんの眉が釣り上がる。余計なこと言いやがってって顔だ。
「優羅ちゃんが言わなくても、きっとユリさんが教えてくれたよね?」
「そうだよね、ひゃっ!?」
マイカと向かい合って頷きあっていたらなにかが後ろ頭を掠めた。振り向くとその何かは恭弥くんの腕に止まっていた。ふわふわした黄色い小鳥だ。それを見て思わずマイカに抱きついてしまう。
「大丈夫だよ。安全な鳥だから」
「なにを根拠に!?」
「見たことない鳥だね。変わった嘴の形してる…」
マイカの手にもう一羽乗ったのを見てやや絶望的な気持ちになった。小鳥を刺激しないようにそっとマイカから離れる。彼女の頭の中ではきっと今までみた図鑑やレポートの検索がなされているに違いない。
「ヒバリ!ヒバリ!」
「っ!?」
「わぁすごい!おしゃべりまで出来るの?」
目を輝かせるマイカに何故か得意げな顔をした恭弥くんは小鳥に何かを促した。小鳥は流暢に高い声で並中の校歌を歌い始めた。わあすごーいと今度は素直に感心していたら、わたしの頭の上に何かが乗っかった。何か細いものが髪の毛に引っかかる気配。やだ、泣いちゃう。助けてと恭弥くんを見れば笑っていた。笑い事じゃないから、早くなんとかして。
「大丈夫だって言ってるのに」
「わたしは大丈夫じゃないの」
恭弥くんは右腕を伸ばしておいでと小鳥に声をかけた。わたしのこめかみあたりに持ってこられた指を見つめながら早く早くと祈る。動物は嫌いじゃないしかわいいと思う。でも、外にいる動物は苦手だった。小さい頃から近寄るなと言われてきたし。頭の上を歩かれるとぞわぞわした。恭弥くんの手に小鳥が飛び乗ったのを見て胸をなで下ろす。
恭弥くんは小鳥にわたし達の名前なんか教え込んでいる。すぐにわたし達の名前を呼び始めた小鳥たち。すごいねぇ。偉いねぇ。でもあんまり近寄ってこないで、お願い。
「君の家の人間は動物は何触ってるかわからないからどんな病原菌持ってるかわからないなんて言うけど、君が普段遊んでる男の方が何触ってるかわかったものじゃないよ」
「え?」
「失礼」
「ユリ」
「お迎えに上がりました」
ユリはわたしに会釈をして、恭弥くんを見つめた。
「何だい?」
「いえ」
「わたし達帰るね」
「はい、恭弥くん!」
マイカが小鳥をそっと恭弥くんに預けて、席を立った。頭をちょいちょいと撫でて、ばいばいと挨拶。
「じゃあ、退院した日の夜ね!」
なんて、言ってたのに。
「けほっ、こほっ、っ…」
約束を守れなかったのはわたしだった。