19.星の王子様
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年も明け、短い3学期が始まった。
身を刺すような寒さもなんのその、他愛ないおしゃべりをしながら、4人がいつものように下校しているときだった。
進行方向の数十メートル先に、派手な縦縞のカラースーツを身に纏った男が3人、何やら意味ありげに顔を付き合わせている。顔の堀の深さと肌の色から白人だろう。嫌な予感がして、4人はそれぞれ顔を見合わせた。
「とりあえず、知らんふりして手前で迂回!」
しきみの提案に、全員うんうんと頷いた。並盛町は治安が悪い。学校の中も外も。変な事件がしょっちゅう起こるし、海外からはマフィアがわんさかやってくる。それに、ほとんど巻き込まれているわけだが。
とりあえず男達を見ないようにして、手前の角を曲がろうとした4人だったが、
「おっと、君たち」
勘づかれた。3人の男が、行く手を阻む。
「な、なんでしょうか……?」沙良が恐る恐る答える。
「君たち、ボンゴレファミリーの選ばれし4人って知っているかな?」
知っているもなにも、ご本人である。大正解だ。だがやすやすとそれを教えるほど、4人は愚鈍ではない。
「えーと、なんですか、それ? スパゲッティ?」
しきみがわざとおどけた声を出す。男達はいぶかしげな表情を崩さず、4人から決して目をはなそうとしない。
「おかしいな……いつもこの時間帯に通るって情報だぞ」
「特徴も合ってるしな」
一見どこにでもいるような学生である自分達に、そこまでの価値があるのだろうか。疑問はつきないが、男達は教えてくれそうにない。
鳴海は意を決して、一歩踏み出した。
「あの、人違いですよ。俺ら急いでいるんで、これで」
そう大声で言って、鳴海は男達に背を向けるようにくるりと振り返った。
「待て!」
男達の一人が、鳴海の腕をとっさにつかむ。残りの二人が、懐から銃を取りだし、少女たちに向けた。
鳴海は手に握っていた小さなステッキの、ボタンを押した。鳴海の持っていたそれはみるみるうちに大槍に変貌する。しきみのステッキは身幅ほどあるチャクラム、真琴のは蛇腹剣になった。
真琴が蛇腹剣を大きく振ると、重厚な音と共に、鎖状になった刃が道路に叩きつけられ、地割れのようなヒビをつける。
武器を手に睨みを利かした3人に、(沙良は今のところ非戦闘要員なので、いつでも治癒能力が使えるように後方にて身構えていた)男達は若干動揺したものの、やはり銃を手にしているからか余裕のある態度だ。
「やはりお前達がボンゴレの至宝、選ばれし4人の少女達だな」
「体に穴開けたくなけりゃ、ついてこい」
銃口をゆらり、と一人一人に向けてくる。
(あたしの能力で、銃弾って防げるのかな)
しきみは必死に思案した。しきみの能力は風を操る他に、空気の透明なドーム型のバリアを作り上げることもできるのだ。前に三浦ハルを弾いてしまった(※10.参照)状況を見るに、自分の周りに迫ってくるものから身を守れそうだが、果たして銃弾はどうなのか。
一触即発、両者が睨み合うはりつめた空気が流れている、ときだった。
自分達のいる後方から、新たな風が吹き始めた。自分の能力によるものではないと、しきみはすぐ気づいた。
風の正体を突き止めようと振り向こうとしたとたん、足がふわりと地面から離れたではないか。そのまま1、2メートルほど、宇宙船にいる宇宙飛行士のように4人の体が浮き上がる。
「ちょ、ちょっとしきみ、どうしたんだ!?」鳴海が叫ぶ。
「あたしじゃないってば!」
「わ、わ、浮いてる……!」沙良は足をばたつかせてあたふた。真琴が必死に宙を泳ぎ、息を切らしながら沙良の手をつかんだ。
人間がいきなり空中飛行を始め、男達はさぞ驚いていることだろうと思っていたがそうではないようだ。むしろ、ふわふわ風船のように漂う4人の後ろを凝視している。
「……?」
水中のように体が動かしにくいが、しきみは自信の風の力を借り、 身をよじって今度こそ振り向いた。
そして、見た。
そこには、どこか虚ろな目をした小さな男の子が立っていた。年は10歳前後だろうか。栗毛色の柔らかそうな髪、整った顔立ち。縞模様のマフラーを巻き、深緑のベスト、ジーパンを履いている。
一見非力そうなただの子供のようだが、あきらかに違うと思わせるのは、彼を取り巻く周りの状況である。
少年を中心に、竜巻のような風がぐるぐると立ち込め、石や木の葉といったものが不自然に浮いている。今まさに宙に放り投げられているしきみ達のように。
「え、え、君だれ?」
鳴海が呼びかける。少年は答えない。だが、
「おい、まさかそちらからお出ましとはな」
「お前も探してたぜ、フータ・デッレ・ステッレ 」
マフィアの男達は、彼の正体を知っているようだ。狙いは4人だけじゃないらしい。
少年は虚空を見つめたまま、静かに口を開いた。
「並盛中女子喧嘩ランキング1位、鳴海姐」
「え!?俺!?」
名を呼ばれ、困惑する鳴海。
「選ばれしボンゴレの4人の乙女たちの中では、いちばん強いね。攻撃するならトッドファミリーの中でも、あまり戦闘力が高くないエンゾがおすすめだよ」
彼の声は大きくはないが、まるでコンサートホールの反響音のように脳裏に届く。3人の男たち──トッドファミリーの、エンゾと呼ばれた前髪の長い男があきらかに動揺する。
「並盛中学人懐っこさランキング1位、しきみ姉」
「へ? あたし?」
「口の上手さでもマフィア界では上位にランクインしているよ。その年にしては凄いね。説得するなら、マフィア知能ランキング86,207人中226位で、このチームを実質的に取り仕切るロッシにした方が成功率が上がる」
それから、と男の子は沙良の方を向いた。
「ハニートラップが得意な裏社会の女性ランキング、42,591人中500位、沙良姉」
「え、私!?」
「トッドファミリーの中でいちばん女好きなのはパオロだから、沙良姉がおとりになってもいいかもね」
最後はもちろん、真琴だった。
「マフィア界術者ランキング、86,207人中666位、真琴姉」
「……」真琴は少年をひたすら見据えた。
「術をかけるなら3人同時じゃなく、一人一人がいいよ。トッドファミリーは兄弟の杯を交わしている。他人と言えど家族同然の中だ。誰かがやられれば、それなりに動揺を誘える」
少年は先ほどから4人に様々なアドバイスをしてくれているが、肝心の体が空中ではどうにもできないのだ。トッドファミリーは冷や汗をかきつつ、しかし嬉しそうにほくそ笑んでいる。
「やはり只者じゃねえなあ、ランキングフゥ太」
「てめえもこの嬢ちゃんたちも、一緒に来てもらうぜ」
そのときだった。
「
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