17.香港娘と10年後の夢主
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「ツナー、朝ごはんよ、起きなさーい!」
母の朗らかな声に綱吉は目を覚ました。あくびをしつつ身支度をすませ、階段を降りてリビングへ。ダイニングテーブルには当然のごとくリボーンが座っていて、エスプレッソ片手に新聞を読んでいる。赤子とはいえなかなかの貫禄だ。
彼がやってきてからというもの、母子二人だった沢田家は大変賑やかになった。ランボ、ビアンキもちょくちょく訪れ、半分居候みたいな形になっている。
だが今は二人の姿は見えず、代わりに見覚えのない、リボーンやランボとほぼ同じサイズの子供が椅子に座っていた。
「母さん この子は?」
弁髪にカンフー服の、小さな女の子だ。綱吉に気付き、手を組んでぺこりとお辞儀した。
母は茶碗にご飯をよそいつつ答える。
「母さんが呼んだの。実は昨日のお昼、この子が通り雨を知らせてくれたおかげで、洗濯物が濡れずにすんだのよ。さっきやってきてね。聞けばリボーンくんのお友だちっていうじゃない」
母の話を聞きながら、綱吉は嫌な予感がしていた。友達。その単語だけだと平和に思えるが、殺し屋で破天荒な家庭教師の友達となると安心はできなかった。
母がゴミ出しに外へ行ったのを見計らって、綱吉はリボーンに耳打ちする。
「なあ、このイーピンって子、もしかして」
「ああ、人間爆弾と言われる香港の殺し屋だ」
人間、と、爆弾。意味がわからず綱吉が首をかしげていると、
「ガハハハ!! ランボさん登場!!」
ランボがリビングに飛び込んできた。朝から元気な子供である。
イーピンはランボを見ると、日本語ではない言葉でなにかを捲し立てた。香港の公用語は英語と広東語だ。英語ではなさそうなので後者と思われる。
「なんて言ってるの」
つい自然と、隣の家庭教師に問う。期待を裏切らず、リボーンはイーピンのことばを翻訳してくれた。
「『ブロッコリーの化け物だ』だそうだ」
「ぐぴゃ!!」
ショックを受けるランボ。綱吉はああなるほどと納得した。ボリュームたっぷりのランボのくせっ毛は、遠目から見るとブロッコリーにそっくりだ。
「ガ・マ・ン…」
お化けと言われたのがショックだったのか、あからさまに落ち込むランボ。元気出せよ、と綱吉が励まそうとした瞬間、ランボはがばっと起き上がり、
「おばーけーだーぞー!!」
ふざけてイーピンをおいかけはじめ、イーピンは驚いて椅子から飛び降りた。
「まてーい!!」
しつこくおいかけようとするランボ。ばたばたと二人ぶんの足音と振動がリビングに響く。綱吉がランボをたしなめた。
「こら、ランボ、そのへんにしとけよ」
「あらあら、なあに?」
イーピンが、外から戻ってきた奈々の足にぎゅっとしがみつく。ボールのように丸い頭をなで、奈々は綱吉に言った。
「そういえば、イーピンちゃんは人を探しているんですって」
「え、誰?」
「名前は分からないみたい。並盛の生徒みたいよ。ツナ、一緒に学校行ってあげて?」
「ええ!?イーピン学校に連れてくの?!」
嫌な予感しかしなかった。イーピンはまた広東語で何かを喋り、深々と頭を下げた。リボーンがまた翻訳した。
「『どうかお願いします』と言っている」
「そんな」
「いいなー!! ランボさんも学校行く!!」
困り果てている綱吉のそばで、無邪気なランボが大笑いしていた。
*
「探しているのって、生徒?先生?」
「『生徒です』だそうだ」
朝食の後、イーピンと共に登校中の綱吉。会話は、すべてリボーンを挟んで行われていた。
「女の子?男の子?」
「○×▼□!」イーピンが元気よく答える。
「『女の子で、4人います』と言ってるぞ」
「へー……4人の、女の子かあ……」
4人の女の子。心当たりがあるような気がして、綱吉は考え込む。だが、その集中力は騒々しい犬の吠え声にそがれた。
綱吉はけだるげに鳴き声の方を見る。とある家の前まで来ていた。ここには筋肉質の大型犬が庭で買われており、鳴き声が騒々しいと有名だ。今朝から元気に吠えている。
「ここんち犬って、いつもうるさいんだよなー」
ぶつくさ言いつつ立ち去ろうとしたが、綱吉はあることに気づいて真っ青になった。大型犬のいる庭と綱吉の立っている道を結ぶ門扉が、開いているではないか。
犬は目ざとくそれに気づき、うなり声をあげながら、家の敷地内からゆっくりと這い出る。一目散に綱吉めがけて走ってきた。
「うそー!! 助けてー!!」
命からがら逃げ惑う綱吉。イーピンは冷静に、綱吉のとなりを並走している。
綱吉は肝を冷やしながら、必死に並盛中学校へ走った。50メートル先で、見覚えのある4人の姿が。
「あれ? 犬に追っかけられてない?」
しきみがこちらへ向かってくる綱吉に気づき、笑顔で手を降る。ただならぬ気配を感じ、鳴海は目を凝らすと、綱吉の後ろをおいかける大型犬の姿をとらえた。
「まあ、大変!」沙良が口許を押さえる。
「沙良、下がってて」
先ほどまで寝ぼけまなこだった真琴も、犬が沙良に危害を加えたらと目が覚めたようだ。さっそく自分の武器である蛇腹剣をかまえている。
そんな真琴の服の裾を「待って!」としきみがあわてて引き留める。
「何」真琴が怪訝そうにしきみをにらむ。
「わんこに手出さないでよ。ここはあたしに任せて!」
しきみは自信まんまんに踏み出し、右手を綱吉と大型犬の方へ向ける。
「風の力か」鳴海はすぐぴんときた。
「怪我しないくらいには追い払えるでしょ!」
しきみの能力は風の力だった。しきみの腕や手は風を巻き起こし、軽いものを運ばせたり、相手を吹き飛ばしたり、ドーム状の風の結界を作り出すことができるのだ。
ドームの結界はしきみを中心に半径2メートルくらいだ。綱吉が届く範囲まで来たら、大型犬が来れないように結界を作り出す。そのつもりだった。
そのとき、予想外のことが起きた。
綱吉の隣を一緒に走っていた、弁髪にカンフー服の小さな子どもが、くるりと向きを変え、綱吉を守るような形で、大型犬の前に立ちふさがったのだ。
「君!! かまれるぞ!!」
鳴海があわてて駆け寄ろうとする。大型犬は荒い息を吐き、よだれをたらし、唸りながら子ども―イーピンに噛みつこうと大口をあけて襲いかかってきた。
イーピンは大型犬に向かって手刀打ちを繰り出した。小さな子どもの小さな手、リーチは短く犬には届いていない。だが不思議なことに、犬は確実に何かの衝撃を食らったように後方へ吹っ飛ばされた。イーピンがぐるりと手を回すとその動きに合わせて犬も地面を転がる。まるで超能力で操られているかのような光景だった。
犬はクンクン鳴きながら、その場を逃げていった。
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