16.夢主殺人事件
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朝、真琴は目を覚ました。深い深い湖の底から、ゆっくりと体が浮かぶような感覚だった。
甘くて暖かい香りが鼻孔をくすぐる。視界と思考がはっきりしてくると、ここは自分が家族と住んでいた家ではないことに気付かされる。
異世界。自分たちの住む町、自分たちの家族が存在していない世界。
甘い香りの正体は、キッチンにあった。沙良がお菓子を焼いているのだろう。彼女がしきりにのぞくオーブンから漂っていた。陽光が窓から差し込んで、キッチンを、彼女を穏やかに照らしている。その光景は、心に非常に安堵をもたらしていた。
「あ、真琴、おはよう」
くるりと振り返った沙良が、ほほえみかける。今日は休日。慌ただしい平日とは違い、こうして遅くまで寝ていても問題はない。
時計は午前11時半を指していた。さすがに寝すぎたか、と真琴は頭をかいた。
「お、真琴今起きたの?おはよー」
スマホをいじりながら、鳴海もリビングに入ってくる。もう一人はいつまでたっても現れない。
「今朝さ、7時くらいだったかな、遊びに行ってくるって出てったよ。メッセージ送ったけど返ってこないなー」
鳴海は言いながら、スマホの画面を見せてくれた。既読すらついていない。相変わらず自由人である。
「そっか、せっかくお菓子いっぱい作ったんだけどな……」
沙良がしょんぼりする。あ、と鳴海は声を上げた。
「せっかくなら、しきみ探して獄寺とか綱吉くんとか山本とかうちに呼ぶ?沙良のお菓子でお茶会しよ」
「わあ!良い考え!」沙良の顔がぱあっと明るくなる。
「え…」真琴はあからさまに嫌な顔をする。
「じゃあ俺、ちょっとしきみ探すついでにみんな呼んでくるよ!」
善は急げといわんばかりに、鳴海は玄関へ走っていく。すぐにドアが開け放たれる音がした。
「……呼ばなくて、いいのに」
真琴はかなり不機嫌そうだ。沙良はぽんぽん、と真琴の腕をやさしくたたく。
「みんなのこと苦手?」
穏やかな問いに、真琴は首を縦に振った。
「……嫌いじゃない、けど……みんな、まぶしい」
***
休日の公園は、親子連れや小学生たちの声で活気に満ちている。どの遊具も子どもでいっぱいだが、唯一、遊ぶのを避けられている場所があった。ブランコだ。不良が一人座り込み、タバコをふかしていたのだ。獄寺隼人だった。
秋もすっかり深まり、朝晩はめっきり冷え込むようになった。空気に、その名残がある。ぼんやりと霞む空の色彩も淡い。
「暇だ―」
おもむろに呟いていると、
「獄寺―」
なんとも受け入れがたい聞きなれた声に、眉根を寄せる。ざ、ざ、と砂を踏みしめ、2人の同級生がこちらにやってきていた。山本と鳴海だ。手を振り返す気にもなれなかった。
「奇遇だな、こんなところで」山本の言葉には、舌打ちで返してやった。
「しきみを見なかった?」
鳴海の問いには「知らねえよ」とそっけない。咥えていたタバコの火を、携帯用灰皿の中で押しつぶす。未成年喫煙じゃないか、と鳴海は突っ込みたいがガマンした。
「そういえば、今沙良がうちでお菓子焼いてるんだよ、いっぱい」
沙良、彼女の言葉にぴくり、と獄寺が反応する。鳴海は手ごたえを感じていた。
「綱吉くんも呼ぶからさ、みんなでうちに来ない?」
「……仕方ねえな。10代目が行くならついていくぜ」
「よーし、じゃああとはツナとしきみ探すだけだな!」
「アイツ、また居なくなったのかよ」獄寺は呆れる。相変わらずしきみはフリーダムだ。
「つーか、しきみはツナんち行ってるかもな」山本の考えに、鳴海はなるほどと頷く。
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