14.体育祭 前編
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並盛中学校の応接室前に、十数人の女子生徒たちが集まっていた。
もちろん用があってここまで来たのだが、閉め切られたドアを積極的にノックしようとする者はいなかった。ただ一人以外は。
「ねえ、しきみちゃん……やっぱりやめようよ」
女子生徒達の先頭にいる、しきみと呼ばれた生徒は、くるりと後ろを振り返る。
「たぶん、ダメだって言われるよ」
「相手はあの雲雀さんだよ」
「女の子にも容赦ないって噂だし」
生徒たち全員の顔が、不安、恐怖、怯え、恐れに染まっていた。応接室―ここ並盛では他校とはまた違う意味を持つ。皆、この応接室の主を恐れているのだ。
だが、やりたいことをやるためには、やりたくないこともやらなければならない。それをしきみは、よく分かっていた。
「……あたし達、間違ったことしているのかな?」
そう、生徒たちに問う。返答はない。言葉に詰まっていたのだ。
「ちゃんとこうしてお願いに来ているんだし、やるだけやってみようよ」
しきみの顔がほころんだ。天真爛漫かつ、凛とした表情だ。
こんこん、と大きくノックをする。奥から「どうぞ」とそっけない声音が聞こえていた。
「失礼します」
ガラッと引き戸を開けて、しきみは一人、中に入る。応接室のソファにくつろぎ、何かの書類に目を通していた部屋の主は、わずかに表情を変える。
雲雀恭弥だ。
「……きみ、何の用?」
「今、お時間いいですか?」
手元の資料をテーブルに置き、雲雀はしきみをじっと見据える。その眼光はやはり鋭く、後方にいる生徒たちがたじろぐのを、しきみは背中で感じていた。
「体育祭の、件なんですが」
***
夏休みが終わるのと同時に、ひとつの行事の準備が始まっていた。
体育祭。ここ並盛中学校では毎年秋に開催されている。
競技、演技の練習、衣装づくり、応援のための巨大パネルや応援旗、学校中の飾りつけが勢力的に行われ、校内の雰囲気も華やいでいる。学年が縦割りで大きく3つの組に分かれ、自分たちの組の優勝を目指し切磋琢磨していた。
そして本日、並盛のすべてのA組が講和室に結集し、作戦会議を開いていた。
その中心人物は、ボクシング部、笹川了平。学園のマドンナ・笹川京子の兄でもある。
「“極限必勝”!!これが体育祭での我々A組スローガンだ!」
彼は高らかに宣言した。彼の座右の銘である。
「勝たなければ意味はない!!」
「うおおおお!!」
了平の叫びに熱狂するオーディエンス。それを遠目に綱吉たちは眺めていた。
「お兄さん今日も熱いな~……」
そっと京子をみやると、案の定兄を心配そうに見守っている。はらはらと落ち着かない様子がまた愛らしい。が、
「うぜーっすよね、あのボクシング野郎。普通に喋れっての」
獄寺の発言に、綱吉はぎょっとした。
(ちょっ獄寺君!! 京子ちゃんに聞こえちゃうよ!!)
「まあまあ」苦笑いしつつ、山本が嗜める。
「そういや、鳴海としきみはどうしたんだ?」
山本が隣の真琴に尋ねる。2人の姿が見当たらない。「…知らない」真琴はそっけない。沙良が代わりに答えた。
「私も聞かされてないの。ひみつだって。この作戦会議で、発表するんだって」
「へえ、そうなのな」
そんな山本たちのおしゃべりをよそに、了平は話を進めていく。
「今年も組の勝敗を握るのは、棒倒しだ。例年、組の代表を棒倒しの“総大将”にするならわし。つまり、オレがやるべきだ…」
「棒倒し?」
帰国子女の獄寺には聞き覚えの無い種目だ。
「全男子が参加する競技だよ。三つのチームに分かれて、5メートルくらいの棒の上に大将を乗せて、みんなで支えながら、敵の大将を引きずり降ろそうとするんだ。大将が地面についたら負け。毎年殴る蹴るで、怪我するのは必須って感じかな……」
綱吉の説明に、沙良が小さく息を飲み込む。
「だがオレは辞退する!!」
了平の突然の職務放棄宣言に、場は騒然とした。
「オレは大将であるより、兵士として戦いたいんだー!!」
要するに単なるわがままである。全員が唖然とし、京子は申し訳なさと恥ずかしさで縮こまっていた。
「だが心配はいらん。オレより総大将にふさわしい男を用意している。」
ボクシング部主将、皆からA組をまとめるリーダーとして期待されていた笹川了平。それよりもふさわしい男となると、並大抵の人物ではない。一体誰なのか。生徒たちがざわつく中、了平が指さしたのは、
「1のA、沢田ツナだ!!」
「へ?」
まさかの綱吉であった。先ほどとは違った意味で、皆に動揺が走る。
「おおおっ!!」山本が嬉しそうに笑う。
「10代目のすごさを分かってんじゃねえか、ボクシング野郎!」獄寺も了平への悪態から手のひら返し、席から立ち上がらんばかりである。
「賛成の者は手を挙げてくれ!過半数の挙手で決定とする!!」
手を挙げた人間はもちろん少ない。体育祭は学校生活の中でもビッグイベントであり、いわば花形を、ひ弱そうな綱吉に任せるとは。
「1年にゃ無理だろ」
「オレ反対」
「負けたくないもん」
「つうか、冗談だろ?」
この反応はもっともである。いくら了平の提案とはいえ、自分に決まらないだろうと綱吉が安心したのもつかの間、
「手を挙げんか!!!」
了平が鬼の形相で叫ぶ。ほぼ命令に近かった。しかも、
「反対の奴なんていねーよな!?」
獄寺も迫る。綱吉への柔和な態度で忘れがちだが、彼も凄みのある立派な不良である。男子たちは恐怖により、女子たちは帰国子女・イケメン・ヤンキーだが秀才というギャップ持ちの獄寺に元々好意があり、彼に賛同する者は多かった。こうしてまたたく間に挙手は増え、過半数を越してしまった。
「決定!! 棒倒し大将は沢田ツナだ!!」
まさかの展開に、1年から3年までA組の生徒たちは呆然としていた。
「すげーなツナ!!」
「さすがっす!!」
山本と獄寺は素直に称賛を送り、沙良はあたふたし、真琴はまったく興味なさげにあくびをしていた。
すると、一人の生徒が挙手しつつ発言した。
「笹川先輩、総大将しないのなら、応援団長してくださいよ!」
「そうだ、それもいいな!」
だが、了平は首を縦に振らなかった。
「む、ありがたい申し出だが……これにも適任者がいる。入ってくれ」
了平は講談室の外へ呼びかけた。前から待機していただろう人物が戸を開け、しずしずと了平の横にやってきた。
「え、女の子?」誰かの声がした。あ、と沙良は目を見開いた。
「鳴海…!」
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