13.風紀委員長と、再会
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「よお、獄寺」
朝の登校中のことだった。後ろから聞こえてきた声に、獄寺はうんざりしつつ振り向いた。声の主はクラスメイト兼ファミリーの一員、山本武。学生鞄と、スポーツバッグを抱えている。
「てめえか。気安く話しかけんじゃねえ」
いつも通り冷たく突き放すも、山本は意にも介さず、笑みも一切崩れることなく、隣を歩く。
「んなこと言うなよ、オレ達友達だろ」
「誰が友達だ!」
他愛ない話題をふってくる山本を、適当に獄寺はあしらいつつ、校舎へ歩を進める。ふいに、山本の声音が変わった。
「なあ獄寺。夏休み前の、しきみの言葉、覚えてるか?」
「……」
無論、覚えていた。あれは綱吉と鳴海、沙良がボクシング部に勧誘され、了平とのスパーリング対決が行われた後のことだった。
『あたし達、ここには無い世界から来たって言ったら、信じてくれる?』
それはあまりにも唐突で、ただの戯れ言に聞こえた。だが4人の、ただならぬ表情と空気感は、とても冗談や嘘をついているようには思えないほど逼迫していた。
「獄寺、あんときその場にいなかったからさ、知らないかもしれないけど」
「な、なんだよ」
「近衛が転校してきたとき(※05参照)、言ってたんだよ。事情があって家族と住めなくて、支援してくれる人が並盛にいるから引っ越してきたんだって。その後も聞いたんだが、4人だけで一軒家に住んでるってさ」
「……」
元から獄寺自身も、彼女たちに対して違和感を覚えていた。若いときからマフィアに所属している人間というのは、たいていが家族、親族の生業だったから、だ。
あの4人は反応や言動から見るに、つい最近まで一般人だったように感じる。しかし、身に付けている戦闘力が素人ではない。そのちぐはぐさが、余計に気がかりだった。
「わかんねえよ。わかんねえ、てめえはどうしたいんだ」
「ん?いや、困ってるなら力になりたいってだけだよ」
どこか楽観的な山本の答えに、獄寺は拍子抜けしていた。
***
その日、男は女神を見た。
正確に言えば女神ではなく人なのだが、そういった存在がもし本当にいるのなら、きっと彼女のような姿をしているのではないか、と思った。
きっかけは些細なことだった。気に入らない人間の発言に異議を唱えただけだった。が、それは自分が考えていたよりずっと恐ろしいことだったらしい。この並盛の名を冠した箱庭の中で、彼は絶対的な権力だったのだ。
「ヒバリにたてついたのが悪いんじゃない、ヒバリの前で群れたからこうなったんだ」
そう、誰かが笑った。
喧嘩を受けて立った結果、校舎の外へ放り出された。全力で抵抗したが、相手の方が一枚上手だった。
体全身を容赦ない激痛が襲う。助けを呼びたくても、指一本動かない。いっそ気を失いたいのに、下手に加減をされたせいか、意識だけがはっきりしている。
「う……うう……」
傍らには自分の仲間の体も転がっている。1対3だったが、勝てなかった。体と心が、ひたすら地を這いつくばる。
彼の手下達が、過ぎ去ってしばらく経った時だった。
「だ、大丈夫ですか……?」
甘くのびやかな声が聞こえてきた。腫れあがったまぶたの向こうから垣間見えたのは、自分と同じ制服を着た少女。
「……あ、ああ」
「大丈夫、じっとしててくださいね」
彼女がそういうや否や、とつぜん体中があたたかい熱に包まれた。バスタブにたっぷり湯をはって、その中に身を浸したときのような安心感だった。
それが引いてきたと同時に、彼女は持っていたカバンから小さな木箱を取り出し、中のものをさぐり始めた。頭が上手く動かなかったのでよく見えないが、傷口に染みる感覚がする。
手当をしてくれている。そうハッキリ自覚したときには、彼女は腕にガーゼを抑え、包帯でしっかり巻き終わっていた。
「き……きみ、は」
訊ねるが、彼女は答えない。後ろから差し込む光が彼女の輪郭をやわらかくにじませる。色素の薄い髪を、光が通しているのだろうが、このまま溶け込んで、消えてしまいそうだ。穏やかなまなざしが、静かにたたずんでいた。
*
その光景を、この箱庭の秩序は見下ろしていた。既に制裁は下したのだ。あとは野となれ山となれと思い捨ておいたものを、拾う神もあったのかと眺めていた。
「副委員長」
後ろに控えている部下に、秩序―“雲雀恭弥”は話しかける。呼ばれたほうは身が引き締まる思いではい、と答えた。
「調べはついたかな、彼女たちの素性」
「それが…」
副委員長と呼ばれた男―草壁は、苦々しい表情を浮かべる。
「かなり不審な点が見られます。以前在籍していた学校というのが……出来る限り調べましたが、それらしき情報が見つかりません。存在しているかどうかさえ怪しい…」
「……」
「4人の家族についても、全員の親が行方不明者という扱いになっています。生活支援者らしい人物が一人浮かび上がりましたが、書類上の人物といった形で…どこを探してもたどり着けず…」
雲雀恭弥は草壁に目もくれず、ただ外を見やるだけだった。
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