12.闇医者
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夏は、あっという間に過ぎていった。
鳴海、しきみ、沙良、真琴の四人にも、もちろん夏はあったのだがあっけなく、特に思い出もなく過ぎ去っていった。
理由の一つは、夏休みがほぼなかったことだ。一学期途中で転校してきたため出席日数が足りず、単位も宿題も足りず、このままでは進級できないと言われ、うだるような暑さのなか登校し続けた。
勉学に励み、少ない休みを享受し、あっという間に二学期が始まってしまったのである。さっそく今日は始業式。
だが、真琴は朝から具合が悪かった。憂鬱で、胸のあたりがむかむかとする。倦怠感。だがそれだけ。咳や鼻づまりといった症状はなし。熱も無い。
頑張ればなんとか登校できそうだが、一日学校で過ごすのも自信がない。そんな曖昧な感じだった。
家を出る前、沙良は自分の体力と引き換えに、真琴に治癒の炎を当ててくれた。いくぶんか和らいだものの、やはり気分は優れない。
「ねえ真琴……病院に行った方がいいんじゃない?」
思い詰めた表情の沙良を気遣い、真琴はきわめて明るく振舞った。
「だ、大丈夫。熱も無い。そんなに、心配しないで」
しきみがぴょん、と身を乗り出す。
「真琴、救急車よぶか迷ったら、#〇×▽□の番号にかけるといいよ!症状とか言えば必要かどうか教えてくれるから!」
「…物知り」真琴は改めて感心する。
「あまり無理するなよ、帰りになんか買ってくる、欲しいもんあるか?」
鳴海も心配そうに声をかける。真琴は黙って首を横に振っただけだ。
登校していく3人と別れ、家の扉をしめたときだった。ズキッと背中に、鋭い痛みが走ったのは。
しゃがみ込み、真琴は自分を抱きしめる。ひたすら、嫌な予感がした。
*
「大丈夫かな…」
登校中、沙良の気分は晴れなかった。無理やりにでも病院に連れていくべきだっただろうか。真琴が風邪や体調を悪くしたことは滅多になかったので、余計に心配だった。
「今日始業式でよかったね、早く帰れるし。帰りに、真琴の好きなジュース買ってってあげよ。……あ、ツナくーん!!!」
しきみの興味は、まったくもって目まぐるしく変わる。数十メートル先を歩く綱吉を見つけ、走って行ってしまった。
鳴海も沙良も追いかけようとしたが、ある異変に気付いた。綱吉とそばにいるしきみは、ほとんど歩いていない。綱吉はどこか具合が悪そうに俯いているのだ。顔を見合わせ、沙良と鳴海も距離を縮めていく。
案の定、綱吉の顔色もかんばしくなかった。先ほどの真琴みたいにふらついている。
「な、なんか朝から、体調悪くてさ……」
「わ、実は真琴もそうなんだよねー!」
「え、真琴も?」
「季節の変わり目だからかな…?」沙良が小首をかしげる。
「ところでさ、綱吉くん、これ何?」
ふと、鳴海が綱吉の腕を指す。綱吉が目をやると、
「な、なんだこれ!?」
綱吉は驚愕した。自分の腕に、タトゥーのような黒いドクロマークが浮かび上がっているではないか。
「刺青って、ツナくん割と不良だね」しきみは分かっててからかう。
「ち、違うよ!身に覚えが…」
「それはドクロ病という不治の病だ。ツナ、死ぬぞ」
前触れなく綱吉たちの目の前に現れたのは、家庭教師・リボーンだ。とつぜんの死の宣告に、綱吉は大パニックになっていた。
「急に不吉なこと言うなよ!!」
「死ぬって、どういう意味だ?」鳴海が訊ねる。
リボーンは死ぬ気弾の入った銃をかざしながら答えた。
「死ぬ気弾を5発以上撃たれた者は、きわめて低い確率で“ドクロ病”にかかるとされている」
もちろん、綱吉は初耳だった。
「な、なんでそんな大事なこと黙ってたんだよ!!」
「かなり低い確率だからだ。俺もまさかツナが罹患するとは思ってなかったんだ」
「……綱吉くん、腕、腕」綱吉を、沙良がちょいちょいとつつく。
それにつられて、ふたたび綱吉が自身の腕を見ると、信じられない光景が待ち受けていた。
浮かび上がったドクロに、漫画のような吹き出しがついていたのだ。まるでドクロが喋ったかのように、文字まで浮き出ている。
『100点、取ったことない』
「…まあ、その、俺も取ったことないけど」鳴海のフォローが入る。
「ええっ、ドクロが話してる!?」
「“ドクロ病”は死に至るまでに、人に言えない秘密や恥が文字になって、皮膚全身に浮かんでくる奇病だぞ。別名『死に恥をさらす病』だ」
「ねえ、ツナくんの腕の文字は日本語だけど、この病気たとえばアメリカ人がかかったら英語で表示されるの?」
しきみが綱吉の腕をつかみ、しげしげと眺める。
「みたいだな。オレが他に見たことあるのはフランス人がかかったときだ」
「ハーフとかクウォーターだったらどうなるんだろう…」しきみが考え込む。
ドクロ病。あまりにも現実離れしすぎていて、その場にいる全員がいまいち、危機感を持てていなかった。先ほどまでうろたえていた綱吉ですら、すぐに落ち着きを取り戻している。
「ていうか、本当にそんな病気があるわけないだろ……」
はあ、とため息をつき、綱吉は学校と逆方向へくるりと振り返った。
「どうするんだ、ツナ」
「どうするもこうするも、こんなの洗えばとれるよ。今日は帰る」
「え、じゃああたしも休む」しきみがすっと手を挙げた。「不治の病だったら、少しでもツナくんと一緒に居たいし!」大真面目に話す彼女を、綱吉は呆れ顔で見つめた。
「……」
沙良は意を決し、リボーンに向き合った。
「リボーンさん、こういったドクロ病みたいな不治の病って、どれくらいあるんですか?あきらかに、公にされていない感じですよね」
「鋭いな沙良。マフィア、しいては裏社会のみに共有される難病は、666つあると言われている」
「悪魔の数字じゃん!」しきみが興奮気味にしゃべる。
「私、やっぱり戻る。真琴を病院に連れていく」沙良が言い出した。
「真琴の症状は、そんなに悪いのか」
「なんていうか……すごく嫌な予感が止まらないんです。杞憂だといいんだけれど……綱吉くんの病気を知ったら、なんか、心配になっちゃって」
居ても立っても居られないといった様子で、沙良は走り出した。「俺も行く!」鳴海がそれについていく。
「真琴のことはおねがいね!ツナくんのことは任せて!」
しきみが手を振り、鳴海も「おう!!」と、しかと頷いて走っていく。「お、大げさだよ…」と綱吉ひとりが置いてけぼりだ。
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