02.決意
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
いつのまにか綱吉の足元に、赤ん坊が立っていた。
大人みたいに真っ黒なスーツに身を包み、ボルサリーノを深くかぶっている。手には身丈に合ったアタッシュケースまで持って一人立ちしているのだ。その場にいた全員が呆気にとられてしまった。
「3時間早く来ちまったが、特別にみてやるぞ」
幼子にしては流暢なしゃべり方だ。
「あ、あの・・・どなたですか?」
鳴海が恐る恐る聞くと、赤ん坊は答えた。
「俺は家庭教師の、リボーンだ」
リボーン。
こんな小さな赤子が、綱吉の家庭教師だと名乗ったのだ。
おかしくて綱吉は噴き出してしまった。「うさんくさい広告の主が、どんな奴かと思ったら、こんな赤ん坊かよ!?」奈々も若干苦笑いしている。
鳴海だけが、真顔のままだ。赤ん坊はお構いなしに続ける。
「お前がツナか」
綱吉はかちんときた。初対面で、なれなれしく呼び捨てしてくるのは気に入らない。
「悪いけど、お前に教わることなんてないよ!」
その瞬間、綱吉の腹部あたりにするどい衝撃が走り、意識はたちまち闇の中へ沈んでいってしまった。
*
赤ん坊が、綱吉を気絶させた。
もっと詳しく言えば、家庭教師と名乗るスーツ姿の赤ん坊が、目にもとまらぬ速さで綱吉の腹へ跳び蹴りをくらわし、その衝撃で綱吉は地に伏せてしまった。
あまりにも衝撃的な出来事に、奈々は目眩をおこしている。
「……やだわ、私、疲れているのかしら……」
「沢田さんのお母さん、ちょっと一階に降りて休んだらどうですか?」
「そうね、鳴海ちゃん、お願いね……」
奈々がよろめきながら一階へ行ったのを見送り、部屋のドアを閉める。
残されたのは気絶して伸びている綱吉、謎の赤ん坊、そして鳴海。
「……」
「……」
赤ん坊、もといリボーンと鳴海は向かい合い、見つめ合う。
鳴海の考えが正しければ、この世界に連れてこられた理由を、おそらく赤ん坊は知っている。(まだドッキリだとは思いたいところではあったが)
手紙に書いてあった、『並盛中学校にはあなた達の仲間がいます』の文章。
沈黙に耐えきれず、鳴海が「あの、」と口を開けたときだった。
「蘇芳 鳴海、だな」
名を当てられ、予感は確信へと変わった。鳴海はすぐに頷いた。
「驚かねえのか」
「驚いてます。今朝、見知らぬところで目が覚めたときから」
自分の家じゃ無い家、見たことのない街、学校、生徒。同じ日本でありながら、鳴海にとっては異世界というこの状況。
何度も言うがドッキリにはめられている可能性は捨ててない。
でももし、それが本当なら?
いつしか友人と話した、自分を知るものが一人もいない異世界に、本当に来てしまっていたんだとしたら?
鍵はこの人物が握っていることは、間違いない。
「そうか、冷静に見えるがな。」リボーンさんは平然としたままだ。
「教えてください。俺は、どうして……」
リボーンに問う前に、くぐもった声が聞こえた。綱吉だ。気が付いたのだろう。
彼は目をこすりながら、ゆっくりと起き上がる。
「な、何だったんだ今の……あ!!!」
意識を取り戻し、綱吉は鳴海とリボーンを交互に見つめる。
「おい、お前―!!」
殴られたことを思い出したらしい。怒りの湧いた綱吉はリボーンの胸ぐらにつかみかかった。が。
リボーンは綱吉の制服のネクタイをつかむと、紐のように軽々と引っ張り、綱吉の体をふたたび床へと叩きつける。鮮やかな動きに、鳴海はつい見入ってしまった。
「俺に隙はないぞ」
「沢田さん!!大丈夫!?」鳴海は痛みで転がる綱吉に手をさしのべ、上半身を起こさせてやる。
「いっでー!!なんだこのガキー!!」
その間、リボーンは手に持っていたアタッシュケースを広げる。その中身を見て鳴海はぎょっとした。
中に入っていたのは、銃火器のパーツ。オモチャには見えない。
「オレに隙はないぞ。本職は殺し屋だからな」
鳴海は動揺した。隣の綱吉もだ。
殺し屋?この赤ん坊が?
混乱する鳴海たちをよそに、彼は慣れた手つきで部品を組み立てていき、重厚なアサルトライフルを掲げてみせ、高らかに宣言した。
「オレはある男から、立派なマフィアのボスに教育するよう依頼されてんだ。そして蘇芳 鳴海。お前はツナのファミリーの一員だ」
「え、俺も?」鳴海は面食らった。
「お前、頭大丈夫か?」綱吉はそう言わずにはおれない。
「信じられないなら、一発撃っとくか?」
仮にオモチャだとしても、銃口を向けられるのに恐怖しないわけがない。赤ん坊の手に持つそれはどう見ても玩具には見えなかった。
「……すみません、俺、そろそろお暇しようかな……」
とうとう鳴海が音を上げた。
綱吉も同意だった。帰りたい。穏やかな日常に。
「ツナ、ここまで来てくれた部下を見送ってやれ。それもボスの努めだ」
「そのボスってやめてくれよ! ……言われなくても送るつもりだって」
どたばたしてて忘れていたが、鳴海が綱吉のためにわざわざ家に来てくれたことをやっと思い出した。
送ろうか、と勇気を出して提案してみると、鳴海は素直に首を縦に振った。
「ごめん、沢田さん。お願いします。なんだか俺、色々混乱してて……」
綱吉も同意だ。今鳴海達の間には、奇妙な連帯感が生まれていた。
*
綱吉と鳴海が外に出ると、あの赤ん坊もついてきた。ベビーカーも抱っこ紐もなく、自力で難なく歩いている。
「なんでついてくるんだよ」
「オレはツナの家庭教師だからな。行動は常に一緒じゃねえと」
「……あの、リボーンさん、保育園とか、幼稚園とか、行かなくていいんですか?」律儀に敬語で訪ねる鳴海。
「殺し屋は保育園なんていかねーぞ」
のれんに腕押し。ぬかにくぎ。この摩訶不思議な赤ん坊の前だと、異常なのは自分たちなのでは無いかと考えさせられる。
話題を変えるついでに、綱吉は鳴海に聞いてみることにした。
「そういえば蘇芳さんは転校生だけど、どこから来たの?」
「えっと…〇〇県×△市」
首都圏からそこそこ遠いところだ。綱吉もぼんやりとしか記憶にない。
「親の転勤とか?」
「まあそんな感じです。……あ、笹川さん?」
鳴海の視線の先を辿ると、下校中と思われる笹川京子の姿があった。
綱吉はほぼ反射的に、塀に隠れた。鳴海も空気を読んでそれに続く。だがそうではない奴がいた。
リボーンだ。
リボーンはそのまま歩を進め、なんと京笹川京子と向かい合ったのだ。
1/6ページ