10.毒サソリと破天荒娘
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人生は愛という蜜をもつ花である。 byヴィクトル・ユーゴー
爆弾少年、5歳児のヒットマン、毒料理美女……次から次へと濃いメンツが集まってくる中、今日もまた、不思議な出会いがあるものである。
綱吉、鳴海、しきみ、沙良、真琴ら5人が登校中の朝のことだった。住宅街を歩いていると、前方から並中ではない制服を着た、ポニーテールの可愛らしい少女が現れた。
彼女は目の前に立ちはだかると、すぐ横の塀によじ登り、バランスを取りながらリボーンと対峙したのだ。一体何をするのか、綱吉たちが固唾を呑んで見守っていると、
「こんにちはっ、私、三浦ハルと申します!」
元気よく挨拶をしてきた。
「知ってるぞ、ここんちの奴だろ?」
リボーンが塀の向こう側の一軒家を指さす。自分を認知してもらえていたのが嬉しいらしく、三浦ハルは感激しながら、
「私と、お友達になってくれませんか?」と申し出た。リボーンは「いいぞ」とあっさり承諾。
その瞬間、
「はひーっ……やったあー!」
「ちょっと、大丈夫!?」
感極まり、弊から倒れそうになる三浦ハルに、鳴海があわてて駆け寄る。が、彼女は地面へ綺麗に着地し、ガッツポーズをとる。
「不思議な子だね」しきみがぽつりと零す。沙良もこくこくと頷いていた。
喜びのあまり挙動不審になりつつ、ハルはリボーンに頼みごとをしてきた。
「あ…あの、ぎゅってしても、いいですか?」
(なにそれ…)
綱吉たちの心が一つになる。が、リボーンはハルの頼みを無情にも断った。
「気安く触るな。オレは殺し屋だからな」
そう言って、わざわざ拳銃まで取り出してみせた。ハルの顔からさあっと血の気が引く。
「おい、白昼堂々そういうことを…!」綱吉が嗜めようとしたその時だった。
パアン。
小気味よい乾いた音が響いた。
綱吉がよろめいて、後ずさる。その場にいた全員が言葉を失った。ハルが、綱吉を情け容赦なく平手打ちしたのだ。
「最っ低です! あなた、何てこと教えてるんですか!?」
「はあ!?」
「殺しなんて教えて! いたいけな純情を、あなたは腐ったハートでデストロイですか!?」
綱吉の胸元をつかみ、グラグラと強くゆさぶる。どうやらハルは、綱吉がリボーンに良からぬことを吹き込んでいると勘違いしたようだ。
「ちがうって! 何か誤解してるよ!」
「何が違うのよ! あなたリボーンちゃんのお兄ちゃんでしょ! よく一緒に居るの見てるんだから!」
「いや、リボーンは綱吉くんちの居候で、二人は兄弟じゃないよ?」
フォローを入れたつもりの鳴海だったが、余計にハルをヒートアップさせた。
「じゃあなおさら最悪じゃないですか! 他人の赤ちゃんをデビル化なんて!!」
綱吉は頭を抱えた。まったく話が通じない。ハルはずいっと身を乗り出し、綱吉をにらみつける。
「いいですか?あなたはもうリボーンちゃんと会っちゃダメですよ!悪影響です!」
「そうはいかねえぞ」
「え?」
「ツナをマフィアの10代目ボスに育てるのがオレの仕事だ。それまでツナから離れられないんだ」
リボーンはあくまで事実を述べただけであったが、間髪入れず今度はハル渾身の右ストレートが綱吉に炸裂した。「おいおい、落ち着いてよ」あわてて鳴海がハルの後ろから止めに入る。
「何がマフィアですか、不良の遊びにもほどがあります! リボーンちゃんの自由まで奪って!」
彼女の中では、完全に綱吉=他人の赤子を巻き込む悪者、という図式が出来上がっているようだ。
生まれて初めて女子に殴られ、綱吉のショックは大きかった。
「違うってば……」声を絞り出すも、ハルの敵意に満ちたまなざしは鋭い。
「はいはい、そこまでー!」
しきみがパンパン、と手を叩く。真琴がため息をつく。
「俺たち学校に行かなきゃ。君もそうでしょ」鳴海がハルを羽交い絞めした腕を緩める。
「あの……何か誤解してます、綱吉くんは、そんな悪い人じゃないですよ」
沙良も何とか言ってみるものの、ハルは悔しそうな表情をしながら、走り去っていった。
「あー…痛い…」
一回目はビンタ、二回目は拳を受け止めた綱吉の右頬は赤くはれていた。沙良があわてて死ぬ気の炎で治療する。
遠ざかるハルの背中を見つめつつ、真琴が鳴海に問う。
「……今の子、どうする」
「んー……まあ、様子見かな。俺が簡単に背後とれたから、たぶんマフィア関係者じゃないと思うし」
ここ数日間でランボ、ビアンキ、綱吉とリボーンの命を狙ってきた連中が立て続けに来襲している。あの三浦ハルもそうなのかと一瞬疑っていたが、どうやらリボーンに熱を上げているちょっと不思議な一般人のようだ。
「なんていうかさ、今の鳴海と真琴のセリフ、すっごくマフィアっぽいよね!」
しきみが何故か嬉しそうにはしゃいでいた。
***
沙良としきみは、暗い夜道を小走りで通っていた。
学校も終わり、自宅前に到着したとき、しきみがいきなり「あ!今日ブラペパのCDの発売日じゃん!」と叫んだのだ。
ブラッドペッパー、略してブラペパは、しきみがこの世界にやってきてから好きになった海外バンドだ。パワフルなボーカルと、幅広い曲調が魅力の人気グループだ。
「明日買ったら?」との鳴海の助言を一蹴し、どうしても今手に入れて聞きたいとしきみはごねた。こうなれば頑として言うことを聞かないのが彼女である。
「ネットで聞けば」という真琴の助言も、効かなかった。CD限定のノベルティがあるらしい。
一人で出歩くのも危ないから、と沙良が付き添い、二人でCD店に飛び込み、今に至る。辺りもだいぶ暗くなり始めていた。
「ホントごめんね沙良、ありがとう」
「いいのいいの。それより買えてよかったね」
「うん!……なんかね、こういうの、あたし、嬉しいんだ」
「え?」
しきみはCDの入ったレジ袋を、ぎゅっと大切に両手で抱きしめる。
「この世界に来てからさ、なんか……家族いなくて、頼れるの鳴海と沙良と真琴だけで……ここに居ていいのかって疑問が尽きなかったの。でも、こうしてブラペパとか、この世界で好きなものを見つけられるたびに、自分の居場所が増えていくような気がして」
「……」
沙良はしきみをまじまじと見つめた。この世界をいちばん楽しんでいそうな彼女が、そんなことを言うだなんて。
「……しきみ、」
「あ! 見て見て! あそこ、屋台出てる!」
しきみの指さす方向に、「おでん」の垂れ幕がかかった屋台が営業していた。この夏も迫った季節に。
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