09.おにぎりと愛と毒サソリ
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愛すること、それは行動することだ。 byヴィクトル・ユーゴー
春はとうに過ぎ、若葉の緑が深まりだした頃。太陽の光がさんさんと降り注ぎ、まぶしく視界に飛び込んでくる。空の青も一層濃くなり、浮かぶ雲も、厚みをましてきた。夏が迫っているのを、否応にも感じられた。
「あついなー…のどかわいたー」
さっそうと晴れ渡る空を仰いで、綱吉が呟く。うんうん、と額に汗を浮かべながら鳴海も頷いた。完全に死んだ目をしている真琴を引っ張りながら。
「ほら真琴、しっかりしろ、頑張れ」
「学校、なんて、滅べ」
「な、なんか大変そうだね…」綱吉が苦笑いする。
「今朝寝坊したんだよ、沙良が日直やるから朝早く出てさ」
沙良と一緒じゃないなら家を出たくない。そうわがままを言いだした彼女を、同じく寝坊気味の鳴海がなんとか引っ張って連れ出し、綱吉と合流し、今に至る。
「そういえばしきみは?」
「沙良についてった。今日家庭科で女子はおにぎり作るから、早く準備したいんだって…」
ふいに、鳴海の言葉が途切れた。その理由に綱吉もすぐに気づいた。
先方から、女性が自転車に乗ってこちらに向かっていた。この暑い中、頑丈そうなヘルメットにゴーグルを装着し、顔が見えないようにしている。かなり怪しい。
不審者はブレーキをかけ、綱吉たちの目の前で止まった。たじろぐ三人の前で、女性はヘルメットを脱ぐ。
その場にいた全員が目を見張った。ヘルメットの下から現れたのは、海外女優と言われても信じそうなほどの美女だった。
「よかったら、どうぞ」
美女はなめらかな日本語でそういうと、綱吉に向けていきなり缶ジュースを投げてきた。綱吉は受け取ろうとするも手元が狂い、缶は地面に真っ逆さまに落ち、中身が吹きこぼれてしまった。
綱吉があわてて缶を拾おうと手を伸ばす。その瞬間、
「綱吉くん、待って!」鳴海が大声を出す。
「ん?」とまぬけな声が、綱吉と真琴から聞こえてきた。
中身のジュースとおもわしき液体が地面に広がった途端、蒸気機関車のようなけたたましい音を立てて煙が上がり、ちょうど頭上を飛んでいたカラスに直撃する。
煙を受けたカラスは苦しみもがき、綱吉たちのすぐそばで墜落したのだ。
「毒…?」真琴が呟く。
「なにこれー!?」
綱吉はしりもちをつき後ずさった。眺めていた美女は「ちっ」と大きな舌打ちをしているではないか。明確な悪意があったのだ。
とっさに鳴海は大槍を、真琴は蛇腹剣を構える。こちらに危害を加えるつもりだったのは火を見るよりも明らかだ。
「な、何なんだあんた!」
「……私に敵うと思っているの?」
鳴海の威嚇に、美女は余裕たっぷりにせせら笑う。鳴海はなんとなく予想がついていた。彼女はおそらく、リボーンの同業者。マフィアの関係者。
答えはすぐに出た。
「ちゃおっス、ビアンキ」
現れた赤ん坊に、もはや驚くものはいなかった。ビアンキと呼ばれた美女は、リボーンを見るなりぱあっと顔を輝かせる。
「リボーン……! 迎えに来たわ!」
「なっ…お前の同業者なのか!?」綱吉もようやく気付く。
「また一緒に仕事をしましょう。あなたに平和な場所は似合わない……あなたのいるべきは、もっと危険でスリリングな闇の世界なのよ」
「言ったはずだぞビアンキ。オレにはツナを育てる仕事があるからムリだ。こいつらの面倒も見なくちゃならねえ」
リボーンが綱吉、鳴海、真琴のほうをあごでしゃくってみせる。ビアンキは目に涙をためている。
「……かわいそうなリボーン。この子達が不慮の事故かなにかで死なない限り、リボーンは自由の身になれないってことだよね」
不慮の事故に見せかけて殺す。遠回しにそう言われ、綱吉たちはぞっと背筋が粟立つ。
「とりあえず帰るね。10代目をころ……10代目が死んだらまた迎えに来る」
「な、何言っちゃってんのあんたー!!」
綱吉が悲鳴を上げる。彼女の最初のターゲットは綱吉になったようだ。
ママチャリを漕いでいくビアンキを見送りながら、唖然とする綱吉に鳴海が言った。
「とりあえず、学校に行こう。さすがに公衆の面前では手は出せないだろうし」
「う……うん!」
小走りで一同は学校へ向かう。だが、そんな鳴海の言葉も、裏切られることになる。
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