71.-Old tale- 光もとめし乙女③
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「……さま、ジラルドさま」
ぼやけた五感の遠くで、己の名を呼ぶ声が聞こえる。
少しずつ、少しずつ近づくようで、また、遠ざかる。
それを、闇の中でGは必死に掴もうともがいていた。
決して、決して逃がしてはいけない。捉えなければ、手にせねばならない。
本能が必死に叫んでいた。
彼女の声を、彼女の存在を。
「ジラルドさま!」
はっと瞼が開き、覚醒した。
瞬時にGは己の置かれた状況を認識する。
ここはヴァルミュールの村の広場。
辺りを包む薄暗さは明け方の清々しさではない。不穏で不吉な空気をまとった、夜をやがて連れて来る黄昏だ。
そして、自分を照らす松明の炎が、あちらこちらに多くゆらめき、それらを持つ村人達の怒りや憎しみを代弁しているかのように、あかあかと、痛いくらいに照らしてくる。
「ああ……よかった、目を覚まされて」
声はGの後頭部、斜め上からふってきた。この場に似つかわしくないほどたおやかな、慈愛に満ちた声だった。
振り向くとイネスが、地面に立てつけられた木の丸太に縛り付けられている。Gはとっさにイネスのもとに駆け寄ろうとして、悟った。自身も両手の自由を縄によって奪われていた。
「イネス、待ってろ、すぐに」
「ジラルドさま、私にかまわず、どうか今すぐここからお逃げくださいませ」
「んなこと、できるわけねえだろ……!」
「お願いでございます、どうか、どうか」
イネスは髪を振り乱し、泣きながら訴えた。そして、段々と暗さを増していく空をみあげる。
「このままだと、貴方様にも、危害が及びます。村人達だけでなく……あなた様にまで……」
「イネス、なにを言って、」
彼女の言わんとするとこが理解できず、Gは顔をしかめつつ必死に脳をフル回転させる。
まるでイネスが本当に、村人や自分に攻撃をしてしまうと言わんばかりな──これではこの状況に、もっともな理由が出来てしまう──
「……うそだ」
「嘘ではありません。私は……私には……」
「そいつは穢れた女だ!」
村人の一人が声を上げる。そうだ、そうだと口々に村人達は同意する。
「今夜は満月だ、そいつは人狼だ!」
「殺せ、殺せ!」
「何が聖女だ、獣に姿を変える、この魔女め!」
棍棒を持った一人が、イネスに向かって走ってきた。あきらかに人に危害を加え慣れてない手つきで、しかしふりかぶった棍棒をイネスにぶつ。イネスは吐血しながら、うめき声をあげた。
「やめろ!」
そこで、仕込みナイフでようやく縄をほどいたGが殴ってきた村人に飛びかかった。棍棒ごと、イネスから引き剥がすように遠くへ払いのける。しかし勢いづいた村人達は皆イネスとGに向かってくる。
Gは無我夢中で村人達の攻撃に応戦した。刃が肌を裂き、鋭い一撃が数多も全身を打つ。だがGは倒れなかった。血を流し、ふらつきながら、イネスへの憎悪を一心に受け止めんと奮戦する。
「おやめくださいっ、ジラルドさま……!!」
イネスも殴られながら、ただ目の前の男の身を必死に案じていた。そして──やがて、ほのかな月光を感じ取り、イネスは瞳を閉じ、首を天へのけぞらせる。
「ああ……、」
それはイネスの嘆きか、目撃した村人の恐怖の漏れた声だったか。
その場にいた全員が、一瞬、水を打ったように静まり返った。
なぜなら──差し込んだまばゆいほどの月の光に照らされたイネスの鼻は犬のようにまっすぐと伸び、口は大きく裂け、いくつも並んだ鋭い歯がきらめいた。
全身の毛が伸び始め、体も優に2メートルは超えんばかりに大きくなっていく。
イネスを縛っていた縄は耐えられず飛び散り、丸太は倒れた。そこにいたのは、まぎれもない人狼であった──
「ぎゃあああああ!!!」
村にこだました絶叫が、村人達の理性を瓦解させてしまった。
その場所から逃げ惑う者、おぼつかない手でなおイネスを殴ろうとする者、失禁、気絶、石のように固まる者、さまざまだったが、共通していたのはひとつ──この世ならざるものを見てしまったという恐怖。
ジラルドは村人達にやられた痛みを堪えながら、足を引きずりつつ、ゆっくり人狼──イネスに近づいた。
「イネス、」
「……」
は、は、と荒い獣の息遣い。人狼は辺りを伺っていた。名を呼ばれ、じいっとジラルドを見る。
「お前はお前のままだろう、イネス……」
それは、人間の時と変わらぬ、二人きりで過ごしたときと変わらぬ声音だった。
すると、イネスが大きく身をのけぞらせ、遠吠えをした。ジラルドの問いかけに応えたのかそれとも敵意か、判断しかねたジラルドはとっさに構える。すると、頭上からばさばさと羽ばたきの音が響いた。そのときだ。
「!?」
いつの間にかイネスの背後から、フード付きのコートで全身を隠した者が二人現れたかと思うと、人狼姿のイネスになんらかの一撃を加え、倒したのだ。
フードの二人組は妙に手慣れた様子で、これまたどこから取り出したのか、闇の中から小さな檻を運びこんできて、イネスを収監した。村人たちは唖然として身動きがとれなかったが、唯一、ジラルドは違った。
「っ、おい」
二人組に声をかけるG。彼らに見覚えがあった。それもそのはず、
「お取り込み中、失礼いたします」
朗々とした男の声が響き渡る。
村の入口がある方角から、ざ、ざ、と地面を踏みしめてまた二人の男が現れた。
一人は人狼のイネスを捕らえたフード姿の者と同じ格好、もう一人は身なりの良い、貴族姿の──
「私、デイモン・スペードと申します」
慇懃無礼に恭しくお辞儀をする男。デイモンと名乗った男に、村人たちは戸惑いながら声を荒げる。
「よそ者がなんの用さ!」
「そうだ、そうだ、今大事なときなんだ、割り込むな」
「出ていけ!」
「そうだ、出ていけ!」
口々に焚き付けられても、デイモンの表情は一切変わらなかった。
「ヴァルミュールの皆様のご不安については、お察しするに余りあります。しかしながら私は、皆様の抱えるこの人狼問題を解決するために参上したのです。ボンゴレファミリーボス、ジョットの命によって」
「なに、」
村人達が押し黙ったのを見計らい、デイモン・スペードは続けた。
「皆様は、山に住まう隠者の娘が今回の人狼問題の発端だとお考えのようですが、実は違うのです」
「なぜ言い切れる!」
「それは、皆様がよく食べていらっしゃるものが原因だからです」
そして、デイモンは懐から小さな小瓶を取り出し、松明の明かりに照らされるようにかざしてみせた。それは、
「それは、シグナス先生の薬瓶……」
村人の誰かがつぶやき、ほぼ全員の視線がシグナスに注がれる。
「これにはハイドセリという植物の成分が入っています。麦角菌と共に摂取すると、動悸や息切れ、興奮状態、錯乱、人によっては体毛が増量し、見境なく人を襲うことも確認されています」
麦角菌。医者と同時にパン屋でもあったシグナス。
「仕込むことは、簡単だっただろうな」
Gが追随するが、村人はにわかには信じがたい話だった。
「そんなこと、信じられるか!」
「そうだ、嘘に決まっている!!」
「ヌフフ、ならば試してみましょうか。」
デイモンは自分の隣に侍るフードの者──己の従者を皆の中央に連れていき、懐から注射器を取り出し、シグナスの薬瓶の中身を入れた。
従者の腕を取り、注入する。
されるがままだった従者はぶるぶると震えだし、やがて皆の耳をつんざくような咆哮をこだまさせると、狂乱状態で暴れ始めた。
まさにたびたび出ていた人狼病と同じ症状だった。
村人の悲鳴がいくつか上がる。だが、先に来ていた従者の二人組が、またもや彼を鎮めた。
「先生、あんたが、まさか……」
村人達が信じられないという目で彼を見つめる。それを、シグナスは平然と返した。
ぼやけた五感の遠くで、己の名を呼ぶ声が聞こえる。
少しずつ、少しずつ近づくようで、また、遠ざかる。
それを、闇の中でGは必死に掴もうともがいていた。
決して、決して逃がしてはいけない。捉えなければ、手にせねばならない。
本能が必死に叫んでいた。
彼女の声を、彼女の存在を。
「ジラルドさま!」
はっと瞼が開き、覚醒した。
瞬時にGは己の置かれた状況を認識する。
ここはヴァルミュールの村の広場。
辺りを包む薄暗さは明け方の清々しさではない。不穏で不吉な空気をまとった、夜をやがて連れて来る黄昏だ。
そして、自分を照らす松明の炎が、あちらこちらに多くゆらめき、それらを持つ村人達の怒りや憎しみを代弁しているかのように、あかあかと、痛いくらいに照らしてくる。
「ああ……よかった、目を覚まされて」
声はGの後頭部、斜め上からふってきた。この場に似つかわしくないほどたおやかな、慈愛に満ちた声だった。
振り向くとイネスが、地面に立てつけられた木の丸太に縛り付けられている。Gはとっさにイネスのもとに駆け寄ろうとして、悟った。自身も両手の自由を縄によって奪われていた。
「イネス、待ってろ、すぐに」
「ジラルドさま、私にかまわず、どうか今すぐここからお逃げくださいませ」
「んなこと、できるわけねえだろ……!」
「お願いでございます、どうか、どうか」
イネスは髪を振り乱し、泣きながら訴えた。そして、段々と暗さを増していく空をみあげる。
「このままだと、貴方様にも、危害が及びます。村人達だけでなく……あなた様にまで……」
「イネス、なにを言って、」
彼女の言わんとするとこが理解できず、Gは顔をしかめつつ必死に脳をフル回転させる。
まるでイネスが本当に、村人や自分に攻撃をしてしまうと言わんばかりな──これではこの状況に、もっともな理由が出来てしまう──
「……うそだ」
「嘘ではありません。私は……私には……」
「そいつは穢れた女だ!」
村人の一人が声を上げる。そうだ、そうだと口々に村人達は同意する。
「今夜は満月だ、そいつは人狼だ!」
「殺せ、殺せ!」
「何が聖女だ、獣に姿を変える、この魔女め!」
棍棒を持った一人が、イネスに向かって走ってきた。あきらかに人に危害を加え慣れてない手つきで、しかしふりかぶった棍棒をイネスにぶつ。イネスは吐血しながら、うめき声をあげた。
「やめろ!」
そこで、仕込みナイフでようやく縄をほどいたGが殴ってきた村人に飛びかかった。棍棒ごと、イネスから引き剥がすように遠くへ払いのける。しかし勢いづいた村人達は皆イネスとGに向かってくる。
Gは無我夢中で村人達の攻撃に応戦した。刃が肌を裂き、鋭い一撃が数多も全身を打つ。だがGは倒れなかった。血を流し、ふらつきながら、イネスへの憎悪を一心に受け止めんと奮戦する。
「おやめくださいっ、ジラルドさま……!!」
イネスも殴られながら、ただ目の前の男の身を必死に案じていた。そして──やがて、ほのかな月光を感じ取り、イネスは瞳を閉じ、首を天へのけぞらせる。
「ああ……、」
それはイネスの嘆きか、目撃した村人の恐怖の漏れた声だったか。
その場にいた全員が、一瞬、水を打ったように静まり返った。
なぜなら──差し込んだまばゆいほどの月の光に照らされたイネスの鼻は犬のようにまっすぐと伸び、口は大きく裂け、いくつも並んだ鋭い歯がきらめいた。
全身の毛が伸び始め、体も優に2メートルは超えんばかりに大きくなっていく。
イネスを縛っていた縄は耐えられず飛び散り、丸太は倒れた。そこにいたのは、まぎれもない人狼であった──
「ぎゃあああああ!!!」
村にこだました絶叫が、村人達の理性を瓦解させてしまった。
その場所から逃げ惑う者、おぼつかない手でなおイネスを殴ろうとする者、失禁、気絶、石のように固まる者、さまざまだったが、共通していたのはひとつ──この世ならざるものを見てしまったという恐怖。
ジラルドは村人達にやられた痛みを堪えながら、足を引きずりつつ、ゆっくり人狼──イネスに近づいた。
「イネス、」
「……」
は、は、と荒い獣の息遣い。人狼は辺りを伺っていた。名を呼ばれ、じいっとジラルドを見る。
「お前はお前のままだろう、イネス……」
それは、人間の時と変わらぬ、二人きりで過ごしたときと変わらぬ声音だった。
すると、イネスが大きく身をのけぞらせ、遠吠えをした。ジラルドの問いかけに応えたのかそれとも敵意か、判断しかねたジラルドはとっさに構える。すると、頭上からばさばさと羽ばたきの音が響いた。そのときだ。
「!?」
いつの間にかイネスの背後から、フード付きのコートで全身を隠した者が二人現れたかと思うと、人狼姿のイネスになんらかの一撃を加え、倒したのだ。
フードの二人組は妙に手慣れた様子で、これまたどこから取り出したのか、闇の中から小さな檻を運びこんできて、イネスを収監した。村人たちは唖然として身動きがとれなかったが、唯一、ジラルドは違った。
「っ、おい」
二人組に声をかけるG。彼らに見覚えがあった。それもそのはず、
「お取り込み中、失礼いたします」
朗々とした男の声が響き渡る。
村の入口がある方角から、ざ、ざ、と地面を踏みしめてまた二人の男が現れた。
一人は人狼のイネスを捕らえたフード姿の者と同じ格好、もう一人は身なりの良い、貴族姿の──
「私、デイモン・スペードと申します」
慇懃無礼に恭しくお辞儀をする男。デイモンと名乗った男に、村人たちは戸惑いながら声を荒げる。
「よそ者がなんの用さ!」
「そうだ、そうだ、今大事なときなんだ、割り込むな」
「出ていけ!」
「そうだ、出ていけ!」
口々に焚き付けられても、デイモンの表情は一切変わらなかった。
「ヴァルミュールの皆様のご不安については、お察しするに余りあります。しかしながら私は、皆様の抱えるこの人狼問題を解決するために参上したのです。ボンゴレファミリーボス、ジョットの命によって」
「なに、」
村人達が押し黙ったのを見計らい、デイモン・スペードは続けた。
「皆様は、山に住まう隠者の娘が今回の人狼問題の発端だとお考えのようですが、実は違うのです」
「なぜ言い切れる!」
「それは、皆様がよく食べていらっしゃるものが原因だからです」
そして、デイモンは懐から小さな小瓶を取り出し、松明の明かりに照らされるようにかざしてみせた。それは、
「それは、シグナス先生の薬瓶……」
村人の誰かがつぶやき、ほぼ全員の視線がシグナスに注がれる。
「これにはハイドセリという植物の成分が入っています。麦角菌と共に摂取すると、動悸や息切れ、興奮状態、錯乱、人によっては体毛が増量し、見境なく人を襲うことも確認されています」
麦角菌。医者と同時にパン屋でもあったシグナス。
「仕込むことは、簡単だっただろうな」
Gが追随するが、村人はにわかには信じがたい話だった。
「そんなこと、信じられるか!」
「そうだ、嘘に決まっている!!」
「ヌフフ、ならば試してみましょうか。」
デイモンは自分の隣に侍るフードの者──己の従者を皆の中央に連れていき、懐から注射器を取り出し、シグナスの薬瓶の中身を入れた。
従者の腕を取り、注入する。
されるがままだった従者はぶるぶると震えだし、やがて皆の耳をつんざくような咆哮をこだまさせると、狂乱状態で暴れ始めた。
まさにたびたび出ていた人狼病と同じ症状だった。
村人の悲鳴がいくつか上がる。だが、先に来ていた従者の二人組が、またもや彼を鎮めた。
「先生、あんたが、まさか……」
村人達が信じられないという目で彼を見つめる。それを、シグナスは平然と返した。
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