61.一途
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獄寺たちの背後、中庭の端の
これから、彼らと同じような人間たちが、綱吉陣営に向かって大挙して押し寄せるに違いない。誰もがそう想像した、ときだった。
「報告します!」
ヴァリアー隊員が口を開いた。意外にも、その声はどことなく切羽詰まったようなものをふくんでいた。
「我々以外のヴァリアー隊、全滅!!」
宣言した隊員の、両側にいた隊員がその場に倒れ伏した。三名とも、傷を負いながらここまで来たのだ。
「奴は、強すぎます!! 鬼神のごとき男が、まもなくここまで……!」
そこで、隊員の言葉は途切れた。彼らの背後から、疾風のごとくスピードで回転する巨大な黒い鉄球が襲いかかったのだ。
「暴蛇烈覇!!」
どこか聞き覚えのある、掛け声とともに。
三名のヴァリアー隊員は、手も足も出ずに鉄球に散った。
その場にいる者が息を呑む。クロームが人知れず呟いた。
「あの人……ずっと、骸様が話しかけてた……!」
すさまじい速さと攻撃力と共に現れた男。
「取り違えるなよボンゴレ。オレはお前を助けにきたのではない」
彼には綱吉も、獄寺たちも見覚えがあった。
蛇の彫り物を施した鉄球を操り、長身で筋骨のたくましい、自らの意志で戦う男──
「……礼を、言いにきた」
黒曜の際に出会ったランチアだった。
彼が、ヴァリアー隊員を倒してくれていたのだ。観覧席では犬や千種が驚きを隠せない様子だった。
北イタリア最強と恐れられたランチアのことは、ベルフェゴールもマーモンも知っているようだった。
思わぬ助っ人に、ベルフェゴールは戸惑いながら綱吉に向かってナイフを投げつけるも、
「おっと、そうはいかねえぜ!」
山本が真剣に姿を変えた時雨金時でナイフを弾き返し、綱吉の右側へ。
「ムム、こうなってくると……」
口ごもり、マーモンが後退したときだった。マーモンの足元の地面から、噴火した火山のような火柱が上がった。
「ムギャ!!」
「逃さない……!」
クロームの幻覚攻撃だ。火柱から逃れたマーモンも幻覚を生み出そうとするが、空から襲いかかった巨大な円形の武器が、その体制を崩した。
回転しながら手元に戻ってきたチャクラムをキャッチし、しきみが勇ましい表情を浮かべた。
「だめ! 絶対!」
一方で雲雀は疲労しつつも、しっかりとした足取りでベルフェゴール側に歩み寄った。トンファーの尾から、鋭い錘のついた鎖を垂らす。
「ねえ、決着つけようよ」
「いかせんぞ」
了平がボクシングの構えを取り、ベルフェゴールの行く手をはばむ。
獄寺は倒れている真琴、そして沙良の脈を確かめると、ほんの一瞬、彼女のまぶたにかかった髪をよけてやってから、すぐさま綱吉の左の方へ馳せ参じた。
「10代目! お怪我は、」
「ありがとう、大丈夫……」
綱吉もほっとしたように答える。
ベルフェゴール、マーモン、XANXUSは綱吉陣営に囲まれ、窮地に追いやられた。ルッスーリア、レヴィ・ア・タンも、来る気配はない。
鳴海は長柄槍を手にしたまま、ヴァリアーを包囲する仲間たちをぼうぜんと見つめていた。
自分もそちら側のはずなのに、まるで、自分まで追い込まれているような感覚に陥っていた。
──ベルフェゴールは握っていたナイフを自ら地面に落とし、両手を上げて降参した。
「ダメだ、こりゃ」
マーモンも苦し紛れに頷いた。
「ウム……ボス、ここまでのようだ」
XANXUSはしばらく黙っていた。仰向けに寝転んだまま、天を睨みつけ、
「くそっ……ちくしょう……!」
腹の底から吠えた。
憎しみと恨みつらみを込めて。あらん限りの憎悪をにじませて。
「てめえら全員!! 呪い殺してやる!!」
そしてまた、吐血した。
すると突如、
『XANXUS、ツナの言う通りだとオレは思うぜ』
ディーノの声が、スピーカーから聞こえてきた。
観覧席では、とつぜん発言したディーノに視線が集まっていた。
「何のつもりだあ、跳ね馬……」
スクアーロも怪訝そうにディーノを見上げる。
ディーノは着ていたコートの内ポケットから、白い折りたたまれた紙を取り出した。──便箋のようだ。
「搬送された9代目のスーツの、懐に入っていたんだ。お前にあてた手紙だ。拘束される前に渡そうとしていたんだろう」
ディーノは大空戦前に手紙を確認し、XANXUSが9代目の実子ではないことを知っていた。何かの間違いなのではないか、この手紙自体が仕組まれた罠なのではないのかと疑いもしたが、XANXUS自らが血の繋がりがないことを認めた今、まぎれもなく9代目からの本物だと確信が持てたのだ。
ディーノは手紙を読み上げた。
『──XANXUSへ
手紙なら、自分の気持ちを率直に書けるものだと筆を執ってみたが、何から話せばいいのか、分からずに困っているよ。
XANXUS、本当にすまなかった。
どんなに謝っても、償えるものではない。
私は、人の親になるには、あまりにも足りない人間だった。
お前が私の目の前に初めて現れ、その憤怒の炎を見せたとき、私は……お前はボンゴレ二世の
子供のいない私に、神が授けてくれた贈り物なのではないのかと考えた。
お前に少しでもボンゴレとのつながりが無いか、あらゆる手をつくして調べたが、私の力では見つけることができなかった。
だが、私は諦められなかった。
名実、実力ともに立派な後継者として、私の期待に応えようとするお前を見れば見るほど……真実を告げることに、臆病になってしまった。
もはや、お前に私がしてやれることは何もないのかもしれない。だが、これはまぎれもなく私の本当の気持ちだ。
お前は、私の息子だ──』
「ふざけるな!!」
ディーノの声を遮ったのは、XANXUSでもなければヴァリアーでもなく、鳴海だった。皆が目を丸くして、彼女を見つめる。
鳴海は目尻を朱に染め、怒りで震えながら叫んだ。
「そんなの、そんなの、ただの言いわけじゃないかっ、持てる人間がただ、都合のいいように人を選んで、使って、それで結局見捨てるんだろ!!」
「鳴海、どう、したの……!?」
しきみがうろたえ、近づこうとして、憚られた。XANXUSのそばで、彼女は今まで見たこともないくらい激怒していた。
「なんでもっと早く、真実を告げなかったんだよ!! 嘘をつけばつくほど、苦しくなるって、なんでわかんないんだよっ!!」
鳴海はようやく腑に落ちた。なぜこんなに9代目へ怒りの感情を抱いてしまうのか。
なぜほぼ初対面だった綱吉の父・家光を快く思わなかったのか。
家庭を顧みなかった自分の父親の面影を重ねていたのだ。
──父さん。お父さん。
なんで俺を、弟を、妹を、母さんを捨てたの?
どうして一度も会いに来てくれなかったの?
新しい弟のほうが、かわいいの?
俺のこと、嫌いになったの。
ずっとずっと閉じ込めていた幼い頃の自分が、鳴海の中で苦しみ、泣いていた。
鳴海の双眸から、涙が溢れ出る。
「っるせえ……!このクソアマ……!」
同情されたと感じたのか、XANXUSが鳴海を睨みつけ、届かない拳を振り上げる。鳴海はひるまずXANXUSを睨み返した。
「違う、俺は、俺は……!」
こぶしを強く握りしめながら、鳴海は、自分が何を言っているのか分からなくなっていた。
あまりにも多くの感情が複雑に混ざり合っていた。
鳴海は必死に言葉を探した。
悲しいかな、この感情を言い当てられる単語が、まったく見つからない。
言葉は鳴海の胸中に浮かんでは、つかもうとすると消えていく。
社会的弱者から、強者の頂点を追い求めたXANXUS。だがそれは、叶わぬ夢としてXANXUSの手よりこぼれ落ちた。彼自身の努力や実績は何の意味もなさない、選ばれざる者であるという──残酷な現実によって。
その事実が、父を信じて、家族の団欒を取り戻そうとしたが叶わず、元の世界で貧しさを強要されてくすぶっていた鳴海の心に火を付けた。
鳴海の露をふくんだ目が見開かれ、XANXUSを見た。
──ああ、分かった。XANXUSは、この人は。
俺が抑え続けていた心に似ているのだ。
「こんなの、あんまりじゃないかっ……!」
神妙な面持ちで、観覧席の者は鳴海の叫びを聞いていた。
ふと、スクアーロが口を開く。
「リングの秘密を知っていたら……XANXUSは、ボスの座を諦めていたと思うかあ?」
「……どうかな」
9代目からXANXUSへの手紙を、丁寧に折りたたむディーノ。スクアーロが力説した。
「諦めるわきゃあねえ。より怒りを燃やし、掟ごとぶっ壊したはずだあっ……!」
そして、画面に映る少年少女たちに視線を送った。
「これで、ガキ共はこちらの世界の人間だ。……いずれ後悔するだろう、この戦いで死んでいたほうが、よかったとな」
どこまでも冷淡な声音だった。
「XANXUS様」
チェルベッロの一人が、XANXUSの頭元にひざまずく。
「あなたを失格とし、ボンゴレリングを没収します」
「チェルベッロ……」
もはや覇気はなく、XANXUSは審判者に語りかける。
「お前たちの……望み通りだ……予言が当たり、満足か……」
ひゅうひゅうと、肺がうなる音を立てながら。
チェルベッロはしばしの沈黙の後、XANXUSの頬にそっと手をそえた。
「……お言葉ですが、これは我々の望みでも、予言でもありません」
戦いを終えた戦士を、いたわるように。
「全ては決まっていたこと。……あなたさまは、役割を終えたのです」
「……」
あと一言、二言ほど、XANXUSは何かを言った。憎まれ口のようなものだったが、声にはならなかった。
XANXUSは、鳴海に一瞥くれた。鳴海も見つめ返した。不思議なことに、そのXANXUSのまなざしには、敵意や軽蔑といった意思は感じられなかった。
XANXUSはうめき声をもらすと、静かに瞳を閉じた。
「お疲れさまでした。それでは、リング争奪戦を終了し、すべての結果を発表します」
チェルベッロが仕切り直す。
「大空戦、勝者は沢田綱吉氏」
朗々とした声で、チェルベッロはそう告げる。綱吉陣営の者たちに、わずかながらに安堵の笑みが灯った。
「よってボンゴレの次期後継者、そしてエテルナリング後継者4名の所有権を持つのは、
沢田綱吉氏とその守護者、6名です」
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