60.大空戦②
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空は燃える炎のように赤く染まり、濃い群青色の夜を引き連れていた。
幼い自分が泣きながら走ってた。手足を乱雑に動かし、無我夢中でもがいている。
涙がとめどなくあふれてくる。
自分は父親に捨てられたのだと、悲しくも確信を得てしまったから──。
**********
真琴を挟んだ形で、得物をかまえる鳴海と雲雀。真琴は窮地に追い込まれるも、ぎらついた視線を交互にやり、一寸のすきも見せてくれない。にらみ合う三者、そのときだった。
「──きみ、」
ふいに、雲雀が鳴海に語りかけた。鳴海は戸惑いながら雲雀を見る。
「山本武のところに、行きなよ」
言いながら、雲雀は真琴にしかけた。まっすぐ間合いに入り、真琴のみぞおちに肘をたたきこむ。血とつばを吐き出し、あえぎながら、真琴が後ろへ後退った。
自分が真琴を引き受けているうちに、山本を助けに行けと言っているのだ。鳴海はぎゅっと柄を握りなおし、お願いします!と頭を下げると、真琴に背を向けて一目散に校舎B棟へ向かった。
*
綱吉とXANXUS、両者の争いは熾烈さを増し、XANXUSのほうはますます自身のスピードを加速させる。手慣れた動作ですばやくマガジンを入れ替えると、一気に連射させた。
綱吉の体が後方の校舎の壁に激突し、重力に従って下へ落ちた。衝撃で、綱吉の落下地点にクレーターが出来ていた。
しかし、綱吉は起き上がった。観覧席がどよめく。
直撃を免れていたのだ。綱吉の着ていた、レオンのお手製ベストだけが綺麗に吹き飛んでいる。
綱吉が顔を上げた。その視線はXANXUSを通り越し、はるか遠いなにかを見つめていた。
(ツナ……)
彼の言わんとすることを察し、リボーンはひたすらに戦いを見据える。
今こそ、共に修業した技を使うときだ。バジルと、鳴海と、何度も拳を交えながら追い求めた、初代ボンゴレの奥義を。
綱吉は両手を胸元であわせ、親指と人差指で三角形を創るようにかまえた。その手元から、躍動感あふれる巨大な炎を放出させた。
綱吉の炎は大きくなったかと思えば縮んだりを繰り返し、鼓動にふるえる心臓のような動きを見せた。
そんな綱吉の炎を見て、頭上から見下ろしていたXANXUSの目の色が変わった。
「"死ぬ気の零地点突破”、か……!?」
今度は観覧席の面々が戸惑っていた。
──なぜXANXUSが、その技を知っているのか?
XANXUSは銃から放射される炎をジェット代わりに校舎から飛び立つと、綱吉にめがけてまっすぐ蹴りを入れるように着地してきた。
避け、逃げる綱吉。執拗に追い回すXANXUS。
「逃さんぞ!」
「っ……!」
拳銃を握ったままの右拳で、綱吉の顎に打撃を与える。
綱吉は宙でよろめき、ふらつきながらもグローブの炎で体制を整えようとしたが、XANXUSはその背後にすばやく回ると、光球の炎をその銃口から発射し、綱吉の脇腹をかすめた。
幾度も妨害を受けてしまい、これでは綱吉も死ぬ気の零地点突破に集中することが出来ない。
しかし、綱吉は意地でも立ち上がり、手で形を作り、技を試みた。そんな彼のはるか天上から、
「消えろ!!」
怒り、猛るXANXUSの猛攻が降り注ぎ、少年を覆い尽くす。
*
校舎B棟めがけて、鳴海は無我夢中で走った。あの雨戦の夜のときのように。スクアーロが死んだ夜に。
(……ちくしょうっ……)
大事なときに限って、辛い思い出が頭を駆け巡り、なかなか離れてくれないのは厄介だ。
『お前とは、違う形で会いたかったぜ』
なぜそう言われたとき、無理矢理にでも聞かなかったのだろう。
もっとわがままを言っていれば、あの人ならきいてくれたんじゃないか。
同じボンゴレに所属していたのなら、直接的ではなくても、何かつながるヒントはくれたんじゃないか。
もしそうだったら、こんな、望みのない終わりじゃなかったのではないか。
脳裏には今でも、ほの暗く揺れる水面が浮かんでいた。どんどん上へ迫りくる水位。全力で走りたいのに、水場にとられた足は言うことをきいてくれない。是が非でもあの人の元へ駆けつけたいのに、出来ない。
あの人の目は死を受け入れていた。
逃れられない災厄に飲まれる前に、死の直前に、鳴海に微笑みかけた。
もっと、そばにいてほしかった。
あの夜、あの日以来、鳴海の心は寝ても覚めてもずっと叫んでいた。
行かないで、俺を置いていかないで。
(……スクアーロ……)
鳴海はこみあげてくる涙を必死に堪えた。失うことがどれほど辛いのか、帰らぬ人を想うことがどれほど苦しいのか、この数日間でいやというほど味わった。
──もうあんな思いはごめんだ。
これ以上、誰も失いたくない一心だった。
鳴海はB棟内部へ入り、仲間の姿を探した。
1階に置かれているポールが2階部分をつっきり、3階部分まで到達していた。案の定ポールの足元には山本が倒れており、デスヒーターの熱に苦しんでいる。
「山本!」
突如聞こえた声に、山本がおぼろげながら反応した。
「その声は、鳴海か……?」
「待ってろ、今助けるから!!」
鳴海は細心の注意をはらいつつ、一階から二階へ、三階へと登った。ポールのてっぺんに鎮座していた雨のリングをつかむと、瓦礫に飛び乗ってまた階下へ降り、倒れている山本の左手首を掴んだ。銀色の箱型の装置のくぼみに、リングをはめこむ。
しきみが自分にしてくれた時と同じ、かちり、と解毒剤が作用された音が聞こえた。
*
広大な中庭にはいくつものクレーターが重なり合って出来ていた。その中心に、今や炎の潰えた綱吉が、あっけなく仰向けに倒れている。
観覧席の面々に、暗い影が落ちた。シャマルがくそ、と舌打ちして額に手をやる。
勝利を確信したXANXUSが、静かに近づいてきた。
「くだらねえ猿真似しやがって……カスはカスらしく、灰にしてやる」
右手に、憤怒の炎を宿らせた、その瞬間。
綱吉の額に、小さなきらめきが灯った。
それはほんとうにわずかなものだったが、頼りなげな炎はみるみるうちに大きく変化し、『27』の毛糸の手袋は瞬く間に黒いグローブへ変貌する。
額、双手から滾る光に押され、綱吉の体が起き上がった。
「リボーンさん!!」
バジルの顔は喜びに満ちていた。あれはまぎれもなく、綱吉とバジル、そして途中から協力した鳴海たちで追い求めていた、死ぬ気の炎を中和する力──死ぬ気の零地点突破だ。
しかと自分の足で地に立つ綱吉に、XANXUSが問うた。
「それが初代が使ったという、死ぬ気の零地点突破、か?」
「そうだ」
答える綱吉。だが、
「こいつぁ傑作だな!!」
XANXUSはあざ笑う。
「誰に吹き込まれたかは知らんが、零地点突破はそんな技ではない!」
綱吉側に衝撃が走る。
XANXUSは疲弊している綱吉をしげしげと眺めて告げた。
「本物とは似ても似つかねえな。考えてもみろ、腐ってもボンゴレの奥義だぜ。使い手がそれほどダメージを受ける、ちゃちな技なわけねえだろ!!」
「知ったようなことを!」
いきり立つバジルを、リボーンが制した。
「……確かに、奴の言うとおりだ」
リボーンは気付いていた。敵の炎を吸収し中和し、ダメージを減らす。零地点突破はそういう技だったが、完全にそれが出来ているとは言い切れないほど、綱吉は摩耗している。
「こいつを使っても、勝ち目は……」
「で、ですがリボーンさん……!」バジルは納得できず、食い下がった。「拙者たちは、この技を目指して修行してきたんじゃないんですか!?」
「そうとも言えるが……」
含みある言い方に、皆がじれる。
「……ツナが初代と同じ境地に達していたとしたなら、修業の過程は同じでも、違う答えに辿り着いた可能性がある」
銃口に光球の炎が吸収されていく。
「終わりだ、カス。灰になるまで撃ち込んでやる」
すると、
「しっかり狙えよ」
そう返した綱吉に、XANXUSがいぶかしげにねめつく。
「なに……?」
「次はうまく、やってみせる」
綱吉の脳裏になにかがひらめいた。名前も方法もまだ明確ではない、煙のように儚いそれに、綱吉は希望を見出しているようだ。
それは、ブラッドオブボンゴレのなせる予知だったのか。
綱吉はふしぎな手の形をつくった。両手を、右手を上に、左手を下にして、四角の形を作るように構えを取っている。
そして、その技の名を口にした。
「死ぬ気の零地点突破・改」
*
鳴海、山本は肩を組み、校舎B棟を抜け出した。
「すまねえ、迷惑かけちまって……!」
山本が申し訳無さそうに言う。それに対し、鳴海は首を横に振った。
「大丈夫、それに、真琴を引きつけてくれた雲雀さんのおかげだ」
鳴海としてはもう少し山本を休ませてやりたかったのだが、ヴァリアー側として戦わされることになった沙良、それに真琴のことでいてもたってもいられなかったのか、早々に動き出したのだ。
「あ、あそこ……!」
鳴海が指差す方向に、雲雀と交戦する真琴の姿があった。
若干ではあるが、真琴が優勢だった。真琴は目にも留まらぬ速さで蛇腹剣を鞭、真剣と交互に变化させながら、雲雀のペースを乱している。
「真琴っ!!」
「──っ!」
山本が呼びかけると、真琴は目を見開いて雲雀を弾き返し、距離をとった。多勢に無勢と判断したのか、あっさりと身を引き、闇夜にまぎれ去っていく。
「大丈夫か、雲雀!」
山本は雲雀にも声をかけるが、雲雀のほうは不服そうにふいと視線をそらした。
「鳴海から聞いたぜ、サンキュな!」
「本当、ありがとうございます……!」
鳴海もお礼を言うが、
「別に、戻ってこなくてよかったのに」
という雲雀のセリフに脱力した。どうやら、真琴と戦いたかっただけらしい。
「た、助けてくれたんじゃないんですか?」
「校内で死なれると風紀が乱れるからね」
鳴海は若干遠い目になった。どこまでも我が道を行く彼である。しかし、そんな雲雀もまだ本調子じゃないらしく、足元が若干おぼつかない。
「交代しようぜ、こっからはオレらが引き受けるからさ」
山本の申し出に、雲雀は黙っている。
「とりあえず、今は獄寺は解毒されたみたいだよ」と鳴海。
「他はランボと笹川先輩とクロームか……真琴と沙良も助けてやりてえけど、大空戦が終わるまであの状態じゃあな……」悔しそうな山本。
ふと、雲雀が顔を上げた。
「……しきみは」
「しきみは解毒して休ませました。中庭のすみのほうに移動させましたけど、そろそろ起きているかも、」
鳴海が言うやいなや、雲雀はくるりと背を向けてどこかに走り出す。
おい、雲雀!と山本が呼び止めると、暗闇からあるものが山本の元へ投げてよこされた。──雲のリングだ。
雲雀から預かった指輪を、山本は力強く握りしめる。
とりあえず山本は獄寺を探しつつ、他の守護者を助けに、鳴海は、沙良と真琴をメインに捜索することにした。
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