59.大空戦①
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── 鳴海が小学生の頃、父親が家を出る形で両親は離婚した。両親が居た頃から家は裕福とはいえなかったが、その後の暮らしぶりと母の仕事の忙しさに、おそらく養育費等はもらえなかったものだと幼心ながらに感じていた。
それでも鳴海はよく耐え、踏ん張っていた。忙しい母と、自分より幼い弟達を支えようと必死だった。自分がしっかりせねば家族が悲しむ。自分が頑張れば家族は喜んでくれる。
家族の笑顔を糧に、鳴海は不器用ながら家事や弟達の面倒をよく見た。
それと同時に、心のどこかで期待していた。
頑張っていれば、父がいつか戻ってきてくれるかもしれない。
また家族みんなで、仲良く暮らせる日が来るかもしれない……
淡い期待が粉々に砕かれたのは、それから2、3年ほど経ったときだった。
鳴海は一人で下校中、見慣れた背中を見つけた。
家を出ていって以来、久しぶりに見る父親の背中だった。
嬉しくて駆け寄ったが、父親の隣にいた人物に気付き、そしてすべてを悟った。
沸き立つ心が一気に奈落へ落ちた。
小さな小さな男の子。知らない子。自分の父親に、異様にそっくりな──
『お父さん……その子、誰……?』
**********
ヴァリアーのボス補佐、ゴーラ・モスカの内部にいた人間──動力源は9代目だった。
それをXANXUSが知らないわけがない。なのに、XANXUSが言い放ったセリフはまるで、綱吉が故意に9代目を傷つけ、怪我を負わせたような口ぶりだった。
「な……なに言ってやがる!あいつが9代目を!!」
獄寺が疑義を唱える。
「まるで、ツナ君が悪者みたいじゃん…!」
しきみが冷や汗をかいた。
悪者、というワードに、リボーンの中でひとつの仮説がたった。
「それが狙いだったのか?XANXUS。ツナを悪役に陥れ、9代目の仇を討ったとなれば、揺りかごの一件を知る連中──XANXUSの反抗勢力を説き伏せられる可能性は上がるし、10代目候補のツナより強いと証明もできる」
この雲戦自体が、XANXUSの罠だったのだ。綱吉を排除するために。
「で、でも、XANXUSが、モスカの中に人を、入れてたのに」
真琴が抗議するも、鳴海が悩ましげに言った。
「モスカの件は俺らの目撃証言だけで、証拠がない。綱吉くんが9代目に攻撃をした証拠があっても…」
なんという策略か。鳴海はXANXUSを食い入るように見ていた。どうして、そこまで。
だが鳴海は、全く理解が出来ない気がしなかった。XANXUSは親の生業を受け継ごうとしながら、親の背を追いかけながら、同時にはげしく憎んでもいる。
むしろ理解できそうな自分が、怖かった。
「憶測での発言は謹んでください」
「すべて、我々が公式に記録しています」
チェルベッロが抑制する。
だが、リボーンはきっぱりと言い返した。
「好きにしやがれ。オレはもうキレてんだ」
「!!」
冷淡な雰囲気をまとっていた彼女たちが、めずらしく体をしならせ、反応した。リボーンに恐怖しているようだ。
ボルサリーノのつばの影の瞳は、冷え冷えとしている。
「だが、生徒の勝負には手は出さねえぞ。9代目との誓いだ。……オレがそう言っても、戦いが嫌いなオレの生徒がどうするのかは知らねえけどな」
それまで、黙っていた綱吉がすっくと立ち上がった。
すでに涙は乾いていた。
「XANXUS」
初めて、綱吉は堂々とした声でその名を呼んだ。
「そのリングは返してもらう。……お前に、9代目の跡は継がせない……!」
毅然とした表情だった。よく言った、とリボーンが満足げに賞賛を送る。
XANXUSがふん、と鼻を鳴らした。
「ボンゴレの歴史に刻んでやる。XANXUSに楯突いた愚かなチビが一人、いたとな」
それに対し、すかさず言い返した者がいた。
「一人じゃないぜ!」
獄寺だった。「10代目の意思は、」
それに、山本が続ける。
「オレ達の意志だ!!」
獄寺はダイナマイトを携え、クロームは三叉の槍をかまえた。しきみはチャクラムを持ち、真琴は蛇腹剣を、了平も拳をにぎりしめ、山本も竹刀袋に手をかける。沙良も弓矢を装備して、いつでも放つことが出来る。「個人的に」雲雀も参戦するつもりのようだ。
鳴海は槍をステッキ状態にしたまま、なおXANXUSを見据えていた。
「くるか、ガキ共!!」
「いいねえ」
レヴィ・ア・タン、ベルフェゴールも応戦する気まんまんだ。
「反逆者共を根絶やせ」
XANXUSの号令により一触即発の空気の中、待ったをかけたのはやはり、チェルベッロだった。
「お待ち下さい。この場は、我々が仕切っています」
「我々には、ボンゴレリング、エテルナリングの行方を見届ける義務があります」
「何言ってやがる、XANXUSの犬が!!」獄寺が吠える。
だがチェルベッロは歯牙にもかけない。死炎印がゆらぐ書類をかかげた。
「我々は9代目の勅命を受けています。我々の認証なくしては、リングの移動は認められません」
「我々は勝利者が次期ボンゴレボスとなるこの戦いを、大空のリング戦、と位置づけます。これまで行ってきたリング争奪戦の最終戦です。いかがでしょうか? XANXUS様」
あくまで彼女たちは、XANXUSに問うた。「悪くねえ」と返答をもらい、チェルベッロは進行を続けた。
「それでは明晩、並中にみなさんお集まりください」
XANXUSは指にはめていた大空のボンゴレリングを2つに分け、そのうちの片方を、綱吉に投げつけた。
「明日が喜劇の最終章だ」
綱吉の毛糸のてぶくろの中に、ハーフボンゴレリングがキャッチされる。
「せいぜいあがけ」
それだけ言い残すと、XANXUSは自身の右手から燦爛たる光を生みだし、自分たちの姿をまぶしく包み隠した。数秒後、光が消えるのと同時に、XANXUS、ベルフェゴールとレヴィ・ア・タン、チェルベッロ達の姿も煙のように消失した。
「遅かったか!?」
入れ違うように、別の勢力がやってきた。
部下を大勢従えたディーノ。キャバッローネファミリーだ。
「お前ら! 9代目と怪我人を!」
ボスの命を受け、屈強なスーツの男たちはたちまち散った。倒れている9代目を担架で運び、怪我をしている者の看護にあたり、地雷の撤去やガトリングの解体作業などを手早くこなしていく。
ディーノはそっと、リボーンの隣に歩み寄った。
「さきほど門外顧問のチームから連絡を受けた。まさか、こんなことが…」
この件はキャバッローネに直接関係は無いとはいえ、ディーノもショックを受けたようだ。声が沈んでいる。
「大丈夫か……?」
「オレ達の受けたダメージは、あまりにもでかい……」
リボーンも同様だった。しかし、
「でもな、」
「?」
促されて、ディーノはリボーンの視線の先を追った。綱吉達がいる。
「大丈夫かよ、雲雀!」
「めずらしく大人しかったじゃねえか」
山本、獄寺が雲雀に声をかける。雲雀は静かに答えた。
「この状況が、あの草食動物の強さを引き出しているのなら、まだ手は出せないよ」
その言葉に、皆がくすぐったいような、不思議な心持ちになった。
雲雀もまた綱吉を認め、仲間意識のようなものがわずかでもあるのではないか、と。
綱吉は一人皆に背を向け、荒れ果てたグラウンドを見つめていた。すると、
「ツナくーん!!」
しきみが突撃し、背中をぽんぽん叩いた。いきなり話しかけられ、綱吉はぎくっとのけぞる。
「しきみ?ど、どうしたの」
「さっきの、めっちゃ格好良かった!」サムズアップを贈るしきみ。
「ボス、っぽかった」真琴が言い、「ボスじゃないって!」と綱吉があわてて否定する。
鳴海も力なくではあるが、にこっと笑った。
「明日の勝負に備えて、しっかり充電しないとね」
「鳴海……」
「俺も頑張って、ちゃんと戦わないと」
すると、沙良が綱吉に治癒の炎を当てた。
「あ、ありがとう、沙良……」
「いえいえ。他にも、治療必要な人、いない?」
「おい、沙良!」
獄寺がずかずかと歩み寄り、沙良の手首をがしっと握った。
「は、隼人、くん」
「沙良も無茶してんじゃねえよ、危ねえだろうが!」
獄寺は沙良が危険を顧みずクロームの元に行こうとしたこと、9代目の治療に全力を注いだことを責めているのだ。
皆より離れたところで、クロームが一人、おろおろとこちらを見つめている。
ごめんなさい、とうなだれる沙良。真琴がむっとして、獄寺をにらみつける。
「獄寺、沙良に、怒るな!」
「んだと……」
「まあまあ」鳴海が諌める。
「獄寺がちゃんと助けてくれるって、沙良も信頼してたんだろ」山本がそうつけくわえた。
「うむ、誠にご両人は仲睦まじいな!」
了平が訳知り顔で言う。獄寺、沙良の顔が真っ赤になり、更に騒ぎは大きくなっていく。
やいやいじゃれる若人を見て、ディーノも若手の部類ではあるが妙に懐かしくなった。
彼らの若さが、青さが、今は頼もしかった。
「な?」
リボーンがふっと笑う。ディーノもほほえみを返した。
(まだ希望は、潰えていないんだな……)
だがやはり、どこか元気のない様子の鳴海が、ディーノには引っかかっていた。
***
何が起ころうと、何が待っていても、必ず日は昇り、新しい朝がやってくる。
大空戦を控えた当日の朝、4人は学校へ登校組と、サボり組に分かれていた。
意外にも、鳴海&しきみが登校組で、沙良&真琴がサボり組である。
沙良と真琴は、並盛のオフィス街にあるデパートへ向かっていた。日頃感謝の気持ちを込めて、奈々へのお礼の品を買いに来たのだ。
わざわざ今日でなくてもいいかもしれないが、だからこそ逆に、心残りを増やしたくなかった。
今夜がどういう運びとなるのか、皆目見当がつかない。最悪の事態はあまり考えたくないが、可能性がゼロとは言い切れない。
できるだけ早く、奈々へ何か贈りたかった。子供だけで暮らしている4人を何かと気にかけ、おかずや日用品の品々を分けてくれたり、面倒をみようとしてくれている奈々に。
沙良は当初一人で行くつもりだったが、単独行動は危険だと真琴が名乗りを上げ、こういう流れとなった。
道中、道の反対側から、黒曜生が歩いてきた。クローム髑髏だ。あ、と二人が足を止める。
「クローム、」
「クロームさん!」
ふたりに名前を呼ばれ、クロームは恥ずかしそうにしながらもぱたぱたと駆け寄り、小さくお辞儀をした。両手で抱えた鞄が、まるで自分を守ろうとする盾のようで、沙良は少々さみしくなる。
「二人、とも……どこへ行くの?」
「お買い物」
沙良が恥ずかしそうに答えた。我ながらこんな大事な日に、のんきすぎるような気がしないでもない。
「クローム、あの、ね」
真琴がおずおずと尋ねる。ずっと聞きたかったことだ。
「骸、あの後、何か言ってた…?」
悲しそうな顔をして、クロームが首を横に振った。
「……まったく反応が無いの」
思わぬ返答に、真琴がどもる。
「ど、どうして……」
クロームは困ったように眉を下げる。
「わからない。まるで他の人に、話しかけているみたいで……」
真琴、沙良は互いに顔を見合わせた。骸のことは気がかりだが、残念ながら自分たちに出来ることは、あまり多くない。
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