06.4人目と野球少年
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「なあ沙良……作りすぎじゃないか?」
テーブルにところせましと並べられた、沢山のおかず。鳴海としきみも一緒に手伝ったが、ほとんど沙良が作ったものだ。
「ご、ごめん……なんか、止まらなくて……」
申し訳なさそうに頭をかきながら、沙良が頬を赤らめる。
タイムカプセル騒動(※05参照)で再会を果たした後、沙良もしきみ同様、鳴海から色んな説明を受けた。
自分たちが平行世界にトリップさせられたこと、この世界では自分たちの住んでいた街は存在せず、元居た世界では存在ごと抹消されていること。
ボンゴレファミリーという由緒あるマフィアがあり、その幹部候補であること。
この世界で生きていけるようにと、武器と戦闘能力が与えられたということ。
摩訶不思議な話を次々聞いて、沙良のリアクションがいちばん大きかったのは『鳴海としきみが買い食いばっかりしている』だった。
それは健康によくない、と放課後、沙良は2人をスーパーへ連れていき、食材と調味料を山のように買った。
鳴海としきみが使っているという家に到着後、早々に沙良は料理をし始め、今に至る。
「わー! いただきまーす!!」
しきみは一口ごとにおいしい!と連呼してご満悦だ。鳴海も目の前の煮物を口に含んだ瞬間、なんともいえない安心感を覚えた。
しきみは料理が苦手だが、鳴海は簡単なものなら作れるレベルだった。だが自炊をしなかったのは、色んな事が一気に起こりすぎて余裕が無かったのだろう。
「うん……上手い……ありがと、沙良」
「いえいえ、どういたしまして」
料理を作り終え、やっと沙良も落ち着いたようだが、もしかしてこれは彼女なりの一種の現実逃避ではないかと鳴海は危惧していた。
「そういえば沙良って、獄寺と知り合いなの?」
しきみが質問をする。
「え?ご、ごくでら?さん?」
「ほら、グラウンドで沙良の顔すっごく見てた人だよ」鳴海がフォローを入れる。
沙良は出来るだけ記憶をたどり、「緑色の瞳してた男の子?」と思い出す。
「自分から聞いといてなんだけど、知るわけないかー」しきみが大きく笑う。「異世界から来たのに知り合いだったらおかしいよね」
異世界、そのワードに沙良の表情が曇る。
「……沙良?」鳴海は分かっていた。「やっぱり、信じられないよな」
「う、うん、ごめんね……」
沙良は申し訳なさそうに笑う。
「鳴海達が嘘ついているとは思えない。こうして会えたんだし……でもマフィアとか、死んだら生き返るとか、なんか、こう……」
「実際見たら結構すんなり受け入れられるかもね」
しきみは生姜焼きにかぶりつく。
沙良はひとりでに何度も頷き、
「そう、そうだよね、慣れていけば……いいのかな」
自分に必死に言い聞かせているようだった。かける言葉が見つからず、鳴海が戸惑っていると、
「そうだ、そろそろできたかな?デザート作ったの、簡単なものだけど……!」
そう言いつつ、沙良はカウンターテーブルの向こうへ駆け出していく。鳴海は思わずしきみを見た。しきみは料理に舌鼓をうちながら、肩をすくめる。
(悪い意味で、ハイになってるんじゃ……?)
そして、その予想は大当たりした。
翌日から、沙良も並盛生として通うことになっていた。そう学校から連絡を受け、鳴海もしきみも支度をする。(ちなみに制服は、鳴海が来たときからこの家にあったダイニングテーブルに4着分が置いてあった。)
しかしながら、沙良が2階の寝室から一向にやってこない。(昨晩はベッドが一つしか無いため、セミダブルに3人でぎゅうぎゅう詰めになって寝た。)
様子を見に行くと、沙良は頭から毛布にすっぽりとまるまっていた。名前を呼ぶと、もぞもぞと小さく動く。
「沙良―?大丈夫―?」
しきみが毛布の上から体をそっと揺らす。やっと出てきた沙良は、顔色がひどかった。
「ご、ごめん……起き上がれなくて……」
鳴海は沙良の額に手をやる。発熱しているようではなかった。咳や鼻水もなさそうだ。
「きっと疲れちゃったんだね。先生には言っておくから、今日はゆっくり休んで」
しきみは沙良の頭をなでる。優しい手つきだった。
「買ってきてほしいもん、あるか?」
鳴海の問いに、沙良は首を小さく横に振った。
「ううん、大丈夫……ありがとう」
沙良はほっとした顔つきで、静かに瞳を閉じた。
***
体育の授業。男子は野球、女子はバスケだった。
しきみも鳴海もそこそこ活躍し、試合に貢献した。そこそこ、というのは、本当はもっと本気を出せばやれたのだが、悪目立ちしない為だ。何事もほどほどがいちばんだ。
しきみはご機嫌だった。元から体育の時間は嫌いではなかったが、大好きな科目に昇格した。鳴海の話通り、確かに体が軽やかに動き、手も足も思いのままに動かすことができる。他人の動きがいつもより遅く見え、予知し、しなやかに対応ができる。
試合終了のホイッスルが鳴った。時計を見ると、授業終了まであと30分ほど。まだまだ出来る、としきみは張り切っていたが、女子たちがそそくさと片づけを始めてしまった。
「あれ、やらないの?」
「あ、近衛さん、近衛さんも一緒に見に行こう!」
クラスメイトの女子が、何やら浮足立っている。
「行くってどこに?」
「男子の野球! 武、すっごくかっこいいんだよね!」
そういうや否や、その女子は『武 命』と書かれたハチマキを額に巻いた。同じことをしている女子が他にも何人かいて、あっという間に体育館を去っていく。
「あれ、バスケやんないのかー?」
少し遠くから鳴海が、ボールを手にやってくる。しきみはきょとんとしつつ答える。
「見に行くんだって。武の試合」
「?」
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