55.雨戦と海の試練②
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敵の残数を告げてくるチェルベッロのアナウンスは、鳴海にとっては雑音に等しかった。
並盛中学校敷地内を真上から見た際、一番左下の角から攻撃を始め、そのままグラウンド側へ進んだ。そして、観覧席の手前で鳴海は校舎に入った。敷地内、というのだから校舎にもおそらくいるだろうと見越したのだ。
案の定、飛び込んだ廊下のいたるところで敵が待ち構えていた。鳴海はヌンチャクをしかけてきた相手の胴体に一発蹴りをお見舞いし、ヌンチャクを奪って──それを使わず遠くへ放った。ヌンチャクはカスタマイズしやすく、使い手以外の人間には扱いづらいように工夫されているものだと、あの無人の空き地で師匠──スクアーロに教わったことがあったのだ。
(スクアーロは、なんで俺を弟子にしてくれたんだろう)
鳴海の胸中は複雑だった。
深い夜の中、あの人通りの全く無い空き地で、いくらでも鳴海の命を奪えるチャンスはあったはずだ。なのにそれをせず、彼が授けた教えの数々が、黒曜のときから今の今まで、鳴海を救ってくれている。
(俺を、馬鹿にしていたのか……?)
いずれ争い合う立場にあることを隠して、何も知らない子供を、嘲笑っていたのだろうか。
疑心を抱くも、鳴海はそれをすぐさま自分で否定した。
そんな人間にはとても思えなかった。彼はあのとき、たしかに、鳴海を弟子として尊重してくれていたと、肌で感じたから。
立ちふさがった数人の中に、長く細い棍を手にした人間が居た。鳴海にとって好都合だ。
剣で切りつけてきた者をかわし、鳴海の襟首を掴み、大きく回転して倒そうとした相手を逆に窓ガラスに叩きつけ、棍棒を持った人間を転ばせて奪った。長物はやはり、手に馴染む。
棍を振り回して距離を取りながら、階段を登った。ちょうど近くに積まれていた椅子と机、下からわらわらと追いかけてくるハンター達。鳴海は棍の助けも借りつつ、彼らにめがけて机と椅子を落とし、雪崩のごとく襲わせた。
登った二階にも、やはり敵は潜んでいた。皆が鳴海を見るなりいきりたち、やっきになって襲撃してくる。
抱きついてきた敵を引き剥がし、並ぶロッカーに頭をぶつけさせた。近づいてきた3人を道連れに倒したあと、何もできないようにロッカーを彼らの上から倒して重し代わりにした。
鳴海は少しはずんだ息を整えながら、興奮する彼らを冷静に眺めていた。
山本の意図を知るやいなや、スクアーロは猛り、再び激しさをまして来襲してきた。
「ゔお゙ぉいっ、自分の置かれた状況がわかってねえようだなあ!!」
山本が水柱を上げるも、スクアーロも同じように大波をたて、互いの視界が遮られる。真っ先に相手を見て取ったのは、スクアーロだった。
目にも留まらぬ速さで切り込み、山本の左肩から血が吹き出し、崩れ落ちた。
山本、と叫ぶ綱吉。真琴はモニターに食い入るように凝視した。
満足気に笑いながら、スクアーロが告げた。
「教えてやる、貴様の技はすべて見切ってるぜえ。その時雨蒼燕流は、昔ひねりつぶした流派だからなあ!!」
山本、観覧席の綱吉たちに衝撃が走る。
恐れていたことが起こった。やはり、スクアーロは時雨蒼燕流を知っていたのだ。うずくまる山本、液晶越しに見ているであろう綱吉側に、スクアーロが語りかけた。
「極めた剣を試すため、オレは強ぇ相手を探していた。そんな折だ、極東の国で密かに継承されている、完全無欠の暗殺の剣──時雨蒼燕流を知ったのは」
訪日したスクアーロは、時雨蒼燕流の継承者と弟子の3人を見つけ、勝負を挑んだ。今の山本と同じ型を使ったという。
「ひでえ大雨の日だったな。所詮は、古典剣術の亜流! すべての型を受け、見切り、切り刻んでやったぞお!!」
声高に宣言するスクアーロ。彼の話が狂言でないことは、これまで山本の技を見切ってきた事実が如実に物語っている。
けれども、山本は、怯んだ様子は一切見せなかった。
「聞いてねえな、そんな話……」
ふらつきながらも立ち上がる。
「オレの聞いた時雨蒼燕流は、完全無欠、最強無敵なんでね」
「やま、もと」
喉からせり上がってきた名前と声に、真琴自身が驚いていた。ぐっと胸を鷲掴みにされたような、それでいて心地よい苦しさに、ただただ戸惑うばかりだった。この感情は一体何なのだろうか。
こわくなって、隣りにいた沙良の手を掴んだ。しきみの服の裾を掴んだ。二人とも、穏やかに受け入れてくれた。
互いが向かい合い、走り出した。スクアーロが剣を振るい、棟よりふたたび弾薬を飛ばした。山本が防御の体制をとった瞬間、今度は少し離れた建物の柱に強く打ち込む。
飛び散った柱の破片のひとつが、山本の右目に直撃した。転倒する山本。なお迫るスクアーロ。止まるを知らない敵に、今度は右手から左手へ、先程とは逆の流れで五月雨を繰り出した。
しかし。
剣が交差した瞬間、山本は身震いをして、金縛りにでもあったかのように停止した。そうしている間にもスクアーロは別の方向から切り込もうとしてくる。
立て、動け、逃げろ。仲間たちが必死に呼びかけた。だが、山本を突き動かしたのは敵の勝利を確信した叫びだった。
「死ね!!」
「くっ!」
とっさに、山本は右の拳で時雨金時を握る左手を殴った。胸から腹のあたりを斬られるも、なんとか後方へ避けたのが功を奏し傷は浅く済んだ。山本はスクアーロに押されながら、竹刀に戻った時雨金時を離さずに好機を伺う。
「あれは、鮫衝撃 だね」
観覧席のマーモンが分析する。
「渾身の一振りで、相手の神経を麻痺させるものだ」
「あの手、しばらく使い物になんねーだろうなあ」
ベルが飄々と言った。
山本は瓦礫をよじ登り、上の階へ逃げた。衝撃を打ち込まれた左手に息を吹きかけ、なんとか感覚を取り戻そうと試みる。
すると、足元が一気に崩れた。空間をまるごとかじり、翻弄するかのようなスクアーロの激しい連撃に、山本は階下の水中へ落ちた。
ヴァリアー側は、この技の名前を無論知っていた。鮫の牙 。
「ボス……」
レヴィがモニターから振り向き、XANXUSに視線を送った。XANXUSは座した椅子に深く腰掛け、膝をついたまま、鼻をならした。
「何年経っても……代わり映えのしねえ野郎だ」
「さすがスクアーロだね」
マーモンは素直に感心している。
上空より降り注ぐ水しぶきを受け、かぶった返り血がシンクに流れるインクのように剥がれ落ちてく。
雨の守護者の使命──戦いを清算し、流れた血を洗い流す鎮魂歌の雨。それを体現してみせたのだ。
そんな中、またも急展開が。──鳴海の映るモニターより、悲鳴が聞こえたのだ。
あちこちで沸き起こった咆哮。少女の声ではない。大人たちの、痛みに悶える叫びだった。
息もつかせぬ戦いの中、鳴海は可能な限り、相手を傷つけないように心がけていた。倒れ伏すことが負けの条件ならば、バランスを崩してやればいいだけで、必要以上に傷を負わせることはない。
だが、それはある程度自分の動きを制限してしまう。体力の減りを実感する中、これ以上なりふりかまっていられなかった。
殺しはしない。それだけはしたくなかったが、なるべく相手の痛い急所をつくようにした。できる限り悲鳴を挙げさせるようにした。大人数を相手にしたとき、そうすれば周囲の戦意を削ぐことができると──これも、あの夜の空き地で教わったことの一つだ。
(考えるな、考えるな……!)
鳴海はひたすら自分に言い聞かせた。
頼れる大人が周囲に少なく、孤独を感じていた過去。自分が殺されるかもしれない未来。脳裏に浮かぶ雑念を、次々と消していった。
過去も未来も、今は無いのだ。今しか、自分には無いのだ。
心臓がせわしなく動き、体中に血液を張り巡らせる。肺が新鮮な空気を求めて振動する。手足が暴れる。
心が、勇ましく奮い立っている。
自分は今、生きて、生きて、生きているのだ。
それは流れる川のごとし、やがて海に集まっていく万の川のように、ただただひとつの方向に向かって進み続ける水のように。
ディーノと雲雀、二人と戦ったときのような感覚を鳴海は思い出していた。
自分の耳が、敵を50人突破したというチェルベッロの声をわずかながら拾い上げた。
半分がやられて、たかが小娘一人とたかをくくってきた人間たちが、全員本気を出してくるだろう。
校舎内は急激に静かになった。敵はおそらく、ほぼ外にいる。
鳴海はステッキを取り出し、長柄槍に変形させた。ほんの一瞬、柄の部分を額に当てた。
(頼む、どうかもってくれ、全部終わるまで)
長柄槍の装飾が、まるで了承したと返事をするかのように、わずかばかりにきらりと光った。
これまでヴァリアーは基本、フィオーリの4人にはほとんど興味を示さなかった。実際に自分たちが戦うのはハーフボンゴレリングを持つ者で、ほぼ最近まで堅気らしかった少女達など、試練で死のうが生き延びようがどうとでもなると。
だがその中でも一人、ひときわ目立つ少女がいた。鳴海だ。
己に剣を向け、健気にも立ち向かってきた彼女に、XANXUSが何かしら感じ取ったことは、傍にいて仕えてきた彼らも分かっていた。そんな中、彼女が見せたのはこの鬼神のごとき戦いぶりである。
レヴィ・ア・タンは不覚にも見入っていた。
「おっさん、口開いてるぜ」
ベルフェゴールに指摘され、慌てて否定する。
マーモンが、静かに言った。
「……もしや、あの娘は……」
並盛中学校敷地内を真上から見た際、一番左下の角から攻撃を始め、そのままグラウンド側へ進んだ。そして、観覧席の手前で鳴海は校舎に入った。敷地内、というのだから校舎にもおそらくいるだろうと見越したのだ。
案の定、飛び込んだ廊下のいたるところで敵が待ち構えていた。鳴海はヌンチャクをしかけてきた相手の胴体に一発蹴りをお見舞いし、ヌンチャクを奪って──それを使わず遠くへ放った。ヌンチャクはカスタマイズしやすく、使い手以外の人間には扱いづらいように工夫されているものだと、あの無人の空き地で師匠──スクアーロに教わったことがあったのだ。
(スクアーロは、なんで俺を弟子にしてくれたんだろう)
鳴海の胸中は複雑だった。
深い夜の中、あの人通りの全く無い空き地で、いくらでも鳴海の命を奪えるチャンスはあったはずだ。なのにそれをせず、彼が授けた教えの数々が、黒曜のときから今の今まで、鳴海を救ってくれている。
(俺を、馬鹿にしていたのか……?)
いずれ争い合う立場にあることを隠して、何も知らない子供を、嘲笑っていたのだろうか。
疑心を抱くも、鳴海はそれをすぐさま自分で否定した。
そんな人間にはとても思えなかった。彼はあのとき、たしかに、鳴海を弟子として尊重してくれていたと、肌で感じたから。
立ちふさがった数人の中に、長く細い棍を手にした人間が居た。鳴海にとって好都合だ。
剣で切りつけてきた者をかわし、鳴海の襟首を掴み、大きく回転して倒そうとした相手を逆に窓ガラスに叩きつけ、棍棒を持った人間を転ばせて奪った。長物はやはり、手に馴染む。
棍を振り回して距離を取りながら、階段を登った。ちょうど近くに積まれていた椅子と机、下からわらわらと追いかけてくるハンター達。鳴海は棍の助けも借りつつ、彼らにめがけて机と椅子を落とし、雪崩のごとく襲わせた。
登った二階にも、やはり敵は潜んでいた。皆が鳴海を見るなりいきりたち、やっきになって襲撃してくる。
抱きついてきた敵を引き剥がし、並ぶロッカーに頭をぶつけさせた。近づいてきた3人を道連れに倒したあと、何もできないようにロッカーを彼らの上から倒して重し代わりにした。
鳴海は少しはずんだ息を整えながら、興奮する彼らを冷静に眺めていた。
山本の意図を知るやいなや、スクアーロは猛り、再び激しさをまして来襲してきた。
「ゔお゙ぉいっ、自分の置かれた状況がわかってねえようだなあ!!」
山本が水柱を上げるも、スクアーロも同じように大波をたて、互いの視界が遮られる。真っ先に相手を見て取ったのは、スクアーロだった。
目にも留まらぬ速さで切り込み、山本の左肩から血が吹き出し、崩れ落ちた。
山本、と叫ぶ綱吉。真琴はモニターに食い入るように凝視した。
満足気に笑いながら、スクアーロが告げた。
「教えてやる、貴様の技はすべて見切ってるぜえ。その時雨蒼燕流は、昔ひねりつぶした流派だからなあ!!」
山本、観覧席の綱吉たちに衝撃が走る。
恐れていたことが起こった。やはり、スクアーロは時雨蒼燕流を知っていたのだ。うずくまる山本、液晶越しに見ているであろう綱吉側に、スクアーロが語りかけた。
「極めた剣を試すため、オレは強ぇ相手を探していた。そんな折だ、極東の国で密かに継承されている、完全無欠の暗殺の剣──時雨蒼燕流を知ったのは」
訪日したスクアーロは、時雨蒼燕流の継承者と弟子の3人を見つけ、勝負を挑んだ。今の山本と同じ型を使ったという。
「ひでえ大雨の日だったな。所詮は、古典剣術の亜流! すべての型を受け、見切り、切り刻んでやったぞお!!」
声高に宣言するスクアーロ。彼の話が狂言でないことは、これまで山本の技を見切ってきた事実が如実に物語っている。
けれども、山本は、怯んだ様子は一切見せなかった。
「聞いてねえな、そんな話……」
ふらつきながらも立ち上がる。
「オレの聞いた時雨蒼燕流は、完全無欠、最強無敵なんでね」
「やま、もと」
喉からせり上がってきた名前と声に、真琴自身が驚いていた。ぐっと胸を鷲掴みにされたような、それでいて心地よい苦しさに、ただただ戸惑うばかりだった。この感情は一体何なのだろうか。
こわくなって、隣りにいた沙良の手を掴んだ。しきみの服の裾を掴んだ。二人とも、穏やかに受け入れてくれた。
互いが向かい合い、走り出した。スクアーロが剣を振るい、棟よりふたたび弾薬を飛ばした。山本が防御の体制をとった瞬間、今度は少し離れた建物の柱に強く打ち込む。
飛び散った柱の破片のひとつが、山本の右目に直撃した。転倒する山本。なお迫るスクアーロ。止まるを知らない敵に、今度は右手から左手へ、先程とは逆の流れで五月雨を繰り出した。
しかし。
剣が交差した瞬間、山本は身震いをして、金縛りにでもあったかのように停止した。そうしている間にもスクアーロは別の方向から切り込もうとしてくる。
立て、動け、逃げろ。仲間たちが必死に呼びかけた。だが、山本を突き動かしたのは敵の勝利を確信した叫びだった。
「死ね!!」
「くっ!」
とっさに、山本は右の拳で時雨金時を握る左手を殴った。胸から腹のあたりを斬られるも、なんとか後方へ避けたのが功を奏し傷は浅く済んだ。山本はスクアーロに押されながら、竹刀に戻った時雨金時を離さずに好機を伺う。
「あれは、
観覧席のマーモンが分析する。
「渾身の一振りで、相手の神経を麻痺させるものだ」
「あの手、しばらく使い物になんねーだろうなあ」
ベルが飄々と言った。
山本は瓦礫をよじ登り、上の階へ逃げた。衝撃を打ち込まれた左手に息を吹きかけ、なんとか感覚を取り戻そうと試みる。
すると、足元が一気に崩れた。空間をまるごとかじり、翻弄するかのようなスクアーロの激しい連撃に、山本は階下の水中へ落ちた。
ヴァリアー側は、この技の名前を無論知っていた。
「ボス……」
レヴィがモニターから振り向き、XANXUSに視線を送った。XANXUSは座した椅子に深く腰掛け、膝をついたまま、鼻をならした。
「何年経っても……代わり映えのしねえ野郎だ」
「さすがスクアーロだね」
マーモンは素直に感心している。
上空より降り注ぐ水しぶきを受け、かぶった返り血がシンクに流れるインクのように剥がれ落ちてく。
雨の守護者の使命──戦いを清算し、流れた血を洗い流す鎮魂歌の雨。それを体現してみせたのだ。
そんな中、またも急展開が。──鳴海の映るモニターより、悲鳴が聞こえたのだ。
あちこちで沸き起こった咆哮。少女の声ではない。大人たちの、痛みに悶える叫びだった。
息もつかせぬ戦いの中、鳴海は可能な限り、相手を傷つけないように心がけていた。倒れ伏すことが負けの条件ならば、バランスを崩してやればいいだけで、必要以上に傷を負わせることはない。
だが、それはある程度自分の動きを制限してしまう。体力の減りを実感する中、これ以上なりふりかまっていられなかった。
殺しはしない。それだけはしたくなかったが、なるべく相手の痛い急所をつくようにした。できる限り悲鳴を挙げさせるようにした。大人数を相手にしたとき、そうすれば周囲の戦意を削ぐことができると──これも、あの夜の空き地で教わったことの一つだ。
(考えるな、考えるな……!)
鳴海はひたすら自分に言い聞かせた。
頼れる大人が周囲に少なく、孤独を感じていた過去。自分が殺されるかもしれない未来。脳裏に浮かぶ雑念を、次々と消していった。
過去も未来も、今は無いのだ。今しか、自分には無いのだ。
心臓がせわしなく動き、体中に血液を張り巡らせる。肺が新鮮な空気を求めて振動する。手足が暴れる。
心が、勇ましく奮い立っている。
自分は今、生きて、生きて、生きているのだ。
それは流れる川のごとし、やがて海に集まっていく万の川のように、ただただひとつの方向に向かって進み続ける水のように。
ディーノと雲雀、二人と戦ったときのような感覚を鳴海は思い出していた。
自分の耳が、敵を50人突破したというチェルベッロの声をわずかながら拾い上げた。
半分がやられて、たかが小娘一人とたかをくくってきた人間たちが、全員本気を出してくるだろう。
校舎内は急激に静かになった。敵はおそらく、ほぼ外にいる。
鳴海はステッキを取り出し、長柄槍に変形させた。ほんの一瞬、柄の部分を額に当てた。
(頼む、どうかもってくれ、全部終わるまで)
長柄槍の装飾が、まるで了承したと返事をするかのように、わずかばかりにきらりと光った。
これまでヴァリアーは基本、フィオーリの4人にはほとんど興味を示さなかった。実際に自分たちが戦うのはハーフボンゴレリングを持つ者で、ほぼ最近まで堅気らしかった少女達など、試練で死のうが生き延びようがどうとでもなると。
だがその中でも一人、ひときわ目立つ少女がいた。鳴海だ。
己に剣を向け、健気にも立ち向かってきた彼女に、XANXUSが何かしら感じ取ったことは、傍にいて仕えてきた彼らも分かっていた。そんな中、彼女が見せたのはこの鬼神のごとき戦いぶりである。
レヴィ・ア・タンは不覚にも見入っていた。
「おっさん、口開いてるぜ」
ベルフェゴールに指摘され、慌てて否定する。
マーモンが、静かに言った。
「……もしや、あの娘は……」
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