54.雨戦と海の試練①
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鳴海は、唖然としていた。
夢と現実の境があまりにも曖昧だった。いつから自分は起きていたのか定かではない。
気付いたら自分の視界に、天井から吊らされている照明があった。馴染みのある家具や小物、持ち物が置かれた自室。
かつかつと足音をたてて歩いた城の回廊でも、幾度となく客人を招いた玉座の間でも、敵が水平線を埋め尽くしている海辺でもない。
階下から聞こえてきたのは、しきみの快活な笑い声だった。
久しぶりに家に戻った沙良が、料理をしている音がした。
真琴のいる気配も感じた。
いてもたってもいられなくなり、鳴海はベッドから飛び起きると、部屋を出て階段をかけ降りた。キッチンのドアを勢い良く開け、そのまま、視界に現れた、台所に立つ沙良を抱き締める。
とつぜんの出来事に、おはようと言いかけた沙良がびっくりして固まる。鳴海のただならぬ様子に、どうしたのと言いながらしきみが駆け寄ってくる。真琴も慌てて近づいてきた。鳴海は片方の腕は沙良に回したまま、もう片方の腕でしきみと、真琴をまとめてひっぱった。
まぶたを閉じれば、今しがた見た夢の内容が鮮明に思い描けた。鳴海が体験した、一人の女性の人生。彼女はいくつもの喜びと悲しみを得ながら、一国の主として生きた。そして国が終焉を迎えたときも、最後まで運命に抗い、他者のために、民のために戦い続けた。
夢のラストシーン。王冠を奪われた彼女はボンゴレ一世に手を差し伸べられ、ボンゴレの海のリングを賜り、己の生きる道を見出だした。
(あの人が……初代海の守護者……)
つまり今まで見てきた夢は、この世界の話なのだ。
鳴海はしばらくの間、友人たちを力強く抱きしめていた。彼女たちのぬくもりが、吐息が、自分を自分たらしめる唯一の繋がりのように感じられた。手、耳、目や香りには、敵を多く屠った感覚が残っている。夢の中で、自分は数多の亡骸を積み重ねた。
「鳴海……?」
しきみがおずおずと声をかける。沙良が優しく呼びかけながら、鳴海の背中を優しくさすった。真琴はどうすればいいか分からず、されるがまま、わたわたしていた。
やがて、鳴海は顔を上げると、今にも泣きそうな顔で笑った。
「……ごめん、心配させて。……なんだか皆がいることが、すごい幸せだなって、思ったんだ」
***
「なるほどな。オレの知る初代の話とも、おおかた内容は同じだ」
リボーンは納得した顔を見せながら、小さな箸で、おかずの玉子焼きをつまんだ。
並盛自然公園。目覚めた沙良はさっそく修行中の仲間たちに差し入れをして回り、(安静にするようにとは言われていたが、じっとしているのも辛かったのだ)無事試練を乗り越えたしきみもそれについてきた。
綱吉達の元を訪れたとき、ちょうど休憩中の鳴海とも出くわし、皆でお昼ごはんを取りながら、鳴海の夢の内容をリボーンに報告していた。
鳴海が辿った記憶の女性は、初代海の守護者だったのだ。
詳細を知っているであろうチェッカーフェイスを問い詰めて聞き出したいところだが、残念ながらこちらから連絡する手段は無い。
「リボーンは、この指輪の初代の人たちについて、どれくらい知っているんだ」
右手中指にはめたエテルナリングをかかげながら、鳴海が尋ねた。
「まあ、ある程度はな。何度も言うが、文献が歴代の守護者より段違いに削られているから、全貌を明らかにすることは不可能だ。……それに、あまり話の内容もお前たちに教えないようにはしている」
「え、どうして?」
首をひねる綱吉。
「あたしたちが本当に初代の再来なのか、できる限り情報を引き出して、矛盾が無いか確認したいの?」
しきみがミートボールにかぶりつく。リボーンの口元が横に広がった。
「まあ、そんなところだ」
「焦らすよねえ!」
しきみが大きく笑った。
「で、お前たちのパトロンとやらには聞かないのか? 何かもっと詳しく知っているかもしれないぞ」
と、リボーンが言った。
沙良はきょとんとし、察しの良いしきみはしまった、と内心焦る。鳴海も冷や汗をかいた。
チェッカーフェイスのことを言っているのだ。だが、彼の名前だけは出すわけにはいかない。ここをつかれると痛い。
しかし、リボーンはそんなことはお見通しで、
「言わなくていい。お前達にも色々事情があるんだろ。……それに、一応見当はつけてある」
「本当? リボーンさん」
沙良の問いかけに、リボーンは再度頷いた。
「ああ、次元を越えて別世界をわたる……そんなことが出来る人間なんて、オレが知る限り2人くらいしかいねえ」
「2人もいんの!?」
つい突っ込んでしまう綱吉。
「オレもお前達4人には力になってやりてえが、そいつはオレやオレの仲間が血眼になっても探せなかった相手だからな……今はまず、目の前のことを片付けねえとな」
目の前のこと。
指輪争奪戦。
しきみはおにぎりの梅干しを飲み込みながら、綱吉と目が合った。彼の不安げな表情に、いわんとすることは分かっていた。
今夜は雨戦と海の試練。修行期間に入る前、綱吉たちを完膚なきまでに叩きのめしたS・スクアーロと、山本の対戦。
同時に、鳴海が海のリング後継者として相応しいかが試されるのだ。
山本が負ければ、綱吉達の負けが確定になってしまう。それは、エテルナリング後継者の所有権を失うことと同義だ。
試練にクリアした沙良、しきみはヴァリアーの元に行かねばならなくなる。今夜鳴海が合格すれば、鳴海も。
もうひとつ、鳴海を除いた3人には気がかりなことがあった。
鳴海が話していた『空き地で出会った師匠』とやらは──あのスクアーロではないのかと。
沙良は膝の上で手を固く握った。隣に鳴海がいるのに、こんなに近くにいるのに、何もしてやれない自分が情けなく、申し訳なかった。
すると唐突に、鳴海が言った。
「ま、なんとかするよ、オレも、山本も、」
「な、なんとかって……」
綱吉がたどたどしく言葉を紡ぐ。
鳴海はそっと、自分の胸に手を当てた。
「山本は腕が立つし強いしさ……オレはなんだか、不思議な気持ちなんだ。コーデリアさんのこと近くで見てたからかな。どんなことが起こっても、どんな敵や試練がふりかかっても、今は……受け入れてやろうって気持ちなんだ」
その場にいる全員が、鳴海に見入る。
「……鳴海は、海の守護者の要素をしっかり持っている。オレも心配していないぞ」
リボーンに言われ、鳴海は少しはにかんだ。
しんみりした空気を破るように、リボーンは切り出した。
「そうだ、お前達に見せたいもんがある」
懐から一枚の写真を取り出し、少年少女達に差し出した。
綱吉が受け取り、左右をしきみと沙良、鳴海がはさんで覗き込む。
そこには、温和な笑みを浮かべた老紳士が写っていた。リボーンが告げた。
「現ボンゴレボス、9代目だ」
***
夏の勢いを残した風光明媚な広い森。その中にたたずむ城館。それがこの地、イタリアの巨大マフィア、ボンゴレファミリーの本部である。
その古城の表面を、まるで貴重品を前にした鑑定士のごとく、双眼鏡ごしにしげしげと見つめる者がいた。
「静かすぎる……」
沢田家光。門外顧問機関・CEDEFのトップである彼は、本来なら大手を振って表から入れる立場だが、今はアジト周辺の森の中に、細心の注意を払って身を潜めていた。
(ボンゴレ中枢で何かが起きている?)
「親方様」
背後に人の気配。メガネをかけたスーツ姿の女性が現れた。家光の部下の一人だ。
「オレガノか」
家光は彼女の名前を呼ぶ。
「ヴァリアーが、我々のアジトをかぎつけたようです。メンバーは全員無事に脱出、こちらに向かっています」
部下の淡々とした報告に、家光は確信を持った。XANXUSはやはり何か企んでいる。それに、9代目が一枚噛んでいる可能性がおおいにある。
「親方様、やはり決行なさるのですか?」
オレガノが改めて問いかけてきた。家光は力強く頷く。これから家光が紡ぐ言葉は、構成員に対して組織全体の決定と指令だった。
「ああ。これより我々CEDEFは、ボンゴレの総本部に乗り込む。目的は9代目の救出、万が一、それが叶わない場合でも──」
家光は眉根を寄せ、絞り出すように言った。
「……9代目の、生死の確認を」
夢と現実の境があまりにも曖昧だった。いつから自分は起きていたのか定かではない。
気付いたら自分の視界に、天井から吊らされている照明があった。馴染みのある家具や小物、持ち物が置かれた自室。
かつかつと足音をたてて歩いた城の回廊でも、幾度となく客人を招いた玉座の間でも、敵が水平線を埋め尽くしている海辺でもない。
階下から聞こえてきたのは、しきみの快活な笑い声だった。
久しぶりに家に戻った沙良が、料理をしている音がした。
真琴のいる気配も感じた。
いてもたってもいられなくなり、鳴海はベッドから飛び起きると、部屋を出て階段をかけ降りた。キッチンのドアを勢い良く開け、そのまま、視界に現れた、台所に立つ沙良を抱き締める。
とつぜんの出来事に、おはようと言いかけた沙良がびっくりして固まる。鳴海のただならぬ様子に、どうしたのと言いながらしきみが駆け寄ってくる。真琴も慌てて近づいてきた。鳴海は片方の腕は沙良に回したまま、もう片方の腕でしきみと、真琴をまとめてひっぱった。
まぶたを閉じれば、今しがた見た夢の内容が鮮明に思い描けた。鳴海が体験した、一人の女性の人生。彼女はいくつもの喜びと悲しみを得ながら、一国の主として生きた。そして国が終焉を迎えたときも、最後まで運命に抗い、他者のために、民のために戦い続けた。
夢のラストシーン。王冠を奪われた彼女はボンゴレ一世に手を差し伸べられ、ボンゴレの海のリングを賜り、己の生きる道を見出だした。
(あの人が……初代海の守護者……)
つまり今まで見てきた夢は、この世界の話なのだ。
鳴海はしばらくの間、友人たちを力強く抱きしめていた。彼女たちのぬくもりが、吐息が、自分を自分たらしめる唯一の繋がりのように感じられた。手、耳、目や香りには、敵を多く屠った感覚が残っている。夢の中で、自分は数多の亡骸を積み重ねた。
「鳴海……?」
しきみがおずおずと声をかける。沙良が優しく呼びかけながら、鳴海の背中を優しくさすった。真琴はどうすればいいか分からず、されるがまま、わたわたしていた。
やがて、鳴海は顔を上げると、今にも泣きそうな顔で笑った。
「……ごめん、心配させて。……なんだか皆がいることが、すごい幸せだなって、思ったんだ」
***
「なるほどな。オレの知る初代の話とも、おおかた内容は同じだ」
リボーンは納得した顔を見せながら、小さな箸で、おかずの玉子焼きをつまんだ。
並盛自然公園。目覚めた沙良はさっそく修行中の仲間たちに差し入れをして回り、(安静にするようにとは言われていたが、じっとしているのも辛かったのだ)無事試練を乗り越えたしきみもそれについてきた。
綱吉達の元を訪れたとき、ちょうど休憩中の鳴海とも出くわし、皆でお昼ごはんを取りながら、鳴海の夢の内容をリボーンに報告していた。
鳴海が辿った記憶の女性は、初代海の守護者だったのだ。
詳細を知っているであろうチェッカーフェイスを問い詰めて聞き出したいところだが、残念ながらこちらから連絡する手段は無い。
「リボーンは、この指輪の初代の人たちについて、どれくらい知っているんだ」
右手中指にはめたエテルナリングをかかげながら、鳴海が尋ねた。
「まあ、ある程度はな。何度も言うが、文献が歴代の守護者より段違いに削られているから、全貌を明らかにすることは不可能だ。……それに、あまり話の内容もお前たちに教えないようにはしている」
「え、どうして?」
首をひねる綱吉。
「あたしたちが本当に初代の再来なのか、できる限り情報を引き出して、矛盾が無いか確認したいの?」
しきみがミートボールにかぶりつく。リボーンの口元が横に広がった。
「まあ、そんなところだ」
「焦らすよねえ!」
しきみが大きく笑った。
「で、お前たちのパトロンとやらには聞かないのか? 何かもっと詳しく知っているかもしれないぞ」
と、リボーンが言った。
沙良はきょとんとし、察しの良いしきみはしまった、と内心焦る。鳴海も冷や汗をかいた。
チェッカーフェイスのことを言っているのだ。だが、彼の名前だけは出すわけにはいかない。ここをつかれると痛い。
しかし、リボーンはそんなことはお見通しで、
「言わなくていい。お前達にも色々事情があるんだろ。……それに、一応見当はつけてある」
「本当? リボーンさん」
沙良の問いかけに、リボーンは再度頷いた。
「ああ、次元を越えて別世界をわたる……そんなことが出来る人間なんて、オレが知る限り2人くらいしかいねえ」
「2人もいんの!?」
つい突っ込んでしまう綱吉。
「オレもお前達4人には力になってやりてえが、そいつはオレやオレの仲間が血眼になっても探せなかった相手だからな……今はまず、目の前のことを片付けねえとな」
目の前のこと。
指輪争奪戦。
しきみはおにぎりの梅干しを飲み込みながら、綱吉と目が合った。彼の不安げな表情に、いわんとすることは分かっていた。
今夜は雨戦と海の試練。修行期間に入る前、綱吉たちを完膚なきまでに叩きのめしたS・スクアーロと、山本の対戦。
同時に、鳴海が海のリング後継者として相応しいかが試されるのだ。
山本が負ければ、綱吉達の負けが確定になってしまう。それは、エテルナリング後継者の所有権を失うことと同義だ。
試練にクリアした沙良、しきみはヴァリアーの元に行かねばならなくなる。今夜鳴海が合格すれば、鳴海も。
もうひとつ、鳴海を除いた3人には気がかりなことがあった。
鳴海が話していた『空き地で出会った師匠』とやらは──あのスクアーロではないのかと。
沙良は膝の上で手を固く握った。隣に鳴海がいるのに、こんなに近くにいるのに、何もしてやれない自分が情けなく、申し訳なかった。
すると唐突に、鳴海が言った。
「ま、なんとかするよ、オレも、山本も、」
「な、なんとかって……」
綱吉がたどたどしく言葉を紡ぐ。
鳴海はそっと、自分の胸に手を当てた。
「山本は腕が立つし強いしさ……オレはなんだか、不思議な気持ちなんだ。コーデリアさんのこと近くで見てたからかな。どんなことが起こっても、どんな敵や試練がふりかかっても、今は……受け入れてやろうって気持ちなんだ」
その場にいる全員が、鳴海に見入る。
「……鳴海は、海の守護者の要素をしっかり持っている。オレも心配していないぞ」
リボーンに言われ、鳴海は少しはにかんだ。
しんみりした空気を破るように、リボーンは切り出した。
「そうだ、お前達に見せたいもんがある」
懐から一枚の写真を取り出し、少年少女達に差し出した。
綱吉が受け取り、左右をしきみと沙良、鳴海がはさんで覗き込む。
そこには、温和な笑みを浮かべた老紳士が写っていた。リボーンが告げた。
「現ボンゴレボス、9代目だ」
***
夏の勢いを残した風光明媚な広い森。その中にたたずむ城館。それがこの地、イタリアの巨大マフィア、ボンゴレファミリーの本部である。
その古城の表面を、まるで貴重品を前にした鑑定士のごとく、双眼鏡ごしにしげしげと見つめる者がいた。
「静かすぎる……」
沢田家光。門外顧問機関・CEDEFのトップである彼は、本来なら大手を振って表から入れる立場だが、今はアジト周辺の森の中に、細心の注意を払って身を潜めていた。
(ボンゴレ中枢で何かが起きている?)
「親方様」
背後に人の気配。メガネをかけたスーツ姿の女性が現れた。家光の部下の一人だ。
「オレガノか」
家光は彼女の名前を呼ぶ。
「ヴァリアーが、我々のアジトをかぎつけたようです。メンバーは全員無事に脱出、こちらに向かっています」
部下の淡々とした報告に、家光は確信を持った。XANXUSはやはり何か企んでいる。それに、9代目が一枚噛んでいる可能性がおおいにある。
「親方様、やはり決行なさるのですか?」
オレガノが改めて問いかけてきた。家光は力強く頷く。これから家光が紡ぐ言葉は、構成員に対して組織全体の決定と指令だった。
「ああ。これより我々CEDEFは、ボンゴレの総本部に乗り込む。目的は9代目の救出、万が一、それが叶わない場合でも──」
家光は眉根を寄せ、絞り出すように言った。
「……9代目の、生死の確認を」
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