52.嵐戦と風の試練②
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
体育館ステージには、大きな絵画のパズルが設置されている。
描かれているのは絶命し倒れている少年と、それに寄り添う、嘆き悲しむ神。少年の血が流れている地面の部分が、1ピース分空白になっている。それに対して、用意されたピースはたくさんあった。形はどれも一緒、描かれている花のみが違う。
とある物語にて語られた、少年の血から生まれた花、それが描かれた正しいピースはどれか?
ピースをひとつ選んで絵を完成させること。それが爆弾を止める唯一の手だてだ。この巨大なパズルそのものが爆弾につながっているのだ。
巨大なパズルに仕掛けられた爆弾は、現在校舎の3階で吹き荒れるハリケーンタービンの10倍の威力を持ち、間違えればその場で爆発するという。ピースをひとつずつ試すことは許されないし、時間もない。
しきみが出した答えは、
「とにかく、違うものは全部排除!!」
両親が自分に与えてくれた、数々の花にまつわる物語を出来る限り思い出し、可能性の無い花のピースは放り投げるという作業だった。
水仙は自分に見惚れた少年、ホウセンカは金のリンゴを食べた疑いをかけられた女神、スノードロップは雪に親切にした花、チューリップは秋の神から逃れた娘……しきみは自分の記憶をひたすら辿り続け、とうとうピースを一つだけ選ぶことが出来た。
赤く、百合のような形の小さな花が集まったヒヤシンスの絵。これが間違っていれば命はない。建物と同時に木っ端微塵になってしまう。
しきみは手の震えを抑えつつ、祈りを込めながらピースをはめる。
カチリと音がして、絵画から聞こえていた時限爆弾のタイマーが止まった。しきみはぱっと顔をほころばせ、瞬く間にその場から駆け出した。
しきみが3つ目の暗号をみごと解き明かし、見守る仲間たちが安堵したのもつかの間、恐ろしい光景が別の画面で繰り広げられていた。
獄寺とベルフェゴールの嵐戦だ。
ハリケーンタービンの風により、ダイナマイトは驚異ではないとたかをくくっていたベルフェゴール。しかし獄寺の新技“ロケットボム”は方向転換して風の壁をくぐり抜け、ベルフェゴールにすさまじい攻撃を浴びせた。
傷を負ったベルフェゴールは、血まみれになりながら、狂ったように大きく笑い出したのだ。
「あ゙はあ゙ぁ〜っ、ドクドクが止まんないよお」
「あいつの奇行、相変わらず理解できねえぜ」
顔をしかめるスクアーロ。
「ベルが自分の血を見て興奮するのは、血を分けた兄の姿を重ねているからだろうね」
マーモンは思い出していた。双子の兄を殺したときのことを、ベルフェゴールは何食わぬ顔で虫と間違えた、と言っていたのを。
「血だよぉ〜……王族の血だあ〜……」
自分の血を恭しく手でかかげ、法悦に浸るベルフェゴール。観覧席にいる綱吉たちは恐れ、気圧されるばかりだった。
相手の異様な行動に面食らったものの、獄寺は次の攻撃に出た。
「“ロケットボム”!!」
ふたたびダイナマイトはベルフェゴールのほうへ、ハリケーンタービンの風をうまく避けながら一直線に向かう。獄寺は一気にかたをつけようとしたのだ。
「あ゙〜〜?」
ベルフェゴールはゆっくり頭をもたげ、自分に迫るダイナマイトを見つめる。逃れようとする素振りは一切見せない。それどころか、
「あ゙はぁああ!!」
雄叫びをあげながら自らダイナマイトに突撃し、目にも留まらぬ速さでそれらをかわすと、前のめりになりながら風の壁をつっきって、獄寺を追う。手負いの獣のような動きだ。
「あれほどの身のこなしとは……」
シャマルが唖然としている。
ヴァリアーの席では、レヴィが満足気にひとりごちる。
「いよいよ奴らしくなってきたな」
マーモンも、それに同意した。
「うむ。キレてこそ、ベルの天賦の才は冴えわたる」
「考えろ考えろ、あとふたつ……!」
しきみは校内を走り回りながら、懸命に自分に言い聞かせた。4つめの暗号。
『どうか私をすくいだして 春の神が娘にさずけたのは
冬に春の花と約束のしるし』
冬に春の花、という部分で、しきみはピンときた。
幼い頃聞かされたおとぎ話。ロシア民謡だ。
わがままな幼い女王が、冬の時期になって、春の花が見たいと国中におふれをだした。見事城に花を献上した者に、金貨のほうびをさずけると。
欲に目がくらんだ主人公の継母は、継娘を冬の森に追い出したのだった。
冬の夜の森を主人公はさまよい歩き、今にも死にそうになったとき、不思議な光景に出くわした。季節を司る12人の神が、焚き火をして年末の祝い事を開いていたのだ。
12人の神達は、薪を集めたり、きのみを取るなど森で働いていた主人公の人となりを知っていた。主人公の事情を不憫に思い、ほんのいっときだけ、冬の森に春の野原を出現させてくれた。
娘は春の花を手に入れ、そのまま家へ戻ったのだったが……
「えーと、どんな展開だったっけ、思い出せ!!」
しきみは頭を抱える。脳内で暗号の一文をたどる。すくいだして、春の神が与えたのは冬に咲かないはずの花と──
頭から手を話したとき、視界のすみに映った右手が、きらりと光った。試練が始まってからつけていた、エテルナリングの輝きだ。
指輪。約束のしるし。
「……!、もしかして、」
その途端、芋づる式に記憶が次々と蘇ってきた。そうだ。主人公を知っていた春の神は、他の神からの後押しにより、春の花と一緒に、指輪を授けたのだ。
冬の夜の森から無事生きて戻り、咲くはずのない花を携えてきたとなれば、主人公にどんな不幸が襲いかかるか分からない。
指輪は婚約のしるしであるのと同時に、困った時に投げて呪文を唱えれば、娘を助けてくれるお守りだったのだ。
神達の心配は当たり、主人公はその後女王に命令され、冬の森を再び訪れる。神達のことを人に話さないと約束していた主人公は固く口を閉ざし、業を煮やした幼い女王は、娘の持っていた指輪を奪って──湖に、投げたのだ。
わたしをすくいだして。
「湖……水、プール?」
しきみは外へ飛び出した。
「近衛殿、順調ですね……!」
バジルがモニターを見上げながら、目を輝かせる。
「怖いくらいにな」
リボーンも言った。
「しかし、もしこの挑戦者がしきみでなかったらと思うと、危なかったな……」
了平がううむと唸る。
「……しきみ、物知り。本も、いっぱい、持ってる」
真琴がぼそっと言った。リボーンが満足げに頷く。
「まさに、初代風の守護者のようだな」
モニターの映像では、プールにたどり着いたしきみが、風の力でプールの中の水を竜巻のごとくかき回し、ひたすら調べていた。
やがて、大きな指輪の形をした物体が沈められているのを発見し、風の力で水底からすくい上げる。しきみは恐る恐る近づき、ためつすがめつ眺めていると、ぱっと満面の笑みをこぼした。大きな指輪から聞こえていた時限爆弾のタイマーが止まったのを、モニター越しで綱吉達の耳にも届いたのだ。
ベルは獄寺との距離を詰めつつ、ナイフを投げつけてきた。
獄寺は焦っていなかった。風の影響をもろに受けているせいで、ナイフはどれも接触することは無く後方へ飛んでいくのだ。
ところが、
「なに!?」
とつぜん、視界が一瞬赤く染まると共に、ひりつくような痛みが顔面に走った。獄寺の顔面に、するどい切り傷がいくつも生まれたのだ。
わけが分からず、獄寺は叫んだ。
「どうなってんだよ! ナイフには当たってねえぞ!!」
ナイフは確実に避けたはずだ。かすりもしていないのに切れるとは。混乱する獄寺をよそに、
「どっかーん」
ベルが左手にナイフを握り、獄寺を確実に狙いに来ている。
「血ぃ」
「や、殺られるっ……かよお!!」
獄寺はすかさずチビボムを取り出し、自分とベルフェゴールの間に飛ばした。小さな爆発が盾となり、こちらも痛みを食らったものの、目前まで来ていたベルフェゴールを弾き返すことが出来た。
(この距離はまずい……!)
よろめきながら腰を上げ、なんとかこの場を去ろうとする獄寺。後ろからは恍惚の表情を浮かべながら、ベルフェゴールがナイフを投げてくる。やはりナイフは当たっていないのに、獄寺の腕が切り刻まれた。血が吹き出る。しかも、
『あと6分で、ハリケーンタービンが爆発を開始します』
チェルベッロのアナウンス。弱り目に祟り目、3階すべてのハリケーンタービンが爆発する時刻もじわじわと迫っていた。獄寺は苛立ち、叫んだ。
「時間もねえのかよ!! くっそお!!」
描かれているのは絶命し倒れている少年と、それに寄り添う、嘆き悲しむ神。少年の血が流れている地面の部分が、1ピース分空白になっている。それに対して、用意されたピースはたくさんあった。形はどれも一緒、描かれている花のみが違う。
とある物語にて語られた、少年の血から生まれた花、それが描かれた正しいピースはどれか?
ピースをひとつ選んで絵を完成させること。それが爆弾を止める唯一の手だてだ。この巨大なパズルそのものが爆弾につながっているのだ。
巨大なパズルに仕掛けられた爆弾は、現在校舎の3階で吹き荒れるハリケーンタービンの10倍の威力を持ち、間違えればその場で爆発するという。ピースをひとつずつ試すことは許されないし、時間もない。
しきみが出した答えは、
「とにかく、違うものは全部排除!!」
両親が自分に与えてくれた、数々の花にまつわる物語を出来る限り思い出し、可能性の無い花のピースは放り投げるという作業だった。
水仙は自分に見惚れた少年、ホウセンカは金のリンゴを食べた疑いをかけられた女神、スノードロップは雪に親切にした花、チューリップは秋の神から逃れた娘……しきみは自分の記憶をひたすら辿り続け、とうとうピースを一つだけ選ぶことが出来た。
赤く、百合のような形の小さな花が集まったヒヤシンスの絵。これが間違っていれば命はない。建物と同時に木っ端微塵になってしまう。
しきみは手の震えを抑えつつ、祈りを込めながらピースをはめる。
カチリと音がして、絵画から聞こえていた時限爆弾のタイマーが止まった。しきみはぱっと顔をほころばせ、瞬く間にその場から駆け出した。
しきみが3つ目の暗号をみごと解き明かし、見守る仲間たちが安堵したのもつかの間、恐ろしい光景が別の画面で繰り広げられていた。
獄寺とベルフェゴールの嵐戦だ。
ハリケーンタービンの風により、ダイナマイトは驚異ではないとたかをくくっていたベルフェゴール。しかし獄寺の新技“ロケットボム”は方向転換して風の壁をくぐり抜け、ベルフェゴールにすさまじい攻撃を浴びせた。
傷を負ったベルフェゴールは、血まみれになりながら、狂ったように大きく笑い出したのだ。
「あ゙はあ゙ぁ〜っ、ドクドクが止まんないよお」
「あいつの奇行、相変わらず理解できねえぜ」
顔をしかめるスクアーロ。
「ベルが自分の血を見て興奮するのは、血を分けた兄の姿を重ねているからだろうね」
マーモンは思い出していた。双子の兄を殺したときのことを、ベルフェゴールは何食わぬ顔で虫と間違えた、と言っていたのを。
「血だよぉ〜……王族の血だあ〜……」
自分の血を恭しく手でかかげ、法悦に浸るベルフェゴール。観覧席にいる綱吉たちは恐れ、気圧されるばかりだった。
相手の異様な行動に面食らったものの、獄寺は次の攻撃に出た。
「“ロケットボム”!!」
ふたたびダイナマイトはベルフェゴールのほうへ、ハリケーンタービンの風をうまく避けながら一直線に向かう。獄寺は一気にかたをつけようとしたのだ。
「あ゙〜〜?」
ベルフェゴールはゆっくり頭をもたげ、自分に迫るダイナマイトを見つめる。逃れようとする素振りは一切見せない。それどころか、
「あ゙はぁああ!!」
雄叫びをあげながら自らダイナマイトに突撃し、目にも留まらぬ速さでそれらをかわすと、前のめりになりながら風の壁をつっきって、獄寺を追う。手負いの獣のような動きだ。
「あれほどの身のこなしとは……」
シャマルが唖然としている。
ヴァリアーの席では、レヴィが満足気にひとりごちる。
「いよいよ奴らしくなってきたな」
マーモンも、それに同意した。
「うむ。キレてこそ、ベルの天賦の才は冴えわたる」
「考えろ考えろ、あとふたつ……!」
しきみは校内を走り回りながら、懸命に自分に言い聞かせた。4つめの暗号。
『どうか私をすくいだして 春の神が娘にさずけたのは
冬に春の花と約束のしるし』
冬に春の花、という部分で、しきみはピンときた。
幼い頃聞かされたおとぎ話。ロシア民謡だ。
わがままな幼い女王が、冬の時期になって、春の花が見たいと国中におふれをだした。見事城に花を献上した者に、金貨のほうびをさずけると。
欲に目がくらんだ主人公の継母は、継娘を冬の森に追い出したのだった。
冬の夜の森を主人公はさまよい歩き、今にも死にそうになったとき、不思議な光景に出くわした。季節を司る12人の神が、焚き火をして年末の祝い事を開いていたのだ。
12人の神達は、薪を集めたり、きのみを取るなど森で働いていた主人公の人となりを知っていた。主人公の事情を不憫に思い、ほんのいっときだけ、冬の森に春の野原を出現させてくれた。
娘は春の花を手に入れ、そのまま家へ戻ったのだったが……
「えーと、どんな展開だったっけ、思い出せ!!」
しきみは頭を抱える。脳内で暗号の一文をたどる。すくいだして、春の神が与えたのは冬に咲かないはずの花と──
頭から手を話したとき、視界のすみに映った右手が、きらりと光った。試練が始まってからつけていた、エテルナリングの輝きだ。
指輪。約束のしるし。
「……!、もしかして、」
その途端、芋づる式に記憶が次々と蘇ってきた。そうだ。主人公を知っていた春の神は、他の神からの後押しにより、春の花と一緒に、指輪を授けたのだ。
冬の夜の森から無事生きて戻り、咲くはずのない花を携えてきたとなれば、主人公にどんな不幸が襲いかかるか分からない。
指輪は婚約のしるしであるのと同時に、困った時に投げて呪文を唱えれば、娘を助けてくれるお守りだったのだ。
神達の心配は当たり、主人公はその後女王に命令され、冬の森を再び訪れる。神達のことを人に話さないと約束していた主人公は固く口を閉ざし、業を煮やした幼い女王は、娘の持っていた指輪を奪って──湖に、投げたのだ。
わたしをすくいだして。
「湖……水、プール?」
しきみは外へ飛び出した。
「近衛殿、順調ですね……!」
バジルがモニターを見上げながら、目を輝かせる。
「怖いくらいにな」
リボーンも言った。
「しかし、もしこの挑戦者がしきみでなかったらと思うと、危なかったな……」
了平がううむと唸る。
「……しきみ、物知り。本も、いっぱい、持ってる」
真琴がぼそっと言った。リボーンが満足げに頷く。
「まさに、初代風の守護者のようだな」
モニターの映像では、プールにたどり着いたしきみが、風の力でプールの中の水を竜巻のごとくかき回し、ひたすら調べていた。
やがて、大きな指輪の形をした物体が沈められているのを発見し、風の力で水底からすくい上げる。しきみは恐る恐る近づき、ためつすがめつ眺めていると、ぱっと満面の笑みをこぼした。大きな指輪から聞こえていた時限爆弾のタイマーが止まったのを、モニター越しで綱吉達の耳にも届いたのだ。
ベルは獄寺との距離を詰めつつ、ナイフを投げつけてきた。
獄寺は焦っていなかった。風の影響をもろに受けているせいで、ナイフはどれも接触することは無く後方へ飛んでいくのだ。
ところが、
「なに!?」
とつぜん、視界が一瞬赤く染まると共に、ひりつくような痛みが顔面に走った。獄寺の顔面に、するどい切り傷がいくつも生まれたのだ。
わけが分からず、獄寺は叫んだ。
「どうなってんだよ! ナイフには当たってねえぞ!!」
ナイフは確実に避けたはずだ。かすりもしていないのに切れるとは。混乱する獄寺をよそに、
「どっかーん」
ベルが左手にナイフを握り、獄寺を確実に狙いに来ている。
「血ぃ」
「や、殺られるっ……かよお!!」
獄寺はすかさずチビボムを取り出し、自分とベルフェゴールの間に飛ばした。小さな爆発が盾となり、こちらも痛みを食らったものの、目前まで来ていたベルフェゴールを弾き返すことが出来た。
(この距離はまずい……!)
よろめきながら腰を上げ、なんとかこの場を去ろうとする獄寺。後ろからは恍惚の表情を浮かべながら、ベルフェゴールがナイフを投げてくる。やはりナイフは当たっていないのに、獄寺の腕が切り刻まれた。血が吹き出る。しかも、
『あと6分で、ハリケーンタービンが爆発を開始します』
チェルベッロのアナウンス。弱り目に祟り目、3階すべてのハリケーンタービンが爆発する時刻もじわじわと迫っていた。獄寺は苛立ち、叫んだ。
「時間もねえのかよ!! くっそお!!」
1/6ページ