50.雷戦と、交差
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沙良はディーノの手配した医療班によって中山外科医院に運ばれ、身体中くまなく調べられることとなった。
仲間たちは心配で気もそぞろだったが、幸い杞憂に終わった。危惧すべきところは何も無く、ただ深い眠りに入っているだけという検査結果を綱吉達は知らされることになった。
「じゃあ、沙良は休憩しているんだね」
ガラス窓の向こうで、ベッドに横たわる彼女を見つめながらしきみが言った。
「頑張ったからな」
リボーンが付け加える。
真琴は窓に釘付けになっており、そのまま一晩張り付いていそうな勢いであったが、鳴海に声をかけられしぶしぶ離れた。
一方獄寺のほうも、先ほどからあまり言葉を発しようとしない。神妙な面持ちでひたすら、眠る沙良を見つめている。
「獄寺くん」綱吉が話しかけると、彼ははっとして振り向き、頭を下げた。
「すみませんっ10代目、オレ、ボーッとしてて……」
「あ、いや別に……その、大丈夫?」
「はい、そろそろ失礼しますっ、おやすみなさいッス」
深々と一礼し、夜の暗闇に駆け出していく獄寺。悩んだ足取りだった。
「アイツ、変なとこで自分責めてんじゃねえかな」
山本の呟きに皆が同意する。
そのあと、家で待つ父親を心配させられないと、山本もすぐ病院を後にした。残されたのは綱吉、リボーン、鳴海、しきみ、真琴、眠っている沙良、数名の常駐しているディーノの部下……
「あれ、ランボは?」
綱吉が尋ねる。先ほどまでロビーのソファの上で、ディーノの部下が用意してくれた毛布をかけられて眠っているはずのランボが、こつぜんと姿を消しているではないか。
「えっ、さっきまでここで寝てたよね?」
しきみもうろたえる。
皆でキョロキョロ探していると、とつぜんボン、と大きな破裂音がした。近くの給湯室から、もくもくと白い煙が立ち込め、人の影が動いている。
皆がごくりと固唾を飲んで見守っていると、煙の中から現れたのは、
「お久しぶりです、若きボンゴレ。鳴海姐さん達も」
10年の歳月を経た、大人ランボではないか。
「どうしてここに」
鳴海の問いかけに、彼は冷静に返答する。
「おそらく寝相の悪かった子供のオレが、寝ながら10年バズーカを暴発させたんでしょう」
「冷静」
真琴がぽつりと漏らす。
「眠れなくてホットミルクを作ろうとしてたんです、火を借りても?」
大人ランボはそう言って、冷たい牛乳の入ったマグカップを差し出す。鳴海はおずおずと受けとると給湯室に向かい、コンロに火をつけて鍋にかけた。その間、綱吉は成長した彼に後継者争いのこと、明日の夜に子供の自分が決闘をせねばならない旨を説明した。
「代わりに戦ってほしいんだ。じゃないと子供の君が殺されちゃうよ!」
力説する綱吉に、大人ランボは特段驚きもしていなかった。
「ある程度の話は知らされていました。いろいろと事情が混み合っているようだ」
聞けば一週間ほど前、10年バズーカの暴発でこの時代に来た彼宛に、沢田家光からメモと雷のハーフボンゴレリングが置いてあったという。
綱吉の雷の守護者となり、戦ってほしい、と。
「大人ランボが生きてるってことは、明日は10年バズーカで5歳のランボの代わりに戦って、勝つんじゃないか?」
鳴海の考察に、大人ランボは渋い顔をした。
「そうとは言いきれません。オレにはリング争奪戦の記憶がないんです」
「5歳だったから、忘れた、とかは」
真琴の指摘にも首を横にふる。
「ボスからもそのような話は聞かされていません。いくら幼くて覚えてなくても、そんな大きな出来事に関わっていたのなら教えられるはずです」
「つまりリング争奪戦のない世界線からあなたは来た……ってこと!?」
しきみの言葉に、大人のランボは頷いた。
「その可能性は大きいですね」
「な、なんのこと……?」
綱吉は混乱し、目をぐるぐるさせている。
牛乳が暖まった。鳴海は大人ランボの持ってきたマグカップにそそぐと、彼の前に出す。礼を言いながら受けとり、大人ランボは音を立てず一口飲む。
「パラレルワールドってやつです。明日子供のオレが殺されたら、10年後のオレが二度とこの世界に姿を見せなくなるかもしれない。逆に、10年後のこのオレが戦って死ねば、5歳のオレが生き延びてもランボという人間は享年15というわけです」
「じゃあまだ何も分かんない、と……」
しきみが苦笑いする。
「ええ。なので子供のオレには、くれぐれも10年バズーカを使わないように言ってくれますか」
大人ランボの発言に、その場にいた全員が目を丸くした。
「子供の自分、見捨てる、の」
真琴が思わず突っ込みをいれる。
「まだ君が負けるとは限らないよ」
鳴海も説得を試みるが、
「痛いの嫌なんです、オレは10年後から見守ってます」
その瞬間、彼の居た場所から、ポップな爆発が沸き起こる。一瞬白くなった視界がはっきりしてくる頃には、そこにはもう無邪気に寝入る5歳のランボがいるのみであった。10年バズーカは使ってから5分しか効力がないのだ。
「結局何も解決してねえ!!」
苦悶する綱吉。
「……どうしようか」鳴海が考え込む。
「もっかいバズーカ使って、大人ランボちゃんに頼んでみる?」
しきみの提案に、真琴が視線をそらした。
「無理、そう」
「さすがに、5歳に戦わせるわけにはいかないよ……」
綱吉の意見に、みな神妙に頷き合った。
ランボは棄権しかないだろう。相手は若者とはいえ成人男性、こちらは5歳児なのだ。勝負の行方は火を見るよりも明らかである。しかし、
「棄権なんて通用しねえぞ」
無情にも赤ん坊の家庭教師が、現実をつきつけてくる。
「ランボの相手はレヴィ・ア・タン。ターゲットを完膚なきまでにぶちのめすことで有名だ。女、子供関係なくな」
一同に冷や汗が流れる。
ああそれと、とリボーンは綱吉以外の3人に向き合う。
「お前達に聞きたいことがあってな。お前達4人は、初代ボンゴレのことについて、何か聞かされていたり、見知っていたりはしないか?」
いきなり直球な質問をぶつけられ、鳴海、しきみ、真琴は面食らった。今沙良が起きていたなら、恐らく彼女もそうだっただろう。
「ストレートだね、リボーンちゃん」
しきみが鳴海に抱きつきながら言った。リボーンはボルサリーノのつばをつまみ、自分の表情を隠すような仕草を見せた。
「お前達は、初代の再来だとボンゴレ九代目からオレは聞いていた。にわかには信じがたかったが、残された4人の乙女達の資料にそっくりなお前達やこれまでのこと、今回の沙良の試練の様子を見て思うところがあってな。なにか知っているのなら教えてほしい」
戸惑ったが、特に隠す理由も無かった。3人は正直に話した。時おり夢や幻のような感覚に囚われること、特に現在、鳴海が顕著に一人の女性の人生を夢の中で追体験していることを教えた。チェッカーフェイスのことは、言うなと釘を刺されていたので名前は出さなかったが。
リボーンは考えにふける。
「そうか……オレはてっきり、真琴がいちばんそういうものに近いのかと思っていたが」
「じ、自分?」
「黒曜ランドの戦いで、真琴が一瞬大人の姿になったのを見ているからな。ボンゴレ初代闇の守護者に、よく似ていた」
「……」
闇。自分に付きまとうその単語に、真琴はどうにも複雑な気持ちになる。
「一応、今教えてくれたことは、九代目とも共有させてくれ。……もっとも、返事がくればの話だが」
「連絡つかないのか?」
鳴海が不安げに問う。リボーンは首を縦にふった。もともと九代目は多忙で、返答が遅くなるのは珍しくないらしい。
「……オレの考えすぎなら、いいんだが」
リボーンの声が、やけに耳に残った。
*
沙良を病院に残し、3人はそのまま我が家へついた。一人欠けた家の広さを感じつつ、諸々終えて床についた。
ベッドに潜り込んだとき、鳴海はふとしきみから借りた瞑想CDを思い出した。机の上にぽつんと置かれてある。半分寝こけている体を起こし、自分用のノートPCに取り込んで、耳を傾けながら再びふとんに入った。体は休息を欲していたようで、あっという間に意識は沈んでいった。
朝から雨が降っていた。いつもより景色の輪郭はぼやけている。体を起こし、窓の外を眺める。
──やはり夢でまた、彼女を見た。
コーデリア。海に浮かぶ小さな王国の女王。
(あの人、一体どうなるんだろう)
コーデリア以外の出来事や人物はおぼろげだが、彼女を取り巻く環境は決して良いものとは言えない。女王として生きる彼女の苦悩や孤独は、夢を通して鳴海の胸にも重くのしかかっていた。
しかし不思議と、彼女の姿を思い浮かべると、気弱になりそうな気持ちがほんの少し、ほんのわずかではあるが、立て直してくれるのだ。無理をしているわけではなく、ただ、しっかりせねばと気が引き締まるのだ。どんな強大な敵にも、立ち向かう勇気を分けてもらえるような感覚がした。
“私は、強くあらねば”
(俺も、そうなれるように、頑張ります)
脳内に聞こえる女王の声に、鳴海は心の中でそっと誓った。
仲間たちは心配で気もそぞろだったが、幸い杞憂に終わった。危惧すべきところは何も無く、ただ深い眠りに入っているだけという検査結果を綱吉達は知らされることになった。
「じゃあ、沙良は休憩しているんだね」
ガラス窓の向こうで、ベッドに横たわる彼女を見つめながらしきみが言った。
「頑張ったからな」
リボーンが付け加える。
真琴は窓に釘付けになっており、そのまま一晩張り付いていそうな勢いであったが、鳴海に声をかけられしぶしぶ離れた。
一方獄寺のほうも、先ほどからあまり言葉を発しようとしない。神妙な面持ちでひたすら、眠る沙良を見つめている。
「獄寺くん」綱吉が話しかけると、彼ははっとして振り向き、頭を下げた。
「すみませんっ10代目、オレ、ボーッとしてて……」
「あ、いや別に……その、大丈夫?」
「はい、そろそろ失礼しますっ、おやすみなさいッス」
深々と一礼し、夜の暗闇に駆け出していく獄寺。悩んだ足取りだった。
「アイツ、変なとこで自分責めてんじゃねえかな」
山本の呟きに皆が同意する。
そのあと、家で待つ父親を心配させられないと、山本もすぐ病院を後にした。残されたのは綱吉、リボーン、鳴海、しきみ、真琴、眠っている沙良、数名の常駐しているディーノの部下……
「あれ、ランボは?」
綱吉が尋ねる。先ほどまでロビーのソファの上で、ディーノの部下が用意してくれた毛布をかけられて眠っているはずのランボが、こつぜんと姿を消しているではないか。
「えっ、さっきまでここで寝てたよね?」
しきみもうろたえる。
皆でキョロキョロ探していると、とつぜんボン、と大きな破裂音がした。近くの給湯室から、もくもくと白い煙が立ち込め、人の影が動いている。
皆がごくりと固唾を飲んで見守っていると、煙の中から現れたのは、
「お久しぶりです、若きボンゴレ。鳴海姐さん達も」
10年の歳月を経た、大人ランボではないか。
「どうしてここに」
鳴海の問いかけに、彼は冷静に返答する。
「おそらく寝相の悪かった子供のオレが、寝ながら10年バズーカを暴発させたんでしょう」
「冷静」
真琴がぽつりと漏らす。
「眠れなくてホットミルクを作ろうとしてたんです、火を借りても?」
大人ランボはそう言って、冷たい牛乳の入ったマグカップを差し出す。鳴海はおずおずと受けとると給湯室に向かい、コンロに火をつけて鍋にかけた。その間、綱吉は成長した彼に後継者争いのこと、明日の夜に子供の自分が決闘をせねばならない旨を説明した。
「代わりに戦ってほしいんだ。じゃないと子供の君が殺されちゃうよ!」
力説する綱吉に、大人ランボは特段驚きもしていなかった。
「ある程度の話は知らされていました。いろいろと事情が混み合っているようだ」
聞けば一週間ほど前、10年バズーカの暴発でこの時代に来た彼宛に、沢田家光からメモと雷のハーフボンゴレリングが置いてあったという。
綱吉の雷の守護者となり、戦ってほしい、と。
「大人ランボが生きてるってことは、明日は10年バズーカで5歳のランボの代わりに戦って、勝つんじゃないか?」
鳴海の考察に、大人ランボは渋い顔をした。
「そうとは言いきれません。オレにはリング争奪戦の記憶がないんです」
「5歳だったから、忘れた、とかは」
真琴の指摘にも首を横にふる。
「ボスからもそのような話は聞かされていません。いくら幼くて覚えてなくても、そんな大きな出来事に関わっていたのなら教えられるはずです」
「つまりリング争奪戦のない世界線からあなたは来た……ってこと!?」
しきみの言葉に、大人のランボは頷いた。
「その可能性は大きいですね」
「な、なんのこと……?」
綱吉は混乱し、目をぐるぐるさせている。
牛乳が暖まった。鳴海は大人ランボの持ってきたマグカップにそそぐと、彼の前に出す。礼を言いながら受けとり、大人ランボは音を立てず一口飲む。
「パラレルワールドってやつです。明日子供のオレが殺されたら、10年後のオレが二度とこの世界に姿を見せなくなるかもしれない。逆に、10年後のこのオレが戦って死ねば、5歳のオレが生き延びてもランボという人間は享年15というわけです」
「じゃあまだ何も分かんない、と……」
しきみが苦笑いする。
「ええ。なので子供のオレには、くれぐれも10年バズーカを使わないように言ってくれますか」
大人ランボの発言に、その場にいた全員が目を丸くした。
「子供の自分、見捨てる、の」
真琴が思わず突っ込みをいれる。
「まだ君が負けるとは限らないよ」
鳴海も説得を試みるが、
「痛いの嫌なんです、オレは10年後から見守ってます」
その瞬間、彼の居た場所から、ポップな爆発が沸き起こる。一瞬白くなった視界がはっきりしてくる頃には、そこにはもう無邪気に寝入る5歳のランボがいるのみであった。10年バズーカは使ってから5分しか効力がないのだ。
「結局何も解決してねえ!!」
苦悶する綱吉。
「……どうしようか」鳴海が考え込む。
「もっかいバズーカ使って、大人ランボちゃんに頼んでみる?」
しきみの提案に、真琴が視線をそらした。
「無理、そう」
「さすがに、5歳に戦わせるわけにはいかないよ……」
綱吉の意見に、みな神妙に頷き合った。
ランボは棄権しかないだろう。相手は若者とはいえ成人男性、こちらは5歳児なのだ。勝負の行方は火を見るよりも明らかである。しかし、
「棄権なんて通用しねえぞ」
無情にも赤ん坊の家庭教師が、現実をつきつけてくる。
「ランボの相手はレヴィ・ア・タン。ターゲットを完膚なきまでにぶちのめすことで有名だ。女、子供関係なくな」
一同に冷や汗が流れる。
ああそれと、とリボーンは綱吉以外の3人に向き合う。
「お前達に聞きたいことがあってな。お前達4人は、初代ボンゴレのことについて、何か聞かされていたり、見知っていたりはしないか?」
いきなり直球な質問をぶつけられ、鳴海、しきみ、真琴は面食らった。今沙良が起きていたなら、恐らく彼女もそうだっただろう。
「ストレートだね、リボーンちゃん」
しきみが鳴海に抱きつきながら言った。リボーンはボルサリーノのつばをつまみ、自分の表情を隠すような仕草を見せた。
「お前達は、初代の再来だとボンゴレ九代目からオレは聞いていた。にわかには信じがたかったが、残された4人の乙女達の資料にそっくりなお前達やこれまでのこと、今回の沙良の試練の様子を見て思うところがあってな。なにか知っているのなら教えてほしい」
戸惑ったが、特に隠す理由も無かった。3人は正直に話した。時おり夢や幻のような感覚に囚われること、特に現在、鳴海が顕著に一人の女性の人生を夢の中で追体験していることを教えた。チェッカーフェイスのことは、言うなと釘を刺されていたので名前は出さなかったが。
リボーンは考えにふける。
「そうか……オレはてっきり、真琴がいちばんそういうものに近いのかと思っていたが」
「じ、自分?」
「黒曜ランドの戦いで、真琴が一瞬大人の姿になったのを見ているからな。ボンゴレ初代闇の守護者に、よく似ていた」
「……」
闇。自分に付きまとうその単語に、真琴はどうにも複雑な気持ちになる。
「一応、今教えてくれたことは、九代目とも共有させてくれ。……もっとも、返事がくればの話だが」
「連絡つかないのか?」
鳴海が不安げに問う。リボーンは首を縦にふった。もともと九代目は多忙で、返答が遅くなるのは珍しくないらしい。
「……オレの考えすぎなら、いいんだが」
リボーンの声が、やけに耳に残った。
*
沙良を病院に残し、3人はそのまま我が家へついた。一人欠けた家の広さを感じつつ、諸々終えて床についた。
ベッドに潜り込んだとき、鳴海はふとしきみから借りた瞑想CDを思い出した。机の上にぽつんと置かれてある。半分寝こけている体を起こし、自分用のノートPCに取り込んで、耳を傾けながら再びふとんに入った。体は休息を欲していたようで、あっという間に意識は沈んでいった。
朝から雨が降っていた。いつもより景色の輪郭はぼやけている。体を起こし、窓の外を眺める。
──やはり夢でまた、彼女を見た。
コーデリア。海に浮かぶ小さな王国の女王。
(あの人、一体どうなるんだろう)
コーデリア以外の出来事や人物はおぼろげだが、彼女を取り巻く環境は決して良いものとは言えない。女王として生きる彼女の苦悩や孤独は、夢を通して鳴海の胸にも重くのしかかっていた。
しかし不思議と、彼女の姿を思い浮かべると、気弱になりそうな気持ちがほんの少し、ほんのわずかではあるが、立て直してくれるのだ。無理をしているわけではなく、ただ、しっかりせねばと気が引き締まるのだ。どんな強大な敵にも、立ち向かう勇気を分けてもらえるような感覚がした。
“私は、強くあらねば”
(俺も、そうなれるように、頑張ります)
脳内に聞こえる女王の声に、鳴海は心の中でそっと誓った。
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