46.邂逅
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「──鳴海、鳴海っ!!」
「!!」
切羽詰まった声で自分の名前を呼ばれ、鳴海は布団から跳ね起きた。勢いで掛け布団がふっとび、床に落ちる。息は乱れ、全身から汗が吹き出し、シーツも湿っている。
しきみ、沙良、真琴の3人が悲痛そうな面持ちで、心配そうに鳴海の顔を覗き込んでいた。
鳴海がぱちぱちとまばたきをすると、沙良はほっとしたように息を吐き、慌てて部屋を出ていった。しきみの手を借りて、ゆっくり上半身を起こす。
「だ、大丈夫……?」
いつも無愛想な真琴も、だいぶ焦っているようだ。鳴海はこくこくと頭を縦に振った。
「すっごいうなされてたよ、あともう少しで救急車呼ぼうかと思った」
しきみが背中をさすってくれた。
「ごめん、心配かけて。俺、すごい夢、見てて……」
部屋の時計を見れば、朝の6時を指していた。
沙良が戻ってきた。手には水の入ったコップと、蒸しタオルが握られていた。礼を言いながら鳴海は水を一気に飲み干し、暖かいタオルで肩口の汗をぬぐい、先ほどまで自分が居た夢の世界を、友人らに懸命に説明した。
自分以外の人物の顔や名前はおぼろげだが、小さな島の王国にて、女王として生きる一人の女性の人生を体験したのだと。
睡眠時に見る脳の記憶整理とは思えないほど、実際に体験したかのようなリアルさがあった。正確にはあちらが現実で、こうやって今ベッドの上で呆然としている自分の方が夢なのではないかと考えてしまうほど。
3人は一笑に付すことなく真剣に鳴海の話を聞いてくれたが、"コーデリア”というその人の名に、真琴がぴくりと反応した。
「コーデリア、って言ったの」
再度訪ねる。
「え? う、うん」
戸惑いながら答える鳴海。
「……」
真琴は数秒考え、静かに言った。
「その人、知ってる」
「!!」
鳴海が目を見開く。
「本当!?」
しきみも興味津々、目をらんらんに輝かせている。真琴はしどろもどろになりながら続けた。
「その、前の、雨が降った夜に」
なんだか急に心細くなり、沙良の服の裾をつかむ真琴。沙良はその手をやさしく握りしめてやった。勇気をもらった真琴は話を再開する。
「鳴海が一瞬、ドレス着た女性に、見えた。コーデリアって名前も、浮かんだ。鳴海がいたはずなのに、別の人が目の前に、いたような気がした。自分が見た特徴が、鳴海の話と、ほとんど、一緒」(※40.参照)
慣れないのに一気に喋ったので、顔を赤くしてふう、と息を吐いた。そして、また口を開く。ずっと気にしていたことなので、真琴はすべて言ってしまいたかった。
「考えてた」
真琴が自分の胸の上で、ぎゅっと握りこぶしを作る。
「骸に、拾われたとき、言われた。君の中には力が眠っている、って……それが、自分が変身した、その人なのだとしたら、リアルな夢を見た、鳴海も」
真琴自身、妙に懐かしい感覚にとらわれる時間が多くなった。ただの脳の錯覚ではない、確実に、はるか昔、まぎれもない自分が違う自分だった頃に経験したような──
「ふむ、つまりこれらを総合すると、どういうことか分かるかね? ワトソン君!」
しきみが芝居がかった口調で喋り、沙良を向く。
いきなり話題を振られた沙良はびっくりして肩がはね、
「え、えっと……私は、その、前世のお話みたいだなあって思ったけれど」
「マグニフィセント!」
しきみがはしゃいで言う。
「あたしもそう思った! つまりは、鳴海は前はその島の小さな国の女王様で、真琴は着物着た人で、お互い面識があったと!」
「ま、まさかそんなことが……三文小説じゃあるまいし……」
苦笑する鳴海に、しきみが指をふる。
「真琴は黒曜で大人の女性の姿になった。鳴海が夢の中で体験した人のことも知ってた。沙良は自分にそっくりな人が現れて味方してくれた。あたしも、自分が大昔に体験したような感覚になったことがある……あたしらそれぞれに、前世があって、なんらかの繋がりがあったんじゃない?」
「それが、チェッカーフェイスさんが私達をここに連れてきた理由とも……関係あるのかな」
沙良の言葉に、証拠はないけどね、としきみはにこっと人懐こい笑みをうかべ、肩をすくめた。
その後、4人はあれこれ想像を言い合いながら1階に降り、朝食をとり、出かける準備を急いだ。今日も今日とて修業である。
「ねえ鳴海、今日は修業、おやすみしたら……?」
沙良が提案する。真琴も同意して付け加えた。
「顔、すごく、青い」
「うーん……でも……」
素直に了承は出来ない。雲雀とディーノとの三つ巴対決、せめて雲雀に1回だけでも勝ちたいという目標を掲げている。1日たりともあけるのは気が引けた。
「ならさあ、あたしと一緒に来て!」
しきみが鳴海の手を取り、ぶんぶんと勢いよく振った。鳴海の体も揺れ動く。
「あたしの修業の『先生』も、面白いからためになると思うよ〜!」
「シャマル先生じゃなかったっけ?」
沙良がこくびをかしげる。しきみはふふ、と含み笑いをした。
「それにさあ、その状態で行っても絶対雲雀さんに押されて終わっちゃうと思うよ。怒るかも、『君、そんなふうで僕に勝てると思ってるの?』」
しきみがいきなりキリッとした表情を作り、下手な雲雀の物まねをする。その場に笑いがあふれる。鳴海も和んだことにより、冷静さを取り戻した。
「あのね、私、今日、修業でいつもより大きなことにチャレンジするんだけど……」
家を出て鍵をしめる際、沙良が皆に言った。
「が、頑張るから、大丈夫だって言ってくれない?」
「!!」
真琴が顔色を変え、さっと沙良の両肩を掴んだ。
「だ、大丈夫、大丈夫っ」
今にも泣き出しそうな表情に、沙良のほうが驚いてしまう。鳴海がまあまあとなだめる。
「真琴落ち着けって。……沙良なら大丈夫だよ、絶対」
「そうだよ、沙良しっかりしてるもん、万事うまくいくよ!」
しきみも両手でサムズアップを贈る。
沙良はぱっと花が咲いたように顔をほころばせ、居ても立っても居られないとばかりに一足先に駆け出していった。
「……偉いよなあ、沙良」
遠ざかる背中を見送り、鳴海が呟く。沙良への心配ゆえに涙をぬぐう真琴が、横で静かに口を開いた。
「……鳴海も、えらい、よ」
「え?」
くるっと引き返し、真琴も別方向へ去っていく。
「真琴もファイトー!!」
しきみが大声を張り上げると、真琴は振り向かなかったが、小さく手を振ってくれた。
*
それから、鳴海はすぐさまディーノに連絡した。今日は修業の場を変えたいという申し出を。彼は快く承諾してくれた。むしろ、今はそっちのほうがいいだろうと。
しきみについていく形で、公共交通機関を経由して自然公園と向かう。都会や人工物のひしめく景色が、次第に緑の多い風景に変わっていくのを眺めていると、自然と気分も上がった。
「……あんな夢見るなら、眠るの恐いなあ」
改めて鳴海は、夢の内容を思い出していた。通常、夢は時間の経過につれ忘れるはずなのに、今なお記憶から消えることがない。
「それはそれで体に悪影響だよ。あたしが持ってる睡眠用CD貸してあげよっか? 瞑想できるように色々朗読してくれるんだよね」
「そうだね、借りようかな」
「ちょうどさ、自分の前世云々をめぐる、みたいな内容だったよ」
タイムリーである。鳴海は少し躊躇した。本当に自分の前世のようなものがあるとしたら、もっと知りたいような、知りたくないような。
「しきみはそれで、なんか見たの? 前世っぽい夢とか」
「ううん! CD再生してすぐに寝ちゃった」
あはは、とのんきに笑うしきみ。脱力する鳴海。
数十分後、連れられたしきみの修業場にて、鳴海はぽかんと口を開けた。そこに待っていたのは、
「あら、今日は貴方も相手なの?」
「ガハハハ!! 何人増えようと同じだもんね!」
「請多多指教 !」
ビアンキ、ランボ、イーピン。
3人はおそろいの中華服を身に着けている。
「あれ!? しきみは獄寺とシャマル先生じゃないの?」
「あーまあ、近いところで獄寺とシャマル先生はいるけど……最初は同じエリアでやってたんだけどさあ、」
「隼人は気難しい年頃だから、姉が視界にいると修業に集中できないのよ」
などとビアンキは言うが、鳴海は薄々気づいていた。姉を異性として意識ではなく、過去にポイズンクッキングをしこたま食わせられた苦い思い出が蘇り、悪影響を及ぼすのだろう。
「あなた達2人の相手は、私達……"毒牛中華飯”が受けて立つわ!」
ビアンキをセンターに迎え、ポーズを取る3人組。鳴海がしきみに目配せすると、しきみは満面の笑みでステッキをチャクラムに変形させ、構える。鳴海もそれにならった。
「!!」
切羽詰まった声で自分の名前を呼ばれ、鳴海は布団から跳ね起きた。勢いで掛け布団がふっとび、床に落ちる。息は乱れ、全身から汗が吹き出し、シーツも湿っている。
しきみ、沙良、真琴の3人が悲痛そうな面持ちで、心配そうに鳴海の顔を覗き込んでいた。
鳴海がぱちぱちとまばたきをすると、沙良はほっとしたように息を吐き、慌てて部屋を出ていった。しきみの手を借りて、ゆっくり上半身を起こす。
「だ、大丈夫……?」
いつも無愛想な真琴も、だいぶ焦っているようだ。鳴海はこくこくと頭を縦に振った。
「すっごいうなされてたよ、あともう少しで救急車呼ぼうかと思った」
しきみが背中をさすってくれた。
「ごめん、心配かけて。俺、すごい夢、見てて……」
部屋の時計を見れば、朝の6時を指していた。
沙良が戻ってきた。手には水の入ったコップと、蒸しタオルが握られていた。礼を言いながら鳴海は水を一気に飲み干し、暖かいタオルで肩口の汗をぬぐい、先ほどまで自分が居た夢の世界を、友人らに懸命に説明した。
自分以外の人物の顔や名前はおぼろげだが、小さな島の王国にて、女王として生きる一人の女性の人生を体験したのだと。
睡眠時に見る脳の記憶整理とは思えないほど、実際に体験したかのようなリアルさがあった。正確にはあちらが現実で、こうやって今ベッドの上で呆然としている自分の方が夢なのではないかと考えてしまうほど。
3人は一笑に付すことなく真剣に鳴海の話を聞いてくれたが、"コーデリア”というその人の名に、真琴がぴくりと反応した。
「コーデリア、って言ったの」
再度訪ねる。
「え? う、うん」
戸惑いながら答える鳴海。
「……」
真琴は数秒考え、静かに言った。
「その人、知ってる」
「!!」
鳴海が目を見開く。
「本当!?」
しきみも興味津々、目をらんらんに輝かせている。真琴はしどろもどろになりながら続けた。
「その、前の、雨が降った夜に」
なんだか急に心細くなり、沙良の服の裾をつかむ真琴。沙良はその手をやさしく握りしめてやった。勇気をもらった真琴は話を再開する。
「鳴海が一瞬、ドレス着た女性に、見えた。コーデリアって名前も、浮かんだ。鳴海がいたはずなのに、別の人が目の前に、いたような気がした。自分が見た特徴が、鳴海の話と、ほとんど、一緒」(※40.参照)
慣れないのに一気に喋ったので、顔を赤くしてふう、と息を吐いた。そして、また口を開く。ずっと気にしていたことなので、真琴はすべて言ってしまいたかった。
「考えてた」
真琴が自分の胸の上で、ぎゅっと握りこぶしを作る。
「骸に、拾われたとき、言われた。君の中には力が眠っている、って……それが、自分が変身した、その人なのだとしたら、リアルな夢を見た、鳴海も」
真琴自身、妙に懐かしい感覚にとらわれる時間が多くなった。ただの脳の錯覚ではない、確実に、はるか昔、まぎれもない自分が違う自分だった頃に経験したような──
「ふむ、つまりこれらを総合すると、どういうことか分かるかね? ワトソン君!」
しきみが芝居がかった口調で喋り、沙良を向く。
いきなり話題を振られた沙良はびっくりして肩がはね、
「え、えっと……私は、その、前世のお話みたいだなあって思ったけれど」
「マグニフィセント!」
しきみがはしゃいで言う。
「あたしもそう思った! つまりは、鳴海は前はその島の小さな国の女王様で、真琴は着物着た人で、お互い面識があったと!」
「ま、まさかそんなことが……三文小説じゃあるまいし……」
苦笑する鳴海に、しきみが指をふる。
「真琴は黒曜で大人の女性の姿になった。鳴海が夢の中で体験した人のことも知ってた。沙良は自分にそっくりな人が現れて味方してくれた。あたしも、自分が大昔に体験したような感覚になったことがある……あたしらそれぞれに、前世があって、なんらかの繋がりがあったんじゃない?」
「それが、チェッカーフェイスさんが私達をここに連れてきた理由とも……関係あるのかな」
沙良の言葉に、証拠はないけどね、としきみはにこっと人懐こい笑みをうかべ、肩をすくめた。
その後、4人はあれこれ想像を言い合いながら1階に降り、朝食をとり、出かける準備を急いだ。今日も今日とて修業である。
「ねえ鳴海、今日は修業、おやすみしたら……?」
沙良が提案する。真琴も同意して付け加えた。
「顔、すごく、青い」
「うーん……でも……」
素直に了承は出来ない。雲雀とディーノとの三つ巴対決、せめて雲雀に1回だけでも勝ちたいという目標を掲げている。1日たりともあけるのは気が引けた。
「ならさあ、あたしと一緒に来て!」
しきみが鳴海の手を取り、ぶんぶんと勢いよく振った。鳴海の体も揺れ動く。
「あたしの修業の『先生』も、面白いからためになると思うよ〜!」
「シャマル先生じゃなかったっけ?」
沙良がこくびをかしげる。しきみはふふ、と含み笑いをした。
「それにさあ、その状態で行っても絶対雲雀さんに押されて終わっちゃうと思うよ。怒るかも、『君、そんなふうで僕に勝てると思ってるの?』」
しきみがいきなりキリッとした表情を作り、下手な雲雀の物まねをする。その場に笑いがあふれる。鳴海も和んだことにより、冷静さを取り戻した。
「あのね、私、今日、修業でいつもより大きなことにチャレンジするんだけど……」
家を出て鍵をしめる際、沙良が皆に言った。
「が、頑張るから、大丈夫だって言ってくれない?」
「!!」
真琴が顔色を変え、さっと沙良の両肩を掴んだ。
「だ、大丈夫、大丈夫っ」
今にも泣き出しそうな表情に、沙良のほうが驚いてしまう。鳴海がまあまあとなだめる。
「真琴落ち着けって。……沙良なら大丈夫だよ、絶対」
「そうだよ、沙良しっかりしてるもん、万事うまくいくよ!」
しきみも両手でサムズアップを贈る。
沙良はぱっと花が咲いたように顔をほころばせ、居ても立っても居られないとばかりに一足先に駆け出していった。
「……偉いよなあ、沙良」
遠ざかる背中を見送り、鳴海が呟く。沙良への心配ゆえに涙をぬぐう真琴が、横で静かに口を開いた。
「……鳴海も、えらい、よ」
「え?」
くるっと引き返し、真琴も別方向へ去っていく。
「真琴もファイトー!!」
しきみが大声を張り上げると、真琴は振り向かなかったが、小さく手を振ってくれた。
*
それから、鳴海はすぐさまディーノに連絡した。今日は修業の場を変えたいという申し出を。彼は快く承諾してくれた。むしろ、今はそっちのほうがいいだろうと。
しきみについていく形で、公共交通機関を経由して自然公園と向かう。都会や人工物のひしめく景色が、次第に緑の多い風景に変わっていくのを眺めていると、自然と気分も上がった。
「……あんな夢見るなら、眠るの恐いなあ」
改めて鳴海は、夢の内容を思い出していた。通常、夢は時間の経過につれ忘れるはずなのに、今なお記憶から消えることがない。
「それはそれで体に悪影響だよ。あたしが持ってる睡眠用CD貸してあげよっか? 瞑想できるように色々朗読してくれるんだよね」
「そうだね、借りようかな」
「ちょうどさ、自分の前世云々をめぐる、みたいな内容だったよ」
タイムリーである。鳴海は少し躊躇した。本当に自分の前世のようなものがあるとしたら、もっと知りたいような、知りたくないような。
「しきみはそれで、なんか見たの? 前世っぽい夢とか」
「ううん! CD再生してすぐに寝ちゃった」
あはは、とのんきに笑うしきみ。脱力する鳴海。
数十分後、連れられたしきみの修業場にて、鳴海はぽかんと口を開けた。そこに待っていたのは、
「あら、今日は貴方も相手なの?」
「ガハハハ!! 何人増えようと同じだもんね!」
「
ビアンキ、ランボ、イーピン。
3人はおそろいの中華服を身に着けている。
「あれ!? しきみは獄寺とシャマル先生じゃないの?」
「あーまあ、近いところで獄寺とシャマル先生はいるけど……最初は同じエリアでやってたんだけどさあ、」
「隼人は気難しい年頃だから、姉が視界にいると修業に集中できないのよ」
などとビアンキは言うが、鳴海は薄々気づいていた。姉を異性として意識ではなく、過去にポイズンクッキングをしこたま食わせられた苦い思い出が蘇り、悪影響を及ぼすのだろう。
「あなた達2人の相手は、私達……"毒牛中華飯”が受けて立つわ!」
ビアンキをセンターに迎え、ポーズを取る3人組。鳴海がしきみに目配せすると、しきみは満面の笑みでステッキをチャクラムに変形させ、構える。鳴海もそれにならった。
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