42.継承の証

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夢主1の名前 苗字:蘇芳
夢主1の前世
夢主2の名前 苗字:近衛
夢主2の前世
夢主3の名前 苗字:一ノ瀬
夢主3の前世
夢主4の名前 苗字:立花
夢主4の前世(※和名推奨)

──これより、セピラの予言である。

10番目の王座をめぐり、14人が争い、
4人の乙女が試される。
怒れる獅子が敗れ、
赤子の獅子が勝ったならば、
闇は打ち払われ、獅子の怒りは収められる
偽りの禍根を絶ち、7つの人柱と、4つの生贄は救われる

海はその広がりに 限りを知らず
貝は代を重ね その姿 受け継ぎ
虹は時折現れ はかなく消える

風薫る海と星が、数多の力を生む

終末の音は遥かな空に溶ける

幸せの葉が芽吹く所に、その恩恵は与えられ続ける。


**********


 かつて病院の待合室だったところに、老人は腰を下ろしていた。
 だった、というのは、そこが数年前に赤字経営で破産した病院だからである。しばらくは無人の廃墟だったが、つい最近、イタリアのマフィア・キャバッローネに土地ごと買われ、傍目からだとわびしい建物でも、今や中は綺麗に清掃が行き届き、すぐにでも使える医療器具が揃っていた。
 窓際のボックスソファで、陽の光に温まりながら、老人は静かに呼吸し続ける。
 少し離れた場所からは、キャバッローネの部下が数人、こちらを心配そうに見つめてくる。老身をいたわってあれこれ世話をやこうとしてきたが、老人がきっぱり断るので、見守りに徹している状態だ。
 老人の名はタルボといった。
 彼は待ち続けていた。
 後継者たちを。意思を継ぐ者たちを。
 差し込む光の向こうで、4人の女性たちの面影が浮かぶ。

『タルボよ、私達はセピラの予言を聞いた上で、決行することにした』
 かつて女王と呼ばれた女はそう告げた。

『このまま何もせずに居たら、我らの心は汚れてしまう』
 鳥や獣の刺繍を施した衣装に身を包んだ女が、言った。

『わたくし達の業を、次の代に残してはいけない』
 ローブに身を包んだ、優しい面差しの女が意を決したように言い切った。

『どうせ残すものも無い身、わっちらの命を使いんす』
 遠い遠い東の国から来た、烏のように黒づくめの女が、特徴のあるなまりを残しつつ、自嘲気味に笑った。

『タルボよ、頼みます』
 女王だった女が、老人の──このときは瑞々しかった手をとった。
『もし私達が失敗し、命を落とすことになっても』
『どうか、あきらめないで!』
『いずれ苦しみの、終わりの代が来るまで』
『準備を』
 コーデリアラウダイネス琴乃
 あれから幾年も経ったが、今でも鮮明に焼き付いている女達の名を、タルボは小さくつぶやいた。


同刻 イタリア

「『──幸せの葉が芽吹く所に、その恩恵は与えられ続ける』。
……以上が、残された予言の内容になります」
 夜の帳が降りた城内に、蝋燭の炎があやしく揺らめく。
 絢爛たる広々とした応接間の真ん中に、女が一人立っていた。立たせられていた、というほうが合っているかも知れない。
 褐色肌、ピンク色の髪を持ち、目元をアイマスクのようなもので隠した彼女を、数人の男たちが囲むように座り、話を聞いていた。
 蝋燭の灯りは頼りなく、男たちの表情は見えない。
「『怒れる獅子が敗れ、赤子の獅子が勝ったならば』、ねえ」
 低く、どこか艶めかしい雰囲気をまとった声が響く。
「くだらん! 予言など、そんな非現実的な……」
 猛々しい声が、聞かされた内容を真っ向から否定する。
「うるせー」
 間延びした若い少年の声。何を、と先ほどいきり立った男が物申そうと立ち上がるが、隣りにいた男がそれを制した。
「落ち着いて、レヴィ。まあ確かに、ナンセンスな詩よねえ」
「この予言、現段階で当たっているものはあるのかい?」
 高い幼子の声が問う。
 褐色肌の女は頷いた。
「現時点で、闇をひとつ、赤子の獅子が打ち払ったと聞いております」
 レヴィと呼ばれた男が、ぐぬぬ、と口ごもる。
 大丈夫よ、と先ほどから明るい男は言った。
「とりあえず目的は果たしたんだから。あとはスクアーロの帰りを待つだけ」
 そうだな、と少年も同意した。
「手間省けたんじゃね? あっちからリングをぶら下げてきたしな」
 ししっ、と特徴的な笑いをする。
「オレはそんなくだらない予言は認めん。正統後継者はボス以外、ありえない!」
 レヴィは声を張り上げ、高らかに宣言する。すると、今の今まで黙っていた男が口を開いた。
「……はあ?」
 何を当然のことを、と言わんばかりのふてぶてしい態度。
 その場にいる者が皆、確信していた。これこそ己が使えてきた、大ボンゴレを背負う人物なのだと。

***

 ディーノの部下に促され、黒いカラーリングのワンボックスカーに乗り込んだ面々。大きな車体はうなりをあげて、ゆっくり進行し始めた。
 車内の空気は重く、気軽におしゃべりというわけにはいかなかった。皆一様に口を閉ざし、車の揺れに身を任せている。
 とつぜん現れたSスペルビ・スクアーロという青年。同じボンゴレに所属し、味方であるはずの人間に襲われてしまい、こちらが多勢であるにも関わらずかなわなかった。なんとか食いついたのは鳴海のみであった。
 なぜ、一体どうして。様々な憶測と混乱が若人たちを覆っていた。事情を知っているであろうバジルという少年は、今は車の後ろで横に寝かせられ、深い眠りについている。
 重い空気を断ち切ろうと、しきみが窓を開ける。外の涼しい空気が流れ込み、しきみの髪の毛をすり抜けていく。
 やがて、車はさびれた建物についた。『中山外科医院』とある。
「ここです」
 運転手がハンドルをまわし、小さな駐車場に器用に車をすべらせていく。


 風化しかけ、あちこち外壁が剥がれかけている外観とは裏腹に、内装は想像以上に綺麗だった。真新しい薬品の香り漂っている。
 綱吉達は傷や体を洗われ、薬を塗られたりなどして、各々手当を受けた。
 ディーノの部下達は親切で、大丈夫だ、すぐ治ると励ましてくれた。その間も、獄寺と山本の言葉数は少なく、それが余計に沙良は辛かった。
 全員の治療が一通り終わり、ロビーに集まっていた。
 沙良はあることを思いつき、俯いて座る獄寺の前に立った。獄寺が顔を上げる。いつもの覇気がなかった。
沙良?」
「あ、あのね、隼人くん、その……」
 沙良が獄寺に向かって手を差し出し、白銀の炎を灯そうとした。
 沙良の癒やしの力は、精神的なものにも作用する。獄寺は沙良が何をしようとしているのかを悟り、首を横に振った。
「……大丈夫だ、必要ねえ」
「……」
 沙良は泣きそうな顔をして、一言、ごめんなさい、とつぶやいた。ちょうど同時にディーノの部下の一人が、お湯がわいたので飲み物はいるか、と声をかけてきた。ここには電気とガスが通っているらしい。
「あ、私手伝います!」
 沙良が真っ先に手を上げ、ぱたぱた駆け出していった。痛々しく健気な彼女を、真琴は手伝いたかったが、いかんせん今は余裕がなかったスクアーロに向けて放った幻術の代償を、体の徒労感によって感じさせられていた。
 ふと山本と目が合う。山本が力なく笑い、真琴の中で形容し難い切なさが生まれる。
 鳴海のほうを見ると、こちらは靴を脱ぎ、ソファの上で体育座りをしていた。膝にうずめた顔から表情は読み取れないが、あたりを漂う空気はどんよりとしている。
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