41.嵐の訪れ
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日も地平線に溶ける夕暮れ時。4人のジャージ姿の少女たちが、掛け声をそろえて土手を走る。道の片方は住宅街、もう片方は柔らかい芝生と川が広がっている。
先頭にいる少女が、ファイッ、と声を張り上げ、残り3人が、オー!と続く。
ファイッオー!ファイッ、オー。
犬を連れて散歩しているご婦人から、がんばってるわねえ、とすれ違いざまに微笑ましい視線を投げ掛けられた。部活動に見えたのだろう。
先頭にいる少女は、鳴海。続いて沙良、真琴、しきみの順番だった。4人の中で体力の少ない2人を挟んでいるのだ。
数十分走ったのち、道路と芝生を繋ぐ石階段に皆で腰かけた。沙良が準備してくれた水筒のお茶をそれぞれ口に含み、休憩する。しきみがおもむろに口を開いた。
「こういう修行ってさ、なんか目標とか決めるの? それを宣言するとか?」
鳴海がああ、と背を反らしながら空を仰ぐ。
「確かに、具体的なゴールがあるといいかもなあ」
「じゃああたしから!」
言い出しっぺのしきみが勢いよく手を上げた。
「必殺技がほしいです!!」
「……しきみ、らしい」
真琴の言葉に、沙良も愛情のある忍び笑いが漏れる。
「私は、」
沙良がほてった顔を秋風にあてながら目を伏せる。
「弓矢の扱いが上手くなって、体力も増やして、治癒の炎も、矢の炎も出せるようになって……」
指折りが止まらなくなった沙良に、鳴海が待ったをかける。
「色々決めても、自分が辛くなるよ。1つ2つくらいで決めよう」
沙良が照れ笑いをする。
「じゃあ、体力をつけることかな……私の能力ってそれ頼みだし」
「いい線いってるよ」
鳴海が首を縦に振る。黒曜の件から約1ヶ月、沙良は家でフィットネス系のゲームや、こうした4人の自主練で少しずつ体力の向上が見られていた。
「沙良最近すっごい頑張ってるよねー!」
しきみが感心したように言う。沙良ははにかみ、肩をすぼめる。
「もっと強くなって……大切な人の、大事にしているものが、守れたらいいなって」
鳴海はふと思い出す。黒曜で仲間たちが骸に次々と憑依されるさなか、綱吉を積極的に守っていた沙良。
もちろん友人としてもあるが、獄寺が10代目と慕う綱吉を、獄寺の代わりに守ろうと必死だったのかもしれない。
あの後、鳴海が生み出した深い青い炎と、しきみの黄緑色の炎、真琴の黒い炎は、出なくなっていた。火事場の馬鹿力のようなものだったのかもしれない、と4人は結論づけていた。
すっと、真琴が真顔のまま手を上げる。
「剣、うまくなりたい。あと、幻術の、練り直し」
黒曜にいた頃、骸の手引で真琴は幻術を手に入れたものの、使いこなせている感覚は全く無かった。むしろ底知れぬ力が恐ろしくて、率先して自分の武器にしようという気になれなかった。
「力、怖くて、使えない。でも、ちょっと、もったいない」
「そっか……そうだよな、幻術の先生がいればいいんだけど」
鳴海は言いつつ、複雑な気分になる。骸には散々苦しめられたし、彼の犯した罪は軽いものではない。好きになれる部類の人間ではなかった。だが、大切なこの友人、真琴とは不思議な絆がある。
残るは鳴海である。鳴海はぽそっと呟いた。
「俺は……ある人に、勝ちたいかもなあ」
「えーっ、誰?誰!?」
しきみがずいっと身を乗り出すが、鳴海は恥ずかしがってなかなか答えようとしない。
何かを察した真琴が、すっくと立ち上がった。手に持っていたステッキを、蛇腹剣に変形させる。
「鳴海、一回、手合わせ、しよ」
鳴海の目がまるくなる。
「うん、いいよ!」
鳴海も長柄槍を手に、二人で川べりの平坦なサッカー場まで下っていく。ほどなくして、剣と槍の鍔迫り合いが始まった。
「あーもう、教えてほしかったのに!」
しきみが頬を膨らませ、とん、と沙良の肩に頭を預けた。沙良はしきみをよしよしと撫でながら、眼前の試合を眺める。
「最近さあ、鳴海、元気ないよね」
しきみが唐突に言った。沙良も頷きつつ、別のことを考えていた。
「しきみも」
「えっ、あたし?」
しきみが体勢を起こし、沙良の目をまじまじと見つめる。
「しきみも、寂しそう」
「……」
「だからしきみも心配してる。私になにか、出来ることは無いの?」
沙良の目は真剣そのものだった。しきみは何かを言いかけた口を閉じ、ゆるやかに弧を描いた。
「だいじょーぶ! ありがと!」
嘘だ、と沙良は感じた。だがこれ以上指摘しても、逆効果なのはわかっていた。真琴と鳴海の試合は、拮抗しているかに思われたが、真琴が若干優勢である。
「鳴海さあ、やっぱりその人とお別れしちゃったのがショックだったのかもね」
しきみが再び沙良にもたれかかる。その人、とは、鳴海が師匠と呼び慕った、素性のしれぬ青年のことである。鳴海の戦闘センスが高まったのも、彼のおかげであろう。
「そうね……」
沙良はしみじみ思い出す。鳴海の話から、彼女がその青年を心から信頼しているのが感じ取れた。顔もぱっと明るくなるし、何より──幸せそうなのだ。
あ、と沙良は小さな声を出した。
鳴海はもしかして、その人のことが。
「?、どうしたのー?」
しきみが不思議そうにこちらを見る。真琴と鳴海の試合は、いつのまにか鳴海に軍配が上がっていた。2人とも息切れを起こし、草の上で大の字になっている。
「う、ううん、なんでもない!」
沙良があわててかぶりを降る。さすがに恋愛脳すぎるだろうか。沙良は内省していた。自分だけなんだかのんきな気がして、ちょっぴり情けない。
肩を組んで戻ってきた2人に、しきみが声をかける。
「明日日曜じゃん! ここ最近ずっと訓練ばっかだったしさ、どっか遊び行かない!?」
「あ、ごめん俺パス」
鳴海が苦笑する。首をかしげるしきみに、
「補習…」恥ずかしそうに答えた。
「午前中用事があるんだけど、その後でいいなら」
そう告げる沙良に、しきみはよしっ、とガッツポーズした。
「用事?」
真琴が尋ねる。
「奈々さんから連絡あったの。お料理作りすぎたから、分けてくれるって」
「OK、じゃあ真琴、あたしと先に遊びに行ってその後沙良と合流して、時間がよければ補習後の鳴海も呼ぼ!」
「え、」
真琴がびっくりして固まる。しきみと2人でしばらく遊ぶ。嫌ではないのだが。
「……」
ちら、と沙良の方を見る。沙良はいい考えだ、とにこにこしている。しきみはスパンコールのようにきらきらした視線を送ってきている。そんなまなざしを向けられると、まあいいか、という気分になった。
わかった、と真琴が了解すると、しきみはやったー!!と大喜びで抱きつき、そのままぴょんぴょん飛び跳ねた。揺れ動かされげっそりしながら、ふと真琴は鳴海に視線を移す。日が地平線に溶けかけているのを、切なそうに眺めている。
「どうした、の、鳴海」
「え、いや……」
問いかけられ、鳴海は気まずそうにうつむく。しきみと沙良も見守る。
「あの人が近くに、いるような気がしたんだ」
3人には、鳴海の瞳が、わずかに潤んでいるように見えた。
***
やがて本格的に夜が訪れた。
草木も眠る丑三つ時、街の明かりもほぼ落ちて、すべてが眠りにつく頃。
闇の生き物たちが、互いに牙を交えていた。
人けのないビルの屋上から屋上へ、飛び移るようにしてその2人は命のやり取りをしていた。一人は青年、もう一人は少年だった。
銀色の長い髪を振り乱し、青年は左手の剣をふるう。その度に爆発がいくつも起き、粉塵が辺りを覆い尽くす。
そこから、少年は決して動きを止めず、三角形の刃を投げてよこした。刃は青年のぎりぎりをかすめ、持ち主の手に戻ってくる。
「ゔお゙ぉい、よえぇぞ」
「くっ」
力の差は歴然としていた。少年は歯を食いしばり、悲鳴を上げる自分の体を堪える。
(こんなところで、やられるわけには……!)
先頭にいる少女が、ファイッ、と声を張り上げ、残り3人が、オー!と続く。
ファイッオー!ファイッ、オー。
犬を連れて散歩しているご婦人から、がんばってるわねえ、とすれ違いざまに微笑ましい視線を投げ掛けられた。部活動に見えたのだろう。
先頭にいる少女は、鳴海。続いて沙良、真琴、しきみの順番だった。4人の中で体力の少ない2人を挟んでいるのだ。
数十分走ったのち、道路と芝生を繋ぐ石階段に皆で腰かけた。沙良が準備してくれた水筒のお茶をそれぞれ口に含み、休憩する。しきみがおもむろに口を開いた。
「こういう修行ってさ、なんか目標とか決めるの? それを宣言するとか?」
鳴海がああ、と背を反らしながら空を仰ぐ。
「確かに、具体的なゴールがあるといいかもなあ」
「じゃああたしから!」
言い出しっぺのしきみが勢いよく手を上げた。
「必殺技がほしいです!!」
「……しきみ、らしい」
真琴の言葉に、沙良も愛情のある忍び笑いが漏れる。
「私は、」
沙良がほてった顔を秋風にあてながら目を伏せる。
「弓矢の扱いが上手くなって、体力も増やして、治癒の炎も、矢の炎も出せるようになって……」
指折りが止まらなくなった沙良に、鳴海が待ったをかける。
「色々決めても、自分が辛くなるよ。1つ2つくらいで決めよう」
沙良が照れ笑いをする。
「じゃあ、体力をつけることかな……私の能力ってそれ頼みだし」
「いい線いってるよ」
鳴海が首を縦に振る。黒曜の件から約1ヶ月、沙良は家でフィットネス系のゲームや、こうした4人の自主練で少しずつ体力の向上が見られていた。
「沙良最近すっごい頑張ってるよねー!」
しきみが感心したように言う。沙良ははにかみ、肩をすぼめる。
「もっと強くなって……大切な人の、大事にしているものが、守れたらいいなって」
鳴海はふと思い出す。黒曜で仲間たちが骸に次々と憑依されるさなか、綱吉を積極的に守っていた沙良。
もちろん友人としてもあるが、獄寺が10代目と慕う綱吉を、獄寺の代わりに守ろうと必死だったのかもしれない。
あの後、鳴海が生み出した深い青い炎と、しきみの黄緑色の炎、真琴の黒い炎は、出なくなっていた。火事場の馬鹿力のようなものだったのかもしれない、と4人は結論づけていた。
すっと、真琴が真顔のまま手を上げる。
「剣、うまくなりたい。あと、幻術の、練り直し」
黒曜にいた頃、骸の手引で真琴は幻術を手に入れたものの、使いこなせている感覚は全く無かった。むしろ底知れぬ力が恐ろしくて、率先して自分の武器にしようという気になれなかった。
「力、怖くて、使えない。でも、ちょっと、もったいない」
「そっか……そうだよな、幻術の先生がいればいいんだけど」
鳴海は言いつつ、複雑な気分になる。骸には散々苦しめられたし、彼の犯した罪は軽いものではない。好きになれる部類の人間ではなかった。だが、大切なこの友人、真琴とは不思議な絆がある。
残るは鳴海である。鳴海はぽそっと呟いた。
「俺は……ある人に、勝ちたいかもなあ」
「えーっ、誰?誰!?」
しきみがずいっと身を乗り出すが、鳴海は恥ずかしがってなかなか答えようとしない。
何かを察した真琴が、すっくと立ち上がった。手に持っていたステッキを、蛇腹剣に変形させる。
「鳴海、一回、手合わせ、しよ」
鳴海の目がまるくなる。
「うん、いいよ!」
鳴海も長柄槍を手に、二人で川べりの平坦なサッカー場まで下っていく。ほどなくして、剣と槍の鍔迫り合いが始まった。
「あーもう、教えてほしかったのに!」
しきみが頬を膨らませ、とん、と沙良の肩に頭を預けた。沙良はしきみをよしよしと撫でながら、眼前の試合を眺める。
「最近さあ、鳴海、元気ないよね」
しきみが唐突に言った。沙良も頷きつつ、別のことを考えていた。
「しきみも」
「えっ、あたし?」
しきみが体勢を起こし、沙良の目をまじまじと見つめる。
「しきみも、寂しそう」
「……」
「だからしきみも心配してる。私になにか、出来ることは無いの?」
沙良の目は真剣そのものだった。しきみは何かを言いかけた口を閉じ、ゆるやかに弧を描いた。
「だいじょーぶ! ありがと!」
嘘だ、と沙良は感じた。だがこれ以上指摘しても、逆効果なのはわかっていた。真琴と鳴海の試合は、拮抗しているかに思われたが、真琴が若干優勢である。
「鳴海さあ、やっぱりその人とお別れしちゃったのがショックだったのかもね」
しきみが再び沙良にもたれかかる。その人、とは、鳴海が師匠と呼び慕った、素性のしれぬ青年のことである。鳴海の戦闘センスが高まったのも、彼のおかげであろう。
「そうね……」
沙良はしみじみ思い出す。鳴海の話から、彼女がその青年を心から信頼しているのが感じ取れた。顔もぱっと明るくなるし、何より──幸せそうなのだ。
あ、と沙良は小さな声を出した。
鳴海はもしかして、その人のことが。
「?、どうしたのー?」
しきみが不思議そうにこちらを見る。真琴と鳴海の試合は、いつのまにか鳴海に軍配が上がっていた。2人とも息切れを起こし、草の上で大の字になっている。
「う、ううん、なんでもない!」
沙良があわててかぶりを降る。さすがに恋愛脳すぎるだろうか。沙良は内省していた。自分だけなんだかのんきな気がして、ちょっぴり情けない。
肩を組んで戻ってきた2人に、しきみが声をかける。
「明日日曜じゃん! ここ最近ずっと訓練ばっかだったしさ、どっか遊び行かない!?」
「あ、ごめん俺パス」
鳴海が苦笑する。首をかしげるしきみに、
「補習…」恥ずかしそうに答えた。
「午前中用事があるんだけど、その後でいいなら」
そう告げる沙良に、しきみはよしっ、とガッツポーズした。
「用事?」
真琴が尋ねる。
「奈々さんから連絡あったの。お料理作りすぎたから、分けてくれるって」
「OK、じゃあ真琴、あたしと先に遊びに行ってその後沙良と合流して、時間がよければ補習後の鳴海も呼ぼ!」
「え、」
真琴がびっくりして固まる。しきみと2人でしばらく遊ぶ。嫌ではないのだが。
「……」
ちら、と沙良の方を見る。沙良はいい考えだ、とにこにこしている。しきみはスパンコールのようにきらきらした視線を送ってきている。そんなまなざしを向けられると、まあいいか、という気分になった。
わかった、と真琴が了解すると、しきみはやったー!!と大喜びで抱きつき、そのままぴょんぴょん飛び跳ねた。揺れ動かされげっそりしながら、ふと真琴は鳴海に視線を移す。日が地平線に溶けかけているのを、切なそうに眺めている。
「どうした、の、鳴海」
「え、いや……」
問いかけられ、鳴海は気まずそうにうつむく。しきみと沙良も見守る。
「あの人が近くに、いるような気がしたんだ」
3人には、鳴海の瞳が、わずかに潤んでいるように見えた。
***
やがて本格的に夜が訪れた。
草木も眠る丑三つ時、街の明かりもほぼ落ちて、すべてが眠りにつく頃。
闇の生き物たちが、互いに牙を交えていた。
人けのないビルの屋上から屋上へ、飛び移るようにしてその2人は命のやり取りをしていた。一人は青年、もう一人は少年だった。
銀色の長い髪を振り乱し、青年は左手の剣をふるう。その度に爆発がいくつも起き、粉塵が辺りを覆い尽くす。
そこから、少年は決して動きを止めず、三角形の刃を投げてよこした。刃は青年のぎりぎりをかすめ、持ち主の手に戻ってくる。
「ゔお゙ぉい、よえぇぞ」
「くっ」
力の差は歴然としていた。少年は歯を食いしばり、悲鳴を上げる自分の体を堪える。
(こんなところで、やられるわけには……!)
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