38.決着
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濃密な常闇の中で、真琴はもがいていた。
暗然とした世界で、はっきりと輪郭を持つ自分が忌々しい。このまま真っ黒な世界に溶け合って、いなくなってしまいたい一心だった。
ふいに、頭上におぼろげな灯りが灯った。
顔を上げてみると、天に白いかすみがかった月が。ぼんやり眺めていると、鉛のような心が和らぎ、軽くなっていく。
次にさあっと風がふいた。真琴の髪やほほ、体をやさしくなで、地から空へ舞い上がる。かと思えば、前後左右に、気まぐれに形を変えている。なんてすがすがしいのだろう、と真琴は感じた。自由の象徴にも思えた。
遠くから、浜辺の寄せては返すさざ波の音が響いてくる。海の中か、深いプールにもぐったときのような浮遊感。心地よい圧迫感。真琴を包んだ波は、たくさんのいろんな人の声と、さまざまな思い出を──両親だけではない思い出を運んできた。
「真琴!」
鳴海の声だ。不器用なところがあるが努力家で、仲間想いな子だ。
「真琴ー」
しきみののんびりした声。無邪気で明るくて、誰にも壁を作ることなく接する、魅力的な子だ。
「真琴、」
暖かい沙良の声。聞いていて落ち着く、ひだまりのような優しさを持った子。
そんな彼女たちと一緒にいることが、真琴には恐ろしかった。
彼女たちに、自分はふさわしくないと。自分だけが、まがい物のような気がしてしまってならなかった。
(自分は、いないほうがいい)
両耳をふさぐ真琴。だが声は止まなかった。
──真琴、真琴。
3人だけじゃない、沢山の人の声が聞こえてきた。真琴は戸惑っていた。自分には、暗闇しかないはずなのに。
**********
沙良は弓を持ったまま、矢を産み出すことはせず、鳴海と真琴の戦い、そして綱吉の様子を見守っていた。
「綱吉くん、両手にも火が……」
額と同じく、綱吉が手にはめている黒いグローブにも、炎が発現し、輝いている。
「おそらく死ぬ気弾と同じ素材で、死ぬ気の炎を灯すことが出来るんだろうな」
とリボーン。
骸は臆することなく言った。
「まるで、毛を逆立てて体を大きく見せようとする猫ですね」
骸は長い昆を見事に片手で回しながら、一気に綱吉へ突進する。
「だが、いくら見てくれを変えたところで、無意味だ」
急接近し、昆の先を叩き込もうとするも、綱吉は左手でしっかり掴み、いとも簡単にぐにゃりとねじ曲げた。
「な!?」
戸惑う六道骸に、今度は炎を宿した右手でさっと払いのけようとする。間一髪手からは避けきれた骸だったが、その手から吹き出される死ぬ気の炎に触れ、その熱さに驚いた。
「そのグローブは、焼きごてというわけか……」
「それだけじゃない」
今度は綱吉が全身全霊で突っ込んでいく。またも六道骸は昆を振りかざした。しかし、標的がいたはずの眼前は誰もいなかった。
「消えた?」
六道骸が呟いた瞬間、ふっと背後に人の気配。綱吉だ。
「バカな! いつの間に!?」
綱吉のパンチをもろに食らう骸。煙を立ち込めながら、数十メートル先まで吹っ飛ばされていく。
体勢を立て直しつつ、自分に置かれた状況に六道骸の顔には困惑が広がっていた。
「何だ今のは……奴は何をしたんだ……」
「ウォーミングアップはまだ終わらないのか?」
見下していた綱吉に煽られ、骸は小さくうめき声を漏らした後、
「……クフフ、クハハハハハハッ!!」
奇妙なほど明るく、大きく笑い、目をぎらつかせた。
「ここまでとは……嬉しい誤算だ。君の肉体を手に入れれば、知略をはりめぐらさずとも直接ファミリーに殴り込み、マフィア間のいさかいを起こせそうだ。」
「マフィア界の抗争が、お前の目的か?」
リボーンの問いに、六道骸は肩をすくめる。
「クフフ……まさか、僕はそんなちっぽけな男ではありませんよ。僕はこれから世界中の要人の体を乗っ取るつもりです」
立ち上がり、舞台上の役者のように語り始める。
「彼らを操りこの醜い世界を、純粋で美しい血の海に変える。世界大戦……なんて、ベタすぎますかねえ」
沙良の背筋がぞくりと震えた。真琴と未だ苦戦中の鳴海も、この男の描く地獄絵図を想像しそうになり、頭から振り払うのに必死だった。
「だが、手始めはやはりマフィア──……マフィアの殲滅からだ」
やけにマフィアにこだわっているようにも思えた。
「恨みか?」
訊ねる綱吉。
「これ以上話すつもりはない。君は僕の最強形態によって、僕のものになるのだから」
骸は小さく笑みをこぼす。
「見るがいい!」
六道骸が声を張り上げた瞬間、彼の体から大きな黒い人影が躍り出た。骸を象った、この世のものとは思えないほどおぞましく、奇々怪々なそれに、沙良が恐怖で口許を手でおさえる。
綱吉は微動だにしなかった。幻覚だと分かりきっているからだ。
「こんなもので……」
やり過ごそうとしたときだった。
六道骸の影が綱吉の体を通り抜けた瞬間、鋭い痛みが額に走った。思わず手でふれると、硬い石のような破片が手と額の間からぼろぼろとこぼれ落ちた。幻覚の中に、本物のつぶてを潜ませていたのだ。
痛みに悶える綱吉のはるか頭上で、昆を大きく振りかぶった六道骸の姿が。目をらんらんとさせ、勝利を確信した表情だ。
「ツナ!」
リボーンが叫ぶ。
「わかってる!!」
綱吉は手の炎を倍増させ、再び六道骸の背後にまわった。こちらにまっすぐ落ちるような形で迫ってきた骸はとっさに体を回すことができず、なされるがまま、綱吉の渾身の一撃を受けた。
六道骸の体は宙を舞い、激しい音をたてて劇場ホールの床に激突した。もうもうと白い煙が立ち込め、うつ伏せに倒れている。
リボーンが綱吉のもとへ向かおうとしたとき、あることに気づいた。今まで黙って状況を見つめるだけだった沙良が、弓矢で狙いを定めているではないか。白銀の色の矢に、やわらかい黄と緑の炎が帯びている。
矢の行く末は、真琴の黒い炎で腹を貫かれながらも、真琴をひしと抱き締める鳴海の姿だった。
足元に、鳴海の長柄槍が落ちている。真琴はじっとそれに見入った。
真っ先に感じたのは、なぜ、という疑問だった。
これはここにあってはいけないのに。この長柄槍は鳴海の手にあり、自分に向いてなければおかしいのに。
「どうして、攻撃、しなかった」
鳴海はとつぜん攻撃をやめたのだ。武器を降ろし、両手を広げ、真琴へ抱きついたのだ。てっきり長柄槍の切っ先が来るとふんでいた真琴の攻撃はやむことなく、鳴海の体へいくつも傷をつけた。黒い炎を、まっすぐ鳴海の元へ向かわせた。鳴海の腹に深々と刺さっている。それによって傷や血は出ていないが、深手を負わせたのは間違いないのに。
暗然とした世界で、はっきりと輪郭を持つ自分が忌々しい。このまま真っ黒な世界に溶け合って、いなくなってしまいたい一心だった。
ふいに、頭上におぼろげな灯りが灯った。
顔を上げてみると、天に白いかすみがかった月が。ぼんやり眺めていると、鉛のような心が和らぎ、軽くなっていく。
次にさあっと風がふいた。真琴の髪やほほ、体をやさしくなで、地から空へ舞い上がる。かと思えば、前後左右に、気まぐれに形を変えている。なんてすがすがしいのだろう、と真琴は感じた。自由の象徴にも思えた。
遠くから、浜辺の寄せては返すさざ波の音が響いてくる。海の中か、深いプールにもぐったときのような浮遊感。心地よい圧迫感。真琴を包んだ波は、たくさんのいろんな人の声と、さまざまな思い出を──両親だけではない思い出を運んできた。
「真琴!」
鳴海の声だ。不器用なところがあるが努力家で、仲間想いな子だ。
「真琴ー」
しきみののんびりした声。無邪気で明るくて、誰にも壁を作ることなく接する、魅力的な子だ。
「真琴、」
暖かい沙良の声。聞いていて落ち着く、ひだまりのような優しさを持った子。
そんな彼女たちと一緒にいることが、真琴には恐ろしかった。
彼女たちに、自分はふさわしくないと。自分だけが、まがい物のような気がしてしまってならなかった。
(自分は、いないほうがいい)
両耳をふさぐ真琴。だが声は止まなかった。
──真琴、真琴。
3人だけじゃない、沢山の人の声が聞こえてきた。真琴は戸惑っていた。自分には、暗闇しかないはずなのに。
**********
沙良は弓を持ったまま、矢を産み出すことはせず、鳴海と真琴の戦い、そして綱吉の様子を見守っていた。
「綱吉くん、両手にも火が……」
額と同じく、綱吉が手にはめている黒いグローブにも、炎が発現し、輝いている。
「おそらく死ぬ気弾と同じ素材で、死ぬ気の炎を灯すことが出来るんだろうな」
とリボーン。
骸は臆することなく言った。
「まるで、毛を逆立てて体を大きく見せようとする猫ですね」
骸は長い昆を見事に片手で回しながら、一気に綱吉へ突進する。
「だが、いくら見てくれを変えたところで、無意味だ」
急接近し、昆の先を叩き込もうとするも、綱吉は左手でしっかり掴み、いとも簡単にぐにゃりとねじ曲げた。
「な!?」
戸惑う六道骸に、今度は炎を宿した右手でさっと払いのけようとする。間一髪手からは避けきれた骸だったが、その手から吹き出される死ぬ気の炎に触れ、その熱さに驚いた。
「そのグローブは、焼きごてというわけか……」
「それだけじゃない」
今度は綱吉が全身全霊で突っ込んでいく。またも六道骸は昆を振りかざした。しかし、標的がいたはずの眼前は誰もいなかった。
「消えた?」
六道骸が呟いた瞬間、ふっと背後に人の気配。綱吉だ。
「バカな! いつの間に!?」
綱吉のパンチをもろに食らう骸。煙を立ち込めながら、数十メートル先まで吹っ飛ばされていく。
体勢を立て直しつつ、自分に置かれた状況に六道骸の顔には困惑が広がっていた。
「何だ今のは……奴は何をしたんだ……」
「ウォーミングアップはまだ終わらないのか?」
見下していた綱吉に煽られ、骸は小さくうめき声を漏らした後、
「……クフフ、クハハハハハハッ!!」
奇妙なほど明るく、大きく笑い、目をぎらつかせた。
「ここまでとは……嬉しい誤算だ。君の肉体を手に入れれば、知略をはりめぐらさずとも直接ファミリーに殴り込み、マフィア間のいさかいを起こせそうだ。」
「マフィア界の抗争が、お前の目的か?」
リボーンの問いに、六道骸は肩をすくめる。
「クフフ……まさか、僕はそんなちっぽけな男ではありませんよ。僕はこれから世界中の要人の体を乗っ取るつもりです」
立ち上がり、舞台上の役者のように語り始める。
「彼らを操りこの醜い世界を、純粋で美しい血の海に変える。世界大戦……なんて、ベタすぎますかねえ」
沙良の背筋がぞくりと震えた。真琴と未だ苦戦中の鳴海も、この男の描く地獄絵図を想像しそうになり、頭から振り払うのに必死だった。
「だが、手始めはやはりマフィア──……マフィアの殲滅からだ」
やけにマフィアにこだわっているようにも思えた。
「恨みか?」
訊ねる綱吉。
「これ以上話すつもりはない。君は僕の最強形態によって、僕のものになるのだから」
骸は小さく笑みをこぼす。
「見るがいい!」
六道骸が声を張り上げた瞬間、彼の体から大きな黒い人影が躍り出た。骸を象った、この世のものとは思えないほどおぞましく、奇々怪々なそれに、沙良が恐怖で口許を手でおさえる。
綱吉は微動だにしなかった。幻覚だと分かりきっているからだ。
「こんなもので……」
やり過ごそうとしたときだった。
六道骸の影が綱吉の体を通り抜けた瞬間、鋭い痛みが額に走った。思わず手でふれると、硬い石のような破片が手と額の間からぼろぼろとこぼれ落ちた。幻覚の中に、本物のつぶてを潜ませていたのだ。
痛みに悶える綱吉のはるか頭上で、昆を大きく振りかぶった六道骸の姿が。目をらんらんとさせ、勝利を確信した表情だ。
「ツナ!」
リボーンが叫ぶ。
「わかってる!!」
綱吉は手の炎を倍増させ、再び六道骸の背後にまわった。こちらにまっすぐ落ちるような形で迫ってきた骸はとっさに体を回すことができず、なされるがまま、綱吉の渾身の一撃を受けた。
六道骸の体は宙を舞い、激しい音をたてて劇場ホールの床に激突した。もうもうと白い煙が立ち込め、うつ伏せに倒れている。
リボーンが綱吉のもとへ向かおうとしたとき、あることに気づいた。今まで黙って状況を見つめるだけだった沙良が、弓矢で狙いを定めているではないか。白銀の色の矢に、やわらかい黄と緑の炎が帯びている。
矢の行く末は、真琴の黒い炎で腹を貫かれながらも、真琴をひしと抱き締める鳴海の姿だった。
足元に、鳴海の長柄槍が落ちている。真琴はじっとそれに見入った。
真っ先に感じたのは、なぜ、という疑問だった。
これはここにあってはいけないのに。この長柄槍は鳴海の手にあり、自分に向いてなければおかしいのに。
「どうして、攻撃、しなかった」
鳴海はとつぜん攻撃をやめたのだ。武器を降ろし、両手を広げ、真琴へ抱きついたのだ。てっきり長柄槍の切っ先が来るとふんでいた真琴の攻撃はやむことなく、鳴海の体へいくつも傷をつけた。黒い炎を、まっすぐ鳴海の元へ向かわせた。鳴海の腹に深々と刺さっている。それによって傷や血は出ていないが、深手を負わせたのは間違いないのに。
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