37.決意と祈りの共鳴
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「真琴、目を覚ませ!!」
「……」
真琴──今は黒づくめの大人の女に姿を変えているが──と刃を交え、鳴海が苦戦する一方、劇場ホールいっぱいに火柱が上がり、骸に体を憑依された者達の攻撃が情け容赦なく綱吉らに降り注ぐ。
沙良は白銀の炎を多く生み出し、盾替わりにして綱吉を守っていた。しきみの風の力ほどではないが、ないよりはマシだった。
真っ赤な溶岩が天高くほとばしり、熱風が皆の気力と体力を奪っていく。真琴を救わねば。骸に乗っ取られた仲間を助けねば。しかしそれどころではない。
「降伏してくれていいんですよ。ボンゴレ10代目も4人の乙女たちも、無傷で手に入れたいですからね」
骸に憑依された城島犬のしわがれた声がひびく。
火柱にあかあかと照らされ、骸の駒と化した者達にコントラストの強い影が落ちている。その姿はおぞましく、恐怖が首をもたげ、足をすくませる。
「お前たちしっかりしろ、これは幻覚だぞ」
敵の攻撃をよけつつ、傍観を続けるリボーンの言葉が飛んでくるが、このうだるような熱さが幻だとは、とても信じられない。
「君は、自分の心配をした方がいい」
獄寺から無数のダイナマイトが襲い来る。激しい熾烈音と共にその場は煙につつまれ、ふっと現れたリボーンの帽子と頭部めがけて、城島犬が三つ又の剣を突き刺した。
「リボーン!!」
青くなる綱吉と沙良であったが、そこには誰もいなかった。家庭教師も、ただでやられる男ではない。リボーンは目にもとまらぬ速さで三つ又の剣に刺さっていた帽子を奪い返した。久々に感じる実践の空気だ、と言いながらつばの埃をはらっている様子は、余裕さえ感じられる。
「オレは手ェ出せねーんだ。鳴海と沙良は頑張ってるぞ、ツナも早く何とかしやがれ」
「無茶言うなよ! オレのなんとかできるレベル超えて……」
言いかけて、綱吉は隣の沙良を見てはっとした。目をかっと見開き、息も絶え絶えで、表情は険しく、いつも穏やかな笑顔の欠片すらなかった。
体力に限界が来ている。能力を使いすぎたのだ。しかし彼女は綱吉の心配する視線に気付くと、無理やり笑顔を作った。
「だ、大丈夫、大丈夫よ、綱吉くん……」
「沙良…」
「こんなことで……くじけたら……みんなを取り戻せない」
沙良は立ち上がり、辺りを見渡した。なんとか真琴の元へ近付きたい。その行く手を、獄寺に憑依した六道骸が阻む。
(隼人くん、ごめんなさい……!)
きしむ己の心をねじふせ、沙良は炎の矢を出現させ、放った。光の矢が獄寺の体を貫通し、停止する。そのすきに綱吉を立たせ、柿本千種のヨーヨーから放たれる毒針から逃れさせた。
ビアンキのポイズンクッキングを華麗によけつつ、リボーンは言う。
「オレの教え子なら超えられるはずだぞ。ディーノも超えてきた道だ」
絶望な状況下にも関わらず、話し始めるリボーン。鳴海も沙良も綱吉も敵の攻撃を避けるだけで手一杯であったのに、その声は、不思議と聞かせられる力があった。
「ディーノがオレの生徒だった時も、絶体絶命のピンチがあった。だがファミリーのため、仲間のためにそれを乗り越えた時、あいつは“へなちょこディーノ”から“跳ね馬ディーノ”になったんだ」
「なった、って意味わかんないよ!!」
投げやりに叫ぶ綱吉。
鳴海も疲労感から、自分の動きが乱雑になりつつあるのを実感していた。目の前の女──真琴に呼びかけながら、彼女の蛇腹剣の動きを読み、自分も相手も傷つけないように細心の注意を払いながら槍を振り回す。
「真琴、頼む、落ち着いて、話を聞いてくれっ……!」
「……」
女は答えない。苦しみ、憎しみ、恨みつらみといったものだけが、彼女のすべてを覆っている。
「真琴、お願い、元に戻って……!」
少し遠く離れたところから、沙良も声を張り上げた。もはや、いちばん執着していた人間の声すら届かないようだ。
「そろそろ、終わりにしましょう」
三つ又の剣を手に、柿本千種が駆け出してきた。怯える綱吉。弓構えをする沙良。
だがしかし、いきなり柿本千種はがくんと足をすべらせ、転倒した。すぐに立ち上がる気配もない。驚く綱吉らをよそに、
「なあに、よくあることです」
床に転がった三つ又の剣を、城島犬の手が拾い上げた。
「乗っ取って全身を支配したとしても、肉体が壊れてしまっていては動きませんからね」
その発言に、綱吉に嫌な考えが浮かんだ。
「それって……体を無理やり動かしてるってこと……? 怪我してるのに……?」
現に今、骸が憑依して動かしている人間は4名。城島犬、柿本千種、ビアンキ、獄寺。契約のために傷をつけたはずの雲雀の体は、倒れたままだ。憑依しても使い物にならないのだろう。
「千種はもう少し……いけそうですね」
だらだらと額から流血し、体を小刻みに震わせながら柿本千種の体が起き上がる。
「無理やり起こしたら、怪我が……!」
あまりに痛々しい様子に、敵ながら綱吉は心配し、沙良もつい歩み寄って、治癒能力を使いそうになる。
「クフフフ、平気ですよ。僕は痛みを感じませんからね」
しかし、当の本人は仲間の体を酷使することを気にも留めていない。
「何言ってんの!? 仲間の体なんだろ!?」
熱が入り、声を荒らげる綱吉。
「違いますよ」
柿本千種の声で、骸はきっぱりと吐き捨てた。
「一度手に入れたら僕の体です。壊れようが、息絶えようが、僕の勝手だ」
「な、なんて奴っ……」
やり取りを聞きながら、真琴と交戦する鳴海が歯軋りする。そのときだった。真琴はとつぜん鳴海から離れると、息を大きく吸い込み、左の手のひらを上に掲げ、
「“諸法無我”」
真琴の口から、放たれた言葉を聞いたとたん、全身を揺さぶられるような感覚が走った。激しい言の葉の波はざあっと劇場を響き渡り、綱吉と沙良、リボーンにも襲いかかる。
鳴海は絶句した。自分の体に駆けめぐったのは単なる振動ではない。過去に経験した、忘れかけていたはずの辛い体験の数々だった。家族の不仲、きょうだい達を必死に守り、自分には頼れるものがなかった、心細さ──
「な、なんだ、今の」
ふと沙良のほうを見ると、沙良も目を見開いて頭を抱えている。綱吉も同じだ。ポーカーフェイスなリボーンでさえ、小さく舌打ちをした。
「……チッ、思い出したくねえもんだったのにな」
そして、鳴海のほうへ声をかける。
「鳴海、どうやら真琴の技は、自分の過去の辛い思い出を幻として見させるようだぞ」
「教えてくれて、ありが、とう!」
真琴の攻撃を受け流しながら、鳴海が叫ぶ。理解の早い家庭教師は相変わらず優秀である。
綱吉にももちろん、嫌な思い出が脳裏を多くよぎった。いじめ、仲間はずれ、孤独感。父親の蒸発。ふと隣の沙良に視線を映すと、彼女もトラウマを思い出したのか、ぼろぼろ泣きじゃくっていた。それでも必死に目元をこすり、涙を止めようとしている。
「いいですか? 仲間をこれ以上傷つけられたくなければ、逃げずに大人しく契約してください」
そう話すビアンキの腹は真っ赤に染まっていた。獄寺の胸元の出血も、未だに止まっていない。
「……おかしいよ、お前……俺の仲間も、自分の仲間も、傷つけて」
綱吉がたどたどしく言葉を紡ぐ。
「頼む、やめてくれ! このままじゃ死んじゃうよ!!」
「やめてっ……! これ以上人を傷つけないで!」
綱吉と沙良の切なる叫びを、六道骸は冷笑するだけだった。
「……」
真琴──今は黒づくめの大人の女に姿を変えているが──と刃を交え、鳴海が苦戦する一方、劇場ホールいっぱいに火柱が上がり、骸に体を憑依された者達の攻撃が情け容赦なく綱吉らに降り注ぐ。
沙良は白銀の炎を多く生み出し、盾替わりにして綱吉を守っていた。しきみの風の力ほどではないが、ないよりはマシだった。
真っ赤な溶岩が天高くほとばしり、熱風が皆の気力と体力を奪っていく。真琴を救わねば。骸に乗っ取られた仲間を助けねば。しかしそれどころではない。
「降伏してくれていいんですよ。ボンゴレ10代目も4人の乙女たちも、無傷で手に入れたいですからね」
骸に憑依された城島犬のしわがれた声がひびく。
火柱にあかあかと照らされ、骸の駒と化した者達にコントラストの強い影が落ちている。その姿はおぞましく、恐怖が首をもたげ、足をすくませる。
「お前たちしっかりしろ、これは幻覚だぞ」
敵の攻撃をよけつつ、傍観を続けるリボーンの言葉が飛んでくるが、このうだるような熱さが幻だとは、とても信じられない。
「君は、自分の心配をした方がいい」
獄寺から無数のダイナマイトが襲い来る。激しい熾烈音と共にその場は煙につつまれ、ふっと現れたリボーンの帽子と頭部めがけて、城島犬が三つ又の剣を突き刺した。
「リボーン!!」
青くなる綱吉と沙良であったが、そこには誰もいなかった。家庭教師も、ただでやられる男ではない。リボーンは目にもとまらぬ速さで三つ又の剣に刺さっていた帽子を奪い返した。久々に感じる実践の空気だ、と言いながらつばの埃をはらっている様子は、余裕さえ感じられる。
「オレは手ェ出せねーんだ。鳴海と沙良は頑張ってるぞ、ツナも早く何とかしやがれ」
「無茶言うなよ! オレのなんとかできるレベル超えて……」
言いかけて、綱吉は隣の沙良を見てはっとした。目をかっと見開き、息も絶え絶えで、表情は険しく、いつも穏やかな笑顔の欠片すらなかった。
体力に限界が来ている。能力を使いすぎたのだ。しかし彼女は綱吉の心配する視線に気付くと、無理やり笑顔を作った。
「だ、大丈夫、大丈夫よ、綱吉くん……」
「沙良…」
「こんなことで……くじけたら……みんなを取り戻せない」
沙良は立ち上がり、辺りを見渡した。なんとか真琴の元へ近付きたい。その行く手を、獄寺に憑依した六道骸が阻む。
(隼人くん、ごめんなさい……!)
きしむ己の心をねじふせ、沙良は炎の矢を出現させ、放った。光の矢が獄寺の体を貫通し、停止する。そのすきに綱吉を立たせ、柿本千種のヨーヨーから放たれる毒針から逃れさせた。
ビアンキのポイズンクッキングを華麗によけつつ、リボーンは言う。
「オレの教え子なら超えられるはずだぞ。ディーノも超えてきた道だ」
絶望な状況下にも関わらず、話し始めるリボーン。鳴海も沙良も綱吉も敵の攻撃を避けるだけで手一杯であったのに、その声は、不思議と聞かせられる力があった。
「ディーノがオレの生徒だった時も、絶体絶命のピンチがあった。だがファミリーのため、仲間のためにそれを乗り越えた時、あいつは“へなちょこディーノ”から“跳ね馬ディーノ”になったんだ」
「なった、って意味わかんないよ!!」
投げやりに叫ぶ綱吉。
鳴海も疲労感から、自分の動きが乱雑になりつつあるのを実感していた。目の前の女──真琴に呼びかけながら、彼女の蛇腹剣の動きを読み、自分も相手も傷つけないように細心の注意を払いながら槍を振り回す。
「真琴、頼む、落ち着いて、話を聞いてくれっ……!」
「……」
女は答えない。苦しみ、憎しみ、恨みつらみといったものだけが、彼女のすべてを覆っている。
「真琴、お願い、元に戻って……!」
少し遠く離れたところから、沙良も声を張り上げた。もはや、いちばん執着していた人間の声すら届かないようだ。
「そろそろ、終わりにしましょう」
三つ又の剣を手に、柿本千種が駆け出してきた。怯える綱吉。弓構えをする沙良。
だがしかし、いきなり柿本千種はがくんと足をすべらせ、転倒した。すぐに立ち上がる気配もない。驚く綱吉らをよそに、
「なあに、よくあることです」
床に転がった三つ又の剣を、城島犬の手が拾い上げた。
「乗っ取って全身を支配したとしても、肉体が壊れてしまっていては動きませんからね」
その発言に、綱吉に嫌な考えが浮かんだ。
「それって……体を無理やり動かしてるってこと……? 怪我してるのに……?」
現に今、骸が憑依して動かしている人間は4名。城島犬、柿本千種、ビアンキ、獄寺。契約のために傷をつけたはずの雲雀の体は、倒れたままだ。憑依しても使い物にならないのだろう。
「千種はもう少し……いけそうですね」
だらだらと額から流血し、体を小刻みに震わせながら柿本千種の体が起き上がる。
「無理やり起こしたら、怪我が……!」
あまりに痛々しい様子に、敵ながら綱吉は心配し、沙良もつい歩み寄って、治癒能力を使いそうになる。
「クフフフ、平気ですよ。僕は痛みを感じませんからね」
しかし、当の本人は仲間の体を酷使することを気にも留めていない。
「何言ってんの!? 仲間の体なんだろ!?」
熱が入り、声を荒らげる綱吉。
「違いますよ」
柿本千種の声で、骸はきっぱりと吐き捨てた。
「一度手に入れたら僕の体です。壊れようが、息絶えようが、僕の勝手だ」
「な、なんて奴っ……」
やり取りを聞きながら、真琴と交戦する鳴海が歯軋りする。そのときだった。真琴はとつぜん鳴海から離れると、息を大きく吸い込み、左の手のひらを上に掲げ、
「“諸法無我”」
真琴の口から、放たれた言葉を聞いたとたん、全身を揺さぶられるような感覚が走った。激しい言の葉の波はざあっと劇場を響き渡り、綱吉と沙良、リボーンにも襲いかかる。
鳴海は絶句した。自分の体に駆けめぐったのは単なる振動ではない。過去に経験した、忘れかけていたはずの辛い体験の数々だった。家族の不仲、きょうだい達を必死に守り、自分には頼れるものがなかった、心細さ──
「な、なんだ、今の」
ふと沙良のほうを見ると、沙良も目を見開いて頭を抱えている。綱吉も同じだ。ポーカーフェイスなリボーンでさえ、小さく舌打ちをした。
「……チッ、思い出したくねえもんだったのにな」
そして、鳴海のほうへ声をかける。
「鳴海、どうやら真琴の技は、自分の過去の辛い思い出を幻として見させるようだぞ」
「教えてくれて、ありが、とう!」
真琴の攻撃を受け流しながら、鳴海が叫ぶ。理解の早い家庭教師は相変わらず優秀である。
綱吉にももちろん、嫌な思い出が脳裏を多くよぎった。いじめ、仲間はずれ、孤独感。父親の蒸発。ふと隣の沙良に視線を映すと、彼女もトラウマを思い出したのか、ぼろぼろ泣きじゃくっていた。それでも必死に目元をこすり、涙を止めようとしている。
「いいですか? 仲間をこれ以上傷つけられたくなければ、逃げずに大人しく契約してください」
そう話すビアンキの腹は真っ赤に染まっていた。獄寺の胸元の出血も、未だに止まっていない。
「……おかしいよ、お前……俺の仲間も、自分の仲間も、傷つけて」
綱吉がたどたどしく言葉を紡ぐ。
「頼む、やめてくれ! このままじゃ死んじゃうよ!!」
「やめてっ……! これ以上人を傷つけないで!」
綱吉と沙良の切なる叫びを、六道骸は冷笑するだけだった。
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