36.禁じられた弾丸
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「借りは返したよ」
借りとは、雲雀が六道骸にさんざん痛めつけられ、監禁されていたのを、獄寺が機転を利かせて助けたことだ。
だが言うや否や、雲雀は獄寺に貸していた左肩をさっと引いた。反対側を鳴海が支えていたからよかったものの、もしそうでなければ獄寺は劇場ホールの硬い床に尻餅をついていたことだろう。
雲雀、獄寺、鳴海、沙良。やってきた4人を眺め、六道骸は眉を潜める。
「外野がぞろぞろと。千種は何をしているんですかねえ……」
「へっ、眼鏡野郎なら下の階で、アニマル野郎と仲良くのびてるぜ」
獄寺は得意気に答えながら、内心自分が情けなくなる。
「か、体大丈夫なの!? すごいよ獄寺君!」
綱吉の素直な称賛がなお堪える。自分も奮闘したとはいえ、実際にとどめをさしたのは雲雀だからだ。
「ええ、大丈夫っス……つーか、あの、オレが倒したんじゃねーんスけど……」
言いながら視線はつい、沙良の方へ行く。弓矢を手に、勇ましくあろうとする彼女は儚く健気で、心配だった。
(手、震える……)
弓矢をかまえながら、沙良は皆より一歩踏み出し、数十メートル先に立つ六道骸を見据えていた。人に対して武器を向ける。傷つけるために使う。その行為を怖がっていた。
(だめだ、しっかりしなきゃ……みんな、戦っているんだから、私もがんばらなきゃ)
弱気になりそうな自分を内心叱りつける。先ほどは骸の脇をかすめ、彼の制服に少しの傷をつけた程度だ。しっかり狙いを定めなければ。
ふたたび矢を発現させ、引き絞ったときだった。
「邪魔しないで、小動物」
雲雀が沙良の隣を通りながら呟いた。
「君もだよ」
鳴海にも声がかかる。
鳴海は自分の状況を顧みた。こちらが多勢とはいえ、獄寺は深手を負い、雲雀も大怪我、綱吉の死ぬ気弾はランチアとの戦いで弾切れ、沙良は戦闘慣れしているわけではない。
(もし雲雀さんがやられたら……俺の出番だ)
そんな鳴海の覚悟を露とも知らず、雲雀はトンファーをかまえ、六道骸を鋭く睨み付けた。
「覚悟はいいかい?」
「これはこれは、怖いですねえ」
ちっとも怖がっていない声色であった。
「君は立っているのもやっとのはずだ。僕とボンゴレの邪魔をしないでください」
「遺言はそれだけかい?」
雲雀はまったく意に介していない。
「クフフフフ、面白いことを言う。君とは契約しておいてもよかったかな?」
ここで、引っ掛かる単語が出てきた。
契約。それがどういう意味をなすのか、鳴海達が考える間もなく、すでに雲雀と骸の戦闘は始まっていた。
「君から片付けましょう。一瞬で終わりますよ」
六道骸の右目からはまがまがしい炎。彼の持つ長い昆と、トンファーがぶつかり合う。互いの動き、手の読み合い、速さ、力量ほぼ互角であった。その激しさたるや、速すぎて見守る者達にも流れがまったく見えなかった。まばたきをすれば、あっという間に違う形をとっている。
「君の一瞬って、いつまで?」
雲雀の言葉に、六道骸はふっと小さく笑みを浮かべ、昆を思いっきりふるって距離をとる。
そのとき、雲雀の左肩から、勢いよく血が噴き出す。ああ、と綱吉らから嘆きの声が上がった。
「君が怪我をしていなければ、勝負はわからなかったかもしれませんが…時間の無駄です、早くすませましょう」
六道骸の右目に刻まれた文字が、“一”になる。地獄道。幻覚を見せる技だ。
天井には、春の盛りのごとく、零れんばかりの桜が咲き誇る。綱吉は今年の春の出来事を思い出した。雲雀が、闇医者にかけられた奇病を。
「まさか、雲雀さんのサクラクラ病を利用して……!」
「クフフ、さあまた、跪いてもらいましょう」
敵の思惑はその通りのようだ。六道骸へ駆け出していた雲雀の足はぴたりと止まり、よろめく。前のめりになりかけた、ときだった。
トンファーを握りしめた強い右手が、確実な意思をもって六道骸の腹に叩き込まれる。六道骸の口元から、赤い血がこぼれおちた。
「おや?」
「え!?」
綱吉と、六道骸だけが戸惑いを見せ、ポーカーフェイスなリボーンはともかくとして、訳を知っている他の者は動揺していなかった。
「甘かったな」
言いながら獄寺が懐から出したのは、内用薬の印字がされた白い紙袋。
ここを訪れる前、保健室を出た際に持たされたものだ。
「シャマルから預かってきたのさ、サクラクラ病の処方箋だ」
つまり、今の雲雀に桜など痛くもかゆくもないのだ。雲雀は勢いに任せ、両手を交差するように六道骸のみぞおち、顎にくらわせ、その体は自身の血しぶきと共に宙を飛んだ。
獄寺が舌打ちをする。
「おいしいとこ全部もってきやがって」
六道骸は倒れたまま、ぴくりとも動く気配がない。すぐに反撃できるような状態ではなさそうだ。綱吉が期待の意をこめてリボーンを見つめる。
「これって……」
「ついにやったな」
一連の事件の解決を告げられ、皆にわずかな喜びの空気が走る。
「ひ、雲雀さん、大丈夫ですか……!?」
綱吉があわててかけよると、雲雀は黙りこくったまま、ばたりとうつぶせに倒れてしまった。
沙良が顔を青くしながらも、治癒の炎を雲雀やビアンキ、フゥ太にあて始めた。そんな彼女の肩を、鳴海がぽんと優しく叩いて制した。彼女の治癒力も無尽蔵ではない。彼女の体力と精神力とを引き換えに、使うのだ。
「沙良、骸も倒されたし、そのへんで……」
「みんなを病院に連れて行かなきゃ、」
黒幕が倒されたことにほっとしているのか、沙良は泣きそうになりながら首を横にふった。
「せめて、それまでのつなぎとして…」
そこに、朗報が入る。リボーンが携帯を耳に宛ながら告げた。
「連絡があったぞ、ボンゴレの優秀な医療チームが、こっちに向かってると」
一同に安堵の表情が宿る。
「なら、あとは真琴だけ……」
綱吉が言いかけたときだった。
「その医療チームは不要ですよ」
六道骸だ。いつの間にか上半身を起こし、銃をこちらに突き付けている。
「なぜなら、生存者はいなくなるからです」
「てめえ!!」
獄寺と鳴海が綱吉らの盾になるように前へ飛び出した。
「クフフフ……」
だがここで、六道骸は予想外の行動に出た。口ぶりからして一人ずつ撃ち殺すつもりかと思いきや、彼の銃口がまっさきに向かったのは彼自身のこめかみだったのだ。
「Arrivederci 」
穏やかな笑みをたたえながら、引き金を引く。ズドン、と重厚で金属的な音が響いて、六道骸はその場に崩れた。
訪れた重い沈黙。獄寺がひきつった声を絞り出した。
「や、やりやがった……」
「こ、こんなことって……」
沙良は呼吸するのに精いっぱいだった。
卑劣な敵だったとはいえ、他人の自殺を目撃するのは精神的にくるものがあった。
鳴海は他にも敵は隠れていないか、六道骸から意識をそらすことで一種の現実逃避に走りかけていた。
「捕まるくらいなら死んだ方がマシだったんだろうな」
リボーンは相変わらず冷静だ。裏社会ではよくあることなのだろう。
「やるせないっス……」
悔しそうな獄寺。綱吉は口元に手をやり、急に胸にこみあげてきた気持ち悪さに耐えていた。
(何だ……この感じ……)
重苦しい空気の中、今まで気を失っていたビアンキの瞳が人知れず開き、その右目に、六の字が刻まれていることに、誰も気づいていなかった。
借りとは、雲雀が六道骸にさんざん痛めつけられ、監禁されていたのを、獄寺が機転を利かせて助けたことだ。
だが言うや否や、雲雀は獄寺に貸していた左肩をさっと引いた。反対側を鳴海が支えていたからよかったものの、もしそうでなければ獄寺は劇場ホールの硬い床に尻餅をついていたことだろう。
雲雀、獄寺、鳴海、沙良。やってきた4人を眺め、六道骸は眉を潜める。
「外野がぞろぞろと。千種は何をしているんですかねえ……」
「へっ、眼鏡野郎なら下の階で、アニマル野郎と仲良くのびてるぜ」
獄寺は得意気に答えながら、内心自分が情けなくなる。
「か、体大丈夫なの!? すごいよ獄寺君!」
綱吉の素直な称賛がなお堪える。自分も奮闘したとはいえ、実際にとどめをさしたのは雲雀だからだ。
「ええ、大丈夫っス……つーか、あの、オレが倒したんじゃねーんスけど……」
言いながら視線はつい、沙良の方へ行く。弓矢を手に、勇ましくあろうとする彼女は儚く健気で、心配だった。
(手、震える……)
弓矢をかまえながら、沙良は皆より一歩踏み出し、数十メートル先に立つ六道骸を見据えていた。人に対して武器を向ける。傷つけるために使う。その行為を怖がっていた。
(だめだ、しっかりしなきゃ……みんな、戦っているんだから、私もがんばらなきゃ)
弱気になりそうな自分を内心叱りつける。先ほどは骸の脇をかすめ、彼の制服に少しの傷をつけた程度だ。しっかり狙いを定めなければ。
ふたたび矢を発現させ、引き絞ったときだった。
「邪魔しないで、小動物」
雲雀が沙良の隣を通りながら呟いた。
「君もだよ」
鳴海にも声がかかる。
鳴海は自分の状況を顧みた。こちらが多勢とはいえ、獄寺は深手を負い、雲雀も大怪我、綱吉の死ぬ気弾はランチアとの戦いで弾切れ、沙良は戦闘慣れしているわけではない。
(もし雲雀さんがやられたら……俺の出番だ)
そんな鳴海の覚悟を露とも知らず、雲雀はトンファーをかまえ、六道骸を鋭く睨み付けた。
「覚悟はいいかい?」
「これはこれは、怖いですねえ」
ちっとも怖がっていない声色であった。
「君は立っているのもやっとのはずだ。僕とボンゴレの邪魔をしないでください」
「遺言はそれだけかい?」
雲雀はまったく意に介していない。
「クフフフフ、面白いことを言う。君とは契約しておいてもよかったかな?」
ここで、引っ掛かる単語が出てきた。
契約。それがどういう意味をなすのか、鳴海達が考える間もなく、すでに雲雀と骸の戦闘は始まっていた。
「君から片付けましょう。一瞬で終わりますよ」
六道骸の右目からはまがまがしい炎。彼の持つ長い昆と、トンファーがぶつかり合う。互いの動き、手の読み合い、速さ、力量ほぼ互角であった。その激しさたるや、速すぎて見守る者達にも流れがまったく見えなかった。まばたきをすれば、あっという間に違う形をとっている。
「君の一瞬って、いつまで?」
雲雀の言葉に、六道骸はふっと小さく笑みを浮かべ、昆を思いっきりふるって距離をとる。
そのとき、雲雀の左肩から、勢いよく血が噴き出す。ああ、と綱吉らから嘆きの声が上がった。
「君が怪我をしていなければ、勝負はわからなかったかもしれませんが…時間の無駄です、早くすませましょう」
六道骸の右目に刻まれた文字が、“一”になる。地獄道。幻覚を見せる技だ。
天井には、春の盛りのごとく、零れんばかりの桜が咲き誇る。綱吉は今年の春の出来事を思い出した。雲雀が、闇医者にかけられた奇病を。
「まさか、雲雀さんのサクラクラ病を利用して……!」
「クフフ、さあまた、跪いてもらいましょう」
敵の思惑はその通りのようだ。六道骸へ駆け出していた雲雀の足はぴたりと止まり、よろめく。前のめりになりかけた、ときだった。
トンファーを握りしめた強い右手が、確実な意思をもって六道骸の腹に叩き込まれる。六道骸の口元から、赤い血がこぼれおちた。
「おや?」
「え!?」
綱吉と、六道骸だけが戸惑いを見せ、ポーカーフェイスなリボーンはともかくとして、訳を知っている他の者は動揺していなかった。
「甘かったな」
言いながら獄寺が懐から出したのは、内用薬の印字がされた白い紙袋。
ここを訪れる前、保健室を出た際に持たされたものだ。
「シャマルから預かってきたのさ、サクラクラ病の処方箋だ」
つまり、今の雲雀に桜など痛くもかゆくもないのだ。雲雀は勢いに任せ、両手を交差するように六道骸のみぞおち、顎にくらわせ、その体は自身の血しぶきと共に宙を飛んだ。
獄寺が舌打ちをする。
「おいしいとこ全部もってきやがって」
六道骸は倒れたまま、ぴくりとも動く気配がない。すぐに反撃できるような状態ではなさそうだ。綱吉が期待の意をこめてリボーンを見つめる。
「これって……」
「ついにやったな」
一連の事件の解決を告げられ、皆にわずかな喜びの空気が走る。
「ひ、雲雀さん、大丈夫ですか……!?」
綱吉があわててかけよると、雲雀は黙りこくったまま、ばたりとうつぶせに倒れてしまった。
沙良が顔を青くしながらも、治癒の炎を雲雀やビアンキ、フゥ太にあて始めた。そんな彼女の肩を、鳴海がぽんと優しく叩いて制した。彼女の治癒力も無尽蔵ではない。彼女の体力と精神力とを引き換えに、使うのだ。
「沙良、骸も倒されたし、そのへんで……」
「みんなを病院に連れて行かなきゃ、」
黒幕が倒されたことにほっとしているのか、沙良は泣きそうになりながら首を横にふった。
「せめて、それまでのつなぎとして…」
そこに、朗報が入る。リボーンが携帯を耳に宛ながら告げた。
「連絡があったぞ、ボンゴレの優秀な医療チームが、こっちに向かってると」
一同に安堵の表情が宿る。
「なら、あとは真琴だけ……」
綱吉が言いかけたときだった。
「その医療チームは不要ですよ」
六道骸だ。いつの間にか上半身を起こし、銃をこちらに突き付けている。
「なぜなら、生存者はいなくなるからです」
「てめえ!!」
獄寺と鳴海が綱吉らの盾になるように前へ飛び出した。
「クフフフ……」
だがここで、六道骸は予想外の行動に出た。口ぶりからして一人ずつ撃ち殺すつもりかと思いきや、彼の銃口がまっさきに向かったのは彼自身のこめかみだったのだ。
「
穏やかな笑みをたたえながら、引き金を引く。ズドン、と重厚で金属的な音が響いて、六道骸はその場に崩れた。
訪れた重い沈黙。獄寺がひきつった声を絞り出した。
「や、やりやがった……」
「こ、こんなことって……」
沙良は呼吸するのに精いっぱいだった。
卑劣な敵だったとはいえ、他人の自殺を目撃するのは精神的にくるものがあった。
鳴海は他にも敵は隠れていないか、六道骸から意識をそらすことで一種の現実逃避に走りかけていた。
「捕まるくらいなら死んだ方がマシだったんだろうな」
リボーンは相変わらず冷静だ。裏社会ではよくあることなのだろう。
「やるせないっス……」
悔しそうな獄寺。綱吉は口元に手をやり、急に胸にこみあげてきた気持ち悪さに耐えていた。
(何だ……この感じ……)
重苦しい空気の中、今まで気を失っていたビアンキの瞳が人知れず開き、その右目に、六の字が刻まれていることに、誰も気づいていなかった。
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